訪問介護でのトラブル事例|発生時の対応や再発防止の方法などを解説

2024.03.07

高齢化の進行もあって、昨今は訪問介護の利用者が増加しています。
ニーズの高まりと比例するように、訪問介護施設の数も増えてきました。

他方で、訪問介護ではさまざまなトラブルが発生するリスクがあります。
なかには利用者が負傷したり、死亡したりするような重大なものもあるため、事業者はトラブルに備えて適切な対策を講じなければなりません。

本記事では、訪問介護で発生するトラブル事例を解説します。
また、トラブルが発生した際の対応や、再発防止の方法についても解説するので、ぜひ参考にしてください。

訪問介護で発生するトラブル事例

居宅介護支援事業所 人員基準

訪問介護で発生するトラブルは多種多様です。
そのため、事業者はさまざまなトラブルを想定して対策を講じなければなりません。

本章では、訪問介護で発生する頻度が多い、以下のトラブル事例について解説します。

  • 移動中の交通事故
  • 介護中の事故
  • 器物の破損
  • 利用者との対立
  • 金銭トラブルや窃盗
  • 理不尽なクレーム

移動中の交通事故

スタッフが利用者の自宅へ訪問したり、帰宅したりする途中で交通事故に遭うケースは少なくありません。
交通事故は介護と直接関係するトラブルではありませんが、スタッフがケガをすれば、業務に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。

交通事故は、訪問介護に限らず、あらゆる介護施設が注意すべきリスクです。
2023年にはデイケア施設から老人ホームへ移動する車両が、ガードレールに衝突し、利用者1名が死亡する事故が発生しました。

参照:介護車で事故、73歳男性が死亡 福岡、83歳女性も重傷|共同通信

交通事故は、スタッフが慣れない道を利用していたり、悪天候時に移動したりする際に発生するリスクが高まります。
また、日々の業務でスタッフが疲弊していると、自動車やバイクの運転ミスが発生しやすくなるでしょう。

介護中の事故

介護中に発生する事故は、訪問介護において、特に注意しなければならないトラブルのひとつです。
介護中の事故には以下のようなものがあります。

  • 利用者の転倒や転落
  • 飲食物の誤飲・誤嚥
  • ドアに挟まれたことによるケガ

参照:「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書|介護労働安定センター

介護労働安定センターの調査によると、利用者の転倒や転落の発生率は介護サービスで発生する事故の6割以上を占めています。
訪問介護においても、付添介助や車いすの使用中など、スタッフがいる場面で転倒や転落が発生するリスクがあるため、注意しなければなりません。

高齢者や療養中の利用者は、足腰や噛む力が弱まっており、ささいなことでも事故につながります。
利用者が事故に遭うと、生活がより困難になるケガを負うだけでなく、最悪な場合死亡する事態を招きかねません。

訪問介護中のスタッフは細心の注意を払い、利用者に適切なサポートを行わなければなりません。

また、介護中の事故は利用者だけでなく、スタッフにも起こる可能性があるものです。
利用者を持ち上げようとした際に、スタッフが転倒してケガをするケースは少なくありません。

スタッフ自身も、利用者だけでなく自身を守るために、介護のスキルを磨く必要があります。

器物の破損

スタッフの不注意による器物の破損は、利用者や家族との対立に発展するリスクが高いトラブルです。
とりわけ、家財道具や貴重品を破損すると、事業所に損害賠償を請求される事態を招きます。

壊れやすいものや危険なものを別の部屋に移動させるなど、介護の際は細心の注意を払いましょう。

なお、訪問介護で発生する損害賠償の過半数は、訪問先の器物の紛失や破損によるものです。
器物の破損は、訪問介護において高頻度が発生し得るリスクだといえるでしょう。

参照:「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書|介護労働安定センター

利用者との対立

利用者が感情的になりやすい性格だったり、認知症が進んでいたりすると、スタッフと対立しやすくなります。
介護中に怒鳴ったり、暴力をふるったりする利用者であれば、正常なサービスが提供できなくなるケースもあるでしょう。

とりわけ、利用者によるハラスメント行為は、高齢者が相手だとスタッフが抵抗しにくいこともあって、深刻化しやすい傾向があります。
近年は、利用者によるハラスメントが問題になり、さまざな議論を呼ぶようになりました。

参照:ヘルパーが利用者からセクハラを受けても我慢するべきなの? 高齢者を加害者扱いしにくい訪問介護現場の苦悩|47 NEWS

利用者である以上、訪問看護事業者は適切なサービスを提供できるよう、丁寧にコミュニケーションを取る必要があります。
しかし、過激なハラスメント行為をしていたり、スタッフに危険が及んだりする状況が改善されないなら、契約解除も選択肢に入れて対応しなければなりません。

