【介護業界動向コラム】第20回 VUCAの時代の介護経営「改定のその先を見据えた事業戦略の立て方②」

2024.03.25

※このコラムは2024年3月19日時点の情報をもとにしております。

2024年度の介護報酬改定(診療報酬も・・ですが)は「生産性向上」「DX改定」が際立つ改定でした。2024年2月度の連載記事では、生産性向上の考え方などを取り上げましたが、一方で正直な心の声として、「センサー」「ロボット」「ICT・IoT機器」などを活用した生産性の高い介護の意味合いと理屈は良くわかるけれど、うちには予算も無く、そういった取組に明るい人材も居ないから、導入にあまり現実感が無く行動に移しづらい、という意見がある事は全く不思議な事ではありません。実際に、少なからずそうした声は直接お伺いする事もあります。

 こうした場合、一足飛びに最先端の技術や取組に飛びついたり、トレース(模写)したりする事は、実際の所あまり好ましい結果に至らない事が多いでしょう。例えば、カップラーメンしか作った事がなかったにも関わらず、テレビをみて感化され一念発起して道具と材料を買い集め、急に妙に凝った料理を作り始めた挙句、上手くいかず結局道具や材料が埃を被って無駄になる・・・どこかで聞いたような話ですが(多分、私のことではありません)、こうした事象と同じような構造を持っているように思います。

つまりは、ステップバイステップで、実際に身近で日常に直結したところから始めないと、使いこなせるスキル/取組みになり難いという訳です。では、介護業界での日常に直結した変革とは何なのでしょうか?

FAXカルチャーをデジタル化することはできるのか

まず身近な最たるものとしては、介護業界のFAXカルチャーが挙げられるかも知れません。特に居宅系サービスの業界では、情報伝達手段としてのFAXは欠かせないツールの一つであり、電話と共にメインの連絡手段であるように思います。しかし、今日一般企業でFAXがメインツールの一つになっている業界はそれほど多くはないでしょう。

2023年からケアプランのデータ連携システムが導入されていますが、実績としても体感としてもあまり積極的に利用されている印象はありません。その理由の一つは、あまりにもFAXカルチャーの影響力が強く、仮に自社のみが先進的な取組みをしても、なかなか周りと足並みが揃わないので、FAX文化圏から抜け出す事ができず、結果的に実務が改善されにくい状況になってしまいます。

インターネットFAXからのスタート

 ではどうすれば良いのか?アナログツールのまま、デジタル処理、あるいは自動化処理をする試みはどうでしょうか?例えば、FAXはFAX受信機で紙に印刷処理をかける都合上、事務所でなければ受け取れず、性質上、転送も出来ません。

しかしながら、今日ではE-faxと呼ばれるインターネットサービスが比較的簡単に、かつ安価に利用できるようになっています。単純化して説明すると、FAXのデータをインターネット上で受取り、メール等で画像やPDFデータとして受け取るサービスです。

 メール受取ですから、外出中にスマートフォンで確認することも出来ますし、データとしてストックされますので、「あの3日前に受け取った〇〇事業所の提供票どこにいったかしら?」といったようなトラブルも起こりません。データ送信をする場合も、レセプトシステム→印刷→FAXという流れから、「印刷」のプロセスを削除することが出来ます。

 FAXをなくさず、しかし紙と確認・保管場所固定のジレンマからは脱することが出来るだけでも、かなり利便性は改善されるのではないでしょうか。

 本来はケアプランのデータ連携システムで、受信後に紙やPDFからデータ起こしをする・・という突合点検のプロセスもデジタル処理してしまいたい所ですが、現時点では世間のユーザ数が限定的であることから、全体の業務ボリュームからすると業務改善を抜本的にもたらすまでの影響力は持っていないのかも知れません。(勿論、潜在能力は秘めていますが)

まずは頻度の多い、身近で小さい取組みから

上記の内容は、あくまで分かり易い一例にすぎませんが、この他にも様々な実務上の対応の中で、薄々「このやり方は非効率だな・・」と感じつつ、介護はチームで進める以上自分だけが逸脱することも出来ずに、そのまま今までのやり方を踏襲せざるを得なくなっている取組みは皆さんの身の回りにも沢山あるのではないでしょうか。

こうした取組みも、今使っている道具は変えず、処理の一部をシステムで自動化させたり、人間系で処理しなくても良い仕組みに変えていくことは可能です。まずは頻度が多く身近な取組みで、自分自身や相手をそこまで大きく変化させずとも、結果が得られるものからスタートすることが生産性向上の第一歩です。

大日方 光明(おびなた みつあき)氏

株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事

介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。

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