介護現場におけるBCPとは|導入するメリット・作り方・作成時のポイントなどを解説

2026.02.21

2024年以降、すべての介護事業所でBCP(業務継続計画)の策定が義務化されました。BCPとは、非常事態が発生した際に介護事業所のサービスを停止せず、利用者への影響を最小限に抑えるために不可欠なものです。

しかし、「BCPを作る際に何をすればいいのかわからない」「日々の業務に追われ策定まで手が回らない」と感じている施設長や担当者の方も多いでしょう。

そこで本記事では、介護事業所におけるBCPの重要性・作成の手順・導入のメリットなどについて解説します。BCPを実際に作成する際の参考にしてください。

介護におけるBCPの重要性

まずは、介護事業所にとってBCPがなぜ重要なのか確認しましょう。BCPは単なる義務ではなく、利用者と職員に加え、介護事業所そのものを守るための不可欠なツールです。

BCP(業務継続計画)とは

BCPとは「Business Continuity Plan」の略称で、日本語では「業務継続計画」「事業継続計画」と訳されます。これは、自然災害や感染症のまん延といった予測不能な事態が発生した際、事業への影響を最小限に抑えるための計画です。

特に介護サービスのように、中断が利用者の生命や健康に直結する事業では、サービスの継続や早期復旧が重要です。

なお、BCPとよく似た言葉に「防災マニュアル」がありますが、両者の目的は異なります。それぞれの違いは以下のとおりです。

項目BCP(業務継続計画)防災マニュアル
目的事業を継続・早期復旧させること人命の安全確保、被害の軽減(初動対応)
視点経営的視点(経営資源の確保、代替策)安全確保の視点(避難、安否確認)
時間軸発災直後から復旧までの長期間発災直後の短期間
内容中核業務の特定、目標復旧時間、代替戦略避難経路、安否確認手順、初期消火

防災マニュアルが発災直後の人命安全に焦点を当てるのに対し、BCPはどう事業を立て直していくかという経営的な視点を含む、長期的かつ包括的な計画です。

BCPの作成が義務化された背景

2024年にBCP策定が義務化された背景には、近年の大規模な自然災害や新型コロナウイルス感染症のパンデミックがあります。様々な危機が実際に起こったことで、緊急時に介護サービスの提供体制を守ること、利用者への影響を最小限に抑えることが課題となりました。

厚生労働省も2021年の介護報酬改定からBCPの策定を推進するようになり、2024年から完全に義務化されました。

高齢者や障がい者は、災害時には特に支援を必要とする「災害弱者」です。ライフラインが停止したり、介護職員が出勤できなくなったりすることでサービスが中断すれば、利用者の生命は危険にさらされます。

このような背景から、国は介護サービスの提供体制を維持するため、すべての事業所にBCP策定を義務付けました。

参照:令和3年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省
令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

介護現場でBCPを作成するメリット

BCPの作成は、ただの義務の遂行ではありません。介護事業所に以下のようなメリットをもたらします。

  • 利用者と介護職員の安全を守ることにつながる
  • サービスの継続と早期復旧で介護事業を守れる

BCPを作成する意義について、あらためて理解しましょう。

利用者と介護職員の安全を守ることにつながる

BCP策定の最大のメリットは、利用者と介護職員の安全確保です。

緊急事態発生時、何よりも優先されるべきは人命の安全であり、BCPはそのための指針です。行動手順を明確化することで、パニックや混乱を抑制し、冷静かつ迅速な対応を可能にします。

例えば、地震発生時には利用者を安全な場所へ誘導し、必要なケアを継続するための具体的な手順を定めます。また、火災発生時には初期消火・避難誘導・消防への通報など、職員の役割分担を明確化することで、適切な行動を促すだけでなく、二次災害のリスクの低減が可能です。

さらに、BCPは組織全体の防災意識を高め、平常時からの備えを強化する効果も期待できます。定期的な防災訓練や備蓄品の点検などを通じて、緊急時に備える体制を構築します。

利用者と職員双方の安全を守り、組織の信頼性を高めるうえで、BCP策定は不可欠な取り組みです。

サービスの継続と早期復旧で介護事業を守れる

万が一サービスが中断した場合でも、BCPがあれば早期復旧への道筋が明確になります。事前に策定された計画に基づき、迅速かつ効率的に対応できるため、混乱を最小限に抑えられるでしょう。

サービス中断による収益の損失を最小限に抑え、事業を迅速に再開することは、利用者やその家族からの信頼維持に直結します。また業務継続への備えは利用者やその家族だけでなく従業員の安心感にもつながるため、組織全体の安定性も高まるでしょう。

