介護業界のドミナント戦略|実施するメリットや解決すべき課題などを解説
2026.03.12
少子高齢化が急速に進む日本では、介護業界の重要性がますます高まっています。
しかし介護ニーズの高まりとともに、介護業界の競争も激化しており、適切な戦略を取らなければ、介護施設の生き残りは困難です。
このような厳しい環境の中で、自施設の事業を安定させ、地域で確固たる地位を築くための有効な経営戦略がドミナント戦略です。
本記事では、介護事業におけるドミナント戦略の基本・M&AやDXを活用した実践的な成功のポイントなどについて解説します。
介護事業における今後の経営について悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
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目次
ドミナント戦略とは

ドミナント戦略とは、特定の地域に経営資源を集中させ、集中的に事業所を展開する戦略です。
その地域での市場占有率を向上させることで、競合他社を圧倒する優位性を確立することを目標とします。
コンビニエンスストアやスーパーマーケットが特定の地域に多数の店舗を構える例は、ドミナント戦略の典型例です。
介護業界においては地域社会との密接な連携がサービスの質を左右するため、ドミナント戦略は非常に有効です。
地域内でのブランド認知度を高め、適切な人材配置や物流網を構築すれば、質の高い介護サービスを持続的に提供できます。
さらに、地域住民からの信頼を得ることで長期的な顧客関係を築き、安定した経営基盤の確立が可能です。
ランチェスター戦略との違い
ドミナント戦略としばしば関連付けて語られるのが「ランチェスター戦略」です。
ランチェスター戦略は、もともと軍事理論から生まれた競争戦略で、特に市場でのシェアが低い「弱者」が、経営資源を一点に集中させて局地戦で勝利を目指す考え方を持っています。
ドミナント戦略は、このランチェスター戦略の「一点集中」の考え方を、地理的なエリア展開に応用したものと捉えられます。
それぞれの違いは以下のとおりです。
| 項目 | ランチェスター戦略(弱者の戦略) | ドミナント戦略 |
|---|---|---|
| 主な考え方 | 局地戦・一点集中・差別化 | 特定エリアへの集中展開による市場支配 |
| 目的 | 強者との直接対決を避け、特定の分野で勝利する | 特定エリアでの圧倒的なシェアと競争優位性を確立する |
| 関係性 | ドミナント戦略の理論的支柱の一つ | ランチェスター戦略の地理的応用 |
介護業界でドミナント戦略が注目される背景

多くの介護事業者がドミナント戦略に注目する背景には、介護業界が直面する特有の厳しい経営環境があります。
人材不足や競争激化といった課題に対し、ドミナント戦略は有効な解決策になります。
| 業界の課題 | ドミナント戦略による解決アプローチ |
|---|---|
| 深刻な人材不足 | エリア内での柔軟な人員配置・採用活動の効率化 |
| 激化する事業者間競争 | 地域でのブランド確立による差別化・価格競争からの脱却 |
| 介護報酬改定による収益圧迫 | 経営効率化によるコスト削減・高稼働率の維持 |
| 利用者獲得の難化 | 地域での圧倒的な認知度向上・ケアマネジャーとの連携強化 |
上記の課題を抱えている場合、ドミナント戦略が有効な可能性は高いでしょう。
ドミナント戦略のメリット

