育成就労制度で介護の人手不足を解消|【2027年開始】制度の全貌と導入戦略
2026.05.21
介護施設の深刻な人手不足は、経営者の皆様や採用ご担当者の皆様にとって長年の課題です。
これまでの技能実習制度に代わる新たな「育成就労制度」が今後始まることは、ニュースなどで耳にしていても、その詳細はまだ把握できていないかもしれません。
この記事では、介護施設の経営者の皆様や採用ご担当者の皆様に向けて、育成就労制度の基本から介護分野ならではのルール、そして具体的な導入戦略までを網羅的に解説します。
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目次
育成就労制度とは?技能実習制度からの3つの大きな変更点

育成就労制度は、従来の技能実習制度が抱えていた課題を解決し、日本の人手不足に対応するために創設された新しい在留資格です。
これまでの制度をご存知の方であれば、大きな変更点を3つ押さえることで、新制度の本質を素早く理解できます。
その3つのポイントとは、「目的」「転籍(転職)ルール」「監理体制」の変更です。
目的が「国際貢献」から「人材の育成・確保」へ
最も大きな変更点は、制度の目的が根本から変わったことです。技能実習制度は、形式上「日本で培った技能を母国に持ち帰り、経済発展に貢献する」という国際貢献を目的としていました。
しかし育成就労制度では、「日本国内の人手不足分野における人材を育成し、確保する」ことが明確な目的です。
これにより、外国人材は「実習生」ではなく、育成されるべき「労働者」として正式に位置づけられます。
原則3年間の就労を通じて特定技能1号レベルの人材へと育成し、その後の定着を目指す、という長期的な視点に立った制度設計が特徴です。
| 項目 | 技能実習制度(旧制度) | 育成就労制度(新制度) |
|---|---|---|
| 制度の目的 | 技能移転による国際貢献 | 人手不足分野での人材育成と確保 |
| 人材の位置づけ | 技能実習生 | 育成就労外国人(労働者) |
| キャリアパス | 限定的(原則帰国) | 特定技能1号への移行が前提 |
本人の意向による「転籍(転職)」が可能に
経営者の皆様や採用ご担当者の皆様が最も注目すべき変更点の一つが、転籍ルールの緩和です。技能実習制度では原則として認められていなかった、労働者本人の意向による転籍(転職)が可能になります。ただし、無条件ではなく、以下の要件を満たす必要があります。
- 同一の事業所で1年以上就労していること
- 技能検定基礎級(または相当の試験)に合格していること
- 日本語能力試験N5相当以上の資格を有していること
- 転籍先も同一の業務分野であること
この変更は、労働者の権利保護を強化するためです。受け入れ企業にとっては人材流出のリスクにもなりますが、同時に、より良い労働環境や待遇を提供し、選ばれる職場を目指す改善を促す契機にもなります。
| 項目 | 技能実習制度(旧制度) | 育成就労制度(新制度) |
|---|---|---|
| 転籍の可否 | 原則不可 | 一定の要件下で可能 |
| 主な要件 | やむを得ない事情のみ | ・就労期間1年以上 ・一定のスキル・日本語要件 |
| 企業への影響 | 雇用の安定性が高い | 人材定着のための職場環境改善が重要に |
受け入れ機関・監理団体の責任がより厳格化
外国人材の受け入れをサポートする団体の役割と責任も強化されます。従来の「監理団体」は「監理支援機関」へと名称が変わり、これまでの届出制から、より基準の厳しい「許可制」へと移行します。これにより、悪質なブローカーの排除や、監理支援機関の中立性・専門性が担保されることが期待されています。
同時に、外国人材を直接雇用する受け入れ企業側の責任も、これまで以上に重くなり、適正な労務管理や人権への配慮、育成計画の着実な実行などが厳しく問われます。コンプライアンスを遵守し、外国人材が安心して働ける環境を整えることが、制度活用の大前提です。
参照:公益社団法人国際人材協力機構(JITCO)就労育成制度とは
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【介護分野の特例】施設運営者が押さえるべき2つの重要ポイント

