医療ICTの問題点|解決すべき課題や成功させるポイントを解説

2024.12.23

医療ICTは、医療業界が抱えるさまざまな問題を解消するうえで有効的な施策です。
厚生労働省も医療ICTを積極的に推進しており、ICT化に成功する医療機関も増えてきました。

一方で、医療ICTを導入していない医療機関も多くあります。
医療ICTにはさまざまな問題点があり、導入する際にあらかじめ対策を講じなければなりません。

本記事では医療ICTの問題点について解説します。

解決すべき課題に加え、成功するためのポイントについても説明するので、ぜひ参考にしてください。

医療ICTとは

まずは、医療ICTの概要について解説します。
医療ICTを導入する前に、定義やメリットを把握しましょう。

ICTとITの違い

ICTはITと混同されやすいですが、それぞれ意味が異なる点に注意しましょう。

ITは「Information Technology」の略であり、「情報技術」を意味する用語です。
一方のICTは「Information and Communication Technology」の略称で、「情報通信技術」を意味します。

ITはパソコン・ソフトウェア・ネットワークなど、情報に関するさまざまな技術が該当しますが、ICTは情報通信に関する技術に対して用いられます。
ICTはITのなかでも情報通信に関連する技術を指す点が特徴です。

医療ICTの必要性

医療ICTの必要性は年々高まっています。
近年、日本では高齢者の増加によって医療ニーズが高まりました。

しかし、少子化が深刻になったことにより、日本では医療業界の人手不足が深刻化しています。
そのため、医療ニーズの高まりに対し、医師や看護師の不足によって医療の提供ができなくなる状況が懸念されるようになりました。

さらに、人手不足はスタッフの業務負担の増加や、医療の偏在を招くなど、さまざまな問題の原因になります。
医療業界の問題を解決するうえでも、昨今は医療ICTの導入が求められるようになりました。

医療ICTを推進すれば、業務を効率化し、質の良い医療サービスを提供できる体制を構築する効果が期待できます。
現在進行形で高まる医療ニーズに対応するためにも、近年は厚生労働省も医療ICTの導入を積極的に後押しています。

今後も、医療ICTは重要な課題として扱われるでしょう。

参照:健康・医療・介護分野におけるICT化の推進について|厚生労働省

   今後の医師偏在対策について|厚生労働省

   日本の医療費と医療を正しく理解するために|日本臨床外科学会

医療ICTのメリット

医療ICTには以下のようなメリットが期待できます。

  • 業務効率化の実現
  • 医療コストの削減
  • 最適な医療サービスの提供
  • 医療格差の解消
  • 新しい治療方法・新薬の開発
  • BCP対策

医療ICTは電子化によって業務を効率化するだけでなく、遠隔医療やオンライン診療などの実現にも役立つ施策です。
昨今では医療の偏在の解消や、離島のような遠方への医療の提供などにも、ICTが活用されるようになりました。

また、医療ICTは膨大な患者のデータを集約できるため、新しい治療方法や新薬の開発にも役立てられます。
医療がさらに発展するうえでも、医療ICTの導入は非常に効果的です。

医療ICTの現状

医療ICTは普及こそ進んでいますが、その普及率はまだ不十分です。
以下の資料を見てみましょう。

出典:医療分野の情報化の推進について|厚生労働省

診療報酬の改定や補助金の新設など、厚生労働省も積極的に後押ししていますが、電子カルテやオーダリングシステムの普及率はまだ十分ではありません。
特に規模が小さい一般診療所は、令和2年時点でまだ半数が電子カルテを導入していないなど、ICTの普及率が低いことがわかります。

医療ICTが十分に普及していない背景には、医療機関が抱えるさまざまな課題があります。
医療ICTを導入するなら、自院が抱える課題を把握し、適切にアプローチしなければなりません。

【問題点】医療ICTの8つの課題

医療ICTが抱える課題には、以下の8つがあります。

  • 導入コストの負担が大きい
  • 費用対効果が得られないリスクがある
  • スタッフのITリテラシーが不足している
  • 規制や制度の整備が追いついていない
  • 対面のコミュニケーションが不足する
  • セキュリティ対策が必須になる
  • エラー時の対応を検討しなければならない
  • 医療格差が拡大する

いずれの課題も、医療ICTの導入を妨げる問題点と認識されるものです。
それぞれの課題について、順番に解説します。

導入コストの負担が大きい

医療ICTの推進において、導入コストの負担が大きい点は無視できません。

電子カルテ・オンライン診療システム・請求システムなど、ソフトウェアだけでも導入すべきものは多くあります。
ICT化が進んでいない医療機関であれば、パソコン・タブレット・スマートフォンのようなハードウェアの導入も不可欠です。

ネットワークの整備も含めると、ICT化にはかなりの導入コストがかかります。
さらに運用や保守に伴うランニングコストも踏まえると、十分な収益がなければICTの導入・維持だけで経営状況が悪化するリスクも懸念されます。

