外国人看護師の受け入れ完全ガイド|人事担当者が知るべき制度・費用・成功の秘訣
2026.05.21
日本における看護師不足は多くの病院が頭を悩ませています。こうした状況を打開する選択肢として、「外国人看護師の受け入れ」が2008年度に開始され、インドネシア、フィリピン、ベトナムを対象に受け入れを拡大してきました。
受け入れ検討には、さまざまな疑問や不安が浮かんでくることでしょう。
本記事では、外国人看護師の受け入れに関する情報を網羅的に解説します。制度の基本から、外国人看護師の受け入れのメリット・デメリット、具体的な準備ステップ、そして受け入れ成功の秘訣まで、この記事を読めば必要な情報を一通り把握できます。
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目次
外国人看護師の受け入れが重要な日本医療の実態

日本の医療現場は、今、大きな課題に直面しています。世界でも類を見ないスピードで進む高齢化により、医療や介護を必要とする人は増え続けています。
その一方で、医療を支える生産年齢人口は減少しており、人材不足は深刻化する一方です。パーソル総合研究所の推計によれば、このままでは2030年までに約187万人の医療・福祉人材が不足すると見込まれています。
実は、人口あたりの看護師の数を見ると、日本は国際的に見ても決して少なくありません。
それにもかかわらず現場で「看護師が足りない」という声が絶えないのは、小規模な病院が多いことにより人材が分散していたり、入院期間が他国に比べて長かったりといった、日本の医療システムが抱える構造的な問題が背景にあります。
このような状況下で、質の高い医療を持続的に提供していくために、外国人材の力はもはや単なる選択肢の一つではなく、不可欠な存在となりつつあるのです。
外国人看護師の受け入れ制度を徹底比較

外国人看護師の受け入れを検討する上で、まず理解しておくべきなのが、そのための制度です。
一言で「受け入れ」と言っても、その方法は一つではありません。
主に、国の経済連携の枠組みである「経済連携協定(EPA)」、すでに日本の資格を持つ人材を採用する「在留資格『医療』」、そして看護補助業務を担う「特定技能・技能実習」という選択肢があります。
それぞれの制度には目的や対象者、要件に違いがあり、自院の状況や求める人材像によって最適な方法は異なります。ここからは、それぞれの制度について、その特徴を詳しく見ていきましょう。
経済連携協定(EPA):国としての枠組みを活用する
経済連携協定(EPA)は、日本がインドネシア、フィリピン、ベトナムとの間で結んでいる協定に基づく制度です。
この制度の目的は、単なる労働力確保だけでなく、二国間の経済的な結びつきを強め、国際貢献を行うという側面も持っています。候補者は母国で日本語の基礎を学んでから来日し、日本の病院で働きながら看護師国家試験の合格を目指します。
受け入れに関する手続きは、公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)が窓口となって進められます。
ただし、この制度には大きな課題もあります。それは、国家試験の合格率の低さです。
全体の合格率が毎年90%前後であるのに対し、EPA候補者の合格率はおよそ10%〜20%にとどまっています。
そのため、EPAによる受け入れは、資格取得を前提とした長期的な視点での育成と手厚いサポート体制が不可欠です。
在留資格「医療」:即戦力となる国家資格保有者を採用する
在留資格「医療」は、すでに日本の看護師国家資格を保有している外国人を採用するための制度です。
対象となるのは、日本の看護師養成校を卒業した人や、母国で取得した看護師免許を基に日本の国家試験に合格した人たちです。
最大のメリットは、すでに来日しており、資格も保有しているため、即戦力として活躍が期待できる点です。特別な日本語研修や国家試験対策も必要ありません。
一方で、対象となる人材は限られており、採用の競争率は非常に高くなります。
多くの場合、人材紹介会社を通じて採用活動を行うことになり、その分コストがかかる可能性も考慮しておく必要があります。
特定技能・技能実習:看護補助者としての採用から始める
看護師として直接採用するのではなく、まずは看護助手、いわゆる看護補助者として外国人材を受け入れるという方法もあります。
この場合に活用できるのが、「特定技能『介護』」や「技能実習『介護』」といった制度です。
これらの制度は主に介護分野を対象としていますが、病院での看護補助業務もその範囲に含まれます。
食事の介助や入浴の補助、病室の環境整備など、看護師の指示のもとで行う業務を担ってもらうことが可能です。
看護師採用に比べて受け入れのハードルが比較的低く、将来的に国家資格を目指すためのステップとして活用することも考えられます。看護チーム全体の人手不足を解消する上で、有効な選択肢の一つと言えるでしょう。
参照:ジェトロ(日本貿易振興機構)経済連携協定(EPA)とは ?