また、緊急事態でもサービスを提供できる体制があるかどうかは、利用者やその家族が介護事業所を選ぶうえで重要な判断材料になります。

BCPを作成しない場合のリスク

一方で、BCPを策定しない、または形骸化させてしまうと、以下のリスクが伴います。

  • 安全配慮義務違反につながる
  • 非常時に信用が失墜する
  • 行政から指導や指定取消を受けるリスクがある
  • 減算の対象になる恐れがある

リスクを把握し、BCP作成の意義を理解しましょう。

安全配慮義務違反につながる

事業者は利用者に対して安全なサービスを提供する義務、すなわち安全配慮義務を負っています。この義務は、単にサービスを提供するだけでなく、利用者の安全を確保するために必要な措置を講じることを意味するものです。

例えば、災害や事故などの緊急事態が発生した場合に、利用者の生命や身体を守るための対策を事前に講じておくことは義務と考えられます。

BCPは、緊急事態においても事業を継続し、利用者の安全を確保するための重要な計画です。BCPを策定せず緊急時に適切な対応ができなかった結果、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。

したがって事業者はBCPを策定し、訓練を実施することで、緊急時における利用者の安全確保に努める必要があります。

非常時に信用が失墜する

緊急時の対応は、事業所の危機管理能力を内外に示す重要な機会です。迅速かつ適切な対応は、利用者やその家族・地域社会からの信頼を確立し、維持するために不可欠です。

初動の遅れや情報提供の不足があると不安や混乱につながり、信頼を大きく損なう可能性があります。

そのため、日ごろから緊急時の対応計画を策定し、定期的な訓練を実施することで、連携を強化することが重要です。また利用者や家族への情報提供体制を整備し、透明性の高い情報公開を心がけることで、信頼関係を構築できます。

緊急時こそ事業所の真価が問われる時であるため、平時からの備えが欠かせません。

行政から指導や指定取消を受けるリスクがある

BCP策定が義務化されたことで、緊急事態においてもサービスを継続するための計画を事前に準備しておかなければいけなくなりました。

そのため、実地指導や監査においてはBCPの策定状況が確認されます。もし未策定や内容の不備が認められた場合、利用者の安全とサービスの継続性を確保するため、行政指導の対象となるでしょう。

行政指導を避けるためにも、事業者は適切なBCPを策定し、定期的に見直す必要があります。行政指導に応じない、あるいは改善が見られないといった悪質な場合には、事業所の指定取消といった厳しい処分が科される可能性もあります。

減算の対象になる恐れがある

2024年度の介護報酬改定で新設された業務継続計画未実施減算は、事業所運営において無視できない減算です。BCPが未策定の場合は介護報酬が減算されるため、事業所の収益に影響する可能性があります。

具体的には、感染症の流行や災害発生時においても、必要なサービスを継続的に提供できる体制を整備しているかが評価されます。未策定の場合は減算によって収入が減少し、人件費や設備投資など事業運営に必要な資金繰りが困難になることも考えられます。

安定的な事業運営のためにも、早急なBCP策定と訓練の実施が不可欠です。

参照:令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

介護現場におけるBCPの作り方

本章では、介護現場におけるBCPの作り方について、以下のステップに分けて解説します。

  • Step1:介護事業所の状況や課題を把握する
  • Step2:分析を通じて優先事項を決定する
  • Step3:必要な対策を検討する
  • Step4:策定した内容を文書化する
  • Step5:BCPを共有・保管する

上記の手順を実施することで、適切なBCPを作成できます。

Step1:介護事業所の状況や課題を把握する

まずは、自施設の置かれている状況を正確に把握することから始めましょう。ステップ1では、以下の取り組みを実施します。

取り組み内容
推進体制の決定誰が中心となってBCP策定を進めるのか、担当者やチームを決める。施設長だけでなく、現場の各職種の職員をメンバーに入れることが重要
リスクの洗い出しハザードマップなどを活用し、事業所がどのような自然災害(地震、水害、土砂災害など)のリスクにさらされているかを確認

