居宅介護支援事業所の開業準備|事業計画書の雛型・書き方のポイント

2024.03.07

居宅介護支援事業所を開業する際には、事業計画書の作成が必要です。
しかし、初めて事業計画書を作成する場合には、どのような項目で、どのような内容を書けばいいかわからないという方も多いのではないでしょうか。

事業計画書を適切に作成すれば、事業所のビジョンを確立できたり、確保すべきリソースを把握できたりします。

本記事では、居宅介護支援事業所の事業計画書を作成する際のポイントや雛形となる記載項目などを紹介します。
これから事業計画書を作成する方も、すでに作成していてより良いものにしたいと考えている方も、ぜひ参考にしてください。

居宅介護支援事業所の事業計画書とは?

居宅介護支援事業所を開業する際に作成する事業計画書には、事業の方向性や目的、資金調達計画から運営方法、戦略といった項目を記載します。
立ち上げから運営、開業後1年先まで中長期的な視点を持って書きましょう。

事業計画書を作成することで、開業してから1年後など、先のビジョンを具体化させられます。
これから開業する居宅介護支援事業所の地域や規模は適切か、経営方針は適したものになっているか、といった判断材料にもなるため、開業時には必ず作成しましょう。

なお、自治体によっては居宅介護支援事業所の申請をする際に事業計画書の提出を求められる場合もあります。

事業計画書を作成する3つの目的

事業計画書には下記のような3つの目的があります。

  • 目標やビジョンを明確化し、共有する
  • 必要なリソースの確保
  • 金融機関から融資を受ける

それぞれの目的についてより詳しく見てみましょう。

目標・ビジョンを明確化、共有する

まず、事業計画書を作成する目的には、事業の目標やビジョンを明確化させることが挙げられます。
提供するサービス内容や事業のコンセプト、ターゲットなどを明確にすることで、事業の規模や収入などの全体像の把握につながります。

また、開業時のコアメンバーへ目標やビジョン、事業のコンセプトなどを共有するのにも役立てることが可能です。
目標やビジョンを共有できることで、事業所内全体が同じ方向へ向けて活動を進めていけることにもつながるでしょう。

必要なリソースを把握する

事業計画書では事業の概要について記載するため、雇用予定の従業員数や必要な資格、サービス提供に必要な設備などの情報が明らかになります。
漠然とした「◯人雇用」「事業所の広さはこのくらい」といったイメージから、実際に確保しなければいけないリソースを把握することが可能です。

また、資金計画を立てる際にはあらかじめ、車両の購入予定やシステム導入予定も考えましょう。

事業を開始してから車両購入やシステム導入をする場合、自己資金があれば問題ありません。
しかし、新たに融資を受けるとなると条件がより厳しくなったり、手間もかかったりとデメリットが多くなります。

具体的なイメージを持って事業計画書を作成すると、従業員数や設備など必要なリソースが明確になり、その後のリソース確保をよりスムーズに進められます。

金融機関から融資を受ける

金融機関で融資を受けるには、事業の概要や提供サービスの内容、収支計画、さらに経営者の略歴や他機関への借入状況などを金融機関に提示しなければいけません。
その際の参考資料として、事業計画書が必要です。

事業計画書の時点で見通しが甘いと感じる場合には、融資を受けられないことがあります。
詳細をできるだけ正確に把握し、記載しましょう。

居宅介護支援事業所の事業計画書の記載項目・書き方

目的を把握できたところで、実際の事業計画書の作成に入ります。
ここでは下記の項目について、どのような情報を記載するのかを詳細に解説します。

創業の動機

事業を開始するにあたって、創業の動機を記載します。
詳細項目としては経営理念や事業のコンセプト、開業するにいたった背景をあげましょう。

明確なコンセプトがあれば、今後スタッフを雇用する際に事業者側から雇用者へ共有でき、事業所全体で同じ方向へ向かって運営を進めていけます。
また、金融機関の融資査定を受ける際には、事業者の開業への思いなども重視されます。

事業所の概要

事業所の概要については、下記の項目を記載しましょう。

  • 事業所の名称、住所
  • 設立日
  • 資本金
  • 事業形態(株式会社、合同会社など)
  • 組織図(従業員数)
  • 保有資格(確保予定のものも含む)

介護事業所の設立は法人でなければ認められず、金融機関も、事業形態について確認されます。
また、創業メンバーに介護事業にかかわる経歴がある場合には、簡潔に経歴も記載しましょう。

事業の内容

開業する居宅介護支援事業所のなかで具体的にどのような業務を行うかを記載します。
ここでのポイントは、できるだけ専門用語を避け、分かりやすい用語を使用することです。