参照:厚生労働省「【別添1】第114回看護師国家試験における経済連携協定(EPA)に基づく外国人看護師候補者の合格者について」
外国人看護師受け入れのメリットと注意すべき課題
どのような制度があるかを理解した次に気になるのは、実際に受け入れた場合のメリットと課題ではないでしょうか。
外国人看護師の受け入れは、病院にとって多くの利点をもたらす可能性がありますが、同時に、事前に知っておくべき注意点も存在します。
良い面と課題の両方を客観的に把握し、十分な準備をすることが、後悔のない判断につながります。ここからは、人事担当者として押さえておきたいメリットと発生しうる課題を解説します。
メリット:人手不足解消から組織の活性化まで
外国人看護師を受け入れる最大のメリットは、やはり看護師不足の解消です。特に、人員確保が難しい夜勤帯のシフトを安定させるなど、喫緊の課題解決に直結します。
異なる文化や価値観を持つ人材が職場に加わることで、日本人スタッフにとっても良い刺激となり、組織全体の活性化が期待できます。
共に働く中で多様性を受け入れる風土が育まれ、職員の異文化理解も深まるでしょう。
また、多言語に対応できるスタッフがいることは、今後増える可能性のある外国人患者へのサービス向上にもつながり、病院の新たな強みとなる可能性を秘めています。
課題と対策:事前に知れば怖くない7つの壁
受け入れを成功させるためには、事前にリスクを把握し、対策を講じることが重要です。ここでは、直面する可能性のある7つの「壁」と、その乗り越え方をご紹介します。
| 課題 | 具体的な内容 | 対策例 |
|---|---|---|
| 1. 言語の壁 | 患者さんとの細かいニュアンスの疎通、医療専門用語の理解、記録業務など、高い日本語能力が求められる。 | 院内での継続的な日本語学習支援、職員向けの「やさしい日本語」研修の実施、翻訳ツールの活用。 |
| 2. 文化・習慣の違い | 働き方やコミュニケーションの取り方、宗教上の習慣(食事、礼拝など)の違いから、戸惑いや摩擦が生じる可能性がある。 | 受け入れ前の異文化理解研修の実施、宗教的配慮(祈祷スペースの確保など)の検討、相談しやすい環境づくり。 |
| 3. 国家試験の難易度(EPA) | 特に非漢字圏の候補者にとって、日本語での国家試験は非常にハードルが高い。 | 勤務時間内での学習時間の確保、eラーニング教材の提供、院内での勉強会や模擬試験の実施など、組織的な学習支援。 |
| 4. 受け入れコスト | 人材紹介料、渡航費、日本語研修費、住居支援費など、初期費用や継続的なコストが発生する。 | 国や自治体の補助金・助成金制度の活用、長期的な視点での費用対効果(離職率低下など)の検討。 |
| 5. 既存スタッフとの軋轢 | 受け入れ目的が十分に共有されていないと、「仕事が増える」「コミュニケーションが難しい」といった不満から、既存スタッフとの関係が悪化する可能性がある。 | 受け入れの目的や背景を全職員に丁寧に説明し、理解と協力を得る。歓迎会など交流の機会を設ける。 |
| 6. 離職リスク | 日本での生活や職場に馴染めなかったり、より良い条件を求めて他の施設へ転職してしまったりする可能性がある。 | 明確なキャリアパスの提示、定期的な面談によるメンタルケア、公正な評価制度の整備。 |
| 7. 手続きの煩雑さ | 在留資格の申請・更新など、行政への手続きが複雑で時間がかかる。 | 行政書士などの専門家や、受け入れ支援を専門に行う機関のサポートを活用する。 |
これらの壁は、決して乗り越えられないものではありません。
事前に課題を想定し、病院全体で対策に取り組むことで、リスクを最小限に抑えることが可能です。
参照:日本語教育学会発行「外国人介護・看護労働者のキャリア形成」
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受け入れ費用の内訳とコスト削減のポイント
外国人看護師の受け入れに関して検討する際に費用の問題は避けて通れません。外国人看護師の受け入れには、どれくらいのコストがかかるのでしょうか。
費用は大きく「初期費用」と「ランニングコスト」に分けられます。初期費用としては、人材紹介会社を利用する場合の紹介手数料、候補者の渡航費、在留資格の申請を行政書士などに依頼する費用などが挙げられます。
一方、ランニングコストには、当然ながら給与や社会保険料のほか、住居の借り上げ費用やその一部補助、日本語研修の費用、日々の生活をサポートするための人件費などが含まれます。
