ビジネスケアラーとは?増加する背景や介護業界にできる支援などを解説

2026.03.12

高齢化が進む昨今、介護に関するさまざまな問題が社会的課題となっています。
ビジネスケアラーもその一つであり、多くの企業が対策に追われるようになりました。

ビジネスケアラーとは、家族などの介護をしながら仕事を続けている従業員を指す用語です。
ビジネスケアラーの負担は非常に大きく、パフォーマンスの低下や早期離職などのリスクを招くとされています。

そこで本記事では、ビジネスケアラーの定義・深刻な問題・企業や介護業界が取り組むべき具体的な支援策などを解説します。
ビジネスケアラーを取り巻く問題について、より深く理解するための参考にしてください。

ビジネスケアラーとは

まずはビジネスケアラーの定義や、類似した用語との違いについて解説します。

ビジネスケアラーの定義

ビジネスケアラーとは、仕事を続けながら家族などの介護を担う従業員です。
特に企業に雇用されている従業員に焦点を当てた言葉であり、企業が支援すべき対象として認識されています。

以前は専業主婦世帯が多かったこともあり、家庭内で介護に対応しやすい環境でした。
しかし、近年は共働き世帯が増えたことで、仕事をしながら家族の介護をするケースが増加しています。

特に昨今は生産年齢人口が減少している影響もあり、ビジネスケアラーが増加すると労働力がさらに不足することが問題となっています。

参照:仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン|経済産業省
   経済産業省における介護分野の取組について|厚生労働省

ワーキングケアラーとの違い

ビジネスケアラーと似た言葉に「ワーキングケアラー」があります。
両者はほぼ同義で使われますが、ニュアンスに若干の違いがあるので注意しましょう。

ワーキングケアラーは雇用形態にかかわらず、働く介護者全般を指す用語です。
一方、ビジネスケアラーは支援や対策の対象となる「従業員」を指す文脈で使われる傾向にあります。

ビジネスケアラーの現状

ビジネスケアラーは、すでに多くの当事者がいる社会課題です。
経済産業省はビジネスケアラーについて、以下のグラフを提示しています。

出典:仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン|経済産業省

ビジネスケアラーは年々増加しており、2030年時点でビジネスケアラーが318万人にのぼると予測されています。
これは、家族介護者の合計の約4割にあたる数字です。

ビジネスケアラーの介護負担は大きいため、仕事の質が落ちやすい傾向があります。
実際に介護を開始するとパフォーマンスが約3割も低下するとされており、パフォーマンス低下によって被る経済損失は2030年には約9.2兆円に達すると予測されます。

経済産業省はビジネスケアラーに対する企業の対応が不十分な点を指摘しており、現状を踏まえ、さらなる施策の強化を呼びかけています。

参照:仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン|経済産業省
   経済産業省における介護分野の取組について|厚生労働省

ビジネスケアラー増加の背景と対応

本章では、ビジネスケアラーが増加する背景や国の対応について解説します。

「2025年問題」の影響

ビジネスケアラー増加の大きな要因の1つとなったのが、2025年問題です。
これは、戦後のベビーブームに生まれた団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になることで、社会保障費の増大や労働力不足が懸念される問題です。

親世代が一斉に介護を必要とする年齢に達するため、その子ども世代である現役の働き手が介護を担うケースが急増します。
その結果、ビジネスケアラーが増加した可能性は否定できません。

親世代が一斉に介護を必要とする年齢に達するため、その子ども世代である現役の働き手が介護を担うケースが急増します。
その結果、ビジネスケアラーが増加する可能性は否定できません。

ビジネスケアラーが増加すれば生産性のさらなる低下や人材の流出につながる可能性が高いため、企業にとっても早急に対処すべき課題です。

参照:ポスト2025年の医療・介護提供体制の姿(案)|厚生労働省

ビジネスケアラーに対する国の対応

介護は当事者になるまで実態に触れる機会が限られているうえ、職場では話題に出しづらいものです。
ビジネスケアラーへの対応を進めるうえで、国は以下の3点を課題として挙げています。

  • 介護保険外サービスに十分アクセスできていないこと
  • 企業における従業員情報の把握に格差があること
  • 社会全体として介護に関するリテラシーが低いこと

