ナーシングホームの経営には何が必要?事業計画から設立、リスク管理まで解説
2026.05.18
介護・医療業界で新たな事業展開を模索する中で、ナーシングホームという言葉を耳にする機会が増えた方もいるのではないでしょうか。
ナーシングホームというサービスは欧米に由来し、日本国内においてはまだ明確な法的な定義が存在しません。
一般的には、医療依存度の高い方を受け入れる、訪問看護・介護サービスを組み合わせた住宅型有料老人ホームを指します。
訪問看護ステーションなどを運営する中で、次の事業の柱として関心はあるものの、具体的な収益構造や運営リスク、設立のステップが見えにくいと感じている方も多いかもしれません。
本記事では、ナーシングホーム経営の将来性から収支モデル、人材リスク、運営の戦略まで、事業判断の指標を提示します。
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目次
ナーシングホームの経営が注目される理由

ナーシングホームの経営が注目を集める背景には、日本の社会構造の変化と、それに対応する国の医療・介護政策の大きな転換があります。
以下では、その具体的な情報について解説します。
高齢化社会における医療難民の受け皿
超高齢社会の進展に伴い、がん末期や特定疾患、人工呼吸器の使用など、日常的に高度な医療的ケアを必要とする高齢者が急増しています。
しかし、現在の医療体制では、急性期・回復期を過ぎた後の長期入院は困難です。
また、一般的な介護施設では夜間の医療対応に限界があり、在宅医療も家族の負担から維持できないケースが少なくありません。
このように、医療ニーズの高さから行き場を失う医療難民の増加は社会課題の一つです。
ナーシングホームはそうした中で、看護師の24時間対応を軸とした医療特化型施設として、病院と自宅の中間的な役割を担う地域社会のインフラとなり得ます。
病床削減で高まる施設需要
国は医療費適正化のため、病床数の削減と「病院から地域へ」の流れを加速させています。
参照:東京保険医協会「新たな地域医療構想と「医師偏在」対策について」
参照:厚生労働省「当面の地域医療構想等の 推進に向けた取組について」
現在、医療ニーズの高い高齢者を受け入れている施設の一つが有料老人ホームです。
厚生労働省の統計によれば、有料老人ホームの件数と定員数は多くの高齢者施設が概ね横ばい・微増の中、2014年から2024年までの10年間で約2倍に急増しています。
さらに、いずれの類型も90歳以上の層がもっとも厚く、住宅型は要介護3以上の入居者が増加するなど、高年齢の利用者や重度者を受け入れる器としての需要を反映しています。
参照:厚生労働省「有料老人ホームの現状と課題について」
このような社会において、地域社会で高齢者を受け入れながら医療を提供できるナーシングホームは、重要度の高い存在です。また、医療・介護報酬の改定においても、看取りや重度者対応への評価は高まる傾向にあり、政策的な後押しも市場の成長を支える大きな要因と言えます。
ナーシングホーム経営の収益性

ナーシングホームの経営は、一般的な介護施設とは異なる独自の収益構造を持っています。
その鍵は、介護保険と医療保険のハイブリッド活用にあると言えます。
介護保険と医療保険が収益の柱
ナーシングホームの収益は介護保険と医療保険を柱とし、以下の3つの要素で構成されます。
特に、医療依存度の高い入居者を受け入れることで、医療報酬部分の比率が高まることが最大の特徴です。
| 収益項目 | 内容 |
|---|---|
| 居住費 | 家賃、管理費、食費など、入居者から直接得られる月額費用。 |
| 介護報酬 | 併設または連携する訪問介護事業所が提供するサービスに対し、介護保険から支払われる報酬。 |
| 医療報酬 | 併設または連携する訪問看護ステーションが提供するサービスに対し、医療保険または介護保険から支払われる報酬。 特定疾患や重度の方を受け入れることで、この部分の収益が大きくなる。 |
収支イメージに必要な情報
収益のシミュレーションを行うにあたっては、下記の2つをイメージした上で利益率の指標を設けることが必要です。
- 売上想定(居住費、介護報酬、医療報酬)
- 経費(人件費、賃料、光熱費、消耗品費ほか)
月間の売上高は、平均要介護度や医療依存度といった入居者の状態に大きく左右されますが、適切な運営が行われれば安定した営業利益を確保できるポテンシャルがあります。
ただし、利益率は立地や人員配置、医療依存度の高い方をどれだけ安定して受け入れられるかに依存する点を慎重に検討することが必要です。
なお、訪問看護の報酬は、原則として要介護者は介護保険が優先されますが、末期がんや特定疾患など一部のケースでは医療保険が優先されるなど、適用保険には一定のルールと例外があります。
収益の想定においては、入居者像に応じた保険適用の前提条件を明確にしておくことが重要です。
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ナーシングホームの経営で知るべき3つのリスクと対策