これらの費用は、利用する制度や支援機関によって大きく異なりますが、事前に複数の機関から見積もりを取り、比較検討することが重要です。
また、コストを抑えるためには、国や自治体が設けている外国人材受け入れに関する補助金や助成金制度を積極的に活用することをおすすめします。
これらの制度をうまく利用すれば、負担を大幅に軽減できる可能性があります。
外国人看護師受け入れ準備の5ステップ

「受け入れの重要性はわかったけれど、具体的に何から着手すべきか?」という疑問をお持ちかもしれません。
ここでは、受け入れの計画から実行までの流れを、具体的な5つのステップに分けて解説します。
このロードマップに沿って進めることで、スムーズな受け入れが実現できます。
【計画編】ステップ1〜2:院内体制の構築と最適な制度選定
最初のステップは、院内での準備です。
まず、なぜ外国人看護師を受け入れるのか、その目的(夜勤体制の強化、将来的な人材確保など)を明確にし、経営層から現場の看護部長、事務部門まで、関係者間でしっかりと共有し合意を形成することが何よりも重要です。
受け入れを円滑に進めるためには、関係者の協力体制を整えることが重要です。
次に、自院の状況を分析します。
かけられる予算はどれくらいか、求めるのは即戦力か、それとも時間をかけて育成していくのか。
こうした自院のニーズを明らかにした上で、先ほど解説した「EPA」「在留資格『医療』」「特定技能」といった制度の中から、最も適したものを選びます。
【実行編】ステップ3〜5:募集・手続きから来日後の生活支援まで
院内での方針が固まったら実行段階に移り、選んだ制度に応じて、募集活動を開始します。
EPAであればJICWELSへ申し込み、特定技能であれば人材紹介会社や登録支援機関を通じて候補者を探します。
無事に採用が決まったら、次は入国管理局への在留資格関連の申請です。必要書類が多く手続きが煩雑なため、行政書士などの専門家のサポートを受けると安心です。
そして、無事に来日が決まったら、日本での生活をスムーズにスタートできるよう、住居の確保やライフラインの契約、銀行口座の開設、役所での住民登録といった手続きをサポートする体制を整えておきましょう。
外国人看護師の定着・活躍を支援する3つの支援策

外国人看護師を受け入れることは、ゴールではなくスタートです。採用した人材が能力を最大限に発揮し、やりがいを感じながら長く働き続けてくれることこそが、受け入れの本当の成功と言えます。
そのためには、「受け入れて終わり」ではなく、継続的なサポートが欠かせません。ここでは、外国人看護師の定着と活躍を後押しする、3つの重要な支援策をご紹介します。
国家試験合格へ導く継続的な学習サポート体制
特にEPA候補者にとって、最大の壁となるのが看護師国家試験です。
この高いハードルを越えるためには、本人の努力だけに頼るのではなく、病院全体で支える体制が不可欠です。
例えば、勤務時間の中に学習時間を設けたり、eラーニング教材を法人契約で提供したりする方法が有効です。
また、院内で定期的に勉強会を開いたり、過去問題を解く時間を設けたりすることも効果的でしょう。
看護師長や先輩看護師が学習の進捗を確認し、相談に乗るなど、組織として合格をバックアップする姿勢を示すことが、候補者のモチベーション維持につながります。
「チームの一員」となるための職場環境づくり
言語や文化の違いは、時にコミュニケーションの壁となり、職場での孤立感につながることがあります。
そうした事態を防ぎ、誰もが「チームの一員」として安心して働ける環境を作ることが重要です。
具体的な方法として、日本人スタッフが公私にわたって相談役となる「メンター制度」の導入が挙げられます。
また、定期的に面談の機会を設け、仕事上の悩みや生活での不安を早期に把握し、一緒に解決策を考えることも大切です。
さらに、日本人スタッフ向けに、受け入れた人材の国の文化や宗教について学ぶ「異文化理解研修」を実施することも、相互理解を深める上で非常に効果的です。
キャリアパスと心のケアで長期的な活躍を促す
人は、自身の将来像を描ける職場でこそ、意欲的に働き続けることができます。これは、外国人看護師にとっても同じです。
国家試験に合格した後、どのようなキャリアを歩んでいけるのか、例えば、専門看護師や認定看護師を目指せるのか、あるいはリーダー的な役割を担える可能性があるのか、具体的なキャリアパスを示すことが重要です。
同時に、故郷を遠く離れて暮らす中で感じる孤独感やストレスに対する心のケアも忘れてはなりません。
同じ出身国のコミュニティと交流する機会を設けたり、必要であれば専門のカウンセラーに相談できる窓口を用意したりと、メンタルヘルスを支える体制を整えることが、長期的な定着につながります。
