【最新】介護における処遇改善加算の活用ガイド┃算定要件、計算方法、注意点を解説
2026.08.25
介護事業所の経営において、人材の確保と定着は最重要課題の一つです。深刻化する人材不足に対応し、職員が働きがいを持って質の高いサービスを提供できる環境を整備するため、国は処遇改善加算制度を設けています。この制度は、介護職員の賃金改善を目的としたものですが、その構造は複雑で、頻繁な制度改正への対応は事業所にとって大きな負担となり得ます。
本記事では、介護事業所の経営者や施設管理者の皆様が、処遇改善加算制度の全体像を正確に把握し、経営メリットの最大化、さらには職員の定着・採用強化に繋げるための具体的な知識と実践戦略を包括的に提供します。
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目次
介護事業者が押さえるべき処遇改善加算の全体像と最新動向

処遇改善加算を効果的に活用するためには、まず制度の全体像と最新の動向を正確に理解することが不可欠です。本セクションでは、介護事業所の経営者が把握すべき制度の基本的な構造、直近の改正ポイント、そして今後の見通しについて解説します。これにより、事業所は制度変更に迅速に対応し、戦略的な経営判断を下すための基盤を築くことができます。
介護現場における処遇改善加算の目的と変遷
介護職員の処遇改善加算は、介護現場で働く専門職の賃金水準を引き上げ、キャリアアップの展望を描けるようにすることで、人材の確保と定着を図ることを最大の目的としています。この制度が導入される以前、介護業界は他産業と比較して賃金が低い水準にあり、それが深刻な人材不足の一因とされていました。
そこで、2009年度に「介護職員処遇改善交付金」として始まり、2012年度からは介護報酬に組み込まれる形で「介護職員処遇改善加算」として制度化されました。その後、経験・技能のある介護職員に重点的に配分する「介護職員等特定処遇改善加算」(2019年度)、介護職員の収入を継続的に引き上げるための「介護職員等ベースアップ等支援加算」(2022年度)が創設され、制度は拡充されてきました。
これらの変遷は、国の介護人材確保に対する強い意志の表れであり、介護事業所の経営においても無視できない重要な要素となっています。
| 区分 | 加算率(相対値) | 賃金改善要件 | キャリアパス要件 | 職場環境等要件 |
|---|---|---|---|---|
| Ⅰ | 最上位 | 加算額を上回る賃金改善 | 最も高い水準の要件を満たす | 最も高い水準の要件を満たす |
| Ⅱ | 高い | 加算額を上回る賃金改善 | 高い水準の要件を満たす | 高い水準の要件を満たす |
| Ⅲ | 中程度 | 加算額を上回る賃金改善 | 中程度の水準の要件を満たす | 中程度の水準の要件を満たす |
| Ⅳ | 最低限 | 加算額を上回る賃金改善 | 最低限の水準の要件を満たす | 最低限の水準の要件を満たす |
【参照】介護職員の処遇改善(厚生労働省)
現行制度の構造と加算区分の確認
2024年度の介護報酬改定以前は、目的の異なる3つの加算が併存し、事務手続きが煩雑であるという課題がありました。それぞれの制度で要件や対象職種が異なり、計画書や実績報告書の作成に多くの時間を要していました。
例えば、旧処遇改善加算Ⅰ(1)の加算率はサービスにより異なりますが、訪問介護で13.7%など、高い水準が設定されていました。一方で、特定処遇改善加算ではリーダー級職員への重点的な配分が求められるなど、配分ルールも複雑でした。こうした課題を解決するため、2024年6月からは、これら3つの加算が「介護職員等処遇改善加算」として一本化されました。
新しい加算は、加算率に応じて(Ⅰ)から(Ⅳ)までの4つの区分に整理され、事業所は賃金改善目標や取り組みに応じて区分を選択することになりました。この一本化により、事業所はよりシンプルに制度を理解し、活用しやすくなることが期待されます。
2024年度報酬改定後の処遇改善加算の変更点と対応
2024年度(令和6年度)の報酬改定における最大の変更点は、前述の通り3つの加算の一本化です。これにより、これまで別々に作成・提出が必要だった計画書や実績報告書が一つの様式にまとまり、事務負担が大幅に軽減されます。
また、新しい加算制度では、職場環境等要件が見直され、生産性向上や働きがい改革に関する取り組みがより重視されるようになりました。具体的には、ICTの活用による業務効率化や、職員の能力開発支援などが評価項目として挙げられています。