金銭トラブルや窃盗

金銭トラブルや窃盗は、主にスタッフが原因で起こるトラブルです。
実際、利用者のキャッシュカードや貴重品を窃盗し、スタッフが逮捕された事件は過去に何度も発生しました。

最近も、利用者の自宅から金銭を盗んだ容疑で、介護スタッフが逮捕される事件が発生しています。
参照:あれ? 私のお金が減ってる…介護福祉士の女、訪問先の70代女性宅で6000円盗む 容疑で逮捕、「盗んだか思い出せない」と否認|南日本新聞社

スタッフによる窃盗は、業界全体の信頼に関わる問題であるため、絶対に防がねばなりません。

他方で、スタッフが買い物を代行した際に、釣銭が不足していたために利用者とトラブルに発展するケースも散見されます。
スタッフの故意ではないにせよ、金銭が絡んだトラブルは深刻化しやすいため、利用者の金銭管理は慎重に行いましょう。

理不尽なクレーム

利用者や家族から来るクレームには、理不尽なものも少なくありません。
サービスの内容やスタッフの対応を利用者や家族が誤解していると、スタッフの裁量以上の要求をされる場合があります。

なかにはサービスの範囲外である家族への食事の提供や、生活支援とは無関係な買い物など、スタッフが対応すべきではない要求は受けるべきではありません。
無暗に利用者や家族の要求をスタッフが容認していると、要求がエスカレートする恐れがあります。

また、トラブルが発生した際に、スタッフが原因だと決めつけ、過剰に非難する形で発生するクレームもあります。

例えば、預金通帳を紛失した利用者が、スタッフを犯人扱いしてクレームを出したケースがありました。
預金通帳は自宅で見つかったものの、結局利用者は契約解除の申し出をしています。

参照:平成26年度苦情解決事例集|鹿児島県社会福祉協議会

理不尽なクレームを防ぐなら、サービスの内容やスタッフの対応に関する説明を入念に行いましょう。
ただし、説明の効果が見られず、利用者や家族が過剰な要求やクレームをやめないようであれば、契約解除を含めた対応を検討しなければなりません。

訪問介護のトラブル発生時の対応

訪問介護中にトラブルが発生した場合、スタッフや事業者は速やかに適切な対応を実施する必要があります。
厚生労働省でも、事故発生時の対応について、さまざまな取り決めをしています。

適切な対応の手順を知り、トラブルの影響を最大限抑制しましょう。

必要な措置の実施

トラブルが発生した際、まずは必要な措置を実施しましょう。

例えば、利用者が負傷したり、意識がなくなったりしている場合は、状態の確認や安全確保が優先されます。
意識レベルや出血の有無などを確認し、必要に応じて救急車や警察などに通報しましょう。

事故発生時において、利用者の生死は初期対応によって左右されます。
冷静に対応できるよう、安全確保や応急処置の正しい知識を身に付けましょう。

トラブルの記録

トラブルが発生した際の記録も、重要な取り組みです。
厚生労働省では、事故が発生した際、指定訪問介護事業者はただちに当該事故の状況や、実施した措置について記録を作成し、2年間保存するように定めています。

参照:事故発生時の対応について|厚生労働省

なお、記録を作成する際は以下の項目を網羅しなければなりません。

  • 利用者の基本情報(氏名・年齢・性別・住所)
  • 利用者の身体状況(要介護度・認知症高齢者日常生活自立度・過去の病歴や疾患等)
  • 事故の状況(医療機関の受診状況・死亡の場合は死亡年月日)
  • 事故の発生日時
  • 事故の発生場所
  • 事故の種類(転倒・転落・誤嚥・窒息・異食・誤薬・感染症等)
  • 事故発生時の状況
  • 事故の内容
  • 事故発生時の対応(時間、実施した内容)
  • 受診先・受診方法
  • 診断名・診断内容
  • 利用者様の経過
  • 家族への報告(担当者・報告した家族・報告年月日)
  • 関係機関への連絡(自治体・警察・ケアマネジャー)
  • 事故の原因
  • 再発防止策
  • 損害賠償の有無や状況

参照:事故報告書|厚生労働省

トラブルの報告

トラブルが起こった際は、速やかに関係各所に連絡し、状況についての報告を実施しましょう。

まず、トラブルの当事者が中心になって、事業所(あるいは責任者)・利用者の家族・ケアマネージャー・市町村への説明を行いましょう。
また、事故の目撃者や関係者からも証言を行い、冷静に状況を分析したうえで、事故報告書を作成し、市町村へ提出します。

