【介護業界動向コラム】第17回 VUCAの時代の介護経営 「2023年度の情勢と2024年度以降の動向予測」

2023.12.25

VUCAの時代の介護経営も本年最後の連載となりました。1年間お読み頂きまして、誠にありがとうございます。次年度もどうぞよろしくお願い致します。

2023年度の情勢と2024年度の動向予測

2023年は社会情勢全体を見ても、介護事業経営の情勢を見ても正に激動の1年であったと言えるのではないでしょうか。特にアフターコロナの経済情勢の変化は介護事業経営にも大きく影響を与え、本連載でも扱ってきましたM&Aによる事業再編の流れが加速度的に進展したことや、事業の廃業や倒産件数が毎年最高値を更新し続けていることなどに代表されるように皆様も日々変化を実感されているところかと思います。

こうした傾向はほぼ確実に2024年度以降も加速化するものと想定されます。それは抜本的な公的保険制度の報酬単価向上が無い中で、物価高が進展し人件費も高騰すれば、必然的に事業収支は悪化せざるを得ないからです。また設備投資コストが高まり、介護報酬や保険外報酬では回収しにくい状況になりつつあることから、新規投資よりも一定の成果が出ている事業を統廃合する方が低リスクである事も、M&Aを加速化させていく一要因となります。

恐らく事業者は、事業のあり方を時代にあった在り方に変えるか、あるいはそれが自社では不可能なのであれば他社に委ねるか、事業を廃止するかといった選択をかなり具体的に考えなければならない状況に直面していかざるを得ないでしょう。

DX化やBPO等による業務の合理化が鍵に

また、介護報酬改定等において個々の個別具体的な改定内容が示されているかと思いますが、その中でも特に今後重要となってくる論点は、「採用力・定着率を高めるための人事制度・給与設計・組織体制などを整えている事」と、「業務量削減や負担軽減としての介護分野でのDX推進や、BPO(業務プロセスの外部化)、作業合理化といった生産性向上施策を積極的に講じられるか」といった「サービスを提供するための業務提供方法の組み立て」と言えるのではないでしょうか。

引き続き高齢者人口が増加していく状況下ではありますが、それ以上に生産年齢人口の減少や、介護分野への労働力流入の減少が改善しにくい状況となっています。これは都市部では事業所の急増に伴うスタッフ採用の競争激化といった意味での労働力不足として現れ、地方部では生産年齢人口の減少と労働者の高齢化としての労働力不足として現れてきているようです。

いずれにしても、事業者としては限られた人員体制の中であっても事業継続が可能な体制を構築しなければならないと考えられます。

先行する形で、これまで2018年、2021年、2024年の介護報酬改定においては、施設系サービスの夜勤配置緩和施策として「ICT機器の活用」施策が掲げられてきましたが、改定の都度、適用条件や適用範囲が拡大されてきていますし、導入事業所も増加しつつあります。当初は、「ロボットの介護、センサーの介護、AIのケアプラン」などは、夢物語で温もりが感じられない・・、といった意見も聞かれましたが、実際に導入が進むなかでは異なった意見も多くなってきています。

改めて業務提供の方法論を考え直さないといけない時期に来ていると言えるでしょう。

理念を再度問い直し、時代にあった在り方を考える

いま介護事業は、大きな時代の変化の渦の中にあると言えます。その中では、これまでに挙げたような「時代に即したサービス提供の方法」にシフトチェンジしなければならない部分も出てくるでしょう。人間は誰しもが変化を恐れる心を、少なからず、どこかに持っていますから、「やり方を変えないこと」を選択される方も少なくありません。

 ただその時に、一度振り返って頂きたいのは、「運営理念」や「ケアの方針」です。例えば、「利用者本位のケアを提供する、利用者の自立を支援する」といった理念を実現するためには、その時々にあった、その時々に出来る最良の方法論があるはずです。

今の方法論を継続しなければ、果たしてそれが実現できないのか?(例えば、記録をタブレットに変えた事でケアの質は下がるのか?)などを、今一度問い直して頂き、皆さんの事業所でお持ちの運営の理念を、今日的な方法論で実現するにはどうすればよいかという点を、スタッフの方々とも議論していただき、今一度自分たちのサービスを捉えなおして頂けると良いものと思います。

今回は、2023年を通した大きな市場の動きと2024年度以降の動向を確認しました。次回以降の連載では、未来を見据えた介護経営として、先進的な事例を確認していきたいと思います。

大日方 光明(おびなた みつあき)氏

株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事

介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。

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