本章では、ドミナント戦略の代表的な5つのメリットについて具体的に解説します。
- 経営の効率化とコスト削減
- ブランド認知度向上による利用者の獲得
- マーケティングの最適化
- 物流や送迎の効率化
- 競合の参入障壁の構築
上記のメリットが相互に作用し合うことで、地域における強固な事業基盤を構築できます。
経営の効率化とコスト削減
経営の効率化とコスト削減は、ドミナント戦略のもっとも顕著なメリットです。
事業所が特定のエリアに集中していると、経営全体の効率が飛躍的に向上します。
例えば、急な欠員が出た場合でも、近隣の事業所から応援スタッフの迅速な派遣が可能です。
また、エリアマネージャーが複数の事業所を効率的に巡回できるため、管理コストの削減にもつながります。
ブランド認知度向上による利用者の獲得
地域住民への認知度向上は、介護事業において非常に重要な要素です。
特定のエリアで自施設の看板や送迎車を頻繁に見かけることで、住民は自然と介護事業者を認識し、親近感を抱くようになります。
これは地域における第一想起の獲得にもつながり、「この地域の介護といえば〇〇」といったイメージを確立するのにも役立ちます。
また、認知度が高まることで、利用者やその家族からの信頼感が増し、サービス利用への心理的なハードルも下がるでしょう。
ケアマネジャーへの営業活動においても、既に認知されている事業者として有利な立場を築けます。
マーケティングの最適化
地域密着型の戦略は、見込み顧客へのリーチを深め、ブランド認知度を高めるうえで有効です。
特に、ドミナント戦略は以下の取り組みと相性が良いとされています。
| 施策 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 地域情報誌への広告掲載 | 地域住民がよく読む情報誌に広告を掲載することで、ターゲット層への訴求力を高めます。 | 読者層に合わせた広告内容を検討することが重要です。 |
| チラシのポスティング | 特定のエリアに絞ってチラシを配布することで、無駄なコストを削減し、効率的な情報伝達を実現します。 | デザインやキャッチコピーも地域性を意識しましょう。 |
| 地域のお祭りやイベントへの協賛 | 地域社会とのつながりを深め、親近感を持ってもらえます。 | ブース出展や商品提供などを通じて、直接的な交流を図りましょう。 |
広範囲に広告費を分散させるよりもターゲットエリアに集中的に投下する方が、効率的に見込み利用者へアプローチできます。
地域特性を理解し、最適なマーケティング戦略を展開することで、費用対効果を最大化できるでしょう。
地域住民のニーズに応じた商品やサービスを提供することで、さらなる効果も期待できます。
物流や送迎の効率化
ドミナント戦略によって事業所間の距離が近くなると、物流コストや送迎効率においても有利になります。
例えばデイサービスの送迎においては、複数の事業所間で連携し、送迎ルートを最適化することで、ガソリン代や送迎時間を節約できます。
さらに、介護用品や消耗品などを複数の事業所で共同購入し、一括で配送することで、スケールメリットを活かしたコスト削減が可能です。
個々の事業所が独自に購入するより、大幅に仕入れ価格を抑えられるため、結果的に運営コスト全体を減らせるでしょう。
また事業所同士の距離が近づくことで各所がスムーズに連携できるようになれば、従業員の負担軽減にもつながります。
競合の参入障壁の構築
すでに市場を支配している介護事業者が存在する場合、新規参入を検討している事業者は、そのエリアへの参入を躊躇する傾向があります。
そのため、ドミナント戦略によりその地域での地位を確立すれば、競合が参入してくる可能性を下げることが可能です。
競合が少なければ市場における不必要な価格競争を回避できるため、安定した事業運営ができるでしょう。
さらに、新規参入の脅威が少ないため、長期的な視点での戦略的な投資や事業拡大も容易になります。
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ドミナント戦略で解決すべき課題

多くのメリットがある一方、ドミナント戦略には以下の課題がある点に注意しましょう。
- カニバリゼーションの発生
- 地域需要や人口の減少への対応
- 他エリアへの進出の遅延
- 自然災害リスクの集中
上記の課題を事前に理解し、対策を講じることが成功の鍵です。
カニバリゼーションの発生
カニバリゼーションとは、近隣にある自施設の事業所同士で利用者を奪い合ってしまう現象です。
自施設同士で顧客を奪い合う状態になると適切な戦略が立てにくくなるほか、利用者の間で混乱が起きてしまう可能性もあります。
カニバリゼーションを避けるためには、事業所ごとに対象とする利用者層やサービス内容に特色を持たせるなどの工夫が必要です。
また地域特性を考慮し、高齢化率の高い地域には介護サービスを充実させる、若い世代が多い地域には予防医療に力を入れるなど、ニーズに合わせた展開も重要です。
地域需要や人口の減少への対応
経営資源を特定エリアに集中させると、地域の盛衰に経営が大きく左右されます。
もしそのエリアの人口が予想以上に減少した場合、顧客基盤が縮小し、売上は大きく減少します。
また、経済状況が悪化すると利用控えが起き、利用者の減少につながります。
このような事態を防ぐため、開設前の徹底的なエリア分析は不可欠です。
過去のデータだけでなく、将来の人口動態予測や経済動向予測を入念に行い、長期的な視点での事業継続性を見極める必要があります。
またリスク分散のため、複数エリアへの展開、オンラインサービスとの連携など、柔軟な事業戦略を検討することも重要です。
他エリアへの進出の遅延
一つのエリアでの成功に集中することは重要ですが、同時にほかの有望なエリアへの進出機会を逃すリスクも伴います。
経営者は、自施設の強みを活かせる新たな市場を常に視野に入れ、市場全体を俯瞰的に捉えましょう。
ドミナント戦略に固執しすぎると、より大きな成長の機会を逸してしまう可能性があります。
市場のニーズは常に変化するため、ドミナント戦略に縛られず、次の展開エリアを戦略的に検討し続けることが不可欠です。
自然災害リスクの集中
地震や水害などの自然災害が発生した場合、エリア内の全事業所が同時に被災し、事業継続が困難になるリスクがあります。
このリスクを軽減するためには、日頃からBCP(事業継続計画)を策定し、訓練しておくことが不可欠です。
データのバックアップ手順、緊急時の職員の安否確認方法、近隣エリアとの連携体制などを具体的に定めておきましょう。
ドミナント戦略を成功させるポイント