ナーシングホームの経営には高い収益性が期待できる一方で、特有のリスクもあります。
事業を成功させるためには、これらのリスクを事前に理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。
以下では、経営者が直面しやすい3つの主要なリスクとその対策について解説します。
リスク1:看護・介護職員の確保と定着
ナーシングホームにおいて、24時間体制を維持するための看護師確保は懸案事項の一つです。
特に、人材不足の医療・介護・福祉業界において、夜間対応が可能な看護師の採用は困難なケースがあります。
対策として、 業界水準以上の給与体系の整備はもちろん、ICTツールによる業務効率化や、医療的ケアに集中できる環境作りが必要です。
また、重度者の対応や看取りなど心身に負荷のかかる業務が中心となるため、職員を守るためのケア体制も重要です。
リスク2:運営の透明性とコンプライアンス
看護や介護の現場において、実態と乖離した請求が行われないよう、厳格な管理が求められています。
近年は過剰なサービス提供への規制が強化されており、介護に医療といった手厚いケアを行うナーシングホームでは、運営の透明性とコンプライアンスの遵守が特に重要です。
参照:厚生労働省「介護保険制度をめぐる状況について」
これらの対策として、サービス提供記録の電子化と透明性の担保、定期的な内部監査の実施などを行い、適正な運営を証明できる経営体制を整えることが大切です。
リスク3:建築・消防法規の遵守とコスト増
ナーシングホームの設立と経営には、建築基準法、老人福祉法、消防法など、多岐にわたる法令を遵守する必要があります。
構想段階から医療・福祉施設の実績がある設計事務所と連携し、用途変更や設備基準を網羅した資金計画を立てることが不可欠です。
また、近年の資材高騰は初期投資額を押し上げています。
施設の光熱費や食費などの運営コストを圧迫する要因となるため、食材の共同購入や省エネ設備の導入など、日々のコスト削減努力を継続し、長期的な計画を立てることが肝要と言えます。
ナーシングホームの経営を始めるまでのロードマップ

ナーシングホーム経営の利点とリスクを理解した上で、具体的な開業プロセスを確認しましょう。
以下では、構想から開業までの流れを5つのステップに分けて解説します。
ステップ1:事業コンセプトの策定
まずはナーシングホームの開業に向けて、「どの疾患を」「どの程度の医療度まで」対応するかを明確にします。
例えば、がん末期、神経難病、人工呼吸器管理などにターゲットを絞り込むことで、必要な設備や人員、地域ニーズとの整合性が取れます。
どのようなサービスを強みとし、周辺の競合施設とどう差別化を図るのかといったコンセプトを明確にしたうえで、具体的な提供内容、人員配置、収支計画などを詳細に盛り込んだ事業計画書を作成することが大切です。
この計画書が、将来的な資金調達や行政手続きの基盤として役立ちます。
ステップ2:物件の選定と法的基準の確認
次に、ナーシングホームを新築で建てるのか、既存物件の用途変更を行うのかを検討します。
どのような方法で施設を建てるかによって、初期投資額が大きく異なるため、事業戦略と資金計画に合わせた最適な方法を選択することが重要です。
また、延べ床面積、廊下幅、居室面積などは、基本的に自治体の有料老人ホーム設置届出基準を満たす必要があります。
ナーシングホームとして経営する場合の詳細な基準を知るためには、行政の窓口に相談し、法的な要件を確認しておくことが必須です。
ステップ3:資金調達
ナーシングホームの事業計画に基づき、資金を調達します。
自己資金に加えて、日本政策金融公庫や制度融資、民間金融機関からの借入が主な手段として挙げられます。
また、自治体で利用できる補助金や助成金がないか、調査することも重要です。
なお、医療依存度の高いモデルは収益性が高く評価されやすい一方、人件費の比率が高いため、運転資金の余裕を持たせた計画が必要です。
ステップ4:人材採用とオペレーション構築
施設づくりと並行して、運営を担う人材の採用活動を開始します。
主に採用対象となるのは、管理者、看護師、介護士、ケアマネジャー、調理員などです。
必要な職種と人数を計画的に募集し、特に看護師・介護士は24時間体制を維持するための人員確保を行います。
採用後は、開業に向けて施設の理念やケア方針を共有し、実践的なスキルを磨くための研修プログラムを構築することが、サービスの質と職員の定着につながります。
特に医療的ケアの手順書を整備し、急変時の対応体制を構築することが、ナーシングホームとしての品質を左右します。
ステップ5:行政への届出と入居者の募集開始
建物の準備と人材の確保が完了したら、行政への届出を行います。
ナーシングホームは多くの場合、「住宅型有料老人ホーム」として自治体に設置届を提出します。
同時に、併設する訪問看護・介護事業所の指定申請も必要です。
また、行政手続きと並行して、入居者を確保するための営業活動を開始します。
地域の病院のソーシャルワーカーや退院支援部門との連携を強化し、自施設の受け入れ可能な医療処置を明確に提示することで、円滑な紹介が期待できます。
ナーシングホームの経営を成功させるポイント