育成就労制度は分野ごとに固有のルールが設けられる予定ですが、特に介護分野には事業戦略に大きく関わる2つの特例が設けられる方向で調整が進んでいます。
一般的な制度概要とあわせて、この介護分野ならではのポイントを確実に押さえておくことが重要です。
「2年間」の転籍制限で人材定着の安定化を図る
原則として1年で転籍が可能になる育成就労制度ですが、介護分野ではこの期間が「2年間」に設定されています。これは、介護業務の特性が考慮された結果です。利用者との信頼関係を築き、ケアの継続性を保つためには、一定期間同じ施設で経験を積むことが不可欠だと考えられています。
この特例は、受け入れ施設にとって大きな利点があります。時間とコストをかけて育成した人材がすぐに離職してしまうリスクを低減し、初期の教育投資を安定的に回収できる期間が確保されます。
参照:厚生労働省 介護分野の育成就労における固有要件について
明確なキャリアパスで「介護福祉士」への道を拓く
介護分野は、他の分野に比べて長期的なキャリアパスが非常に明確に描かれている点が強みです。育成就労制度を通じて来日した人材は、以下のようなステップで専門性を高め、長期的に日本で活躍する道が開かれています。
- 育成就労(最長3年)
- 介護の基礎知識と技術、日本語能力を習得
- 3年目終了時に「介護分野の特定技能1号評価試験」と「日本語能力試験N4」の合格を目指す
- 特定技能1号(最長5年)
- 育成された人材として、より実践的な業務に従事
- この期間中に介護福祉士国家試験の合格を目指す
- 在留資格「介護」(更新上限なし)
- 介護福祉士資格を取得することで、この専門職ビザに移行
- 在留期間の制限がなくなり、家族の帯同や永住権の申請も視野に入る
この訴求力のあるキャリアパスは、向上心のある優秀な外国人材を惹きつける大きなアピールポイントになります。
参照:厚生労働省 介護分野の育成就労における固有要件について
育成就労制度と特定技能制度の戦略的使い分け

育成就労制度の開始後も、即戦力人材を受け入れるための「特定技能制度」は引き続き運用されます。「自施設はどちらの制度を選択すべきか?」という疑問をお持ちの経営者の皆様や採用ご担当者の皆様も多いでしょう。
これは、施設の状況や人材戦略によって答えが変わります。両制度を「ポテンシャル採用」と「即戦力採用」と位置づけ、戦略的に使い分ける視点が重要です。
【比較表】育成就労制度と特定技能制度のコスト・育成・要件の違い
まずは、両制度の違いを一覧で比較し、それぞれの特徴を整理してみましょう。
| 項目 | 育成就労制度 | 特定技能制度(1号) |
|---|---|---|
| 対象人材 | 未経験者・ポテンシャル人材 | 経験者・即戦力人材 |
| 在留期間 | 原則3年(特定技能へ移行可) | 通算5年 |
| 転籍ルール | 介護分野は2年間制限 | 原則として可能 |
| 日本語要件(入国時) | 「日本語能力試験(N5以上)」 | 「国際交流基金日本語基礎テスト」又は 「日本語能力試験(N4以上)」及び 「介護日本語評価試験」 |
| 教育・育成 | 企業による育成が必須(負担大) | 育成負担は比較的少ない |
| 採用コスト | 監理支援機関への費用等が発生 | 紹介手数料等が中心 |
| メリット | ・長期視点で自社の文化に合う人材を育成できる ・初期の雇用が安定している | ・即戦力としてすぐに現場で活躍できる ・教育コストを抑えられる |
| デメリット | ・育成に時間とコストがかかる ・即戦力にはなりにくい | ・採用競争が激しい場合がある ・転籍のリスクが比較的高い |
参照:公益社団法人国際人材協力機構(JITCO)就労育成制度とは
参照:出入国管理庁 特定技能制度
参照:出入国在留管理庁育成就労制度Q&A

引用:https://www.moj.go.jp/isa/content/001452485.pdf
育成就労と特定技能の選び方
上記の比較を踏まえ、施設の状況に応じた最適な制度の選び方を解説します。
- 育成就労制度が向いている施設
- 長期的な視点で、自施設の理念や介護方針に深く共感してくれる人材を育てたい。
- 将来のリーダー候補となる人材を、若いうちから確保・育成したい。
- 現在の教育体制に比較的余裕があり、未経験者をじっくり育てる文化がある。
- 特定技能制度が向いている施設
- 急に欠員が生じてしまい、速やかに夜勤などに入れる即戦力が欲しい。
- 現場が多忙で、新人教育に十分なリソースを割くのが難しい。
- まずは短期間で外国人材雇用の経験を積みたい。
もちろん、両制度を組み合わせて活用するハイブリッド戦略も有効です。
失敗しないための導入準備

