有料老人ホームで実施するべき営業戦略|手順や分析方法を徹底解説

2024.08.19

近年の高齢化に伴い、老人ホームをはじめとする介護事業のニーズが高まっています。
しかし有料老人ホームは、営業が難航しやすい事業であり、適切な集客活動が大切です。

「有料老人ホームの業績が上がらない」「集客がうまくいかない」と悩んでいる方は、有料老人ホームの営業戦略を見直しましょう。

本記事では、有料老人ホームで実施するべき営業戦略について詳しく解説します。
営業戦略の具体的な方法やコツを併せて解説するため、ぜひ最後までご覧ください。

目次

有料老人ホームの数は近年増加している

有料老人ホームの数は、近年増加傾向にあります。
厚生労働省が公表した「令和4年社会福祉施設等調査」によると、2021年から2022年の1年間で有料老人ホームの数が3.6%増加しています。

2022年の有料老人ホーム数2021年の有料老人ホーム数増減数
17,32716,724603
参照元:令和4年社会福祉施設等調査 結果の概況|厚生労働省

なお1989年から2019年までの30年間で、有料老人ホームの数は次のように増加しました。

年代有料老人ホームの数
1989年155
1998年288
2006年2,104
2007年2,846
2008年3,569
2009年4,373
2010年5,232
2011年6,244
2012年7,563
2013年8,499
2014年9,581
2015年10,627
2016年11,739
2017年12,608
2018年13,354
2019年14,118
参照元:高齢者向け住まいの今後の方向性と紹介事業者の役割|厚生労働省

30年間で有料老人ホームの数は約100倍、約14,000件ほど増加しています。

有料老人ホームの営業が難航する理由

有料老人ホームの数は年々増加していますが、営業が難航しやすい傾向にあります。
営業戦略を立案するために、有料老人ホームの営業が難航しやすい次の理由を確認しておきましょう。

  • 競合施設との差別化ができていない
  • 集客が難航している
  • 利用者ニーズの把握が難しい

競合施設との差別化ができていない

競合施設との差別化ができていない有料老人ホームは、営業が難航しやすいです。
近隣に大手企業や集客力の強い競合施設がある場合、自事業所への集客力が低下します。

営業力を向上させるために、自事業所の強みを見つけて、競合施設との差別化を図ることが大切です。

集客が難航している

有料老人ホームの営業が難航しやすい理由の1つは、集客方法が定まっていないことです。
市場ニーズを満たす集客方法を実施しなければ、思いどおりの効果を得られずに営業力が低下します。

集客方法はチラシやパンフレット、Web広告にSNS配信など多種多様ですが、ターゲット層に適した方法で営業活動を行う必要があります。

利用者ニーズの把握が難しい

利用者ニーズを把握できていない場合、営業活動が難航しやすいです。
営業活動では、ターゲット層のニーズを把握し、課題解決・目的達成を促進する商品やサービスを売り込む必要があります。

有料老人ホームの営業では、利用者となる潜在顧客や顕在顧客へ向けて、効果的なアプローチができる営業活動が求められます。
ターゲット層に効果的なアプローチをかけるために、利用者ニーズの調査が必要不可欠です。

有料老人ホームの営業が陥りやすい課題

有料老人ホームが営業活動を行う際に、陥りやすい課題は次のとおりです。

  • ターゲットを明確化できていない
  • Web集客ができていない
  • 問い合わせ対応や見学対応が適切にできていない

有料老人ホームの業績を伸ばすために、各課題を確認して営業活動で成果を出しましょう。

ターゲットを明確化できていない

ターゲットを明確化できていないと、有料老人ホームの営業活動が難航してしまいます。
ぼんやりと「高齢者」をターゲットに定めるのではなく、具体的なペルソナを選定することが大切です。

高齢者が有料老人ホームを選ぶ際には、要介護度や認知症・医療依存などさまざまな症状や状態に応じた施設を探します。
さらに立地や費用、食事やレクリエーションの充実度によって、有料老人ホーム選びの基準も異なります。

まずはターゲットを明確化してから、利用者ニーズを満たす方法で営業活動を行うことが大切です。

Web集客ができていない

有料老人ホームの営業活動で、Web集客ができていない場合は、集客力が低下します。
訪問営業や電話営業だけでなく、Webメディアを活用したWeb集客に注力することで、高い集客力を発揮できます。

有料老人ホームを探す際には、ネットで「地名 老人ホーム」などのキーワードで検索をかけることも多いです。
そのため、検索エンジンやSNSメディアでWeb集客を行っておけば、集客力の向上につながります。

