【2026年最新】介護業界における倒産の現状と未来|今知るべき原因と対策

2026.05.18

介護業界の倒産件数が過去最多を記録している、というニュースが話題になっています。
介護事業所の経営に携わる方や現場で従事される方を対象に、倒産の現状から、背景にある構造的な原因、そして今すぐできる対策までを分かりやすく解説します。

介護業界の倒産件数が過去最多に – 最新データで見る深刻な現状

日本の高齢化が進み、介護サービスの需要が増え続けているにもかかわらず、介護事業者の経営は極めて厳しい状況にあります。東京商工リサーチの報告によると、2025年における「老人福祉・介護事業」の倒産件数は176件に達しました。

これは、過去最多だった前年をさらに上回り、2年連続で記録を更新する深刻な事態です。特に、倒産だけでなく自主的な休業や廃業、解散に踏み切る事業所も急増しており、2025年には653件とこちらも過去最多となっています。
その中でも際立っているのが「訪問介護」の分野で、倒産・休廃業全体の約7割を占めるなど、小規模な事業所の淘汰が急速に進んでいるのがうかがえます。


専門家は、この後述べる複数の経営圧迫要因が解消されない限り、2026年も倒産は高い水準で推移する可能性が高いと指摘しており、予断を許さない状況が続いています。

参照:「介護事業者」の倒産が過去最多  価格転嫁が難しく、大規模な連鎖倒産も発生

介護事業所が倒産する理由は構造的な「三重苦」

介護事業所が倒産に追い込まれている背景には単なる経営努力の不足としては説明しきれない、業界全体が抱える構造的な問題が存在します。
多くの倒産の直接的な原因は「売上不振」ですが、その根底には「介護報酬」「人手不足」「物価高騰」という、事業者の努力だけでは対応が困難な「三重苦」が存在しています。

原因1:介護報酬の硬直性とマイナス改定

介護事業所の収益の大部分は、国が定める公定価格「介護報酬」によって決まります。そのため、事業者が自由にサービス料金を設定して利益を上げることが難しい構造になっています


この介護報酬が、現場の実態に合わない形で改定されると、経営は大きな打撃を受けます。
例えば、2024年度の介護報酬改定では、特に訪問介護の基本報酬が引き下げられる「マイナス改定」が行われました。訪問介護事業は、売上の約72%を人件費が占めるといわれる労働集約型のビジネスです。

したがって、報酬がわずかに引き下げられただけでも、人件費を削るか赤字を覚悟するかの厳しい選択を迫られ、経営体力の弱い事業所から立ち行かなくなってしまうのです。

参照:神奈川のケアマネが東京に大移動する理由、訪問介護を「狙い撃ち」のマイナス報酬改定に業界大激怒!

原因2:深刻な人手不足と採用・人件費の高騰

介護業界は、慢性的な人手不足という大きな課題を抱えています。
ある推計によれば、2040年には約69万人もの介護人材が不足すると予測されており、状況は年々深刻化しています。

人手が足りなければ、サービスを提供したくても利用者の受け入れを制限せざるを得ません。これが「人手不足倒産」と呼ばれるもので、サービス提供の機会損失が直接的に売上減少につながります


同時に、最低賃金の引き上げや他産業との人材獲得競争の激化により、人件費は上昇し続けています。人を採用するためのコストも増加しており、こうした負担が経営を継続的に圧迫します。

原因3:物価高騰による運営コストの圧迫

近年、私たちはさまざまな場面で物価の上昇を実感していますが、その波は介護業界にも押し寄せています。
施設で使う燃料費や光熱水費、利用者に提供する食事の材料費など、事業運営に欠かせないあらゆるコストが上昇しています。


しかし、先述の通り、介護報酬は物価の変動に合わせて柔軟に変わるわけではありません
そのため、増え続けるコストを事業所が自ら吸収するしかなく、利益は着実に減少します。
特に、日々の運営資金に余裕のない小規模な事業所にとっては、この物価高騰が経営を維持する上での大きな障壁となっています。