厚生労働省では、事故報告書のひな形をWebで一般公開しており、無料でダウンロードが可能です。
記録を作成する際に活用しましょう。

なお、報告に際し、隠蔽や虚偽報告は厳禁です。
トラブルの大小に関わらず、スタッフは必ずトラブルを正確に報告しなければなりません。

もし、トラブルの隠蔽や虚偽報告が発覚すると、重い行政処分が下される恐れがあります。
場合によっては、指定の取り消しや営業停止処分になるため、隠蔽や虚偽報告は絶対に避けましょう。

利用者や関係者へのフォロー

利用者や関係者へのフォローも、トラブルの対応にあたって不可欠なものです。

トラブルが発生した際は、利用者や家族に誠意を込めて謝罪しましょう。
トラブルについて説明するだけでなく、誠意ある態度で謝罪すれば、利用者や家族の心証の悪化を防げます。

法的責任の有無の解明や、損害賠償を優先するあまり、利用者への対応をおざなりにする事業所もありますが、このような対応は絶対に避けましょう。
トラブルが発生している状況で、利用者や家族への心証を悪化させれば、紛争になり、裁判沙汰に発展する事態になりかねません。

事業所の信頼や利益を守るうえでも、トラブル時の誠意あるフォローは重要です。

速やかな損害賠償の実行

損害賠償を求められている場合は、早急に実行しましょう。
スピーディーな損害賠償の実行も、事業所の信頼を守るうえで不可欠な取り組みです。

厚生労働省でも、事故発生時の対応として、介護保険事業所は速やかに損害賠償を行わなければならないと定めています。
事業所にとって、賠償資力の有無も運営を続けていくうえで、クリアしなければならない条件です。

なお、事業所の資金だけで損害賠償ができない事態に備えて、厚生労働省では損害保険への加入が推奨されています。
介護保険事業所向けの損害保険に加入し、万が一のトラブルに備えられる体制を整えましょう。

参照:事故発生時の対応について|厚生労働省

訪問介護でのトラブルを防止するポイント

トラブルが発生した際の対応だけでなく、トラブルの発生を防止する取り組みも重要です。
本章では、訪問介護で発生するトラブルを防止するうえで、意識すべきポイントについて解説します。

業務体制の見直し

訪問介護のトラブルは、スタッフの力量だけでなく、精神的・身体的な疲労によっても引き起こされます。
特に交通事故や介護中の事故は、スタッフが疲弊しているほど発生するリスクが高まるでしょう。

経験豊富なベテランのスタッフでも、疲労が蓄積している状態だと、冷静な判断ができなくなったり、ケアレスミスが発生したりします。
トラブルを防止するうえでも、スタッフのコンディションを維持できる業務体制は不可欠です。

業務体制を見直す際は、発生したトラブルの原因や、現在抱えている課題を徹底的に分析しましょう。

例えば、スタッフのシフトや、訪問スケジュールがタイトだと、スタッフに負担がかかりやすくなります。
シフトやスケジュールに問題があるなら、特定のスタッフに負担がかからないように人員配置を見直しましょう。

業務体制の見直しによって負担を削減できれば、スタッフが集中力を保ちやすくなるため、ミスを予防できます。

研修やトレーニングによるリスク防止

日々の研修やトレーニングで、リスクを防止する方法を学ぶことも重要です。
あらかじめ、トラブルが発生しやすいシチュエーションを学び、適切な対処を行えば介護中の事故を予防できるでしょう。

日々の業務であったヒヤリハット・実際に発生したトラブルを利用し、ケーススタディを実施する方法も有効です。
さまざまなケースを想定し、有効な対策を実践するトレーニングを行えば、万が一のトラブルに対応しやすくなります。

また、器物の破損・窃盗・金銭トラブルなど、スタッフの不注意や悪意で起こるトラブルのリスクをスタッフ間で共有すれば、抑制につながります。
スタッフの意識が高まれば、サービスの質の向上にもつなげられるでしょう。

効率化による業務負担の軽減

介護以外の業務を効率化すれば、スタッフの負担をさらに軽減できます。

例えば、請求書・書類の作成のようなノンコア業務を電子化し、既存のテンプレートに合わせてパソコンで作成できるようにすれば、手書きやファイリングの手間をなくせます。

効率化による業務負担の削減は、訪問看護に集中しやすい環境の構築を実現する取り組みです。
結果的に介護のミスの削減にもつながるため、サービスの質が高まりやすくなります。

