老人ホームの開業を成功させるには|資格や必要な資金などを解説
2025.05.22

高齢化が深刻な日本において、老人ホームの需要は高まる一方です。
しかし、 老人ホームの開業には多額の資金・専門知識・ 複雑な法規制への対応が不可欠であり、 「何から始めればいいのかわからない」 と感じる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、 老人ホームの種類や市場状況といった基礎知識から、 開業に必要な資金・資格・ 許可申請・ 法規制まで、 開業を成功させるために必要な情報を網羅的に解説します。
老人ホーム開業の全体像を把握し、 スムーズな開業に向けて具体的な一歩を踏み出すためにも、ぜひ参考にしてください。
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目次
そもそも老人ホームとは

老人ホームの開業を検討するにあたり、まずは老人ホームとはどのような施設なのか、その種類や市場状況について理解を深めていきましょう。
老人ホームの種類
老人ホームは、大きく分けて公的施設と民間施設があります。
代表的な老人ホームの種類は以下のとおりです。
種類 | 概要 | 対象者 |
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設) | 常に介護が必要な高齢者のための公的施設。食事・入浴・排泄などの介助や、機能訓練・健康管理などを行います。 | 原則として要介護3以上の方 |
介護老人保健施設 | 在宅復帰を目的とした公的施設。リハビリテーションや医療ケアを提供し、在宅生活への復帰を支援します。 | 要介護1以上の方 |
介護付き有料老人ホーム | 介護が必要な高齢者のための施設。食事・入浴・排泄などの介助や、機能訓練・健康管理などを行います。24時間体制で介護スタッフが常駐しています。 | 自立・要支援・要介護の方 |
住宅型有料老人ホーム | 生活支援サービスを提供する施設。食事・洗濯・掃除などのサービスを提供します。介護が必要になった場合は、外部の介護サービスを利用できます。 | 自立・要支援の方 |
サービス付き高齢者向け住宅 | バリアフリー構造で、安否確認や生活相談サービスを提供する賃貸住宅。介護が必要になった場合は、外部の介護サービスを利用できます。 | 自立・要支援の方 |
グループホーム | 認知症高齢者が少人数で共同生活を送る施設。家庭的な雰囲気の中で、食事の準備や掃除などを共同で行います。 | 認知症の診断を受けた方 |
養護老人ホーム | 経済的な理由や環境上の理由で、自宅での生活が困難な高齢者のための公的施設。 | 65歳以上で、経済的に困窮している方 |
それぞれの施設の特徴を理解し、入居者の状況やニーズに合った施設を選ぶことが大切です。
老人ホームの市場状況
高齢化の進展に伴い、老人ホームの需要は年々増加しています。
以下の表を見てみましょう。
今後も高齢者人口は増加していくと予測されており、老人ホームの需要はさらに高まっていくと考えられます。
一方で、施設の供給が需要に追いついていない状況や、介護人材の不足といった課題は無視できません。
老人ホームの開業にあたっては、市場動向を把握し、将来を見据えた事業計画を立てることが重要です。
老人ホームの開業に必要な基礎知識