原因4:見落とされがちな経営管理の課題

厳しい外部環境に加えて、事業所内部の経営体制が問題を抱えているケースも少なくありません。特に、介護現場の専門家が立ち上げた小規模な事業所などでは、経営に関する専門的な知識が不足していることがあります。


例えば、日々の収支を正確に把握していなかったり、将来を見据えた資金計画を立てていなかったりする、いわゆる「どんぶり勘定」の状態です。

このような状態では、気付いた時には資金繰りが悪化し、手遅れとなるおそれがあります。
介護報酬という安定収入に依存しすぎるあまり、経営改善への意識が薄れてしまうことも、倒産に至る一因となり得ます

参照:厚生労働省 介護人材確保の現状について

【関連記事】介護業界の課題|介護事業所が取るべき対策やDXの重要性などを解説

気をつけたい倒産の前兆

倒産は、ある日突然起こるわけではありません。そこに至るまでには、必ず何らかのサインが現れます。
ここでは、倒産の「危険な兆候」をいくつかご紹介します。

職員の離職率が急に高まり、常に求人募集を出している

経験豊富で長く勤めていた職員や、周囲から頼りにされていた職員が相次いで辞めていくのは、危険なサインかもしれません。


それは、労働環境の悪化や経営方針への不満、将来性への不安などを、現場の職員が敏感に感じ取っている証拠です。その結果、人の入れ替わりが激しくなり、Webサイトや求人誌で常に募集広告を見かけるようになります。
慢性的な人手不足は、残された職員の負担を増やし、サービスの質の低下にも直結します。

給与支払いの遅延、ボーナスがカットされる

給与の支払いが約束の期日より遅れる、あるいは、これまで支給されていたボーナスが突然カットされたり大幅に減額されたりするのは、資金繰りが極度に悪化している直接的な証拠です


会社が従業員への支払いを遅らせるのは、手遅れとなるおそれがあります。このような状況は、職員の生活を脅かし、仕事へのモチベーションを著しく低下させるため、さらなる人材流出を招く悪循環に陥りやすくなります。

備品(おむつ、手袋など)の不足や節約の強制が目立つ

介護現場で日常的に使用するおむつや手袋、消毒液といった消耗品が頻繁に不足したり、「無駄のない使用を徹底するように」と過度な節約を求められたりするのも注意が必要です。


日々のケアに不可欠な備品コストさえも切り詰めなければならないほど、経営が切迫している可能性があります。
こうした状況は、必要なケアが適切に行われなくなるリスクを高め、衛生環境の悪化や感染症の発生にもつながりかねません

経営者や管理者が不在がちで、職員に余裕がない

経営者や施設長が、資金繰りのために金融機関を駆け回っているなどの理由で、事業所に不在がちになることがあります。
また、管理者自身が現場の業務に追われ、マネジメントが機能不全に陥っているケースも少なくありません


その結果、現場の職員は常に時間に追われ、精神的にも肉体的にも疲弊している様子が見受けられます。職員同士の会話が減り、職場の雰囲気が暗くなっている場合も、経営状態の悪化が影響している可能性があります。

利用者や家族への説明が曖昧になる、悪い噂が聞こえる

施設の経営状況について質問した際に、担当者が言葉を濁したり、曖昧な説明に終始したりすることが増えたら、何か問題を抱えているサインかもしれません。


誠実な事業者であれば、利用者や家族の不安に寄り添い、真摯に説明しようと努めるはずです。また、地域社会での評判も重要な判断材料です

倒産危機に備え持続可能な経営に向けた4つの戦略

こうした厳しい状況を乗り越え、倒産を回避するためには、経営者や管理者が戦略的な視点を持って事業運営に取り組むことが不可欠です。
ここでは、持続可能な経営を実現するための4つの重要な戦略をご紹介します。
職員や利用者のご家族にとっても、これらの対策に積極的に取り組んでいる事業所は、信頼できる「優良な事業者」であると判断する一つの基準になるでしょう。

