共生型サービスで訪問介護事業を拡大!制度の基本から人員基準、採算性まで経営者が知るべき知識
2026.05.21
訪問介護事業を運営する中で、慢性的な人材不足や利用者層の固定化に悩む経営者は少なくありません。
限られた人材を活用しつつ、地域に求められるサービスを安定的かつ継続的に提供していくことは、経営上の大きな課題です。
その解決策の1つとして注目されているのが、2018年に創設された共生型サービスの導入です。
共生型訪問介護を始めることで、既存の介護保険事業所が障がい福祉サービスも一体的に提供できるようになり、新たな利用者層の受け入れや人材の有効活用を可能にします。
本記事では、共生型訪問介護の制度の仕組みや人員基準、採算性を左右する報酬体系について詳しく解説します。
自施設の事業に導入すべきかどうか、具体的な経営判断の材料としてお役立てください。
なお、株式会社ワイズマンでは「医療・介護連携サービスMell+(メルタス)製品に関する情報をまとめた資料」を無料で配布中です。
法人内や地域での医療施設・介護事業所間の連携を実現できますので、ぜひご覧ください。
目次
訪問介護における共生型サービスとは

前提として共生型サービスは、介護保険と障がい福祉のいずれかの指定を受けている事業所が一定の基準を満たすことで、もう一方の制度の利用者にもサービスを提供できる仕組みです。
参照:厚生労働省「共生型サービス」
以下では、この制度の全体像と、訪問介護におけるサービス導入のあり方についてわかりやすく解説します。
なぜこの制度が作られ、どのような目的を持っているのかを理解し、事業計画を立てる第一歩としましょう。
制度の目的|介護保険と障がい福祉の垣根を越える
これまで、高齢者は介護保険の事業所、障がい者は障がい福祉の事業所と、制度ごとに利用できる事業所が明確に分かれていました。
この垣根を取り払うことで、高齢者と障がい者が同じ事業所で暮らし、慣れ親しんだサービスを受け続けられます。
制度の目的は大きく分けて2つあり、1つは年齢や障がいの有無に関わらず、利用者が住み慣れた地域で生活を継続できるように支援することです。
2つ目には、地域にある福祉の人材や施設といった限られた資源を、有効に活用することが挙げられます。
制度の背景|「65歳の壁」問題
共生型サービスが創設された背景には、「65歳の壁」と呼ばれる問題がありました。
障がい福祉サービスを利用している方は、個別ケースによる例外も存在するものの、65歳になると原則として介護保険のサービスへ移行するという決まりがあります。
これにより、長年通い慣れた事業所や、気心の知れたスタッフからの支援を突然打ち切られ、新しい介護保険の事業所を探さなければならない事態も発生していました。
利用者にとって、環境の急激な変化は大きな精神的負担が生じるものです。
また、事業者側にとっても、せっかく築いた信頼関係が途切れてしまうという課題がありました。
この「65歳の壁」を解消し、65歳を過ぎても継続して同じ事業所からサービスを受けられる体制を整えるために、共生型サービスが必要とされたのです。
共生型サービスと訪問介護事業所
介護保険制度における訪問介護と、障害者総合支援法における居宅介護や重度訪問介護は、ヘルパーが自宅を訪問して支援を行うという点で似ているサービスです。
従来は、それぞれの指定を別々に取得し、別々のルールで運営する必要がありました。
しかし、共生型サービスを導入すると介護保険の訪問介護事業所が、特例的に障がい福祉の居宅介護や重度訪問介護を提供できます。
これにより、既存の訪問介護事業所は新たに要件を一から満たすことなく、障がい福祉の分野へと事業の幅を広げることが可能です。
また、既存の設備やスタッフを活かしながら、地域の多様なニーズに応えられることが利点です。
共生型訪問介護のメリットとデメリット