問い合わせ対応や見学対応が適切にできていない

有料老人ホームが営業で陥りやすい課題の1つが、問い合わせ対応や見学対応が適切にできていないことです。
問い合わせに関する管理表や見学対応ツールがない場合、対応が遅れてしまい顧客を取り逃がしてしまう可能性があります。

利用者の悩みやニーズなど有益な情報を得るために、問い合わせ対応や見学対応を実施して、自事業所の強みをアピールすることが大切です。

有料老人ホームが行うべきブランディング

介護業界では競合施設を出し抜き、利用者に選ばれる事業所となるため、ブランディングが重要です。
ブランディングを実施して「利用者ニーズとサービスが紐づく状態」にすれば、ターゲット層に効果的なアプローチができます。

なお介護業界におけるブランディングは、主に次の2種類があります。

  • アウターブランディング
  • インナーブランディング

それぞれの特長を確認して、2つのブランディングを実施することで発揮される相乗効果を得ましょう。

アウターブランディング

アウターブランディングとは、事業所外の顧客や利用者家族に向けてブランディングを行うことです。
アウターブランディングの目的は、事業所の認知度向上やイメージ向上によって、業績を向上させることです。

なおアウターブランディングを実施すると、次のような効果が得られます。

  • 新規顧客獲得
  • 長期的な収益化
  • 利用者ニーズの把握
  • サービスの改善による品質向上

インナーブランディング

インナーブランディングは、事業所内で働く従業員に向けてブランディングを行うことです。
インナーブランディングの目的は、事業所の理念と組織風土を浸透・定着させ、ブランド価値を向上させることです。

またインナーブランディングを実施すると、次のような効果が得られます。

  • 事業所の理念を共有し一貫性のある行動指針を定着
  • 事業所やブランドへの愛着心を向上
  • 従業員満足度・モチベーションアップ
  • 従業員の定着率向上
  • 業務の効率化・業務改善の促進
  • 優秀な人材獲得
  • 利用者満足度の向上

2つのブランディングにより発揮される相乗効果

インナーブランディングとアウターブランディングは、どちらか片方のみを実施するのではなく、両方を取り組むことで十分な効果が発揮されます。
例えば、インナーブランディングによって従業員のモチベーションが向上すれば、高いパフォーマンスを発揮し利用者満足度の向上につながります。

反対にアウターブランディングによって、新規顧客を獲得し利用者数が増加すれば、従業員がやりがいを感じながら仕事に取り組みやすいです。
2つのブランディングによって相乗効果を発揮することで、事業所の業績向上へとつながります。

有料老人ホームの営業戦略におけるコツ

有料老人ホームで営業活動を行う上で押さえておくべきコツは、次のとおりです。

  • 事業所の強みや特性を理解する
  • 競合との差別化を図る
  • ホームページや営業ツールを見直す
  • ターゲットのニーズを把握する

それぞれのコツを押さえて、効果的な営業活動を実施しましょう。

事業所の強みや特性を理解する

有料老人ホームの営業戦略において、事業所の強みや特性を理解することが大切です。
競合に負けない自事業所の強みや特性を理解しておけば、効果的に魅力をアピールできます。

ただ強みや特性を「事業所で力を入れていること」だと勘違いしてしまうと、「頑張りをアピールする」しかないため、営業力が低下します。
例えば「食事が美味しい」や「アットホームな雰囲気づくりを行っている」などは、強みや特性としてアピールできません。

強みや特性として挙げるなら、競合施設より優れている点をアピールしましょう。

競合との差別化を図る

有料老人ホームの営業力を強化するには、競合との差別化を図ることが大切です。
競合調査によって周辺エリアに存在する競合施設の強みや特長を分析し、自事業所にしかない強みを見つける必要があります。

競合施設に負けない強みを見つけることで、事業所の魅力を効果的にアピールできます。
事業所の強みや特性が競合と被っており、なおかつ事業所より競合施設が優れている場合は、顧客獲得が難航するため注意しましょう。

ホームページや営業ツールを見直す

有料老人ホームの営業戦略を立てる際には、ホームページや営業ツールを見直すことが大切です。
営業戦略は、オフラインの電話営業や訪問営業、ポスティングだけでなく、Web集客に注力する必要があります。

事業所のホームページを開設しSEO対策によって露出度を増やせば、事業所の認知度を向上させてブランディングを行えます。
また営業ツールとしてX(旧Twitter)やInstagramなどのSNSメディアを活用して、情報発信する営業手法も効果的です。

ターゲット層のニーズを満たす情報発信により、ユーザーの興味を引いて新規顧客獲得につなげましょう。

ターゲットのニーズを把握する

営業戦略において、ターゲットのニーズを把握することは非常に重要です。
ターゲットのニーズを把握していない状態で、営業活動を続けても潜在顧客である利用者の課題や要望がわからず、適切なアプローチができません。