上記の課題を踏まえ、経済産業省は介護支援として以下の取り組みを実施しています。

取り組み内容
介護需要の新たな受け皿整備(介護保険外サービスの振興)開発促進・チャネル強化・信頼性確保を通じて、民間企業などのサービス(介護保険外サービス)の振興に取り組み、高齢者の自立支援を促す。
企業における両立支援の充実ガイドライン策定・インセンティブ設計・コミュニティ形成・中小企業支援を通じて、企業の経営課題としての「仕事と介護の両立」のプライオリティを高める。
介護に関する社会機運醸成プラットフォーム運営やブランドアクション創出によって、より多様な主体が積極的に発信・対話できる機会を増やす。
参照:仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン|経済産業省
   経済産業省における介護分野の取組について|厚生労働省

ビジネスケアラーが抱える問題

ビジネスケアラーが抱える問題は、以下のとおりです。

  • 終わりが見えない負担
  • パフォーマンス低下とキャリアへの不安
  • 「隠れ介護」の発生
  • 介護離職のリスク向上

上記の問題は、個人の心身やキャリア、企業の生産性にまで影響します。

終わりが見えない負担

介護は育児と異なり、期間の予測が困難であり、いつまで続くかわかりません。
そのため、介護と仕事を両立するビジネスケアラーは、慢性的な睡眠不足や疲労、出口の見えないストレスに常にさらされています。

介護の状況は人それぞれで必要となる時間や労力も大きく異なり、その負担は計り知れません。
心身への過大な負担は、ビジネスケアラー本人の健康を損なうだけでなく、パフォーマンスの低下にも直結します。

結果として、理想のキャリア形成が難しくなったり、離職したりせざるを得ない状況になるケースも少なくありません。
企業は有用な人材を守るため、仕事と介護の両立支援に真剣に取り組む必要があります。

パフォーマンス低下とキャリアへの不安

先述したように、ビジネスケアラーのパフォーマンスの低下率は約3割と深刻です。
これは個人の努力では補いきれないレベルであり、企業全体の生産性にも影響をおよぼしかねません。

介護を理由に重要なプロジェクトへの参加を断念したり、昇進や異動を諦めざるを得ないケースも多く、キャリア形成への不安から仕事へのモチベーションが著しく低下することも懸念されます。
仕事と介護の両立支援は、ビジネスケアラー個人の問題に留まらず、企業の人材確保や組織全体の活性化においても重要な課題です。

「隠れ介護」の発生

周囲に迷惑をかけたくない、評価に影響するのではないかといった懸念から、介護の事実を職場に隠してしまう「隠れ介護」は深刻な問題です。
介護を抱える従業員が、その事実を隠し続けることで、企業が提供するさまざまな支援制度を活用できず、心身ともに疲弊する可能性があります。

また、十分な休息やサポートを得られない状況が続くと、介護者は精神的な負担を抱え込み、健康を害するリスクも高まります。
企業側にとっても、隠れ介護は予期せぬ休職や離職につながるリスク要因となり、結果的に企業の生産性低下を招く可能性がある問題です。

介護と仕事の両立を支援する制度を整備するとともに、従業員が安心して介護の状況を打ち明けられるオープンな職場環境づくりが不可欠です。

介護離職のリスク向上

ビジネスケアラーは、最終的に「介護離職」をせざるを得ない状況に追い込まれるリスクを抱えています。

介護離職は、その名の通り介護を理由として仕事を辞めることを指します。

介護離職は、従業員本人にとって経済的、精神的に大きな負担です。
収入源を失うことで生活の安定を損なうだけでなく、社会とのつながりを失うことにもつながりかねません。