スタッフ同士のスムーズな情報共有

スタッフ同士がスムーズに情報共有できる体制の構築も、重要な取り組みです。

スムーズな情報共有はトラブルの防止にもつながるものです。
例えば、ハラスメントや理不尽なクレームをする利用者がいるなら、スタッフ間で情報共有することにより、トラブルが深刻化する前に対応しやすくなります。

とりわけ、ハラスメントはスタッフが1人で抱え込むほど悪化しやすい傾向があります。
スタッフ同士で話しやすい環境を構築すれば、事態の悪化を防げるでしょう。

体制を構築する際は、介護向けのシステムを搭載したスマートフォンやタブレットなどの活用が有効です。

加えて、スタッフに対して、トラブル発生時に状況の報告を最初に実行するよう指導すると、より効果が期待できます。
スタッフが報告するプロセスを適切に実行できれば、パニックになって対応を誤るリスクを削減できるでしょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

介護保険制度が始まってから20余年の月日が経ち、だいぶ認知されてきたことと、利用者層が団塊の世代になってきていることも相まって、利用者の権利意識が以前と比較にならないほど高まっています。なかには理不尽な主張を唱える利用者がいるのも事実です。そういった利用者に対しては毅然と対応すれば良いのですが、サービス事業者側の方が弱い立場にあるのも事実です。実際に裁判例も増えており、事業者側が不利な判例は枚挙に暇がありません。苦情(相談)記録簿や事故報告書の作成は当然必要なのですが、苦情や事故の原因分析・再発防止策・利用者(家族)への具体的な説明がしっかりできていて、それが記録されているか否かが最も重要なのです。自分たちを守るためにもICT機器を駆使し、記録業務の効率化を図り内容を充実させておきましょう。

訪問介護のトラブルに対応できる体制を作るならホームヘルプサービス管理システムSPを活用しよう

訪問介護のトラブルに対応できる体制作りには、弊社「ワイズマン」のホームヘルプサービス管理システムSPを活用しましょう。
ホームヘルプサービス管理システムSPは、介護日誌の入力やスタッフ間の情報共有などを電子化し、スムーズなコミュニケーションを実現するシステムです。

また、ケア記録オプションやすぐろくHomeを組み合わせれば、介護記録や利用者情報などをスピーディーに確認できます。

業務効率化でスタッフの負担を軽減

ホームヘルプサービス管理システムSPを導入すれば、情報の記録や確認に要する時間を削減し、業務の効率化を実現できます。
業務を効率化すれば、スタッフの負担を軽減し、サービスに集中しやすい環境を構築しやすくなるでしょう。

また、訪問先への移動中や、介護中の事故はもちろん、記録や伝達のミスも利用者とのトラブルの温床になるものです。
ホームヘルプサービス管理システムSPは、情報の記録を電子化するため、手書きによるミスの削減にも効果が期待できます。

円滑な情報共有でトラブルを防止

ホームヘルプサービス管理システムSPを活用し、円滑な情報共有を実現すれば、トラブルの防止を期待できます。

事故が起こりやすいルート・転倒や誤嚥のリスクが高い利用者・ハラスメントやクレームの前兆など、トラブルに発展する要素をスピーディーに共有すれば、事前に対策を講じやすくなるでしょう。
加えて、利用者の状況を家族などの関係者に共有しやすくなるため、関係各所との信頼関係の維持にも有効です。

また、事前に情報が共有されている状態なら、最適なサービスを確実に提供できるため、不適切なサービスの提供によって利用者の状態が悪化する事態を避けられます。

もちろん、万が一トラブルが発生しても、スタッフ間で迅速に情報共有ができれば、適切な対応や関係各所への報告もスムーズに実践できるでしょう。

事例を学んで訪問介護のトラブルに備えよう

訪問看護で発生するトラブルは多種多様であり、なかには利用者の負傷や死亡につながるリスクが高いものもあります。
そのため、あらかじめ事例を学び、対策を講じなければなりません。

実際にトラブルが発生した際は、速やかに関係各所に報告し、適切なフォローを実践しましょう。
もしトラブルの対応に失敗すれば、利用者から訴訟されたり、事業所へ行政処分が下されるリスクが高まります。

トラブルへの対応力を高めるなら、業務体制の見直しや業務の効率化を進めましょう。
また、ホームヘルプサービス管理システムSPを導入すれば、トラブルを適切に対応する体制を実現できるでしょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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