事業所としては、この新しい要件に対応するため、自事業所の職場環境をあらためて見直し、改善計画を策定する必要があります。
さらに、今後の展望として、2027年(令和9年度)の次期報酬改定に向けて、さらなる賃上げ目標の設定や制度の評価・見直しが進むと予想されます。特に訪問介護分野など、人材確保が急務とされるサービスにおいては、重点的な支援が続く可能性があります。事業経営者は、こうした長期的な視点を持ち、制度の動向を注視し続けることが重要です。
令和8年度の特例制度
令和8年度の改定では、申請時点で要件を完全に満たしていなくても年度内の対応を『誓約』することで加算を取得できる特例措置(令和8年度特例要件)が導入されています。
令和8年度特例要件:以下のア~ウのいずれかを満たすこと。
ア)訪問、通所サービス等:ケアプランデータ連携システムを利用(※)。
イ)施設サービス等:生産性向上推進体制加算Ⅰ又はⅡを取得(※)。
※事務負担への配慮措置として、加算の申請時点では、利用又は取得の誓約で算定可能とする。
ウ)社会福祉連携推進法人に所属していること。
処遇改善加算がもたらすメリットと潜在的リスク

処遇改善加算の導入は、事業所の経営に直接的な影響を及ぼします。収益の増加や人材定着といった大きなメリットがある一方で、運用に伴う管理負担や監査リスクといった見落とされがちな課題も存在します。本セクションでは、加算がもたらす具体的な恩恵と潜在的なリスクの両面を解説し、事業所が取るべき対策を明らかにします。
収益向上と経営安定化への貢献
処遇改善加算は、介護報酬に上乗せされる形で事業所に支払われるため、直接的な収益向上につながります。例えば、新加算(Ⅰ)を取得した場合、サービス種別によっては10%を超える加算率が適用され、事業所の収入は大きく増加します。
この増加分は、制度の趣旨に従い、原則としてすべて職員の賃金改善に充てる必要がありますが、安定したキャッシュフローの確保は経営基盤の強化に直結します。また、加算の取得は、国の方針に沿って職員の待遇改善に取り組んでいる事業所であることの証でもあり、金融機関からの融資評価においてもプラスに働く可能性があります。
ただし、この加算は利用者にも一部負担を求めることになるため、処遇改善加算の利用者負担について、事前に丁寧な説明を行い、理解を得ることが不可欠です。安定した経営は、質の高いサービスを継続的に提供するための土台となります。
職員満足度向上による生産性改善効果
処遇改善加算のもっとも重要な効果は、職員の満足度向上を通じて組織全体の生産性を高める点にあります。賃金という直接的な処遇改善は、職員の経済的な安定に寄与し、仕事へのモチベーションを高めます。
これにより、職員一人ひとりの業務への集中力や責任感が増し、結果としてサービスの質の向上につながります。さらに、待遇改善に積極的な職場は、職員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を高め、離職率の低下をもたらします。
優秀な人材が定着することで、新人教育にかかるコストや手間が削減され、チームワークも向上し、業務効率が改善されるという好循環が生まれます。これは単なる人件費の増加ではなく、組織の持続的な成長を支えるための戦略的投資と捉えるべきです。
制度運用に伴う管理負担とコスト
処遇改善加算は経営に多くのメリットをもたらす一方で、その運用には相応の管理負担が伴います。加算を算定するためには、毎年、賃金改善計画書を作成し、管轄の行政機関に提出する必要があります。
また、年度終了後には、計画通りに賃金改善が実施されたことを証明する実績報告書の提出が義務付けられています。これらの書類作成には、職員一人ひとりの賃金データを正確に集計・管理する必要があり、専門的な知識と時間が必要です。特に、職員の入退社が頻繁な事業所では、賃金総額の計算が複雑になりがちです。
2024年度の改定で様式は一本化されましたが、制度の要件を正しく理解し、適切な事務処理を行うための人的コストは依然として存在します。この管理負担を軽減するためには、給与計算ソフトの導入や、専門家である社会保険労務士への相談も有効な選択肢となります。
計画・実績報告で注意すべき監査リスク
処遇改善加算は公的な介護保険財源から支払われるため、その運用は厳格にチェックされます。行政による実地指導や監査において、計画書や実績報告書の内容は重点的に確認される項目です。