同時に、企業にとっても介護離職は深刻な問題です。

経験豊富な人材を失うことは、企業の競争力低下に直結します。
代替人員の採用にはコストがかかるうえに、即戦力となる人材を見つけることは容易ではありません。

介護離職を防ぐためには、企業全体で介護と仕事の両立を支援する体制を構築し、従業員が安心して働き続けられる環境を整備することが重要です。

企業のビジネスケアラー対策

ビジネスケアラー対策として代表的なのは、以下のとおりです。

  • 柔軟な働き方を実現する制度設計
  • 相談・情報提供体制の構築
  • 介護支援と経営戦略の統合

従業員が安心して働き続けられる環境を整備できるよう、多角的な対策を講じましょう。

柔軟な働き方を実現する制度設計

まずは個々の従業員の介護状況に合わせた、柔軟な働き方の選択肢を提供することが不可欠です。
制度を整えるだけでなく、誰もが気兼ねなく利用できるよう積極的に周知しましょう。

制度の種類具体的な内容例
勤務時間に関する制度・テレワーク(在宅勤務)
・フレックスタイム制度
・時差出勤制度
休暇・休業に関する制度・法定を上回る介護休暇(有給化など)
・未消化有給休暇の積立制度
・短時間勤務制度の拡充
運用の改善・申請手続きの簡素化
・制度利用が評価に影響しないことの明文化
・制度利用者の事例共有

相談・情報提供体制の構築

ビジネスケアラーが孤立せず、適切なタイミングで正しい情報を得られる体制を整えることが、問題の早期発見と解決につながります。
具体的な施策は以下のとおりです。

施策内容
専門相談窓口の設置・社内の人事担当者や産業医による相談窓口の設置
・外部の介護コンシェルジュサービスや社会保険労務士による専門的なアドバイスの提供
管理職への研修実施・管理職向けのビジネスケアラー関連の研修
・安心して相談できる職場風土の醸成
情報プラットフォームの整備・介護関連の情報を得られる社内ポータルサイトやハンドブック・必要な情報にいつでもアクセスできる環境の提供

介護支援と経営戦略の統合

ビジネスケアラー支援を場当たり的な対応に終わらせず持続可能な取り組みとするためには、経営層の強いコミットメントが不可欠です。

介護を「個人の問題」ではなく「経営課題」として捉え、健康経営やDE&I(多様性・公平性・包摂性)戦略の一環として位置づけるべきです。

経営トップがその重要性を明確に発信することで、全社的な意識改革が進み、支援策が実効性のあるものとなります。

介護業界にできるビジネスケアラー支援例

ビジネスケアラーに対し、介護サービスの提供者である介護業界も重要な役割を担えます。
介護業界にできるビジネスケアラーの支援例は、以下のとおりです。

  • 企業向けの介護コンシェルジュの提供
  • ICT・IoTを活用した見守り・遠隔介護の実現
  • 柔軟なショートステイ・デイサービス
  • 介護情報を提供するプラットフォーム
  • メンタルケアとピアサポート(コミュニティ)の運営

企業のニーズに応え、ビジネスケアラーを直接支援する新しいサービス展開も積極的に検討してみてください。

企業向けの介護コンシェルジュの提供

企業の従業員とその家族を対象に介護コンシェルジュを提供し、相談窓口を設置することは有効な支援です。
介護保険制度の仕組みや利用方法などについて専門の相談員が丁寧に説明すれば、不安も解消されやすくなるでしょう。

また、ケアプランに関してケアマネジャーに相談する方法、そして介護サービス事業者(訪問介護・デイサービス・介護施設など)の情報提供・紹介にも対応できれば、仕事と介護の両立を実現しやすくなります。

ICT・IoTを活用した見守り・遠隔介護の実現

ICT・IoTを利用した見守りサービスは、遠隔地の家族をテクノロジーで見守ることで、従業員の安心感向上につながる取り組みです。

遠隔地に高齢の両親を持つ従業員が、日々の業務をこなしつつ両親の状況を常に把握することは困難な課題です。
こうした背景を受け、センサー・カメラ・オンライン通話などの先進技術を統合した見守りサービスが注目を集めています。

提供されるサービスは多岐にわたっており、室温・湿度・人感センサーによる環境把握やカメラによる状況確認、必要に応じたオンライン通話などが可能です。

緊急時の迅速な状況把握と対応をサポートする体制も構築すれば、従業員はさらに安心して業務に集中できます。

柔軟なショートステイ・デイサービス

ビジネスケアラーの繁忙期や急な出張に対応できるショートステイや、延長可能なデイサービスを提供するのもおすすめです。
ショートステイ・デイサービスはレスパイトケア(介護者の一時的な休息)の機会にもなるため、介護者の心身の負担を大幅に軽減します。