ドミナント戦略の課題を克服し、メリットを最大化するためには、戦略的なアプローチが求められます。
特に、現代の介護業界においてはM&AとDXの活用が重要です。
ここでは、ドミナント戦略を成功させるためのコツについて解説します。
介護M&Aを実施する
ドミナント戦略を加速させるうえで、M&A(企業の合併・買収)は非常に有効な手段です。
ゼロから新しい事業所を開設するには多大な時間とコストがかかりますが、M&Aを活用すれば既存の事業所(事業)を譲り受けられます。
また事業開始までの期間を大幅に短縮し、経験豊富な人材や既存の利用者も同時に確保できる可能性があります。
| 比較項目 | 新規開設 | M&Aの活用 |
|---|---|---|
| 事業開始までの期間 | 長い(物件探し・許認可・採用など) | 短い(既存事業を引き継ぐため) |
| 人材確保 | ゼロから採用・育成が必要 | 経験豊富なスタッフをそのまま引き継げる |
| 利用者確保 | 開設当初は稼働率が低い傾向 | 既存の利用者をそのまま引き継げる |
| 許認可 | 新規に取得する必要がある | 引き継げる場合が多い |
より短期間で効率的にドミナント戦略を進めたい場合は、M&Aを検討してください。
介護DXを推進する
DXの推進は、複数の介護事業所を効率的に運営し、質の高いサービスを提供するうえで不可欠です。
例えば、介護ソフトを導入することで、煩雑な事務作業を自動化し、記録業務の効率化を図れます。
技術導入により、現場スタッフは利用者とのコミュニケーションに集中できるため、介護サービスの質が向上するでしょう。
さらに、各事業所のデータを一元管理することで経営状況の把握もしやすくなります。
稼働率や利用者のニーズを分析することで、サービスの改善や新たな事業展開につなげましょう。
介護業界のドミナント戦略は、特定エリアに経営資源を集中し、事業所を集中的に配置して地域内の優位性を高める考え方です。拠点が近いほど、急な欠員時の応援配置や職員の柔軟な回し、管理者の巡回が速くなります。送迎ルートの最適化、介護用品・消耗品の共同購入、地域情報誌やポスティング等の広報もエリアを絞って効率化でき、住民の認知が上がれば「この地域の介護といえば」と第一想起を取りやすく、ケアマネジャーへの説明も通りやすくなります。
一方で、近隣拠点同士が利用者を奪い合うカニバリゼーション、人口減少や需要変動に左右される地域依存、地震・水害など災害が同時に直撃する集中リスクがあります。成功には、出店前のエリア分析と将来予測、拠点ごとの対象者・機能の役割分担、BCP(安否確認・バックアップ・連携先)の整備が必須。さらにM&Aで立上げ期間を短縮し、介護ソフトや勤怠管理などDXで複数拠点を一元管理すると、効果を持続させやすくなります。戦略に固執せず、リスク分散のため周辺エリア連携も検討します。
まとめ:ドミナント戦略は介護施設の成長に役立つ

ドミナント戦略は、経営効率の向上やブランド力の確立など、多くの利点をもたらす強力な経営手法です。
介護施設の運営においても、ドミナント戦略は非常に有効です。
一方で、カニバリゼーションや地域依存リスクといった課題も存在するため、事前の綿密な計画が不可欠です。
ドミナント戦略を成功に導くため、M&Aによる迅速なエリア拡大や、DX推進による運営基盤の強化といった現代的なアプローチを検討してみてください。
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監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