老人ホームの開業を検討するうえで、まず把握しておくべき基礎知識があります。
本章では、開業資金の目安・必要な資格と許可申請・知っておくべき法規制について解説するので、ぜひ参考にしてください。
老人ホームの開業資金の目安
老人ホームの開業には、物件取得費・建設費・設備費・人件費・運営費など、多岐にわたる費用が発生します。
開業資金の目安は、施設の規模や種類によって大きく異なりますが、一般的には数千万円から数億円規模になることがほとんどです。
費用の種類 | 費用の目安 | 備考 |
土地取得費・賃借料 | 数百万円~数億円 | 土地の取得または賃貸にかかる費用。地域や広さによって大きく変動 |
建物建設費/改修費 | 数千万円~数億円 | 新築または既存の建物を改修する場合にかかる費用。バリアフリー化なども含む |
設備購入費 | 数百万円~数千万円 | 介護用ベッド・リフト・厨房設備・事務機器などの購入費用 |
運転資金 | 数百万円~数千万円 | 人件費・光熱費・食費・広告宣伝費など、運営に必要な費用。3カ月~6カ月分程度を確保 |
内訳としては、土地取得費または賃借料・建物の建設費または改修費・設備購入費・運転資金などが挙げられます。
特に、土地や建物の費用は大きな割合を占めるため、慎重な検討が必要です。
物件の選定や確保・資金調達・行政許認可の手続き・スタッフ採用と研修など多数のステップを踏む必要があり、1~2年ほどの準備期間がかかると想定されます。
老人ホーム開業に必要な資格と許可申請
老人ホームを開業するには、介護保険法や老人福祉法などの法律に基づいた許可や指定を受ける必要があります。
特別養護老人ホームなど介護保険の指定施設の場合は、市区町村の介護保険事業計画に沿って設立準備を進める必要があります。
まず、老人ホームの開設には、都道府県知事の許可が必要です。
許可を得るためには、法人格を有していること・施設の設備や人員配置が基準を満たしていることなど、さまざまな要件を満たす必要があります。
開業の要件は、老人福祉法や介護保険法などの法律で定められていますので、事前に確認しておきましょう。
人員基準に関しては、介護職員・看護職員・機能訓練指導員・生活相談員・栄養士などの配置が義務付けられています。
必要な人員数は、施設の種類や規模・入居者の状況によって異なります。
また、各職種には、介護福祉士・看護師・理学療法士・社会福祉士などの資格要件が定められている場合があるため、注意が必要です。
職種 | 必要な資格 | 備考 |
施設長/管理者 | 特になし (社会福祉主事任用資格などが望ましい) | 施設運営の責任者。経験や知識が求められる |
介護職員 | 介護職員初任者研修・介護福祉士など | 入居者の生活支援や身体介護を行う |
看護職員 | 看護師・准看護師 | 入居者の健康管理や医療的ケアを行う |
生活相談員 | 社会福祉士・精神保健福祉士など | 入居者や家族の相談に応じ、支援計画を作成する |
許可申請の手続きは、都道府県や市区町村によって異なります。
事前に担当窓口に相談し、必要な書類や手続きを確認しましょう。
また、申請には時間がかかる場合があるため、余裕を持って準備を進めることが大切です。
開業する際に知っておくべき法規制
老人ホームの運営には、さまざまな法規制が適用されます。
法規制の遵守は、安全で質の高いサービスを提供するために不可欠です。
老人ホームの運営では、老人福祉法・介護保険法・消防法・建築基準法など、多岐にわたる法律が関係します。
これらの法律は、施設の設備基準・人員配置基準・運営基準などを定めており、違反した場合には、行政指導や罰則が科せられることがあります。
もちろん、法規制は常に改正される可能性があるため、最新の情報を把握しておくことが重要です。
特に、介護保険法に基づく指定を受けるためには、厳しい基準を満たす必要があります。
指定を受けることで、はじめて介護報酬を受け取れるため、安定的な経営につながります。
しかし、指定基準を満たせない場合や、不正な運営を行った場合には、指定を取り消されることもあるため、注意が必要です。
法規制遵守のためには、専門家(弁護士・行政書士・社会保険労務士など)のサポートを受けることも有効です。
専門家は、法規制に関する最新の情報を提供してくれるだけでなく、適切な対策をアドバイスしてくれます。
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老人ホーム開業までの流れ