ターゲット層や利用者とその家族にアンケートやヒアリングを実施して、リアルなニーズを把握することが大切です。
ニーズを把握するためには、利用者とその家族と積極的にコミュニケーションをとり、情報収集を行いましょう。

有料老人ホームの営業戦略を立案する際の5ステップ

有料老人ホームの営業戦略を立案する際には、次の5ステップを意識しましょう。

  1. 目標を設定する
  2. 現状の課題を把握する
  3. ターゲットを明確化する
  4. 内部環境・外部環境の分析を行う
  5. KPIを設定する

各ステップを押さえて、有料老人ホームの業績を向上させる営業戦略を立案してください。

1.目標を設定する

営業戦略を立案する際にまず実施するべきことは、目標を設定することです。
目標を設定しなければ、どのような戦略を立案するべきか検討できません。

抽象的な目標を立てるのではなく、期限と数値を用いて、具体的な目標を決めることが大切です。
「何を」「いつまでに」「どの程度」の目標を達成するかを、目標数値を定めることで、達成度を可視化できます。

まずは長期的な目標達成に向けた、短期的な目標を掲げることで、実施するべき営業戦略が浮かび上がります。

2.現状の課題を把握する

目標を定めた後は、現状の課題を把握する必要があります。
現在の営業活動において「なぜ売上を上げられないのか」「顧客獲得・定着が難航する理由は何か」など、課題を把握しておかなければ、解決策を考案できません。

課題が明確化されると、課題解決に向けた施策を実施することで、営業力を強化できます。
目指すべき目標と現状を比較して、「何が不足しているか」「どのようにして不足を補うか」を考えることで、目標達成に向けた営業戦略を立案できます。

3.ターゲットを明確化する

目標設定と課題の把握が完了したら、営業をかけるターゲットの明確化が必要です。
ターゲットを絞り込むことで、実施するべき営業戦略により具体性を持たせられます。

具体的な顧客像をイメージしてペルソナ設定を行うことで、より明確なターゲット層を定められます。
ペルソナ設定を行う際には、以下のように具体性を持たせてターゲット選定を行いましょう。

  • 名前
  • 性別
  • 職業
  • 年齢
  • 居住地
  • 年収
  • 価値観
  • 趣味

ターゲットを明確化する際には、事業所にとって都合の良い人物像を思い浮かべるのではなく、市場調査によって判明したリアルな利用者を想定することが大切です。

4.内部環境・外部環境の分析を行う

有料老人ホームの営業戦略を立案する際は、内部環境・外部環境の分析を行いましょう。
内部環境分析とは、営業活動に使えるリソースを分析して把握することです。

具体的には、事業所が使える人的リソースや予算、設備、器材、情報などを把握します。
対して外部環境分析とは、市場における事業所の立ち位置や業界の成長性を分析することです。

営業環境の変化を分析することで、市場ニーズに沿ったアプローチができます。
内部環境と外部環境の双方を分析することで、より高精度な営業戦略を立案できます。

5.KPIを設定する

営業戦略における目標達成のために、KPIを設定することが大切です。
KPI(Key Performance Indicator)とは「重要業績評価指標」の意味を持ち、ゴール達成までのプロセスにおける達成度をチェックする指標です。

対してKGI(Key Goal Indicator)は、「経営目標達成指標」の意味を持ち、経営戦略や営業戦略におけるゴールを定めることを指します。
いきなりゴールを目指すのではなく、プロセスごとの達成状況を観測し、軌道修正や改善を行います。

KPIを複数設置しておくことで、KGI達成に向けたプロセスの進捗状況を把握でき、より効率的に目標達成を目指すことが可能です。

有料老人ホームが行う具体的な営業戦略

有料老人ホームが行う具体的な営業戦略として、次のようなものがあります。

  • 訪問営業
  • チラシ・パンフレット
  • 電話営業
  • ホームページやSNSによる情報発信
  • WebやSNS広告
  • ポータルサイトの活用

各戦略を確認して、事業所の業績を向上させましょう。

訪問営業

訪問営業は、営業活動の基本的な施策であり、家や病院を訪れて営業をかける方法です。
パンフレットや資料を渡すことで、事業所の強みや特性をアピールできます。

また1度きりの訪問営業では成果を見込めませんが、繰り返し何度も会うことで信頼関係を構築し、商談・交渉を成立させる可能性が高まります。

チラシ・パンフレット

チラシやパンフレットを直接手渡しで配布したり、ポスティングや掲示板に展示したりすることで、不特定多数の人々に事業所の存在を認知させることが可能です。
施設内の写真や居住者の1日のスケジュールなどを記載しておけば、チラシやパンフレットを見た方に、ひと目で事業所の雰囲気や特性を共有できます。

