【名南経営の人事労務コラム】第27回 高齢者雇用の注意点

2023.08.10

 人手不足を背景に福祉業界においては、高齢者を雇用することが一般的であり現場においては、大きな戦力となっています。社会人経験が豊富であることによって冷静かつ落ち着いた対応をされる方も少なくなく、今や高齢者の活用なくして現場業務が回らないといった施設が大半ではないでしょうか。

 人生100年時代といわれる中で、働く高齢者にとっても働くこと自体が生き甲斐にもなり、80歳前後まで働く職員を抱える施設は少なくありませんが、雇用管理という点では様々な点に注意を払う必要があります。

 まず第一に、体力面の管理等をどうするかという点は高齢者雇用においては極めて重要です。自分はいつまでも働くことができると本人が考えていても、ちょっとした段差で躓いて怪我をしたりといった労働災害は若年層と比しても発生割合が高くなることは誰もが知るところです。それに付随して、腰痛が酷くなって働くことができなくなるというケースもあり、中にはその腰痛は仕事が原因で労働災害によるものだということでトラブルになることもあります。高齢者の腰痛が労働災害に該当するかどうかという点については、加齢による要素が高いことから現実的には認められる可能性は低いものですが、働くことによって〇〇が痛いとか、○○によって働くことができなくなったといった声が出ることは管理する側としてはつらいものです。

 また、体力という点では反射神経についても同様であり、その反射神経が弱くなって送迎車両において事故を発生させたというようなケースも散見されます。そのような場合、何歳まで送迎用の車両を運転してもらうのかという基準は通常定めていませんので、人手不足も相俟って、いつまでも高齢の職員に送迎業務を頼らざるをえない状態が続くことになります。その状況で、大事故を発生させてしまうと世間から一気に非難されることもあり、雇用契約管理においてはその更新時に「○○ができること」等といった体力面の基準を定めておくことが効果的です。

 次に、働いてもらう上限年齢をどうするかという問題の検討も必要です。しっかりと働いてくれる高齢者が多いため、施設側もそれに甘えてしまうことがありますが、先の運転業務では例えば75歳までといったようなルール設定をしておくことも視野にいれて運用しなければ、雇用契約の終了のタイミングがわからずに中途半端な活用となってしまうことがあります。むろん、体力面については個人差が大きいため、雇用の上限年齢を定めなくても、雇用契約の更新基準を具体的かつ厳密に運用できれば体力面の低下が著しくなければいつまででも働き続けることができるといった運用もできますが、働く職員の心の準備等といったこともありますので、上限年齢といった目安はあった方がよいかもしれません。

 そして、生産性の問題も高齢者雇用においては必然的に発生します。高齢者雇用の多くは時間給で賃金を支給されている傾向がありますが、65歳時点では「100」できていたことが加齢によってパフォーマンスが「50」となった場合、賃金をどうするのかという問題が生じます。賃金を引き下げるのであれば、どの程度またどのように引き下げるのかという問題もありますし、本人が同意しない可能性も当然考えられます。もちろん、パフォーマンスと賃金を具体的に結び付ける賃金体系の整備が整えば運用がしやすくなるかもしれませんが、現実的には「○○ができる場合には1週間に○日以上勤務可」といったような雇用契約更新時に勤務できる日数や時間を調整していきながらパフォーマンス低下と勤務とのバランスを整えていくことがよいのではないかと思います。

服部 英治氏

社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー

株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士

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