【成功事例】外国人看護師受け入れに取り組む医療法人同仁会 京都九条病院

医療法人同仁会 京都九条病院では、深刻な看護師不足と将来の労働力確保を見据え、2014年よりEPAに基づくベトナム人看護師候補者の受け入れを開始しました。
学習面では、専任の教育担当者を配置し、就業時間内の学習時間を確保。医療用語の習得から日本の国家試験対策まで、個々のレベルに合わせた段階的な指導を行いました。また、生活面でも寮の整備や地域交流の促進など、精神的な孤立を防ぐ環境づくりを徹底しました。
こうした取り組みの結果、候補者たちは高いモチベーションを維持し、次々と看護師国家試験に合格となりました。現場ではベトナム人看護師ならではの勤勉さと優しさが患者からも高く評価されています。異文化理解を通じた組織全体の活性化も進んでおり、外国人材の受け入れが、病院全体のダイバーシティ推進とケアの質向上に寄与する先進的な成功事例となっています。
引用:公益国際構成事業団(JICWELS)発表資料(看護1)医療法人同仁会-京都九条病院-様
深刻な看護師不足に直面する中、外国人看護師の受け入れは現場の体制維持において重要な選択肢です。EPA(経済連携協定)等に基づく受け入れから国家資格取得、その後の定着に至るプロセスは長期的であり、人事担当者には制度への深い理解と緻密な支援計画が求められます。成功の鍵は、労働力としての側面に加え、国家試験合格に向けた学習支援や、日本の医療現場特有のコミュニケーションへの適応を組織全体で支える体制にあります。特に資格取得前後の役割の変化を明確にし、日本人スタッフとの協調を図ることは、現場の混乱を防ぎ、本人のモチベーションを維持する上で極めて重要です。また、言語の壁を補完するために、多言語対応のマニュアル整備やICTを活用した情報共有システムの導入を検討することも、事故防止と業務効率化の両面で有効な対策となります。多様な背景を持つ人材が専門性を発揮できる環境を整えることは、職場全体の多様性を高め、より柔軟で強固な組織へと成長させる契機となるはずです。
なお、株式会社ワイズマンでは「介護現場のリスク管理とスタッフ教育の重要性についての資料」を無料で配布中です。
介護・福祉現場でのリスク管理やスタッフ教育を課題としている方を対象に作成しておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
まとめ:外国人看護師受け入れは、未来の病院経営を支える

ここまで、外国人看護師の受け入れに関する制度から具体的な準備、そして成功のためのポイントまでを解説してきました。
深刻化する看護師不足を前に、外国人材の受け入れは、人材確保の一つの選択肢として検討が進んでいます。
もちろん、言語や文化の壁、コストの問題など、乗り越えるべき課題は少なくありません。
しかし、それらの課題に真摯に向き合い、適切な準備と手厚いサポートを行うことで、採用や定着、職場づくりの面で一定の効果が期待できます。
外国人看護師の受け入れは、目先の労働力不足を補うための単なる「コスト」ではありません。
それは、組織に新たな風を吹き込み、多様性を力に変え、将来にわたって地域社会から選ばれ続ける病院となるための、極めて重要な「投資」であり、未来への布石となるのです。
監修:斉藤 圭一
主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)
神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。その後、1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職。2007年には立教大学大学院(MBA)を卒業。 以降、高齢者や障がい者向けのさまざまなサービスの立ち上げや運営に携わる。具体的には、訪問介護・居宅介護支援・通所介護・訪問入浴などの在宅サービスや、有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅といった居住系サービス、さらには障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設の運営を手がける。 また、本社事業部長、有料老人ホーム支配人、介護事業本部長、障害サービス事業部長、経営企画部長など、経営やマネジメントの要職を歴任。現在は、株式会社スターフィッシュを起業し、介護・福祉分野の専門家として活動する傍ら、雑誌や書籍の執筆、講演会なども多数行っている。