特に注意すべきは、加算額を上回る賃金改善が確実に行われているか、という点です。実績報告で賃金改善額が加算受給額を下回った場合、差額の返還を求められる可能性があります。
また、賃金改善の対象とならない役員報酬を改善額に含めていたり、特定の職員に不公平な配分を行っていたりするケースも、不正受給と見なされるリスクがあります。
こうした監査リスクを回避するためには、賃金台帳や就業規則、給与規程などの関連書類を常に整備し、計画から実施、報告までの一連のプロセスを透明性をもって管理することが極めて重要です。記録の不備は、意図しない不正を疑われる原因にもなり得ます。
職員定着と採用強化へ繋げる処遇改善加算の戦略的活用
処遇改善加算を単に給与を上乗せするための制度と捉えるだけでは、その効果を最大限に引き出すことはできません。この加算を戦略的に活用し、職員のモチベーション向上、定着率の改善、ひいては採用競争力の強化に結びつけることが、持続可能な事業所経営の鍵となります。ここでは、そのための具体的なアプローチを提示します。
加算配分ルールの明確化と公平性の確保
処遇改善加算を職員に配分する際、もっとも重要なのはルールの明確化と公平性の確保です。誰に、いつ、どのような基準で、いくら配分するのかを定めたルールを策定し、それを全職員に周知徹底することが不可欠です。
例えば、勤続年数、保有資格、役職、人事評価などを基準に配分額を決定する方法が考えられます。このルールがあいまいであったり、一部の職員に不公平感を与えたりすると、かえって職場内の不満や対立を生む原因となりかねません。
配分方法としては、毎月の手当として支給する、賞与に上乗せする、あるいは一部を基本給に含む形で昇給させるなど、いくつかの選択肢があります。どの方法を選択するにせよ、その決定プロセスと根拠を職員に丁寧に説明し、納得感を得ることが組織の一体感を醸成し、制度本来の目的であるモチベーション向上につながります。
賃金改善以外の職員還元策とエンゲージメント向上
処遇改善加算の趣旨は賃金改善にありますが、その原資を活用して、金銭以外の形で職員に還元することもエンゲージメント向上に有効です。具体的には、キャリアパス要件とも関連しますが、資格取得支援制度を充実させたり、外部研修への参加費用を事業所が負担したりすることが挙げられます。
これにより、職員は自身のスキルアップを実感でき、仕事への意欲が高まります。また、ICT機器の導入による業務負担の軽減や、休憩室の環境整備、福利厚生制度の拡充なども、職員が「大切にされている」と感じる重要な要素です。
こうした非金銭的な還元策は、金銭的な報酬だけでは得られない組織への帰属意識や働きがいを育みます。処遇改善は、単なる給与明細の数字だけでなく、働きやすい職場環境の実現を含む、総合的な待遇改善として捉えるべきです。
採用活動における加算制度のPR効果
介護業界の人材獲得競争が激化する中、処遇改善加算を算定していることは、採用活動における強力なアピールポイントとなります。求人票や事業所のWebサイトに、「処遇改善加算(Ⅰ)算定事業所」といった具体的な情報を明記することで、求職者に対して「職員の待遇を重視している事業所」というポジティブな印象を与えることができます。
面接の場では、具体的な賃金改善額や配分ルール、キャリアアップ支援制度などを詳しく説明することで、他事業所との差別化を図り、入職後の給与イメージを明確に提示できます。
特に、経験や資格を持つ優秀な人材ほど、待遇面を重視する傾向にあります。加算制度の積極的なPRは、単に人を集めるだけでなく、質の高い人材を惹きつけ、採用競争力を高めるための有効な戦略です。
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加算額を最大化する申請・運用戦略と実践ポイント

処遇改善加算の算定額を最大限に引き出すためには、制度を深く理解し、戦略的な申請と運用を行うことが不可欠です。自事業所の実情に合わせた最適な加算区分の選定から、効果的な計画の策定、そして日々の適切な管理まで、押さえるべきポイントは多岐にわたります。本セクションでは、そのための具体的な戦略と実践のコツを解説します。
自事業所に最適な加算区分の見極め方
2024年度から一本化された新「介護職員等処遇改善加算」は(Ⅰ)から(Ⅳ)の4区分に分かれており、どの区分を選択するかによって加算率、ひいては事業所の収益が大きく変わります。上位の区分ほど加算率は高くなりますが、その分、賃金改善の水準やキャリアパス要件、職場環境等要件といった算定要件が厳しくなります。
