【介護業界動向コラム】第21回 VUCAの時代の介護経営 「改定のその先を見据えた事業戦略の立て方③」
2024.04.30
※このコラムは2024年4月26日時点の情報をもとにしております。
2024年度の介護報酬改定における特徴的な項目から、先を読んだ戦略策定の必要性を確認しています。これまでLIFE、生産性向上等といったテーマを取り上げてきましたが、今回は「中重度対応・看取りの対応」についてみていきたいと思います。
施設サービスにおける協力医療機関の設定
まず、今回2024年の介護報酬改定と診療報酬改定双方の特徴的として、「協力医療機関」の設定とそれぞれの連携に伴う新設加算の設定が挙げられます。介護報酬側では、主に施設・居住系サービスに協力医療機関連携加算が設定されています。こちらは点数もさることながら、注目したいのは「協力医療機関」に求められる「機能の定義」が明示されたことです。具体的には、「1:入所者の病状急変時に医師又は看護師が相談対応を行う体制を常時確保していること。」「2:診療の求めがあった場合に、診療を行う体制を常時確保していること」そして、「3:病状急変時に医療機関の医師が診察を行い、入院が必要な場合に入院を原則として受け入れる体制を確保していること」とした3点です。加えて、このためには在宅医療を担う医療機関(在宅療養支援診療所・病院)や、在宅医療を支援する地域の医療機関(在宅医療後方支援病院)等が望ましい連携先とされたことです。
診療報酬側では、上記の「2:診療の求めがあった場合に診療を行う体制」を有して、必要に応じて往診を行ったケースを評価する「介護保険施設等連携往診加算」や、「3:入院必要性が生じた場合の受入れ」を行った場合の「協力対象施設入所者入院加算」といった点数が設けられています。
これらの点数が設計された背景には、慢性期医療を病床だけではなく「地域」で看る体制を構築し、中重度の状態になっても「ときどき入院、ほぼ在宅(入所)」という形で地域に密着した形での医療提供体制を強固にしていくことが挙げられます。
自立支援介護を通じた中重度対応体制の強化
施設側にはこれに加えて「自立支援介護」を促進する上での「運動機能」「口腔機能」「栄養マネジメント」を一体的に提供することが強く求められるようになった点も2024年の介護報酬改定の特徴です。自立支援介護には、これに加えて「水分摂取」や「排泄」等も重要な要素として掲げられておりますが、これらは「排泄支援加算」などで吸収されているとも考えられます。
こうした一連の「自立支援系」の取組みは、それぞれ計画、実践、評価、改善・・いわゆるPDCAサイクルに基づき、入院に至らないケア、ケアマネジメントを実現し、「ときどき入院、ほぼ在宅」の体制を構築することが期待されているとも言えます。
訪問系サービスにおける中重度対応体制
また、地域の訪問系サービスにおける中重度対応に向けた医療機能の評価についても幾つかの特徴的な改定事項がありました。例えば、訪問介護では「特定事業所加算(Ⅰ)および(Ⅲ)」の重度者対応要件に、「看取り対応」が選択要件に加わり、年間1件以上の看取り対応をすることと、その上で訪問看護ステーションとの24時間対応における連携が求められている事項などがその一つです。
また、訪問看護ステーション側は、24時間対応の負担軽減の観点から、看護師以外の職種がオンコール待機することが可能とする規制緩和や、看護師の夜間対応負担を軽減した場合の追加評価などが加わった事も特徴的です。
俯瞰的にこれらの事象を捉えると、在宅での中重度者を支えるための「持続可能な枠組み」を構築するため、一部では規制の緩和、一部では新たな加算による評価により、地域で中重度者を支えられる仕組みを作るため、訪問系サービスに構造の変化を促しているとも言えるでしょう。
特に訪問介護については、要介護1,2については総合事業への移行も長らく議論されている事から、将来的には「中重度対応を訪問看護と共に実施していく身体介護中心タイプ」と、「総合事業の枠組みの中で生活援助中心のタイプ」に枝分かれしていく可能性が高いと推測できます。
以上のように見てきましたが、ポイントとしては、地域での中重度者の生活やターミナル期を支えられるように大きく制度全体が変化しつつあり、いくつかの加算はその流れを補足・補完するために設計されたものであるとも言えそうです。
短期的にそれらの加算が取れる・取れない・・という議論だけではなく、中長期的に見た場合に、皆さんが実施している事業が、どのような方向性に向かい、そのための準備ができているのか?という視点を持って頂けると良いのではないでしょうか。
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。