戦略1:人材確保と定着(処遇改善と働きがいのある職場環境)

人手不足が経営を揺るがす最大の要因である以上、人材の確保と定着に全力を注ぐことが最も重要です。もちろん、国の処遇改善加算などを活用した賃金の引き上げは基本ですが、それだけでは十分ではありません。


介護記録ソフトなどのICTを導入して事務作業の負担を減らしたり、職員の悩みを聞く相談窓口を設置してメンタルヘルスケアを充実させたりするなど、働きがいのある職場環境を整えることが求められます


ハラスメント対策を徹底し、誰もが安心して働ける職場づくりを進めることが、結果的に離職率の低下とサービスの質の向上につながります。

戦略2:生産性向上(ICT・介護DXの推進と補助金の活用)

介護現場の生産性を高めることは、限られた人員で質の高いサービスを提供し続けるために不可欠です。
例えば、ベッドに設置する見守りセンサーは夜間の巡回業務の負担を大幅に軽減できますし、スマートフォンで使える介護記録アプリは情報共有をスムーズにします。


こうしたICT機器やシステムの導入にはコストがかかりますが、国や自治体が提供する「IT導入補助金」をはじめ「地域医療介護総合確保基金」などの補助金制度を積極的に活用することで、負担を抑えることが可能です
業務の効率化は、職員の身体的・精神的な負担を減らし、利用者と向き合う時間を増やすことにもつながります。

戦略3:経営管理の強化(収支の可視化と資金調達の多様化)

感覚的な経営から脱却し、数字に基づいた客観的な経営管理を行うことが、倒産を回避するための基本です。
まずは、毎月の収入と支出を正確に把握し、収支状況を「見える化」することから始め、その上で、無駄なコストを削減し、将来を見据えた資金計画を立てることが重要です。


万が一、資金繰りが苦しくなった場合に備え、介護報酬を早期に現金化できるファクタリングサービスや、金融機関からの融資といった資金調達手段について、平常時から情報を集めておくことも大切です


また、後継者不足などの課題がある場合には、M&A(企業の合併・買収)によって事業を大手法人に引き継いでもらうことも、サービスと雇用を守るための有効な選択肢となります。

戦略4:地域連携と事業の多角化

一つの事業所だけですべての課題を解決するのが難しい時代になっています。
地域の他の介護事業所やクリニック、病院などと連携を深め、利用者を紹介し合ったり、研修を共同で開催したりすることで、互いの経営基盤を強化することができます。


また、介護保険サービスだけに依存する経営は、報酬改定の影響を受けやすく不安定です。そのため、保険適用外の自費サービス(例えば、通院の付き添いや家事代行など)を展開し、収益の柱を複数持つことも、経営を安定させるための有効な戦略と言えるでしょう。

今すぐできる介護施設の倒産を未然に防ぐ具体策

倒産という最悪の事態を避けるためには、日頃から自社の経営状態を客観的に把握し、早めに対策を講じることが重要です。ここでは、経営者や管理者が今日からでも実践できる具体的な取り組みを紹介します。

現状把握のチェックリスト作成

まずは、自社の健康状態を診断するためのチェックリストを作成し、定期的に確認する習慣をつけましょう。
これにより、問題の早期発見につながります。

チェック項目はいいいえ備考
財務状況   
毎月の収支は黒字か?   
3ヶ月分の運転資金は確保できているか?   
借入金の返済に滞りはないか?   
人材関連   
直近1年間の離職率は15%未満か?   
職員の有給休暇取得率は50%以上か?   
スタッフの残業時間は常識の範囲内か?   
運営状況   
施設の稼働率は85%以上を維持できているか?   
利用者や家族からのクレームは少ないか?   
ケアプランは適切に作成・更新されているか?   