例えば、旧加算における処遇改善加算 ⅠとⅡの違いは、キャリアパス要件の充足度合いや賃金改善額にありましたが、新制度でも同様に上位区分ほど高いレベルの取り組みが求められます。
自事業所に最適な区分を見極めるには、まず現状の取り組み(キャリアパス制度の整備状況、職場環境など)を客観的に評価し、各区分の要件をクリアできるかを慎重に検討する必要があります。背伸びをして上位区分を目指した結果、要件を満たせず加算が返還になるリスクも考慮し、持続可能で、かつ最大限のメリットを享受できる区分を選択することが賢明です。
| 区分 | 加算率(相対値) | 主な要件レベル | 取得メリット | 選択の考慮点 |
|---|---|---|---|---|
| Ⅰ | 最高水準 | 旧3加算の要件をすべて満たす | 最大の収益増、人材定着・採用に最も有利 | 賃金改善・キャリアパス・職場環境への高いコミットメントが必要 |
| Ⅱ | 高水準 | 旧処遇改善加算+特定処遇改善加算相当 | 高い収益増、優秀な人材確保に有効 | 区分Ⅰよりは緩和されるが、一定の体制整備が必要 |
| Ⅲ | 中水準 | 旧処遇改善加算相当 | 安定した収益増、段階的な体制強化に | 区分Ⅱへの移行を見据えた計画的な取り組みが望ましい |
| Ⅳ | 最低水準 | 旧ベースアップ等支援加算相当 | まずは加算取得を目指す事業所向け | 収益増は限定的、上位区分へのステップアップを検討 |
賃金改善計画の策定と開示の重要性
加算を算定するためには、具体的な賃金改善計画を策定し、計画書として行政に提出する必要があります。この計画書には、加算の見込額、賃金改善の実施期間、対象職員、そして改善方法などを詳細に記載します。効果的な計画を策定する上で重要なのは、単に加算額を配分するだけでなく、それが職員のモチベーション向上やキャリアアップにどうつながるかという視点を持つことです。
例えば、「介護福祉士の資格取得者には資格手当を増額する」といった具体的な目標を設定することで、職員のスキルアップを促進できます。さらに、策定した計画は、全職員に対して開示し、周知徹底することが法律で義務付けられています。計画の透明性を確保することは、職員の納得感を得て、制度への信頼を高める上で不可欠なプロセスです。
加算制度活用計画書の作成と届出の注意点
計画書の作成と届出は、加算算定の入口となる重要な手続きです。記載内容に不備があると、受理されなかったり、後々の監査で指摘を受けたりする可能性があります。特に注意すべき点として、加算見込額の計算ミスが挙げられます。
前年度の介護報酬総単位数などを基に正確に算出する必要があります。また、キャリアパス要件や職場環境等要件を満たしていることを証明する具体的な取り組み内容を、明確かつ具体的に記述することも重要です。
届出の提出期限は、通常、加算算定を開始する月の前々月の末日までと定められており、この期限を厳守しなければなりません。
自治体によって細かなルールや様式が異なる場合があるため、必ず管轄の指定権者のWebサイト等で最新情報を確認してください。ケアマネジャー(介護支援専門員)が中心となる居宅介護支援事業所や介護予防支援事業所も、特定の要件を満たすことで加算の対象となるため、見落とさないようにしましょう。
【関連記事】ケアマネの処遇改善はいつから?2026年改定の要件や給与への影響を徹底解説
毎年の実績報告と賃金台帳管理の徹底
加算を算定した事業所は、各事業年度終了後、最終的な加算総額と、実際に職員に支払った賃金改善額をまとめた実績報告書を提出する義務があります。この報告書は、計画通りに賃金改善が適切に行われたことを証明するものであり、その根拠となるのが日々の賃金台帳です。
実績報告の計算方法は複雑ですが、基本的には加算対象期間中に支払われた賃金総額が、前年度の賃金総額を上回り、かつその差額が加算受給額を上回っていることを示す必要があります。監査では、この実績報告書と賃金台帳の整合性が厳しくチェックされます。
したがって、毎月の給与計算を正確に行い、手当や賞与の内訳が明確にわかるように賃金台帳を管理し、いつでも提出できる状態にしておくことが、適切な制度運用の生命線となります。
他事業所の成功事例に学ぶ!処遇改善加算の効果的な活用術
制度の理論を理解するだけでなく、実際に処遇改善加算を有効活用している他の介護事業所の事例から学ぶことは、自事業所での取り組みを具体化する上で非常に有益です。ここでは、職員満足度の向上、採用競争力の強化、そして経営改善という3つの観点から、具体的な成功事例を紹介し、実践的なヒントを提供します。
