【名南経営の人事労務コラム】第32回 年次有給休暇の管理方法

2023.10.26

 2019年4月から年次有給休暇の5日間の取得義務化となった労働基準法改正。この労働基準法改正によって多くの事業所では、職員に対して年次有給休暇の取得を奨励するように梶を切り(舵を切り)、実際に労働基準法違反とならないように管理をしています。それは、多くの事業所において、「うちの施設では年次有給休暇の取得率が○○%です」と求人用にPRしているところが増えていることが証左しているでしょう。

 ところが、労務管理の実務面に目を向けると年次有給休暇の管理が大変といった声が少なくないのが実態で、その管理に相当な工数が割かれていることもあります。こうした管理が大変といった声がでる背景には、労働基準法改正において、年次有給休暇の管理簿を作成し、3年間の保存義務が課せられたことが要因の1つに挙げられます(※1)。事実、この年次有給休暇の管理簿が存在しないことを理由に労働基準監督署から是正指導を受けた事業所は全国各地で散見されており、労務管理の手間が1つ追加で増えているのが実態です。

 もっとも、こうした管理は、最近の勤怠システムではシステム内で簡易的にできるようになっていますが、従前から紙による勤怠管理を行っているケースではその管理に大きな手間が発生しています。

 これらの一連の管理の複雑化の背景には、医療福祉業界においては、中途採用によって人材を確保する方法が主流であって、大企業が4月1日に一斉に人材を採用する方法ではないことにあります。従って、大企業であれば、従業員全員に対して一律で4月1日起算日として管理をすることができても、医療福祉業界では、職員ごとに入職日がそれぞれ異なり、その結果、年次有給休暇の付与日も入職日から6ヵ月目が異なることになります。このような方法を是正するために、職員の年次有給休暇の付与日を4月1日に一斉に整える事業所もありますが、多くの場合はその検討段階で、前倒して付与したもののすぐに年次有給休暇を取得して退職されては困るということを理由に導入に至っていません。そもそも、労働基準法では、入職時から6ヵ月経過した時点で10労働日、その後1年経過後に11日、更に1年経過後に12日付与等といったように付与しなければならず、運用方法によってはそれに違反してしまうこともあるため、4月1日一斉付与という方法を断念してしまうのです。

 結局、従来と変わらずに職員個人毎に年次有給休暇の付与日が異なる方法に管理することになりますが、前述した4月1日に年1回の付与日という方法を入職日によって4月1日または10月1日に付与するという方法によって付与の歪さを多少是正できることもあります。また、それでもケースによっての歪さを感じるのであれば、1ヵ月間の途中に入職した場合でも1日に入職したものとしてみなして付与すれば、12ヵ月間ありますので12パターンの付与方法で済み、公平性は保たれます。

 いずれにせよ、どのような方法であれ年次有給休暇の管理に余計な工数を掛けない方が業務効率性という観点から望ましく、可能な限り簡素化した方法で行っておきたいものです。

(出典/厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」)

https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf

服部 英治氏

社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー

株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士

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