2027年の制度開始はまだ先のように感じられるかもしれませんが、準備を始めるのに早すぎることはありません。優秀な人材を確保するためには、他施設に先駆けて計画的に準備を進めることが成功の鍵です。
以下に、今から始めるべき準備のロードマップを示します。
| 時期 | やるべきこと | 具体的なアクション |
|---|---|---|
| 今すぐ~1年後 | 情報収集と体制構築 | ・育成就労制度に関する最新情報の収集 ・信頼できる監理支援機関や登録支援機関のリストアップ ・社内の受け入れ体制(教育担当、相談役など)の検討 |
| 施行1年前~半年前 | 計画策定とパートナー選定 | ・具体的な採用人数や育成計画の策定 ・提携する監理支援機関の選定と契約 ・受け入れマニュアルや教育資料の準備 |
| 施行半年前~直前 | 募集と受け入れ準備 | ・海外での募集活動の開始 ・住居の確保や生活備品の準備 ・現場スタッフへの説明と意識共有 |
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受け入れ後の定着・育成を実現するために取り組むべき2つの支援

外国人材の採用は、来日してもらって終わりではありません。彼らが日本で安心して働き、成長し、この施設で働き続けたい」と思える環境を整えるためには、きめ細やかなサポートが不可欠です。特に重要な2つの支援について解説します。
日本語能力と専門スキルの向上サポート
介護の質は、利用者との円滑なコミュニケーションに大きく左右されます。入国時にN5レベルの日本語能力があっても、現場でのコミュニケーションには不十分な場合が多いです。施設として、以下のような学習機会を提供することが定着促進につながります。
- 業務時間内に日本語学習の時間を設ける
- eラーニング教材の導入やオンラインレッスンの費用を補助する
- 地域の日本語教室の情報を提供する
- 介護福祉士国家試験に向けた勉強会を開催する
スキルアップを実感できる環境は、働く人のモチベーションを大きく向上させます。
孤立させない生活・精神面のサポート体制
慣れない異国での生活や仕事は、想像以上に大きなストレスを伴います。業務上の悩みだけでなく、生活面での不安や孤独感を解消するためのサポート体制を整えることが極めて重要です。
物理的なサポート
- 住居(アパート)の契約支援
- 銀行口座の開設や携帯電話の契約への同行
- ゴミの出し方など、日本の生活ルールの説明
精神的なサポート
- 定期的に面談を行うメンター(相談役)を配置する
- 母国語で相談できる窓口を設置する
- 地域のイベントや交流会への参加を促し、孤立を防ぐ
こうした地道なサポートが、外国人材との信頼関係を築き、長期的な定着へと繋がります。
2027年から導入される「育成就労制度」は、これまでの技能実習制度における「国際貢献」という建前から、実態に即した「人材育成と確保」へと大きく舵を切るものです。介護業界にとって、特定技能への移行を前提としたこの新制度は、長期的なキャリアパスを提示できる点で、人手不足解消に向けた一石となることが期待されます。しかし、制度を有効に活用するためには、単なる労働力の補充として捉えるのではなく、外国人材を「共に地域を支えるパートナー」として迎え入れる組織文化の醸成が不可欠です。本記事で示されている通り、転籍(転所)制限の緩和など柔軟性が増す一方で、事業所側には「選ばれる職場」であり続けるための努力がより一層求められます。言語習得の支援や生活環境の整備、そして日本人スタッフとの円滑なコミュニケーションを支える仕組みづくりが、定着率を左右する鍵となります。また、ICTツールの活用による記録業務の簡略化などは、外国人材の心理的負担を軽減し、本来の強みである対人ケアに集中できる環境を整える上でも重要です。新制度の開始を見据え、今から戦略的に受入体制を構築することが、持続可能な事業運営に直結します。
まとめ:育成就労制度を追い風に、持続可能な施設経営を実現するために

育成就労制度は、単に技能実習制度の名前が変わっただけのものではありません。外国人材を「労働力」としてだけでなく、共に成長する「仲間」として迎え入れ、長期的なキャリア形成を支援するという、日本の大きな方針転換を示すものです。
この制度変更を正しく理解し、いち早く準備を進めることは、深刻な人手不足に悩む介護業界にとって大きなチャンスとなり得ます。受け入れ体制の整備や育成への投資は、決して軽い負担ではありませんが、それは外国人材の定着、ひいては介護サービスの質の向上、そして持続可能な施設経営という、未来への確かな投資となるはずです。
監修:斉藤 圭一
主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)
神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。その後、1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職。2007年には立教大学大学院(MBA)を卒業。 以降、高齢者や障がい者向けのさまざまなサービスの立ち上げや運営に携わる。具体的には、訪問介護・居宅介護支援・通所介護・訪問入浴などの在宅サービスや、有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅といった居住系サービス、さらには障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設の運営を手がける。 また、本社事業部長、有料老人ホーム支配人、介護事業本部長、障害サービス事業部長、経営企画部長など、経営やマネジメントの要職を歴任。現在は、株式会社スターフィッシュを起業し、介護・福祉分野の専門家として活動する傍ら、雑誌や書籍の執筆、講演会なども多数行っている。