そのため、中小規模の病院やクリニックだと、コストの負担が大きいあまり、ICTを見送るケースは少なくありません。

費用対効果が得られないリスクがある

ICTを実践したからとはいえ、確実に費用対効果が得られるとは限りません。

確かにICTを実践すれば、質の高い医療サービスを提供できる体制を構築できます。
しかし、どれだけ優れた設備を導入していても、確実に患者が増える保証はありません。

ただでさえICTは導入コストがかかるため、医療機関としても収益が上がる保証がなければ躊躇するでしょう。
加えて、診療報酬改定などによって収益が減少する事態になれば、ICT化を進めてもコストを回収できなくなる恐れもあります。

スタッフのITリテラシーが不足している

紙媒体を利用しているようなアナログな体制を取っている医療機関だと、スタッフのITリテラシーが不足しているケースは珍しくありません。

スタッフのITリテラシーが低い状態だと、優れたツールを導入しても使いこなせないため、ICT化の妨げになります。
医療ICTをスムーズに推進するうえで、スタッフのITリテラシーの向上は必須です。

加えて、スタッフのITリテラシーが導入したいツールに見合っているかは、必ず確認しましょう。
必要があれば、ITリテラシーを向上させる研修を行うなど、スタッフの教育を優先しなければなりません。

規制や制度の整備が追いついていない

医療ICTは国全体で推進されていますが、規制や制度の整備が追いついていないのが現状です。

2025年に開始される電子カルテ情報共有サービスなど、国はICTを活用した施策を積極的に実践しています。
しかし、蓄積された患者のデータの扱い方や、セキュリティ対策などにおける法制度の整備は進んでおらず、依然として遅れている状況です。

また、医療過誤への対応も不明瞭であるなど、法整備が行き届いていないために医療機関がICT化に足踏みするケースも少なくありません。

対面のコミュニケーションが不足する

医療ICTはオンライン診療や遠隔医療を実現する一方、運用を誤ると対面のコミュニケーションが不足するリスクがあります。

オンライン診療や遠隔医療は患者の通院負担を減らせるなど、メリットが多いものです。
しかし、対面での診察のニーズは依然としてあるため、オンライン診療に固執するとかえって患者の反発を招く恐れもあります。

そのため、医療機関の多くは、オンライン診療や遠隔医療を対面での診断を織り交ぜながら実施しています。
特に初診の患者や、診断が難しい症状の患者は、対面で診療するケースが一般的です。

セキュリティ対策が必須になる

ICTによる電子化は、外部からの不正アクセスやサイバー攻撃のリスクを高めるため、セキュリティ対策が必須です。
特に電子カルテやオンライン診療システムは、サイバー攻撃を受けると個人情報の流出や業務の停止を招く恐れがあります。

昨今は日本だけでなく、世界各国で医療機関がランサムウェアなどの攻撃を受けるケースが増加しています。
なかには患者の情報にアクセスできなくなったり、治療に必要なシステムが停止したりしたケースも少なくありません。

医療サービスが提供できない状態に陥れば、患者の信頼を失う事態になりかねません。
セキュリティ対策は医療機関の信頼を守るうえでも、不可欠な取り組みです。

エラー時の対応を検討しなければならない

エラー時の対応を検討しなければならないのも、医療ICTの重要な課題です。
サイバー攻撃や災害などで院内のシステムが停止すると、治療が継続できない事態に陥ります。

もちろん、ネットワーク機器の不調で通信障害が発生し、システムが使用できなくなる事態にも注意が必要です。
医療ICTに取り組む際は、あらかじめエラーを見据えた対策を講じましょう。

エラー時の対応を明記した規程を策定したり、重要なシステムはオフラインでも稼働する状態にしたりするなど、対策を講じるだけでも緊急事態への対応がスムーズになります。

医療格差が拡大する

医療ICTがかえって医療格差を拡大させるリスクがある点にも注意しましょう。

ICT化の程度は医療機関によって差があります。
医療機関によっては、まったく医療ICTに着手していないケースも少なくありません。

先述した資料のように、医療ICTは規模が大きい医療機関では普及が進んでいるものの、規模が小さいところでは普及率がまだ低い状況です。
当然、医療ICTを導入した医療機関とそうでないところでは、提供できる医療サービスに差が生じるリスクがあります。

医療ICTを成功させる6つのポイント

医療ICTを成功させるなら、以下の6つのポイントを意識しましょう。

  • 課題と目的を整理する
  • 補助金を活用する
  • ITに対応できる人材を確保する
  • 運用体制を構築する
  • セキュリティ対策を徹底する
  • 専門家のアドバイスを得る

いずれも医療ICTの成功につながる重要なポイントです。
医療ICTに取り組む際に、必ずチェックしましょう。

課題と目的を整理する

医療ICTを実践するなら、まずは課題と目的を整理しましょう。

闇雲にツールを導入しても医療ICTは成功しません。
ただ電子化をするだけのためにツールを導入しても適切な運用ができないうえに、かえって持て余す結果になります。

医療ICTを実践するなら、まずは院内の課題を整理し、導入する目的を明確化しましょう。

「〇〇の業務を効率化したい」「残業の原因になっている〇〇にかかる時間を減らしたい」など、目的を決定すると実施すべき施策が明確になります。
また、必要な施策を絞り込めば、無駄なツールを導入する必要がなくなり、導入コストの抑制にもつながります。