電話営業

訪問営業の時間を確保できない場合は、電話営業が効果的です。
電話営業は、ターゲットに確実につながる保証はありませんが、事業所内や出先など場所を問わずに営業をかけられます。

ただし電話営業だけで契約を成立させることは困難なため、訪問営業と織り交ぜながら実施することをおすすめします。

ホームページやSNSによる情報発信

ホームページやSNSによる情報発信は、不特定多数のユーザーへ向けて、事業所の存在や魅力をアピールできる営業戦略です。
ホームページを解説しオウンドメディアによるSEO対策で露出度を増やしたり、SNSアカウントを運営したりと、情報発信の方法は多岐にわたります。

有料老人ホームの営業戦略としては、事業所の情報を発信するだけでなく、介護や健康に関する情報を発信することで多くのユーザーに認知してもらうことが可能です。

WebやSNS広告

WebやSNS広告を出稿することで、検索エンジンやSNSメディアを利用するユーザーに事業所の存在をアピールできます。
ただしWebやSNS広告を出稿するには、高額な費用が発生するため、費用対効果を測定して利用するべきか検討しましょう。

ポータルサイトの活用

多くの介護施設情報がまとめられているポータルサイトを活用すれば、有料老人ホームを探しているユーザーに、自事業所をアピールできます。
ポータルサイトでは複数の事業所を比較検討されるため、競合に負けない強みや特性を明確化し、サイト内でアピールすることが大切です。

有料老人ホームの営業戦略に活用できる分析方法4選

有料老人ホームの営業戦略に活用できる分析方法は、次の4種類です。

  • SWOT分析
  • クロス分析
  • 3C分析
  • 4C分析

営業戦略をスムーズに立案するために、上記の分析方法を活用しましょう。

SWOT分析

SWOT分析は、以下の頭文字を取った分析方法です。

  • Strength(強み)
  • Weakness(弱み)
  • Opportunity(機会)
  • Threat(脅威)

外部環境のと内部環境を分析し、事業所の強みと弱みを可視化することで、実施するべき施策を考案できます。

クロス分析

クロス分析は、SWOT分析で明確化した各4つの項目を掛け合わせる分析方法です。
具体的には「Strength(強み)」と「Weakness(弱み)」を「Opportunity(機会)」と「Threat(脅威)」に掛け合わせることで、営業戦略の立案に役立てます。

3C分析

3C分析とは、3つの異なる視点から分析を行う手法です。
なお3Ⅽとは、次の分析要素を指しています。

  • Customer(顧客)
  • Competitor(競合)
  • Company)(自事業所)

顧客と競合、事業所と異なる視点で分析を行うため、営業戦略の立案に活用できます。

4C分析

4Ⅽ分析は、以下の4つの項目をもとに分析を行う手法です。

  • Customer Value(顧客にとっての価値)
  • Cost(顧客にとってのコスト)
  • Convenience(顧客にとっての利便性)
  • Communication(顧客とのコミュニケーション)

営業戦略をかける際は事業所目線で物事を考えてしまいますが、顧客目線で上記の項目を分析することで、高精度な戦略を立案できます。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

有料老人ホームを始め、入所施設の競争が激化しています。特養も例外ではなく、東京都では特養の入所待機者が前年度より32%減少しています(2023年3月時点)。人口の多い東京都でこの状況なので、地方都市になればなるほど、苦戦している特養が増加しています。有料老人ホームの競合施設に特養も挙げられる時代になっているのです。過当競争の状況で勝ち残るには、自施設の『強み』を明確にする必要があります。換言すれば特長です。皆さんの施設が所在するエリア内で「これだけは負けない!」ところまで磨き上げた『強み』がないとなかなか集客も難しい時代になっています。ましてや今後所謂団塊の世代がメインターゲットになっていきます。目の肥えたこの世代に選んでいただくためにも自施設の『強み』の明確化が必要不可欠なのです。

有料老人ホームの営業戦略には市場や顧客分析が必要不可欠

有料老人ホームの営業戦略には、市場や顧客分析が必要不可欠です。
近年、有料老人ホームの数は増えていますが、営業戦略が疎かになると顧客を獲得できず、収益を安定させられません。

ターゲットを明確化して、競合に負けない事業所の強みや特性を把握することで、営業力を高められます。
本記事でご紹介した営業戦略と分析方法をもとに、有料老人ホームの黒字化を目指しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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