【医療業界動向コラム】第123回 令和7年度の押さえておきたい医療政策のトレンド

2025.01.21

新型コロナ禍以降、初めての診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス報酬のトリプル改定が行われた令和6年は、勤務医の働き方改革も始まるなど、非常時から新しい平時への移行が進められた年となった。さらに緩やかではあるが、後発医薬品のある一部の長期収載品の選定療養の開始や令和7年の8月にも予定されている高額療養費の自己負担上限額の引き上げなど患者の受診行動にも変化を及ぼしながら、新しい平時の世界が創り上げられつつある途上にあるといえる。令和7年度の4つの重要な医療政策の動向について確認しておきたい。

①かかりつけ医機能報告制度

令和7年度より施行される。対象となるのは特定機能病院と歯科医療機関を除くすべての医療機関となる。初回の報告は、令和8年1-3月に医療機能情報提供制度と合わせて行うものとして、G-MISを利用して実施となる。以降、毎年1-3月に実施される。その上で、同年6月以降に医療情報ネット<ナビイ>を通じて地域住民に公表される。

かかりつけ医機能そのものの考えについてだが、「1号機能」と呼ばれる「継続的な医療を要する者に対する発生頻度が高い疾患に係る診療その他の日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能」を有する医療機関の有無について報告(図1)を求め、その1号機能に該当する医療機関が時間外対応や在宅医療などの「2号機能」の有無について報告することとなる。

図1_かかりつけ医機能報告制度の1号機について(※画像クリックで拡大表示)

なお、2号機能に関する協議の場は令和8年度に入ってすぐ行われる予定だ。令和9年度から開始される新たな地域医療構想では、外来・在宅・介護も含めた内容となっていることから、かかりつけ医機能報告における協議の場を活用し、地域の外来・在宅医療に関する検討をしていくこととなる。

②新たな地域医療構想と医師偏在対策総合パッケージ

令和9年度から始まる新たな地域医療構想のガイドラインの策定が行われる。これまでの病床機能報告での回復期の定義を見直すと共に、医療機関そのものの機能についての報告(医療機関機能報告、図2)も求められることとなり、地域における医療機関の役割の明確化が重要になる。

図2_医療機能報告(※画像クリックで拡大表示)

また、新たな地域医療構想では外来・在宅・介護も含めて検討することとなっており、医療資源が限られた地域における持続可能な医療提供体制の構築が重要なテーマとなっている。そこで、重点医師偏在対策支援区域(案)を設定した上で、先行して令和8年度から取組むことや外来医師過多区域(外来医師偏在指標が一定数値を超える区域で、二次医療圏に限らず市区町村単位や地区単位でも設定)を設定する。外来医師過多区域における新規開業希望者に対しては、開業6か月前に提供予定の医療機能等の届出を求め、当該届出の内容等を踏まえて、必要に応じて地域で不足している医療機能の提供や医師不足地域での医療の提供を要請することができるようにする予定となっている。令和6年度補正予算では、こうした医師偏在対策に関する項目がすでに盛り込まれている。

③医療DXの更なる推進

令和6年12月2日から、従来の紙・カード型の健康保険証と限度額適用認定証の新規発行が終了した。マイナ保険証による受診を進め、医療格差の解消や医師をはじめとする医療従事者の負担軽減を実現する。

令和7年からは、電子カルテに蓄積されている情報を患者の承諾の上で共有できる電子カルテ情報共有サービスの運用が開始される。生活習慣病管理料における療養計画書の交付等は、電子カルテ情報共有サービスの機能の一つである「患者サマリー」を利用することで不要となるなど負担軽減にもつながる。また、令和6年度診療報酬改定では処方箋料が8点の引下げとなったが、それは電子処方箋を前提として負担軽減されていることを踏まえた評価に既になっているともいえる。令和8年度診療報酬改定においても、医療DXを前提とした評価が増えてくることが容易に考えられる。

④高額療養費制度の見直し

持続可能な医療保険制度を構築するため、保険給付の範囲を見直す議論も行われている。令和7年は高額療養費の自己負担上限額及び所得区分の見直しが行われる予定だ。令和7年8月からの実施となる。

見直しの方向性としては、現行の所得区分をベースに所得の高い層ほど自己負担限度額の引上げ幅は大きく、平均的な収入を下回る層では引き上げ幅は小幅とする方針で検討している(図3)。

図3_高額療養費制度の見直し(※画像クリックで拡大表示)

70歳以上の外来特例についても見直す。自己負担上限額が引き上げられることで、高額な後発医薬品やバイオ後続品の使用促進にもつながることが期待される。

平時の状態に戻り、医療DXの環境が整備されていることを前提とした医療政策・制度がこれから始まっていこうとしている。令和7年はその準備を整える最後の年といえる1年になるだろう。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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