事業計画書は、資金調達時の融資審査にも使用します。
介護業界の専門用語を多用すると、融資担当者が事業内容を把握しづらくなる恐れがあるため、専門用語を避けると良いでしょう。

なお、抽象的な内容では、事業内容を誤解される可能性もあるため、できるだけ具体的に記載することが大切です。

経営戦略・経営目標

経営戦略については、自施設の強みや弱みと市場調査をした情報から、どのような方向で運営を進めていくかを記載します。
市場調査やターゲットを明確にするのは、事業の優位性などを把握するのに役立ちます。
競合他社が同地域にある場合は、ターゲット層の絞り込みが適切か、予測される利用者数が確保可能か、の判断も必要です。

例えば、自施設の強みを手厚いサポートを提供できる環境とし、1人のケアマネが担当する利用者数を規定より少なく設定したとします。
この場合、担当件数に限りがあることが自施設の弱みと言えます。

市場調査のなかで高齢者が多い地域であれば、母体数が大きいため、大規模な居宅介護支援事業所が同じエリアにあったとしても、「より手厚いサポートが受けられる」ことを目的に利用者を集めることは実現可能と推測できます。

一方で、市場調査では居宅介護支援サービスを必要とする高齢者が少ない地域であればどうでしょうか。
そもそも近隣の事業所でもケアマネ1人あたりの担当件数が少なく、すでに手厚いサポートを受けている要介護者が多いことが予想されます。

この場合、自施設の強みであったはずの「手厚いサポートが可能」を生かすことができません。
市場調査を行ったうえで、自施設の強みと弱みが生かせるかどうか、といった視点で戦略を立てることが大切です。

経営目標と言うと、売上など収支のことに目が行きがちです。
しかし、利用者の満足度やスタッフの定着率(=満足度)についても、記載しましょう。

経営者の略歴

ここでは、事業者(経営者)にこれまで介護事業の経験があれば記載します。
居宅介護支援事業所の開業には管理者を1名常駐で配置しなければいけません。

経営者をそのまま管理者とする場合には資格取得も必須のため、所持資格についても記載しましょう。
また、他のサービス事業についても事業の経験がある場合には略歴に記載しておくと、金融機関の融資を受ける際に参考になります。

経営者に、他に借入がある場合には下記の情報も記載しましょう。

  • 借入金額
  • 借入の理由
  • 返済状況

資金計画

資金計画については下記の項目を記載します。

  • 必要な資金
  • 自己資金
  • 資金調達方法

必要な資金のなかには、購入予定の設備や備品、運営していく上でかかる費用(人件費、固定費など)のように項目を細かく分けて記載してください。

収支計画

収支計画については事業開始から1年間と、月別の計画を立てます。
月別の計画には毎月かかる固定費(人件費、設備費)や返済額、売上、利益など細かな項目を記載します。

売上については下記のように算出根拠を明らかにしておきましょう。

  • 利用者1人あたりの売上
  • 利用者数
  • 稼働日及び稼働時間
  • 取得予定の加算数

月別の収支計画を立てた後で、1年後の収支予測を立てます。
1年後の収支予測を立てる際には、車検の予定やシステム運営費、賃貸契約の更新料など月別の収支計画にはない、イレギュラーな支出があることを加味してください。

事業計画書を作成する際の注意点

事業計画書を作成する際には、いくつか留意すべき点があります。
注意しなければ、金融機関の融資査定の際に判断材料とならなかったり、実際に開業に必要なリソースなどの把握ができなかったりと、事業計画書の目的を果たせません。

事業計画書の目的を果たし、スムーズな開業に役立つ計画書にするためにも、注意点に気をつけて作成しましょう。

わかりやすい言葉を使用する

金融機関に融資を受ける際には、事業計画書を融資の判断材料に使用します。
金融機関の担当者は必ずしも介護業界の言葉に詳しいわけではありません。

例えば「特定事業所加算」と聞くと、介護サービスに携わる方であれば容易に意味が分かります。
しかし、介護業界に詳しくない人からすると、何を指しているのかが分かりにくいでしょう。

事業計画書内で使用する言葉は、できるだけ一般的な言葉に置き換えたり、用語の意味を細くしたりしましょう。

算出した金額・数値の根拠を示す

融資を受ける際に特に注意すべき点は、算出した金額や数値の根拠を示すことです。
金融機関は収支計画を見る際に、算出されている金額や数値に根拠があるかどうかを確認します。

