【名南経営の人事労務コラム】第6回 腰痛は労災適用となるのか

2022.09.22

医療福祉業界では、事業所数の増加のみならず従事する職員もそれに伴って増加していることもあり、産業全体で労働災害(以下「労災」といいます。)の発生件数が年々増加傾向にあります。働く職員の年齢層も高齢化している事業所も少なくないことも影響している可能性がありますが、転倒事故や無理な動作による負傷は、どの事業所においても発生し得る事故で、労働基準監督署も労災対策に向けて様々な啓発活動を行っています。

そうした労災において、多くの事業所が頭を抱えるのが職員の腰痛です。中には、入職して間もない職員が業務を理由に腰痛となり、就労することができないことで労災の申請を希望して出勤をしなくなったといったケースもあり、現場の職員を見渡しても腰痛を抱える職員が少なからず存在するのが実態です。そして、それぞれの職員が「これは労災だ」といったような会話も現場の中では見聞きされ、負い目を感じる管理職も多いものと推察されます。

このような腰痛の労災適用にあたっては、厚生労働省から厳格な基準が定められており、「腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること」「腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往歴・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること」のどちらも満たすこと『災害性の原因による腰痛』として、また、「突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取扱う仕事など腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者が発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの」も『災害性の原因によらない腰痛』として、認めています。

具体的には、ギックリ腰のような急激な作用等により腰部を痛めたような場合には、前者の災害性の原因による腰痛として、重量物を扱う仕事を相当期間従事してきたことで後者の『災害性の原因によらない腰痛』として考えることができます。

従って、ギックリ腰のような突発性による場合は、直接的な原因が明確であるためその腰痛についての労災適用は比較的スムーズに認められやすい傾向がありますが、重量物を扱う仕事を相当期間にわたって扱っている場合には、それらの期間や因果関係を証明していく必要があることから、現実的にはなかなか適当されないというのが実態です。というのも、誰しもが高齢化により骨や筋肉が弱くなっていきますので、加齢が原因として扱われやすく、同職種の人と比してどうなのか等といった様々な角度からの検証が行われることがありますので、必ずしもすべての腰痛が労災適用とはならないということになります。

最近は、介護業務において腰部への負荷軽減のための様々な対策が施され、多くの事業所がリフトをはじめとした物理的な対策を講じたり、一人介助の禁止徹底、更には頻度高く職員向けに研修を行ったりしていますが、こうした取り組みを行うことによって、働く職員の安心感も高まることは間違いなく、腰痛の程度も抑制させることもできるものと思います。

社会福祉施設における「動作の反動・無理な動作」
(出典/厚生労働省)
腰痛の労災認定要件
(出典/厚生労働省)

服部 英治氏

社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー

株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士

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