ナーシングホームが地域から選ばれ、持続的に成長していくためには、戦略的な視点が欠かせません。
以下では、長期的な成功を収めるために特に重要となる4つのポイントについて解説します。
専門性による差別化
多くの施設の中から自施設を選んでもらうためには、明確な強みが必要です。
例えば、看取りまで対応するターミナルケアの充実、人工呼吸器や気管切開など医療依存度の高い方への対応、パーキンソン病などの神経難病に特化したケアなど、専門性を高めることが有効な差別化戦略となります。
自施設の理念と地域ニーズを照らし合わせ、どの分野で貢献できるかを追求することが重要です。
地域におけるブランドを確立することは、安定した稼働率の維持に直結します。
建築コストの最適化
施設の建築方法も、経営戦略における重要な要素です。
特に木造建築は、鉄骨造やRC造に比べて坪単価を抑えやすいため、初期投資の削減に大きく貢献します。
また、木材ならではの温かみのある空間は、入居者にとって快適な住環境を実現することが期待できます。
居心地の良い空間は、働くスタッフの精神的な安らぎにもつながり、人材の定着率向上にも良い影響をもたらすでしょう。
地域医療機関やケアマネジャーとの連携強化
ナーシングホームの経営は、地域との連携なくしては成り立ちません。
特に、入居者の紹介元となる地域の病院やクリニック、在宅療養支援診療所、地域のケアマネジャーとの信頼構築は優先すべき課題です。
定期的に情報交換の場を設け、自施設の受け入れ体制や空床情報を共有することで、「困ったときには、あの施設に相談しよう」と想起される施設を目指すことが、安定した入居率の維持につながります。
IT・テクノロジー活用による業務効率化とケアの質向上
深刻化する人材不足に対応し、質の高いケアを提供し続けるためには、IT・テクノロジーの活用が不可欠です。
介護記録ソフトの導入による記録業務の効率化をはじめ、見守りセンサーやインカムによる迅速な情報共有、介護ロボットによる身体的負担の軽減など、活用できるツールは多岐にわたります。
テクノロジーの導入はスタッフの負担を減らし、より入居者と向き合う時間を生み出すことで、結果的にケアの質の向上と顧客満足度の向上に貢献します。
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ナーシングホームは、日本国内で明確な法的定義がある施設類型ではなく、実務上は住宅型有料老人ホームを基盤に、訪問看護・訪問介護、医療機関との連携により医療依存度の高い方を支える運営形態として理解されています。収益面では、居住費、介護報酬、訪問看護に係る報酬などが関係しますが、適用される保険や報酬は入居者の状態、提供内容、制度上の要件に左右されます。特に訪問看護は、要支援・要介護認定を受けている方では原則として介護保険が優先される一方、疾病や状態、主治医の指示等により医療保険の対象となる場合もあります。そのため、収支試算では入居者像と保険適用の前提を明確にし、記録・請求の適正性や人員体制、地域医療機関との連携を確認することが重要です。
まとめ:ナーシングホームの経営で地域を支える存在に

ナーシングホーム経営は、医療依存度の高い高齢者を支えるという社会的意義の大きな事業です。
地域社会にとってなくてはならない存在となることが、長期的な事業成長と成功をもたらすとも言えます。
医療と介護を最適に組み合わせることで、強固な収益基盤を築くことが可能ですが、それは質の高いケアと徹底したコンプライアンスの上に成り立つものです。
事業計画を進める際には、本記事でご紹介した内容をぜひ参考としてお役立てください。
監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

