【名南経営の人事労務コラム】第15回 年次有給休暇の運用注意点
2023.02.09
年次有給休暇とは、労働基準法第39条において定められている労働者の権利として定められており、雇入れの日から6ヵ月間継続勤務し、かつその期間において8割以上の出勤率であった従業員に10労働日付与される制度です。その後、継続した勤続年数に応じて1日または2日加算された日数が付与され、最大20労働日が付与されることになります。年次有給休暇の取得にあたっての請求権時効が2年間ですので、長期勤続者については前年度分も含めると最大で40労働日が権利として付与されることになりますが、2019年4月から働き方改革の一環によって1年間に5日間の取得義務が求められるようになりましたので、実務上では、最大で15日間が翌年度へ持ち越すことになり、法定付与日数分のみで最大40労働日ということはありません。
このように労働者の権利として付与される年次有給休暇は、心身の疲労回復という制度の目的がありますが、福祉業界においては人手不足という背景もあり、年次有給休暇を取得しようにもなかなか取得ができないというケースも散見されます。中には年間5日間の取得義務日ですら取得することができないという法人も散見されますが、これは労働基準法第39条第7項違反として、労働基準監督署から指導対象となりますので注意しなければなりません(労働基準法第120条)。この5日間の取得義務日が確実に取得されているか否かを確認する証左として、2019年4月からは年次有給休暇の管理簿を作成して3年間保存をすることが求められており、最近の労働基準監督署による定期調査においては、運用実態を確認される傾向にあります。その際、人手不足を理由に5日間の取得義務が果たせていないということは認められず、管理面において誤魔化しや不正がみられれば書類送検等のペナルティを受けることになりますので、確実に管理簿の整備とともに取り組んでおきたいところです。
また、人手不足であるが故になかなか年次有給休暇が取得できずに退職時にまとめて残日数分を取得するというケースは多くの法人で見られます。その際に更に人手不足に拍車がかかるということで中にはその取得を認めなかったり、無理に出勤をさせたりするケースも見聞きしますが、これも労働者の権利を阻害する違法行為と捉えられることがありますので、注意をしなければなりません。確かに、人手不足の中で退職時にまとめて残日数分を消化されれば現場業務が回らないという法人側の気持ちはわからないでもありませんが、常日頃から計画的に取得できるような運用にすることが必要です。例えば、2ヵ月に1日は確実に取得をしてもらい、更には3ヵ月に1回は休日を含めて3連休を取得してもらうといったような運用をしていれば、勤務シフトも計画的に組むことができ、更には残日数が増えすぎて退職時にまとめて消化をするということが少なくなる可能性があります。また、定期的に取得がされていれば、心身のリフレッシュが保てやすくなりますので、従業員の定着率の向上にも寄与できる可能性もあります。
いずれにしても、年次有給休暇の運用については、かつてのような取得ができない、取得させない、というのではなく、計画的にでも取得をしてもらってこそ従業員が安心して働くことができ、定着率という点にも繋がることがありますので、そのような運用を目指してもらいたいところです。
※参考
服部 英治氏
社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー
株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士