【名南経営の人事労務コラム】第1回 職場のパワー・ハラスメント

2022.07.07

今や誰もが知るキーワードであるパワー・ハラスメント。パワー・ハラスメントは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものでそのすべてを満たすものと定義づけられていますが(厚生労働省)、残念ながら多くの職場においてこの実態がみられています。

テレビのワイドショー等においても、有名企業で優越的な関係の高い者が暴言や暴力を振るう光景を採り上げることも少なくありませんが、こうしたことが公になることなく、部下が上司等から追い詰められた挙句、残念ながら自ら命を絶ってしまうケースも多いのが実態であり、2020年6月には改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)が施行、企業等にその防止措置を講じることが求められました。当初、このパワハラ防止法は、その防止措置を講じるのは大企業に限定されていましたが、2022年4月からは中小企業にも適用となっており、相談対応の体制整備やパワハラ禁止についての周知や啓発等が企業に求められています。

このパワー・ハラスメントについては、前述した①~③を満たすことが要件とされていますが、厚生労働省からは、更にその具体性を示すために、それらを6つに類型化しており、実態における判断基準の1つとされています。

①身体的な攻撃

殴打、 足蹴りを行う。 相手に物を投げつける。

②精神的な攻撃

人格を否定するような言動を行う必要上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。 他の労働者の前で、大声で威圧的なを繰り返し行う。

②人間関係からの切り離し

特定の労働者を仕事から外し、長時間別室に隔離する。1人の労働者に対し、同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる。

④過大な要求

新入社員に必要な教育を行わないまま、 到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し、厳しく叱責する。 業務とは関係のない私用な雑用の処理を強制的に行わせる。

⑤ 過小な要求

管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる。気に入らない労働者に対する嫌がらせのために仕事を与えない。

⑥個の侵害

労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする。 労働者の機微な個人情報について、本人の了解を得ずに他の労働者に暴露する。

出典/厚生労働省「明るい職場応援団」

6つの類型化に目を通すと、身体的な攻撃といったわかりやすいパワー・ハラスメントもありますが、医療機関や福祉施設においては、精神的な攻撃が少なからず見られ、上司が部下に対して思うように仕事が進まないと人格を否定する言葉を連呼し、追い詰めてしまうことがあります。特に、医療福祉業界は慢性的な人手不足であることから、上司も部下も日常的な業務においても余裕がなく、自分の仕事のスピード感や求めるレベルに合わないとつい言葉が荒くなってしまい、追い詰めてしまうことがあるわけです。

このようなパワー・ハラスメントの加害者は、一般的に仕事ができる方に多く、院長や施設長等といった管理者も一目置いていることでその実態があることに気付かないことがあります。仮にそういった実態が現場から報告等によって上がってきたとしても、加害者からは部下の問題点等を列挙され、管理者自身もどちらの言い分が正しいのか判断できなかったり、優秀な人材(加害者)が厳しい注意等をしたことによって退職されてしまえば現場の運用が回らないといったことから、今後注意せよといった軽いレベルの注意で終わることが少なくなく、結果として、本質的な改善がされることなく度々パワー・ハラスメントが現場で繰り返されることがあります。

そもそも、こうしたパワー・ハラスメントが職場内で発生するのは、加害者自身だけの問題ではなく職場全体の風土であり、加害者の言動が問題であると思っても、そのことを管理者等に情報が十分に吸い上がらないことが問題です。職場で働く職員すべてが安心して働くことができる環境とは何か、という点を管理者のみならずすべての職員を巻き込んで考えていくことで徐々に風土は変わっていくものと考えられ、処遇面以外で働きやすい職場環境を整えてもらいたいところです。

服部 英治氏

社会保険労務士法人名南経営 ゼネラルマネージャー

株式会社名南経営コンサルティング 取締役
保有資格:社会保険労務士

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