Step2:分析を通じて優先事項を決定する

緊急時になるとさまざまなリソースが限られるため、絶対に中断できない業務を特定し、優先順位を決めておく必要があるでしょう。これを「中核業務の特定」と呼びます。

中核業務の特定は、以下のように実施します。

中核業務の例目標復旧時間(RTO)の例
利用者の安否確認発災後1時間以内
服薬介助発災後3時間以内
食事提供発災後6時間以内
排泄ケア随時

どの業務をどのくらいの時間で復旧させるかといった「目標復旧時間(RTO: Recovery Time Objective)」の設定が、計画の具体性を高めます。

Step3:必要な対策を検討する

優先順位が決まったら、実行するための具体的な対策を検討しましょう。対策を検討する際は、「自然災害編」と「感染症編」の2種類のBCPを策定することが重要です。

BCPの種類主なリスクと対策の視点
自然災害編リスク:建物の損壊、ライフライン(電気・水道・ガス)の停止、職員の出勤困難
対策:建物の耐震化、非常用電源や水の確保、緊急連絡網の整備、備蓄品の確保
感染症編リスク:職員の不足、利用者・職員の感染、衛生用品の不足、風評被害
対策:感染防止体制の構築(ゾーニング等)、職員の応援体制、衛生用品の備蓄、情報発信

それぞれのシナリオに合わせて、具体的な対応手順を計画に落とし込んでいきます。

Step4:策定した内容を文書化する

検討した内容を、誰が見てもわかるように計画書として文書化することも重要です。

ゼロから作成するのは大変ですが、厚生労働省が介護事業所向けのひな形(テンプレート)を公開しています 。これを活用し、自施設の実情に合わせて内容を追記・修正していくのが効率的です。

参考:厚生労働省 BCP作成

Step5:BCPを共有・保管する

BCPは策定して終わりではなく、全職員がその内容を理解し、万が一のときに活用できなければ意味がありません。定期的な研修会を開いて内容を周知徹底し、いつでも誰でも確認できるようわかりやすい場所に保管しましょう。

災害時に備え、紙とデータの両方で保管しておくことが理想的です。

介護現場でBCPを作成する際のポイント

BCP策定をよりスムーズに行い、実効性の高いものにするためのポイントを3つ紹介します。

  • BCP作成委員会を設立する
  • 厚生労働省の業務継続ガイドラインを参照する
  • 災害発生時・感染症発生時それぞれの対応を検討する

BCP作成委員会を設立する

BCPの策定は担当者個人に任せるのではなく、施設長・管理者・看護職員・介護職員・事務職員など、さまざまな職種のメンバーによる委員会を設置して進めましょう。多角的な視点からリスクや課題を洗い出すことで、現場の実態に即した実用的な計画になります。

また、策定プロセスに関わることで、個々の介護職員の当事者意識も高まります。

厚生労働省の業務継続ガイドラインを参照する

厚生労働省はBCP策定を支援するために詳細なガイドラインを公開しているので、初めてBCPを策定する際は積極的に活用しましょう。

ガイドラインには、策定の考え方から具体的な記載項目まで、必要な情報が網羅されています 。策定に行き詰まった際には、このガイドラインに立ち返ることで、多くのヒントを得られます。

参考:厚生労働省 介護施設・事業所における業務継続計画

災害発生時・感染症発生時それぞれの対応を検討する

自然災害と感染症では、直面する課題や必要な対応が大きく異なります。例えば、自然災害では物理的なインフラの復旧が重要ですが、感染症では人的リソースの確保や感染拡大防止策が最優先です。

それぞれの特性を理解し、シナリオに応じた具体的な対応策を検討することが、BCPの実効性を高める鍵です。

梅沢 佳裕 氏
梅沢 佳裕 氏

介護現場におけるBCP(業務継続計画)は、自然災害や感染症などの非常時においても、利用者の生命と生活を守り、必要な介護サービスを継続・早期再開するための基本的な備えです。重要なのは、単に計画書を作成することではなく、現場の実情に即した内容になっているか、職員一人ひとりが自分の行動として理解できているかという点です。平常時から役割分担や連絡体制、優先業務を整理し、定期的な研修や訓練を通じて確認しておくことで、いざという時の混乱を最小限に抑えることができます。また、利用者の状態変化や人員不足を想定した判断基準を共有しておくことも、現場の安心につながります。さらに、訓練後に振り返りを行い、計画を見直していくことで、BCPは形骸化を防ぎ、実効性のあるものになります。BCPは「非常時のための特別な計画」ではなく、日頃の業務を見直し、組織の弱点を可視化するための実践的なツールとして捉えることが大切です。

まとめ:BCPはより良い介護事業所を実現する

BCPの策定は、単に義務を果たすための作業ではありません。利用者と介護職員の命を守り、地域に不可欠な介護サービスを守り抜くための重要な経営戦略です。

より良いBCPを作成するには、さまざまなポイントを理解しておく必要があります。本記事を参考に、非常時に役立つBCPを作成してください。

監修:梅沢 佳裕

人材開発アドバイザー

介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

介護・福祉に関連するコラム

資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら
検討に役立つ資料をダウンロード

製品・ソリューションの詳細がわかる総合パンフレットを無料でご覧いただけます

ダウンロードはこちら