【介護業界動向コラム】第23回 情シスがいない介護現場は、まず何を整理すべきか 止まらない現場をつくるための、介護経営の新しい視点
2026.05.26
LIFE、介護情報基盤、ケアプランデータ連携システム――。
介護業界では今、「情報がつながること」を前提とした制度や仕組みが急速に広がっています。その結果、介護現場では、
・記録ソフト
・見守りセンサー
・インカム
・Wi-Fi
・クラウドサービス
・タブレット
など、日常業務を支えるICTが急増しています。しかし一方で、多くの介護事業者には、専任の「情報システム担当(情シス)」がいません。
だからこそ今、必要なのは“完璧なIT化”ではありません。必要なのは、「現場を止めないための整理」です。
今回は、専任情シスがいない介護事業者だからこそ、最低限取り組んでおきたい「整理」を、経営視点で具体的に考えてみたいと思います。
1.まず最初にやるべきは「見える化」
介護現場で最も多いのは、「何が、どれだけ存在しているのか分からない」という状態です。例えば、
・Wi-Fiルーターは何台あるのか
・どの施設にどのタブレットがあるのか
・誰がどのアカウントを使っているのか
・どのソフトを契約しているのか
・どこに問い合わせればよいのか
これらが、意外なほど整理されていません。特に危険なのは、
「分かっている人が一人だけいる状態」です。
介護現場では、“なんとなく”詳しい職員が、善意で管理しているケースが非常に多くあります。しかし、その職員が退職・異動した瞬間、法人全体が分からなくなります。
これは介護現場でよく起きる「属人化」ですが、ICT領域では現場停止リスクに直結します。
だからこそ最初に必要なのは、「誰が知っているか」ではなく、「法人として見える化されているか」なのです。
2.「ICT台帳」を作るだけで現場は変わる
おすすめしたいのが、まずは簡単な「ICT台帳」を作ることです。
難しいシステムは必要ありません。まずはExcelでも十分です。
例えば以下を一覧化します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 機器名 | iPad、Wi-Fi、PCなど |
| 設置場所 | 特養2階、事務所など |
| 管理者 | 誰が把握しているか |
| 契約先 | メーカー・販売店 |
| 問い合わせ先 | 電話番号 |
| 更新時期 | いつ入替予定か |
| 備考 | ID保管場所など |
これだけでも、現場の安心感は大きく変わります。
特に重要なのは、「トラブル時に誰でも動ける状態」を作ることです。介護現場では、“止まった瞬間”に混乱が始まります。だからこそ、「何がどこにあり、誰に連絡するか」を共有できているだけで、現場負担は大きく変わるのです
3. 実は重要なのは、「問い合わせる前の整理」
ここで、介護現場が見落としやすいポイントがあります。
それは、「ヘルプデスクは、魔法のように状況を把握できるわけではない」ということです。
現場ではよく、
「とりあえず電話しよう」「なんか動かない」「ネットが変」
という形で問い合わせが行われます。
しかし、実際にベンダー側が最初に困るのは、「何が起きているのか分からない」という状態です。
つまり、問い合わせ時に必要なのは、“技術知識”ではなく、「状況整理」なのです。
4. ヘルプデスク側が本当に知りたい情報とは?
例えば、ヘルプデスクは、最初にこんな情報を確認します。
① 何が起きているのか
• ログインできないのか
• 動作が遅いのか
• エラーが出ているのか
• 一部だけ止まっているのか
• 全員使えないのか
これは非常に重要です。現場では「使えない!」になりがちですが、実際には、
• 一人だけなのか
• 施設全体なのか
• Wi-Fiだけなのか
• 特定端末だけなのか
で、原因が全く変わります。
② いつから起きているのか
これも非常に重要です。例えば、
• 今日突然
• 昨日から
• 更新後から
• 停電後から
• 新しい機器導入後から
こうした情報だけで、原因特定スピードが大きく変わります。
実際、ヘルプデスク側は、「何か変更がなかったか」をかなり重視しています。
③ どの機器で起きているのか
例えば、
• iPadだけ
• 特定PCだけ
• 夜勤端末だけ
• 2階だけ
これも非常に重要です。介護現場では「全部ダメ」と表現されがちですが、実際には“部分障害”であることが多くあります。つまり、「どこで起きているか」を整理できるだけで、解決速度はかなり変わります。
④ エラーメッセージ
これは現場で最も省略されがちな部分です。しかしヘルプデスク側からすると、エラーメッセージは非常に重要です。
例えば、
• エラー番号
• 表示文言
• 画面写真
これだけで、原因候補がかなり絞れます。最近では、「電話より、まず画面写真を送ってもらった方が早い」というケースも増えています。
だからこそ今後は、現場側にも、
• スクリーンショットを撮る
• 写真を残す
• エラー文を読む
という習慣が重要になってきます。
⑤ 「問い合わせる人」を固定しすぎない
介護現場ではよく、「ICTは〇〇さんしか分からない」という状態があります。
しかしこれは、問い合わせ時にも大きなリスクになります。なぜなら、その人が休みだと、誰も状況説明できなくなるからです。だからこそ重要なのは、「誰でも最低限説明できる状態」を作ることです。
そのためにも、
• ICT台帳
• 緊急連絡表
• 障害時確認項目
を、紙でも共有しておくことが重要です。これは実は、介護現場のBCP(事業継続計画)的な視点でも非常に重要です。
⑥ 「質問される前提」で準備しておく
おすすめなのが、「問い合わせテンプレート」を作っておくことです。
例えば、
■ 発生日時
5月10日 14:20頃
■ 何が起きたか
記録ソフトにログインできない
■ 誰に起きているか
全職員
■ どの機器か
iPad全台
■ エラー内容
「サーバーに接続できません」
■ 他に変わったこと
午前中にWi-Fi機器交換
これだけで、ヘルプデスク側はかなり動きやすくなります。逆に言えば、「何が起きているか整理できる法人」は、トラブル復旧も早いのです。
⑦ 「更新」を前提に予算化する
介護現場では、ICT機器が“壊れるまで使われる”ケースが非常に多くあります。
しかし今後は、それでは危険です。ICTは、「更新され続ける前提」の仕組みだからです。
OS更新、セキュリティ更新、機器寿命――。
つまりICTは、「買って終わり」ではなく、「維持費込みで経営計画に入れるもの」へ変わっています。
⑧ 「外部を使う前提」で考える
介護業界では、専任情シスを置けない法人がほとんどです。
だからこそ重要なのは、「自前で全部抱えない」という考え方です。
ヘルプデスクや外部伴走支援は、単なるコストではありません。
これは、「法人を止めないための保険」に近い存在になってきています。
これからの介護経営は、「情報を回す経営」になる
これからの介護経営に必要なのは、「ITに詳しくなること」ではありません。
必要なのは、「情報が止まらない体制を作ること」です。
そしてその第一歩は、大規模なDXではなく、「整理」から始まります。
● 誰が管理しているのか。
● どこに連絡するのか。
● 何を確認するのか。
こうした地味な整理こそが、実はこれからの介護経営を支える土台になっていくのかもしれません。
竹下 康平(たけした こうへい)氏
株式会社ビーブリッド 代表取締役
2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。

