【最新】電子カルテの普及率は?普及しない理由や導入を見送る影響も解説

2024.11.16

電子カルテは患者の記録を素早く検索でき、診療履歴や検査結果もすぐに確認できるため、診療の効率が図れます。

しかし、電子カルテの普及率は一般病棟で57.2%、一般診療所で49.9%と普及が進んでいるとはいえません。

本記事では、電子カルテの普及状況や導入が進まない理由、導入を見送る影響などについて詳しく解説します。
また、電子カルテ普及に向けた政府の取り組みについても紹介します。

電子カルテの導入を検討している方にとって、重要なポイントを記載していますので、ぜひ参考にしてみてください。

電子カルテの普及率【一般病棟で57.2%・一般診療所で49.9%】

厚生労働省の医療施設調査によると、令和2年時点での全体の普及率は約60%です。

400床以上の大規模病院では91%と高い普及率となっている一方で、200床未満の中小病院では50%を下回る状況が続いており、依然として低い普及率にとどまっています。

一般病院_全体400床以上200~399床200床未満一般診療所
平成20年14%39%23%9%15%
平成23年21%57%33%14%21%
平成26年34%78%51%24%35%
平成29年47%85%65%37%42%
令和2年57%91%75%49%50%

参照:電子カルテシステム等の普及状況の推移|厚生労働省

電子カルテの普及率が低い理由

電子カルテが普及しない理由として、以下の3つが挙げられます。

  • 導入コストがかかるから
  • 運用コストがかかるから
  • 紙カルテに慣れているから

導入コストがかかるから

電子カルテの運用には、初期費用に加えて、数万円から数百万円に及ぶ運用コストが発生することがあります。

特に中小規模の医療機関にとっては、大きな負担となる場合が少なくありません。

運用コストには、システムの保守、スタッフの研修、さらには必要に応じたソフトウェアやハードウェアのアップデートが含まれ、長期的に費用を押し上げる要因となります。

運用コストがかかるから

電子カルテは、初期費用だけでなく、システムの維持や定期的な更新にかかる運用コストも発生します。

長期的な負担になると懸念され、導入を見送るケースも少なくありません。

心理的な要因も関係しています。サンクコスト効果(埋没費用効果)や損失回避の心理です。
新たな支出を「損失」と感じやすく、現状でコストがかからない紙カルテと比較すると、電子カルテの導入や維持にかかる費用が過大に感じられることがあります。

加えて、電子カルテのシステム導入には、医療機関内のITインフラ整備が必要です。
ネットワーク環境の整備やセキュリティ対策の強化、必要なハードウェアの導入など、多くの追加投資が必要となることが負担の一因となっています。

長期的に見れば電子カルテの導入はメリットが大きいと理解されていても目先の費用や投資負担を避けたいという心理が強く働き、導入をためらう要因となっています。

紙カルテに慣れているから

電子カルテの導入直後は、操作に慣れるまでに時間がかかり、一時的に業務がスムーズに進まなくなることもあります。

医療従事者にとって移行が負担に感じられるかもしれません。
加えて、高齢の医師や看護師が多い医療機関では、紙カルテからの移行に抵抗を持つ場合もあります。

電子カルテの操作はIT技術に不慣れな医療従事者にとって負担に感じてしまうものです。
技術面のサポートが不十分であれば、移行がスムーズに進まず、業務の停滞を引き起こす原因になりかねません。

このように、電子カルテは紙カルテと大きく使い勝手が異なるため、移行への抵抗感が高くなりがちです。

電子カルテ普及に向けた政府の取り組み


政府は「医療DX令和ビジョン2030」を策定し、医療のデジタル化を加速するための明確な目標と計画を打ち出しています。

  • 2023年度:電子カルテ情報共有サービスの仕様確定とシステム開発の開始
  • 2024年度:標準化を実現した医療機関から順次運用を開始
  • 2030年度:概ねすべての医療機関で標準型電子カルテの導入を目指す

全国医療情報プラットフォームの創設や、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定のデジタル化(DX)など、具体的な取り組みが含まれています。