運営に伴う重要指標を管理する

事業運営においては、以下のような重要指標(KPI)を常にモニタリングし、経営判断に活かすことが不可欠です

  • 稼働率: 施設の定員に対して、実際に利用している人の割合です。稼働率の低下は、収入の減少に直結します。
  • 人件費率: 売上高に占める人件費の割合です。一般的に介護事業では60〜70%が目安とされますが、これを大幅に超えると利益を圧迫します。
  • 離職率: 一定期間にどれだけの職員が辞めたかを示す割合です。高い離職率は、採用・教育コストの増大やサービスの質の低下を招きます。

これらの数値を毎月把握し、異常が見られた際には速やかに原因を分析し、対策を打つことが求められます。

運営指導対策をしっかりと行う

数年に一度行われる行政による「運営指導(実地指導)」は、事業所が法令を遵守して適切に運営されているかを確認するものです。


この指導で重大な違反が指摘されると、介護報酬の返還や、最悪の場合は事業所の指定取り消しといった厳しい処分につながる可能性があります。これは、事業の存続を揺るがす極めて大きなリスクです。


日頃からコンプライアンス意識を高く持ち、書類の整備や記録の徹底など、いつ指導が入っても問題ない体制を整えておくことが、安定経営の土台となります

斉藤 圭一氏
斉藤 圭一氏

昨今の介護事業所における倒産急増は、物価高騰や深刻な人手不足、そして競争の激化という多重苦に直面している業界の厳しさを浮き彫りにしています。本記事で指摘されている通り、小規模事業所を中心に「経営の持続可能性」が問われており、もはや質の高いケアを提供するだけでは生き残れない時代へと突入しています。倒産の要因は多岐にわたりますが、一因として、外部環境の変化への対応が追いつきにくい状況があると考えられます。今後の対策として不可欠なのは、徹底した収支管理と並行した「選ばれる事業所」への変革することです。処遇改善による人材の定着はもちろん、ICT活用による事務負担の軽減や、データに基づいた効率的な稼働率管理など、アナログな経営からの脱却が急務となります。また、地域ニーズを正確に把握し、近隣の医療・福祉資源との連携を強化することで、地域包括ケアシステムの中での自社の役割を再定義することも重要です。倒産というリスクを回避するためには、危機を早期に察知する財務指標のチェック体制を整えるとともに、職員が誇りを持って働ける環境を維持し、組織としての回復力を高めていく姿勢がこれからの経営には強く求められます。

まとめ:介護業界の市場変化を捉え対策を

介護事業所の倒産が過去最多というニュースは、介護に関わるすべての人にとって、決して他人事ではありません。
その背景には介護報酬の問題や人手不足、物価高騰といった、一つの事業所の努力だけでは解決が難しい構造的な課題が存在します。しかし、いたずらに悲観する必要はありません。


日本の高齢化に伴い、質の高い介護サービスへの需要が今後ますます高まることは確実です。
経営に携わる方は、厳しい環境変化に対応するための具体的な戦略を実行することで、危機を乗り越え、地域に必要とされる事業所として生き残ることが可能です。

監修:斉藤 圭一

主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)

神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。その後、1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職。2007年には立教大学大学院(MBA)を卒業。 以降、高齢者や障がい者向けのさまざまなサービスの立ち上げや運営に携わる。具体的には、訪問介護・居宅介護支援・通所介護・訪問入浴などの在宅サービスや、有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅といった居住系サービス、さらには障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設の運営を手がける。 また、本社事業部長、有料老人ホーム支配人、介護事業本部長、障害サービス事業部長、経営企画部長など、経営やマネジメントの要職を歴任。現在は、株式会社スターフィッシュを起業し、介護・福祉分野の専門家として活動する傍ら、雑誌や書籍の執筆、講演会なども多数行っている。

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