【名南経営の人事労務コラム】第26回 管理監督者とは何か

2023.07.27

 「私は○○(役職者)だから残業代は出ないんです」「管理職は大変ですね」そんな会話を聞くことが少なくありません。こうした会話の多くは、組織内の管理職は残業代が出ないので、長時間労働が恒常的に行われたとしても、基本給や一定の固定的に支給される手当のみで賃金額が増えない、ということを意味しています。

 実際、大企業をみても課長職以上は残業代が支給されない、という企業は数多存在しており、福祉施設においても一定の職位以上は同様に扱っているものの、法人によってその線引きが施設長以上であったり統括主任以上であったりと様々です。中には主任以上を管理職として定めて残業代を支給していないケースもありますが、慢性的な長時間労働によって精神または身体の不調をもたらしてしまうこともあることから、その取扱いについて慎重かつ厳格に捉えなければなりません。特に残業代の支給有無は、生活にも直結することであり、後から管理職を理由に残業代が支給されなかったということで未払い残業代の請求を受けるケースもあることから注意しなければなりません。

 そもそも管理職とは、企業等の組織内において部下管理や組織運営を担う立場の人を指しますが、その管理職すべてが残業代支払いの対象外というわけではありませんし、事業所ごとに勝手に○○職以上は管理職であると決めているだけであることが一般的です。労働基準法第41条2号においては、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」は労働時間に関するルールを適用除外するという定めとなっていますので、これを拡大解釈して管理職全体に適用させようとしていると考えられます。つまり、法律でいう「監督若しくは管理の地位にある者」は管理監督者といわれ、企業内の職位上の管理職とは同義ではないということになりますので、職位等によっては管理監督者ではなくいわゆる「名ばかり管理職」となることがあります。

 労働基準法上における管理監督者とは、基本的に①「職務内容、責任と権限」についての判断要素、②「勤務態様」についての判断要素、③「賃金等の待遇」についての判断要素の3点を軸に総合的に判断することになりますが(厚生労働省 基発第 0909001号・平成 20 年9月9日)、職位ではなく実態が重視されます。具体的には、①は人事権を中心に相応の権限が付与されていることが求められ、経営者と一体となって決定できる立場であることが判断の重要な要素となりますので、単に「採用をした方がよい」「辞めてもらった方がよいのではないか」といった内部で上司に進言するだけでは要素としては弱くなります。②については、厳格な管理が求められない立場であることから、遅刻をしたら注意や指導をされるといったようなことであれば、判断材料としては必然的に弱くなります。③の処遇面は、一般企業でよく言われるような係長であった者が課長になって残業代が支給されなくなったことで年収が下がった、といったようなことは確実に否定される要素となりますので、少なくとも残業代以上の役職手当が毎月支給されているような状況は必要です。

そう考えると、労働基準法上の管理監督者というのは、組織内においても相当少ない人数となることが一般的です。  もっとも、こうした管理監督者問題を考えるケースの多くは、長時間労働といった背景を抱えていることが少なくありませんので、職場全体で時短が促進されれば、職場内で大問題になることはないように思います。

服部 英治氏

社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー

株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士

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