2022.11.04
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【斉藤正行のはなまる介護】「要介護1と2の保険外し。訪問介護と通所介護の法改正のゆくえ」

改正介護保険法案の年内中の取りまとめに向け、社会保障審議会介護保険部会の場における議論がいよいよ本格化しています。9月31日に「給付と負担について」をテーマとし2度目の議論が行われました。中でも介護業界で最も強い危機感とともに関心を寄せられている「要介護1と2の介護保険外し」について、今後の議論のゆくえとポイントについて解説します。

このテーマは遡ること7年前、2015年10月の財政制度等審議会財政制度分科会の場において財務省より提言が行われことに端を発しています。以後、定期的に形を変えながら財務省からは同様の意見提言が繰り返されており、今年の4月13日の同分科会の場で、改めて「要介護1と2の方の訪問介護及び通所介護を総合事業へと移管する」提言が行われました。

今後の人口構造を鑑みると、財政再建を進めることは重要であり、我々介護事業者も制度改革に協力し、現場の相違工夫や生産性の向上が必要であることは間違いありません。しかしながら、この要介護1と2の方を総合事業に移管することについては、現行の総合事業の枠組みのままでは、絶対に阻止しなければなりません。先行して総合事業へと移管された要支援1と2の状況を見れば明らかであり、市町村の裁量によってルールが見直しされていますが、基準緩和が行われることなく、単純に報酬が2割や3割削減されるケースが散見されており、それ以上の厳しい削減幅の自治体も存在しています。この状況が、要介護1と2にも及ぶとなれば、訪問介護及び通所介護の利用者の6割~7割は要介護1と2の方で占められているため、間違いなく大半の事業者は事業継続が困難な状況となり、数多くの介護難民が生じ、地域包括ケアモデルの崩壊へと繋がることとなります。

それでは、この厳しい制度改正のゆくえがどうなってくのかを予測すると、流石に厚生労働省を始めとして関係者の多くが、現状のままでは非現実的であると受けとめており、早急に、次期法改正で実現する可能性は極めて低いと思いますので、その点は安心してもらって大丈夫だと思います。唯一短期的な議論が加速する可能性があることは「訪問介護の生活援助」に関する点です。場合によっては最悪、生活援助のみの総合事業への移管の可能性は残されています。もしくは、今回の法改正では見送られたとしても、年明けから議論される報酬改定の議論の場で大幅なマイナス改定の議論が行われる可能性は秘めています。今後の議論の注目すべきポイントの1つであります。

最後に、私から中長期の将来にわたってこの議論が継続されるであろうことを考えた場合に必要な視点をお伝えしたいと思います。仮に要介護1と2の方の総合事業への移管を検討するのであれば、市区町村に全面的に枠組みを委ねるのではなく、国が一定の人員基準や設備基準等の要件緩和の方向性を示し、単なる報酬削減だけではなく、事業者のコスト削減も同時に実現し、利益確保の道を示すことが必須であると考えます。その際に重要なことは、利用者のサービス品質低下につながらないこと。そしてもう1つは、総合事業の枠組みだけでの制度設計ではなく、介護保険制度との一体運用に基づく要件緩和の検討が必要であります。総合事業のみ要件緩和が実現されても、それは新たに総合事業だけを取組む事業者への選択肢が広がることとなりますが、現行事業者は要介護3以上の方に対する介護保険制度との併用となることから、同時一体的な運用での要件緩和が必須となります。

いずれにせよ、年末の決着に向けて、いよいよ議論は終盤を迎えています。今後の議論の先行きを注目していかなければなりません。

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

  • 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
  • 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
  • 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
  • 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
  • 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
  • その他、介護関連企業・団体の要職を歴任
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