老人ホームの開業は、以下の流れで実施します。
- 事業計画策定
- 資金調達方法の検討
- 施設や設備の確保
- スタッフの確保
- 地域包括支援センターや病院との連携
- 運営準備
いずれのステップも適切に実施すべきものです。
それぞれ順番に解説します。
事業計画策定
最初のステップは、綿密な事業計画の策定です。
事業計画は、老人ホームのコンセプト・ターゲット層・提供するサービス・収支計画などを明確にするための指針となります。
以下の項目を具体的に検討しましょう。
コンセプト設計 | どのような老人ホームにするのか、特徴や強みを明確にします。 |
ターゲット層の選定 | 介護度・年齢層・経済状況などを考慮し、ターゲットとする入居者を明確にします。 |
提供サービスの明確化 | 食事・入浴・レクリエーション・医療連携など、提供するサービス内容を具体的に決定します。 |
収支計画の作成 | 入居率・利用料金・運営コストなどを算出し、収益性を評価します。 |
資金調達方法の検討
老人ホームの開業には多額の資金が必要です。
自己資金だけでなく、融資や補助金など、さまざまな資金調達方法を検討する必要があります。
代表的な資金調達方法は以下のとおりです。
- 金融機関からの融資
- 投資
- 助成金・補助金
事業計画に基づいて、必要な資金を明確にし、最適な資金調達方法を選びましょう。
施設や設備の確保
老人ホームの開業には、適切な施設と設備の確保が不可欠です。
物件の選定や購入(場合によっては建設)に加え、必要な設備の導入を進めます。
老人ホームの設立には、床面積の規定・トイレや洗面設備などの設置・バリアフリー化などさまざまな条件があるため、一般的な内装工事よりも費用がかかることを考慮しましょう。
スタッフの確保
質の高い介護サービスを提供するためには、経験豊富なスタッフの確保が重要です。
介護職員・看護師・機能訓練指導員など、必要な人材を確保し、研修を実施します。
昨今は少子化の影響もあって、人材の確保が困難です。
求人広告や人材紹介会社などを活用し、多方面から人材を集めましょう。
もちろん、研修制度や福利厚生を充実させることなど、人材の定着率を上げる施策も欠かせません。
地域包括支援センターや病院との連携
地域包括支援センターや病院との連携は、入居者のQOL(生活の質)向上や、容態が急変した際の対応をするうえでも欠かせません。
地域の医療機関や福祉施設と連携し、入居者の健康管理や緊急時の対応体制を構築しましょう。
運営準備
開業に向けて、運営に必要な準備を整えます。
各種許認可の取得・運営マニュアルの作成・広報活動などを実施しましょう。
運営準備の段階で実施すべき取り組みは以下のとおりです。
許認可の取得 | 有料老人ホーム設置の届け出など、必要な許認可を取得します。 |
運営マニュアルの作成 | 業務内容・緊急時対応・事故防止対策などをまとめた運営マニュアルを作成します。 |
広報活動 | ホームページ作成・パンフレット配布・見学会開催などを通じて、入居希望者や地域住民にアピールします。 |
老人ホームの開業を成功させる4つのポイント

老人ホームの開業を成功させるためには、以下の4つのポイントを押さえることが重要です。
- 差別化や満足度を意識した入居率の向上
- 人材確保を徹底する
- 法規制は必ず遵守する
- ICT導入を推進する
それぞれのポイントについて、順番に解説します。
差別化や満足度を意識した入居率の向上
老人ホームの経営において、入居率の向上は収益に直結する最重要課題です。
競合施設との差別化を図り、入居者とその家族の満足度を高めることが、安定した経営の基盤となります。
入居率を向上させる際は、以下の取り組みが有効です。
独自の強みを打ち出す | ほかの施設にはない、独自のサービスや特色を明確に打ち出しましょう。例えば、リハビリに特化したプログラム・認知症ケアの専門性・地域交流を重視したイベントなどが考えられます。 |
ターゲット層を明確にする | どのような層の入居者をターゲットとするかを明確にすることで、効果的なアプローチが可能です。例えば、アクティブシニア向け、介護度の高い方向けなど、ターゲット層に合わせた施設づくりやサービスを提供しましょう。 |
快適な居住環境を提供する | 清潔で安全な環境はもちろん、プライバシーに配慮した個室・明るく開放的な共用スペースなど、快適な居住環境を提供することが重要です。 |
質の高いサービスを提供する | 介護・食事・レクリエーションなど、入居者のニーズに合わせた質の高いサービスを提供しましょう。定期的なアンケートや面談などを通じて、入居者の満足度を把握し、改善に努めることが大切です。 |
質の高いサービスを提供する | 介護・食事・レクリエーションなど、入居者のニーズに合わせた質の高いサービスを提供しましょう。定期的なアンケートや面談などを通じて、入居者の満足度を把握し、改善に努めることが大切です |
積極的な情報発信を行う | ホームページの充実・ブログやSNSでの情報発信・地域イベントへの参加などを通じて、施設の魅力を積極的にアピールしましょう。 |
人材確保を徹底する
介護業界全体で人材不足が深刻化する状況で、質の高い介護サービスを提供するためには、優秀な人材の確保が不可欠です。
多方面から採用するだけでなく、残業時間の削減・育児や介護休業制度の充実など、働きやすい職場環境を整備しましょう。
また、キャリアアップ支援を充実すれば、スタッフの定着率の向上が期待できます。
法規制は必ず遵守する
老人ホームの運営には、介護保険法・建築基準法・消防法など、さまざまな法規制が適用されます。
これらの法規制を遵守することは、安全な施設運営の基本であり、信頼性を高めるうえでも不可欠です。
万が一、法規制に違反し、意図的に隠ぺいした際は資格を取り上げられるだけでなく、罰則が課せられるリスクがあります。
ICT導入を推進する
ICT(情報通信技術)の導入は、業務効率化・情報共有の促進・サービスの質の向上など、老人ホームの運営にさまざまなメリットをもたらします。
以下のように積極的にICTを導入し、より質の高い介護サービスを提供しましょう。
介護記録システムの導入 | 入居者のバイタルデータ・食事・排泄・服薬状況などを記録する介護記録システムを導入することで、情報共有がスムーズになり、業務効率が向上します。 |
見守りセンサーの導入 | 入居者の睡眠状況・離床状況などを検知する見守りセンサーを導入することで、夜間の巡回業務を効率化し、転倒事故などを防止できます。 |
コミュニケーションツールの導入 | 職員間の情報共有や、入居者・家族とのコミュニケーションを円滑にするためのコミュニケーションツールを導入しましょう。 |
オンライン診療の導入 | 医師によるオンライン診療を導入することで、通院の負担を軽減し、早期発見・早期治療につなげられます。 |
事務処理の効率化 | 会計ソフト・給与計算ソフトなどを導入することで、事務処理を効率化し、人件費を削減できます。 |
老人ホームを開業するならワイズマンの介護ソフトを活用しよう