引用:介護職員等処遇改善加算職場環境等要件取組の事例集(令和7年3月)三菱総合研究所
【キャリアパス支援に関する事例】働きながらの資格取得と段階的なスキルアップを支える支援体制
スタッフが長く働き続け、専門性を高めていける環境づくりとして、体系的なキャリアパス支援を行う事業所が増えています。この事例では、働きながら介護福祉士の取得を目指すスタッフに対し、実務者研修の受講支援などを手厚く実施しました。
さらに、より専門性の高い介護技術を身につけたい人に向けて、ユニットリーダー研修やファーストステップ研修、喀痰吸引、認知症ケア、サービス提供責任者研修など、多様な外部・内部研修の機会を提供しています。中堅職員に対してはマネジメント研修の受講もサポートし、段階に応じたスキルアップが可能です。
こうした研修の受講支援や資格取得が、個人のモチベーションを高めるだけでなく、事業所全体のサービス力強化や定着率の向上に大きく寄与しています。スタッフの「学びたい」という意欲を組織全体でバックアップする、非常に心強い取り組みです。
【ICT利用に関する事例】ICT機器の活用による記録・情報共有の効率化とケアへの集中
介護現場における深刻な人手不足や業務負担の軽減に向け、ICTやデジタルツールの導入は不可欠となっています。多くの先進的な事業所では、介護ソフトやタブレット端末、スマートフォンなどの情報端末を積極的に導入し、これまで紙のノートや手作業で行っていた記録業務や情報共有をペーパーレス化・データ化しています。これにより、事業所に戻ってからまとめて行っていた転記作業や、申し送りに要していた時間が大幅に削減されました。
さらに、見守りセンサーや介護ロボット、職員間のスムーズな連携を生むインカムなどを組み合わせることで、夜間帯の巡回負担や無駄な動線が軽減されています。ICTによって生まれた時間的なゆとりは、利用者と丁寧に向き合うコミュニケーションの時間や、より質の高いケアを追求するための時間に充てられています。業務の効率化とケアの質の向上を同時に叶える、現代の介護現場に欠かせない取り組みです。
処遇改善加算に関するよくある疑問と回答
処遇改善加算は制度が複雑であるため、運用において多くの事業所がさまざまな疑問に直面します。ここでは、経営者が抱きがちな疑問や、制度運用でつまずきやすいポイントについて、具体的な質問形式で解決策を提示し、理解を深めます。
加算対象となる職員範囲と配分の公平性
加算による賃金改善の対象となる職員の範囲は、原則として介護サービスに直接従事する職員です。具体的には、介護職員、訪問介護員、看護職員、機能訓練指導員などが含まれます。2024年度の一本化に伴い、柔軟な配分が可能になりましたが、基本的には介護職員への配分を手厚くすることが求められます。ケアマネジャー(介護支援専門員)や事務員など、直接介護に従事しない職種への配分も可能ですが、その場合は介護職員の賃金改善を優先した上で、合理的な理由が必要です。また、常勤職員とパートタイム職員の間で不合理な処遇差を設けることは禁止されています。勤務時間や職責に応じた公平な配分ルールを定め、就業規則や給与規程に明記しておくことがトラブル防止の鍵となります。例えば、常勤換算方式を用いて配分額を決定するなどの方法が考えられます。
キャリアパス要件の具体的なクリア方法
「介護の処遇改善加算の要件は?」という問いの中でも、特に多くの事業所が悩むのがキャリアパス要件です。これは、職員が将来の展望を持って働き続けられるような仕組みを整備することを求めるものです。具体的には、以下の3つの要件(新加算では一部見直し)を満たす必要があります。
- キャリアパス要件Ⅰ:職位、職責、職務内容に応じた任用要件と賃金体系を整備し、全職員に周知すること。
- キャリアパス要件Ⅱ:資質向上のための計画を策定し、研修の実施または研修の機会を確保すること。
- キャリアパス要件Ⅲ:経験、資格、評価などに応じて昇給する仕組みを設けること。
これらをクリアするためには、まず「等級制度」や「役職手当」などを盛り込んだ給与規程を作成します。次に、年間の研修計画を立て、OJTやOff-JTを組み合わせて実施します。そして、定期的な人事評価を行い、その結果が昇給や昇格に反映される制度を構築し、それらの仕組みを職員説明会などで丁寧に周知することが重要です。
加算申請後の変更届や休止届の取り扱い