次章では電子カルテの標準化について解説します。

標準型電子カルテの整備

標準型電子カルテとは、異なる医療機関間で患者の診療情報を統一フォーマットで管理し、スムーズに共有できる仕組みです。

例えば、患者が東京の医療機関Aで検査を受け、その後出張先の大阪で急病になった場合、現行のシステムでは対応に時間がかかることがあります。
医療機関Aと大阪の医療機関Bが異なる方法でデータを管理していると、検査結果や診療記録がすぐに共有できないためです。

特に紙カルテの場合、患者が自分で記録を持参するか、医療機関Aからカルテを郵送してもらう必要があるため、手続きにさらに時間がかかります。

しかし、電子カルテが標準化されることで、どの場所でも診療情報や検査結果を即座に確認できるようになり、すぐに対応できます。

HL7 FHIRへの対応

標準型電子カルテの国際標準規格はHL7であり、その最新規格がHL7 FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resource)です。

HL7 FHIRは医療関連の管理データや研究データも含めた、医療情報全般のやり取りを可能にするよう設計されています。

システム間の連携を容易にし、異なるソフトウェアやプラットフォーム間でもシームレスな情報交換ができるのが特徴です。

※参照:HL7 FHIRに関する調査研究一式最終報告書|株式会社富士通総研

電子カルテの導入を見送る影響

電子カルテの導入を見送る影響は、以下の3つです。

  • 業務の効率化が図れない
  • 正確に伝わらない
  • 者の満足度が向上しにくい

以下で、これらの影響について詳しく解説します。

業務の効率化が図れない

電子カルテは、患者の記録を素早く検索でき、診療履歴や検査結果もすぐに確認できるため、診療の流れがスムーズになります。

一方で、電子カルテの導入を見送った場合、手作業によるデータ管理が続くことになります。
記録情報を探すのに手間がかかるだけでなく、記録情報が紛失する可能性もあります。

また、診療情報を他の医療機関と共有する際も、電子カルテを使用していない場合は、情報提供を手作業で行う必要があり患者への対応が難しくなることが考えられます。

正確に伝わらない

紙カルテは手書きで記入されるため、忙しい診療現場では急いで記入することが多く、文字が崩れてしまい、判読が難しくなることがあります。

患者の症状や処方箋の内容が正確に伝わらない要因となり、誤解や診療ミスに繋がりかねません。

さらに、医療スタッフごとに書き方や文字の癖が異なるため、他のスタッフがその記録を正確に解釈することが難しい場合もあります。

患者の満足度が向上しにくい

手作業によるデータ管理では、診療情報の共有に時間がかかり、必要な情報び共有が医療スタッフ間で遅くなります。

特に、複数の診療科や医療機関での連携が必要な場合、紙カルテのままではスムーズな情報共有が難しく、診療に時間がかかかります。
これにより、患者の信頼を損なう可能性があります。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

スマートフォンやタブレット端末を活用する高齢者も確実に増えてきました。施設入所されていても、webでお仕事や株取引などをされる方も珍しくない時代になっています。このように高齢者のITリテラシーが向上しているなか、医療・介護業界のリテラシーが向上しないのは非常にマズい状況ではないでしょうか。ある施設では、タブレット端末使用を開始したところ、現場スタッフより猛反発にあい、あえなく導入断念となりました。導入目的をしっかりスタッフに説明することは当然として「人は皆変わりたくない」という気持ちを必ず持っていると認識することが大切です。便利になるとわかっていても、慣れ親しんだやり方を変えるというのは現場サイドとしては非常に大きなストレスなのです。ここへの共感・理解なくして変化を望むことは難しいでしょう。

電子カルテを導入して医療DXを実現しよう

電子カルテの導入にはコストなどの課題もありますが、医療現場での効率化やミスの削減に効果が期待されています。

特に、異なる医療機関でも診療情報を統一フォーマットで管理し、スムーズに共有することで、患者の治療が的確になります。

こうした電子カルテの全国的な普及は、医療の質を大きく向上させるカギとなります。
日本政府も「医療DX令和ビジョン2030」に基づき、2030年までにほぼすべての医療機関で電子カルテを導入することを目指しています。

まずは、電子カルテの普及状況やその重要性を理解し、医療の未来を共に支えるための一歩を踏み出しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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