老人ホームを開業するなら、ぜひワイズマンの有料老人ホーム管理システムSPをご活用ください。
ワイズマンの有料老人ホーム管理システムSPは、有料老人ホームの業態に合わせて開発された介護ソフトです。
煩雑になりがちな事務作業や請求作業などを効率化し、スタッフの業務負担を軽減する効果が期待できます。
加えて、効率的な申し送りによるスムーズな情報共有や、入居率の集計などのデータを利用した経営分析にも対応が可能です。
老人ホームを開業する際は、ぜひ導入をご検討ください。

高齢化が深刻化する日本において、老人ホームの需要は一層高まっています。しかし、その開業は容易ではなく、数千万円から数億円規模に及ぶ巨額の資金が必要となるほか、介護保険法や老人福祉法など、複雑な法規制への対応や厳格な許可・指定の取得が不可欠であり、専門知識も求められます。また、施設の供給が需要に追いつかない状況や、深刻な介護人材の不足も大きな課題です。このような状況下で開業を成功させるには、競合施設との差別化による入居率向上、優秀な人材の確保と定着、法規制の確実な遵守による信頼性向上、そして業務効率化やサービス向上に繋がるICT導入の推進が必要です。また特養ホームなど介護保険施設の設立にあたっては、市区町村介護保険事業計画に沿うことも重要です。綿密な事業計画の策定から運営準備に至る各ステップを適切に進めることが、成功への鍵となるでしょう。
なお、株式会社ワイズマンでは「介護・福祉向け製品総合パンフレット」を無料で配布中です。
手軽に業務改善を始めたいとお考えの方は、ぜひご活用ください。
ポイントを押さえて老人ホームのスムーズな開業を目指そう

老人ホームの開業は、資金や建物・設備を用意するだけでなく、さまざまな法規制を踏まえて実施する必要があります。
老人ホームの開業は1年~2年程度かかるため、綿密な計画を策定して取り組みましょう。
もちろん、開業後は経営を安定させるためにも、利用者の入居率向上は不可欠です。
ほかの施設との差別化したり、サービスの質を向上させたりすることは、より多くの利用者を集めるきっかけになります。
本記事で伝えた内容を参考に、ぜひ理想的な老人ホームの開業を実現してください。

監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。