処遇改善加算の計画書を提出した後、事業所の状況に変化が生じた場合には、速やかに変更届を提出する必要があります。例えば、事業所の合併や吸収、職員数の大幅な変動により、賃金改善計画の見直しが必要になった場合などが該当します。また、何らかの理由で加算の算定要件を満たせなくなった場合や、経営上の判断で加算の算定を一時的に止めたい場合には、休止届または廃止届を提出します。これらの手続きを怠ると、不正受給と見なされ、加算金の返還や指定取り消しなどの厳しい処分を受ける可能性があります。⚠️ 注意:変更や休止・廃止の手続きには、それぞれ提出期限が定められています。手続きについて不明な点があれば、自己判断せず、必ず事前に管轄の行政機関に相談することが重要です。
なお、株式会社ワイズマンでは「実務で使えるケアプラン文例集」を無料で配布中です。この機会にぜひご活用ください。
他にも「介護ソフト選びガイドブック〜料金形態・機能など4つのポイントをご紹介」などお役立ち資料もご準備しています。
本記事は、一本化された新「介護職員等処遇改善加算」の全体像から、賃金改善・キャリアパス要件のクリア方法、監査リスクへの対応まで、事業所経営者が押さえるべき実務ポイントを網羅的に解説しています。
特に、単なる給与上乗せにとどめず、明確な配分ルールの周知やICT活用による負担軽減、資格取得支援といった「総合的な職場環境改善」と連動させることで、人材定着や採用力の強化へつなげる「戦略的活用」の重要性を明示している点は、大変実践的で価値の高い内容です。
制度運用においては、サービス種別ごとの加算率の違いや各区分の算定要件を正確に把握することが不可欠です。特に、新制度への移行に伴う経過措置の適用期間(令和6〜7年度)が明け、各要件の完全実施が求められる今後のフェーズにおいては、計画的な体制整備と適切な記録管理がより重要となります。
自事業所の取り組みを再点検し、持続可能な経営基盤と魅力ある職場づくりを両立させるためのロードマップとして、広くおすすめできる内容です。
まとめ:持続可能な介護経営へ:処遇改善加算を未来投資と捉える

本記事では、介護事業所における処遇改善加算について、その全体像から最新動向、経営へのインパクト、そして戦略的な活用法までを網羅的に解説しました。2024年度の制度一本化は、事務負担の軽減という側面だけでなく、事業所がより戦略的に職員の処遇改善に取り組むことを促すものです。
この加算制度は、単に国から支給される補助金ではなく、事業所の未来を支える人材への投資であり、持続可能な経営を実現するための重要な戦略ツールです。
収益向上、職員の定着、採用競争力の強化、そしてサービスの質の向上という好循環を生み出すためには、経営者が制度を深く理解し、自事業所の理念やビジョンと結びつけて運用していく視点が不可欠です。透明性の高いルールに基づき、賃金改善だけでなく、働きがいのある職場環境を創出していくこと。
そして、その取り組みを内外に積極的に発信していくこと。これからの介護事業経営において、処遇改善加算をどう活用するかが、事業所の成長と発展を大きく左右すると言っても過言ではありません。今後の処遇改善加算は、令和8年度以降の改定も見据え、制度を最大限に活用し、変化に強い組織基盤を構築していきましょう。
監修:斉藤 圭一
主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)
神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。その後、1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職。2007年には立教大学大学院(MBA)を卒業。 以降、高齢者や障がい者向けのさまざまなサービスの立ち上げや運営に携わる。具体的には、訪問介護・居宅介護支援・通所介護・訪問入浴などの在宅サービスや、有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅といった居住系サービス、さらには障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設の運営を手がける。 また、本社事業部長、有料老人ホーム支配人、介護事業本部長、障害サービス事業部長、経営企画部長など、経営やマネジメントの要職を歴任。現在は、株式会社スターフィッシュを起業し、介護・福祉分野の専門家として活動する傍ら、雑誌や書籍の執筆、講演会なども多数行っている。