訪問介護で共生型サービスを展開するにあたり、経営にどのような影響を与えるのかを把握することは重要です。
以下では、単なる制度上のメリットとデメリットにとどまらず、事業所運営の観点から掘り下げて解説します。
自施設の状況と照らし合わせて、導入の検討にお役立てください。
事業の安定化と成長につながる4つのメリット
事業所に共生型訪問介護を導入するメリットは、大きく4つあります。
| 主なメリット | 内容 |
|---|---|
| 収益基盤の安定化 | 介護保険サービスは要介護度の変化によって利用回数が変動しやすいが、障がい福祉サービスは比較的利用が長期的かつ安定的であるため、事業全体の収入の見通しが立てやすくなる。 |
| 人材の有効活用と採用における競争力の強化 | 職員が両方の分野を経験できることは、スキルアップを希望する求職者にとって魅力的な要素となる。 |
| 新規利用者層の開拓 | これまで対象外だった障がいのある方を受け入れることで、地域の潜在的なニーズを掘り起こし、稼働率の向上につなげることができる。 |
| 地域社会での信頼性向上 | 年齢や障がいを問わず対応できる事業所として認知されることで、地域包括支援センターや相談支援事業所からの紹介の増加が期待できる。 |
導入前に把握すべき4つのデメリットと対策
一方で、共生型訪問介護の運営にはいくつかのデメリットも存在し、事前の対策が不可欠です。
| 主なデメリット | 内容 | 対策 |
|---|---|---|
| 運営や事務負担の増大 | 介護保険と障がい福祉の異なる制度に対応し、別々に請求業務を行う必要があるため、事務作業が煩雑になりやすい。 | 両方の請求に対応した介護ソフトやICTツールを導入し、業務の効率化を図る。 |
| 多様なニーズに対応する難しさ | 高齢者と障がい者では必要なケアが異なるため、現場のスタッフが戸惑うケースがある。 | 障がい特性に関する社内研修を定期的に実施し、職員の専門性を高める体制を構築する。 |
| 人員配置基準を満たし続ける難しさ | 人手不足といわれる介護・福祉業界で、利用者のニーズに対応できる介護福祉や障がい福祉の専門スタッフを維持することは簡単ではない。 | 採用活動の強化とともに、職員の定着率を高めるための処遇改善や職場環境の見直しを行う。 |
| 制度自体の認知度がまだ低い | 制度や事例が少ないことから、利用者の選択肢となりにくい可能性がある。 | 自施設が共生型サービスを提供していることを、地域のケアマネジャーや相談支援専門員へ積極的に周知する営業活動を行う。 |
なお、株式会社ワイズマンでは「医療・介護連携サービスMell+(メルタス)製品に関する情報をまとめた資料」を無料で配布中です。
法人内や地域での医療施設・介護事業所間の連携を実現できますので、ぜひご覧ください。
共生型訪問介護の事業化に必要な指定基準

共生型訪問介護を事業化するためには、自治体が定める指定基準を満たさければなりません。
以下では、人員配置、対象となる利用者、収益に直結する報酬体系という3つの重要な基準について詳しく解説します。
制度の要件を正確に理解し、適正な運営体制を整えましょう。
【人員基準】訪問介護スタッフの資格要件
介護保険の指定訪問介護事業所が、共生型として障がい福祉の居宅介護や重度訪問介護を提供する場合、基本的には介護保険の訪問介護の人員基準を満たしていれば運営が可能です。
具体的には、訪問介護員等を常勤換算で2.5人以上配置することなどが求められます。
また、サービス提供責任者の配置も必要となり、介護福祉士や実務者研修修了者などの資格要件を満たす職員を置く必要があります。
参照:厚生労働省「共生型サービスの報酬・基準について」
ここで注意すべき点は、介護保険側の基準を満たせなくなってしまった場合の扱いです。
人員の欠如などにより本来の指定基準を満たさなくなった場合、共生型サービスとしての指定が取り消されたり、大幅な減算の対象になったりするリスクがあります。
そのため、ギリギリの人員ではなく、退職者が出た場合でも基準を下回らないような余裕を持った採用計画と人員配置が必要です。
【対象者】サービスを提供できる利用者の範囲
共生型訪問介護を導入した場合、サービスを提供できる利用者の範囲が拡大します。
まず、介護保険の利用者である、要介護認定を受けた65歳以上の高齢者や、特定疾病により認定を受けた40歳から64歳の方はもともとサービスの対象です。
これに加えて、障害者総合支援法に基づき、障害支援区分の認定を受けた方にもサービスを提供できます。
この中には、身体障がい、知的障がい、精神障がいのある方などが含まれます。
参照:厚生労働省「共生型サービスの対象となるサービス」
参照:WAM NET「居宅介護(ホームヘルプ)」「重度訪問介護」
特に重要と言えるのは、前述した「65歳の壁」を迎える利用者です。
これまで別の障がい福祉サービス事業所を利用していた方が、65歳になって介護保険に移行するタイミングで、地域の共生型事業所を新たな受け皿として選ぶケースも想定されます。
【報酬体系】介護報酬の仕組みと加算・減算
事業の採算性を確保する上で、共生型サービスの報酬体系の理解は欠かせません。
介護保険事業所が障がい福祉サービスを提供する場合、その報酬は通常の障がい福祉サービス単価とは異なる基準で計算されます。
大きく分けて「共生型サービスⅠ」と「共生型サービスⅡ」という2つの区分です。
共生型サービスⅠは、障がい福祉サービスの本来の人員配置基準等も満たしている場合に算定できる報酬で、比較的高く設定されています。
一方の共生型サービスⅡは、介護保険の基準のみを満たしている場合に算定され、Ⅰよりも報酬単価が低く(減算されて)設定されています。
参照:厚生労働省「共生型サービス」
収益を最大化するためには、可能であれば障がい福祉の基準も満たしてⅠを算定することを目指すのが有効です。
また、特定事業所加算や処遇改善加算など、取得可能な加算を漏れなく算定する体制を整えることも、経営を安定させる上では重要と言えます。
共生型訪問介護の始め方