この場合の根拠となるのは、自治体や政府の出しているような客観的なデータを指します。

利用者数の予測については市場調査を行い、根拠となるデータなどを一緒に提示しましょう。
融資のためでなくとも、市場調査を行ったうえで、できるだけ正確に利用者数の予測を立てなければ、開業しても経営が破綻してしまいます。

また、実現性のある数値にしておくと、開業してから、事業所の経営がうまく進めているか、問題があるかといった経営判断の材料にもなります。
できるだけ正確な数値を出すために、公的機関の算出データなどを参照しましょう。

法令制度や運営・人員基準を満たす

居宅介護支援事業所の開業には、主任介護支援専門員を常駐で1名配置しなければいけません。
主任介護支援専門員は「介護支援専門員」であり、常駐勤務できるといった条件があります。

管理者(事業者)が資格を所有していれば、兼務は可能です。
事業計画書を作成する際には、法律上遵守しなければいけない基準について確認し、基準を満たしたものにしましょう。

居宅介護支援事業所の開業には人員基準のほかに設備基準も設けられています。
設備基準については、以下の記事で詳しく解説しています。

関連記事:居宅介護支援事業所を立ち上げるには?条件や立ち上げまでの流れを解説

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

介護事業に限らず、事業を開始する際に事業計画書を作成せずに開業するケースは少ないでしょう。一方で、融資を受けたいがために、楽観的すぎる事業計画書になってしまうケースもよく見聞きします。事業計画書の基本は「悲観的な数値」で設計することです。融資を受けたいために、少々オーバーな数値に設定したい気持ちはよくわかります。しかしながら、それで仮に融資を受けられたとしても、事業を軌道に乗せられなければ本末転倒ではないでしょうか。特に居宅の場合は、人件費率が76.9%と全介護サービス中トップの数値となっているため、採用人数と利用者数のバランスをとることが重要となってきます。
居宅経営のポイントは①特定事業所加算算定と、②大規模化です。①、②双方を見据えた事業計画を入念に作成することをお勧めいたします。

居宅介護支援事業所の開業時にはシステムの導入も検討しよう

居宅介護支援事業所を開業する際には、システムの導入を検討することがおすすめです。
厚生労働省では、介護業界のIT・ICT化を推進しており、今後もこの流れは変わらないでしょう。

開業時にシステムを導入すると開業資金がかかるため、敬遠される方もいます。
しかし、開業時にシステムを導入しておくと、後々の事業運営で大きなプラスとなるでしょう。

ここでは、開業時に居宅介護支援事業所向けシステムを導入するメリットについて紹介します。

開業時にシステムを導入するメリット

開業時にシステムを導入する一番のメリットは、新たに構築する業務へ、システムの運用プロセスを盛り込めることです。仮に、業務プロセスが確立されてからシステムを導入すると、プロセスの変更が必要だったたり、管理データを移行したりと多くの手間がかかります。

その点、初めからシステムありきで業務を構築すれば、最小限の改善でシステム運用できます。
そのほか、従業員への負担を軽減できたり、開業直後の忙しい時期に業務を効率化できたりと多くのメリットがあります。

これから居宅介護支援事業所を立ち上げようとお考えの方は、ぜひシステムの導入を検討してみてください。

ワイズマンの介護事業所向けシステムは開業向けも

ワイズマンでは、居宅介護支援事業所の業務を支援する以下のシステムも提供しています。

  • すぐろくケアマネ:情報の記録・参照・印刷をより手軽にする記録支援ソフト
  • ワイズマンシステムSP:事業所内のデータを一元管理する介護請求ソフト

すぐろくケアマネはその名の通り、ケアマネージャーの業務を支援するソフトです。
従来紙で行われていた情報の記録や参照を電子化。

タブレット一台でこれらを完結できるので、訪問先の利用者宅訪問でもスムーズに情報を入力・確認できます。

一方、ワイズマンシステムSPは、事業所内のあらゆるデータを管理・共有できるソフトです。
管理データを関係各所へ共有したり、煩雑な介護請求業務に活用できたりします。

なお、事業所の経営に関するデータも管理できるので、経営判断を下す際の判断材料として活用できるでしょう。

まとめ

居宅介護支援事業所を開業する際に必要な事業計画書について紹介しました。
さまざまな思いを持って、居宅介護支援事業所の開業に挑まれる方が多いでしょう。

その手助けとして、本記事が参考になれば幸いです。

開業後は、経営データを算出し、運営状況から事業計画書を変更していく必要が出てくるでしょう。
経営判断する際にも、システムを導入していれば、経営データを月次で確認できるなど、経営にも役立ちます。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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