補助金を活用する

医療ICTの推進で導入コストを抑えるなら、補助金を積極的に活用しましょう。

近年は医療情報化支援基金やIT導入補助金のように、医療ICTで活用できる補助金が設けられています。
いずれの補助金も導入コストの負担を軽減するうえで役立つものです。

しかし、補助金は支給額や要件が異なっており、申請する際はあらかじめ確認する必要があります。
また、公募期間が限られていたり、審査を受けなければならない補助金もあったりするので、スムーズに取得できるように十分に準備しましょう。

ITに対応できる人材を確保する

スムーズに医療ICTを推進するうえで、ITに対応できる人材は欠かせません。
ただツールを操作できるだけでなく、システムの運用やサイバーセキュリティの知識が豊富な人材を確保できれば、医療ICTの効果を高められます。

しかし、人手不足の昨今、ITに対応できる人材の確保には時間がかかる可能性があります。
ただ外部に人材を求めるだけでなく、研修などを通じてスタッフを教育することも不可欠です。

なお、医療ICTの支援をする事業者には、スタッフ向けに講習会や研修を実施してくれる場合もあります。
その際は積極的に活用し、スタッフのITリテラシーを強化しましょう。

運用体制を構築する

医療ICTを成功させるなら、運用体制の構築も重要な取り組みです。

導入したツールを適切に運用するなら、院内の各部門が緊密に連携し、それぞれの業務がスムーズに進行できるようにマネジメントできる運用体制は不可欠です。
運用体制が構築されていれば、エラーが発生しても対応しやすくなります。

また、運用体制の構築と並行して、ツールのマニュアルや運用に関する各種規程なども整備しましょう。

ツールの利用方法やエラー時の対応がスタッフに共有されていれば、何らかの原因でシステムが停止しても、業務の停滞を回避できるうえに、スムーズな復旧が実現します。
運用体制の構築は、結果的に医療サービスの質の維持にもつながります。

セキュリティ対策を徹底する

ICT化を進めるなら、セキュリティ対策はマストです。

セキュリティソフトを導入したり、データの運用に関するルールを制定したりするなど、医療提供機能を守るためにも不正アクセスやサイバー攻撃への対策は欠かせません。
さらに、通信障害や不正アクセスに備えてネットワーク分離などを実施すれば、より安全な環境を構築できます。

なお、ネットワーク機器などを購入する際は、セキュリティが万全なものを選びましょう。
粗悪なVPN機器などを利用すると不正アクセスの足がかりにされるリスクがあります。

セキュリティ対策は、ただソフトやネットワーク分離などを導入するだけではありません。
パスワードの設定方法やデータの持ち出しのルールを変えるだけでも、個人情報の漏洩を防止できます。

専門家のアドバイスを得る

経験が少ない医療機関だと、ICT化が難しい場合があります。
その際は、外部の専門家のアドバイスを得ましょう。

近年は医療ICTをサポートしてくれる企業が増えており、スムーズなICT化を実現してくれます。
特に、弊社ワイズマンは多くの医療機関や介護施設のICT化を支援した実績があります。

優れたツールを提供できるうえに、経験豊富なスタッフがサポートしてくれるため、経験が少ない医療機関でも安心して医療ICTに着手できます。
医療ICTに取り組む際は、ぜひ弊社ワイズマンにご相談ください。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

超高齢化社会を迎える日本では、社会保障費は年々増大の一途を辿っています。更に少子化も相まって人口も減少し続けています。生産人口が減少しているにも関わらず(高齢者が増加するため)、医療や介護、年金といった社会保障費はどんどん増えてしまっているのが現状です。国が躍起になって社会保障費を抑制しようとするのも当然といえるでしょう。様々な社会保障費抑制策がとられていますが、こうした動きに対して、医療・介護経営のトレンドは『大規模化』です。経営母体の規模が大きい方が、人材確保の面でも業務効率化の面でも優位に働きます。ICT化に要する費用も大規模法人の方が工面しやすいのは想像に難くないでしょう。シビアに言ってしまえば、小規模事業者は規模を拡大していかない限り生き残れない時代になろうとしているのです。

医療ICTの問題点を把握し適切な対策を講じよう

医療ICTは多くのメリットを得られる取り組みです。

一方で、医療ICTの推進には、さまざまな問題点がある点には注意しなければなりません。
導入コストやセキュリティ対策などの課題を解決できなければ、医療ICTが失敗するリスクが高まります。

医療ICTに取り組む際は、それぞれの問題点を把握し、適切な対策を講じましょう。

自院だけで対策を講じることが難しければ、外部の専門家のサポートを受けることがおすすめです。
もし医療ICTに取り組む際は、弊社ワイズマンのサポートをご検討ください。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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