例えば、通常よりも短い期間でのショートステイを受け入れたり、デイサービスの利用時間を延長したりすることで、ビジネスケアラーは仕事と介護の両立をよりスムーズに行えるようになります。
介護する方が精神的な余裕を持つことができれば、より質の高い介護の提供にもつながるでしょう。

介護情報を提供するプラットフォーム

信頼性の高い介護情報を集約し、わかりやすく提供するWebサイトやアプリケーションを開発・運営することも重要です。

介護に関する知識不足は、仕事と介護の両立を困難にし、大きな不安や負担を生み出します。
そのような状況を改善するため、介護保険制度・利用できるサービス・介護技術・医療情報などを網羅したプラットフォームを構築し、必要な情報を手軽に入手できる環境を作ることも支援の一つです。

メンタルケアとピアサポート(コミュニティ)の運営

オンラインカウンセリングやビジネスケアラー同士のオンラインコミュニティは、ビジネスケアラーにとってかけがえのない支援となります。
専門カウンセラーと対話することでビジネスケアラーの悩みやストレスが軽減され、精神的な負担を減らせるでしょう。

また、同じ境遇の仲間との交流は、孤独感を解消し、共感や情報交換を通じて精神的な支えとなるものです。
互いの経験を共有することで、新たな解決策を見つけたり、精神的な負担を軽減したりできるでしょう。

オンラインの交流サービスは、時間や場所に制約されずに利用できるため、多忙なビジネスケアラーにとって非常に有効な支援策です。

斉藤 圭一氏
斉藤 圭一氏

少子高齢化が進み労働力が激減する中で、仕事を続けながら家族を介護する「ビジネスケアラー」の支援は、社会の存続に関わる極めて重要な課題です。両立を実現するための最大の鍵は、何よりもまず「介護をプロに任せる」という決断にあります。家族だけで抱え込まず、専門職の介入を前提とすることが、キャリアを維持するための揺るぎない土台となります。
しかし、現場の現実に目を向けると、「見知らぬ他人が家に入る」ことへの心理的障壁が大きなハードルとなっています。この「プロに頼ることへの遠慮や抵抗」が、結果として両立を困難にし、深刻な介護離職や孤立を深める要因となっているのです。
ICTが果たす役割は、単なる効率化に留まりません。遠隔見守りなどの技術は、対人支援特有の心理的負担を和らげ、適切なタイミングでプロの介入を促す「緩衝材」としての機能も持ち合わせています。最新技術を賢く活用することで、家族のプライバシーを守りつつ、プロの支援へとスムーズに繋げることが可能になります。本記事を参考に、介護業界が企業のパートナーとして、現実的な支援の形を提示していくことを期待します。

まとめ:介護業界も積極的にビジネスケアラー支援に取り組もう

ビジネスケアラー問題は、少子高齢化が進む日本において、すべての企業と働き手が直面する避けては通れない課題です。

企業は柔軟な働き方の整備や相談体制の構築を通じて、従業員が仕事と介護を両立できる環境を作らなければいけません。

また、介護事業所は企業と連携し、ビジネスケアラーの多様なニーズに応える新しいサービスを創出することで、この社会課題の解決に大きく貢献できます。

介護とキャリアをよりスムーズに両立できる社会を作るうえで、介護業界の役割は非常に重要です。

監修:斉藤 圭一

主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)

神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。 1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職し、介護・福祉分野でのキャリアを本格的にスタートさせる。2007年には立教大学大学院にてMBA(経営学修士)を取得。 以降、訪問介護、居宅介護支援、通所介護、訪問入浴などの在宅サービスをはじめ、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅、さらに障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設など、幅広い福祉サービスの立ち上げ・運営に携わる。 現在は株式会社スターフィッシュ代表取締役として、川崎市麻生区でねこの手(居宅介護支援事業所、訪問介護事業所、訪問看護事業所)を運営。その傍らで介護・福祉分野の専門家として、現場経験と経営視点の双方を活かし、執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。

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