【介護業界動向コラム】第1回 賃上げと事業拡大の関係性

2022.07.25

2022年7月現在、1ドル=140円に迫ろうという急激な円安基調が続いており、この中で物価上昇やインフラコストの値上がりは不可避な状況となっています。こうした環境変化は、日頃介護事業を営む皆様にとっても例外なく経営への直接的な影響が避けられない状況となってきています。

「数年来施設の建て替えを検討していたが見送らざるを得なくなった」、また「給食コストの値上がりによって給食部門だけで見ると赤字額が増えた」、「燃料コストが昨年対比で大幅増になった」等といった話も珍しくありません。

このような状況下での経営判断は未だかつてない程、緊張した、また非常に難しい状況にあると言えるでしょう。

本連載では、日頃、介護経営コンサルティングの現場での経営戦略の策定や事業の経営改善に取り組む著者が、事例を基に「VUCAの時代の介護経営」(VUCA=未来の予測が困難)、として時流に沿った経営の論点と運営のヒントを皆さまにお伝えしていければと思います。どうぞよろしくお願い致します。

さて、第1回目のテーマは「処遇の改善」と「事業拡大」の関係性についてのテーマです。 

介護職員の処遇改善については介護事業経営の重要テーマとして、様々な施策が図られてきました。2022年10月にも臨時の介護報酬改定として、「介護職員等ベースアップ等支援加算」の導入が図られるなど、現在進行形で数々の取り組みが推進されています。前身となる処遇改善交付金(2009年)からすると、実に13年の歴史となります。

さて、これらの加算による処遇改善(以下処遇改善加算等と略記)を皆様は経営上どのように位置付けられているでしょうか。2020年の厚生労働省による調査では、処遇改善加算は約93.5%、特定処遇改善は約63.3%が届出をしており、恐らく様々な考え方はあるかと思いますが、「取らざるを得ないもの」として認識されていらっしゃる事業所が多いものと思います。

それでは「職員の昇給」を考えていく上では、この処遇改善加算等があれば十分なのでしょうか。この点について意見は分かれると思いますが、お察しの通り「十分」とは言い難く、むしろ他産業での賃上げが今後促進されるであろうことを想定すると、長期の事業継続を考えた場合には処遇改善加算等とは別の原資をどのように創るかが論点になってきます。

現状の仕組みにおいては、処遇改善加算自体が介護報酬を計算根拠としたものである以上、その事業所(法人)の請求総額を増加しない以上、支払い原資も増加しないことが理由です。例えば法人が運営している事業が、定員数の限定がある場合、原則的には定員数×利用単価以上の収入を得る事は困難です。その中で、既存の事業モデルの中で、職員の「昇給を継続する」ためには、原理上、利益を圧縮する方法ないしは、「一定時点での昇給カーブの統制」を取らざるを得ないでしょう。

その意味において、非常に重要となってくるのが法人単位での「事業拡大・開発」の観点です。ある事業モデルにおける収益のアッパーは、ある程度「定員数」に制約されます。それ故に、定員に合わせた適正数(あるいは給与の適正額)をオーバーしての配置は、利益を圧迫し、それぞれの職員の昇給原資も圧迫することに繋がってきます。皮肉な事に法人の歴史が深く、平均勤続年数が長く、定着率の良い職場ほど、将来的にはその様な傾向が生じやすい傾向にあります。

法人の職員数が増えても昇給をし続けられる職場であるために、持続的な事業であるためにも新たな事業領域の拡大(あるいは業態転換)等は、非常に密接な関係を持つことがわかります。

この点において、処遇の改善という恒久的なテーマの根本的課題には、昇給や昇格という側面だけを見るのではなく、事業の拡大や成長、将来的な持続可能性についても広く考えておくことが必要になってきています。

皆様の事業の将来を検討する上での一助となれば幸いです。次回は、事業の拡大についての近年の潮流がテーマとなります。

大日方 光明(おびなた みつあき)氏

株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事

介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。

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