訪問介護における共生型サービスの基本を理解した後は、実際の立ち上げに向けた行動が必要です。
指定申請からサービス開始までの手続きは、以下の5つのステップで進めます。
事業を軌道に乗せるための実践的なノウハウを参考に、円滑な立ち上げと安定した運営を目指しましょう。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 事前相談 | 管轄する都道府県や市区町村の担当窓口へ相談 | 地域ごとの独自のローカルルールや必要書類を確認する。 |
| 2. 書類準備 | 指定申請書や勤務体制一覧表などの作成 | 介護保険と障がい福祉、両方の視点での事業計画を立てる。 |
| 3. 申請書の提出 | 窓口へ書類を提出 | 提出期限(サービス開始希望月の前々月末など)を厳守する。 |
| 4. 審査 | 自治体による書類審査 | 質問事項や修正依頼があれば迅速に対応する。 |
| 5. 指定通知・開始 | 指定通知書の受領後、サービス提供を開始 | スタッフや利用者へ周知・案内を行う。 |
申請には多くの時間と手間がかかるため、スケジュールに余裕を持って準備を進めることが大切です。
共生型訪問介護を成功させる3つのポイント

事業を開始した後、継続的に安定した運営を行うためには、現場の体制づくりが重要です。
職員研修と多職種連携、リスク管理の3つの観点でポイントをまとめました。
| 成功させるポイント | 内容 |
|---|---|
| 職員研修を充実させる | 高齢者介護の経験しかないスタッフが、障がいのある方の支援に入ることは不安を伴う。 障がい特性の理解やコミュニケーション方法について、継続的な研修を実施し、職員の不安を解消することが必要。 |
| 多職種連携を強化する | 介護保険のケアマネジャーだけでなく、障がい福祉分野の相談支援専門員とも円滑に情報共有を図る関係性を構築することが、適切なケアプランの実行につながる。 |
| リスク管理を徹底する | 利用者の特性が多様化することで、予期せぬ事故のリスクも変化する。 事故発生時の対応マニュアルを見直し、介護保険と障がい福祉の両方の観点から安全対策を講じる体制を整える。 |
共生型訪問介護に関するよくある質問

訪問介護で共生型サービスの導入を検討する際、多くの経営者が把握しておくべき点があります。
以下では、特に重要な事項を質問として挙げながら、簡潔に回答します。
Q. 障がい福祉サービス事業所が介護保険の共生型を始めることもできますか?
はい、可能です。
本記事では介護保険の訪問介護事業所からの参入を主に解説しましたが、逆に、障がい福祉の指定事業所(居宅介護・重度訪問介護)が介護保険の共生型訪問介護を提供することもできます。
その場合、障がい福祉の人員基準を満たしていれば介護保険の指定を受けることができますが、報酬の算定においては介護保険側の基準をどこまで満たしているかによって単価が変動する仕組みになっています。
参照:厚生労働省「共生型サービスの概要」
Q. 事務作業が複雑になると聞きますが、効率化する方法はありますか?
共生型サービスを導入すると、国民健康保険団体連合会(国保連)への請求が介護保険と障がい福祉で別々になるため、事務負担は確実に増加します。
この課題を解決するためには、介護保険と障がい福祉の両方の請求処理や記録管理に1つのシステムで対応できる介護ソフトの導入を推奨します。
システムを活用して事務作業を効率化することで、スタッフが本来のケア業務に集中できる環境を作ることが可能です。
なお、株式会社ワイズマンでは「医療・介護連携サービスMell+(メルタス)製品に関する情報をまとめた資料」を無料で配布中です。
法人内や地域での医療施設・介護事業所間の連携を実現できますので、ぜひご覧ください。
共生型訪問介護は、介護保険の訪問介護事業所が一定の基準を満たすことで、障がい福祉の居宅介護や重度訪問介護にも対応しやすくする仕組みです。これまでの人材や運営体制を活かしながら、障がいのある方への支援を広げたり、65歳以降も慣れた事業所で支援を受けやすくしたりできる点が特徴です。一方で、介護保険と障がい福祉では、対象となる方、支援内容、報酬、請求事務、連携する専門職が異なります。そのため、導入前には人員基準や資格要件、加算・減算、自治体ごとの申請手続き、記録・請求管理の方法を確認し、管轄窓口に相談しておくことが大切です。自事業所の人員体制や地域ニーズに合う範囲から無理なく進め、利用者の特性やニーズに合った支援の質を守る視点が欠かせません。
まとめ:訪問介護事業所にも共生型サービス導入の検討を

共生型訪問介護は、経営の安定化や人材の有効活用といった事業者側のメリットだけでなく、利用者が住み慣れた地域で安心して生活を続けるための受け皿となる、社会的意義の大きな取り組みです。
制度の複雑さや異なるニーズへの対応といった課題はありますが、適切な事前の準備と体制づくりを行うことで乗り越えることが可能です。
これからの地域包括ケアシステムにおいて、高齢者と障がい者の両方に対応できる柔軟な事業所は、地域からますます必要とされていくことが予想されます。
自施設の強みを活かし、地域に選ばれ続ける事業所を目指すための選択肢として、共生型サービスの導入を前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
まずは、管轄の自治体の窓口へ事前相談に行くところから始めてみてください。
監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

