【事業者向け】有料老人ホームの収支シミュレーション|施設経営は儲かる?
2024.04.30
超高齢化社会の現代、日本国内では介護需要が増え続けています。
2025年には人口の3人に1人が、65歳以上の高齢者になるとも言われています。
そのため、所有している土地を有効活用し、有料老人ホームに投資しようと考える方も多いでしょう。
しかし、有料老人ホームを経営するには多額の投資が必要になるため、本当に儲かるかを気にしている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、有料老人ホームを経営するメリット・デメリットと将来性、収益構造などについて詳しく解説します。
これから有料老人ホームの経営を考えている方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
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目次
有料老人ホームとは?

有料老人ホームには複数の種類があり、それぞれ定義も異なります。
本章では、有料老人ホームの定義と種類について解説します。
有料老人ホームの定義
有料老人ホームとは、利用者の心身の健康保持及び、生活の安定のために設けられている施設です。
これは、老人福祉法第29条第1項の規定に基づいています。
次のうちいずれか1つ以上のサービスを提供している施設を指します。
- 食事の提供
- 介護(入浴・排泄・食事)の提供
- 洗濯・掃除など家事の提供
- 健康管理
有料老人ホームの種類
有料老人ホームには下記のように複数の種類があります。
- 介護付き有料老人ホーム
- 住居型有料老人ホーム
- 健康型有料老人ホーム
入居者のニーズに応じて選択でき、種類ごとにサービス内容や料金もさまざまです。
どのような内容かそれぞれ簡単に解説します。
介護付き有料老人ホーム
介護付き老人ホームは、その名のとおり、介護サービスを提供する高齢者向けの居住施設です。
介護等が必要となっても、ホームが提供する介護サービスである特定施設入居者生活介護または地域密着型特定施設入居者生活介護を利用しながら、ホームでの生活を継続できます。
住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームは、生活支援等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設で、比較的元気な高齢者の利用に向いています。
もし介護が必要となった場合は入居者自身の選択により、地域の訪問介護等の介護サービスを利用しながら、ホームでの生活を継続できます。
健康型有料老人ホーム
健康型有料老人ホームは、自立して生活できる高齢者向けの居住施設です。
介護認定が必要になる、あるいは要介護状態になった場合には、契約を解除して退去を求められる施設が一般的です。
高齢化が進行している日本では、要介護者を対象とした施設へのニーズが強く、健康型施設への投資を選ぶ事業者は限られています。
そのため、健康型有料老人ホームは介護付きや住宅型と比べて圧倒的に少なく、全国的にも非常に数が少ない点が特徴的です。
有料老人ホームの収支シミュレーション|収益構造とは?

有料老人ホームを経営するためには収益構造を理解し、適切な収支によって効率的に収益を得ることが重要です。
本章では、有料老人ホームの収益構造を解説し、実際の収支例を紹介します。
有料老人ホームの主な支出
有料老人ホームの経営に必要な費用には大きく分けて、経営を開始するまでに必要な初期費用と、経営を継続するために必要な管理費用があります。
初期費用
有料老人ホームを経営するためには、一般的に高額な初期費用が必要になります。
土地の購入費、建物の建築費や会社設立に関する費用などが主な初期費用です。
その他にも設備費用、求人費用など、経営を開始するまでに整備が必要なものが初期費用に含まれます。
| 費用項目 | 相場 |
| 土地購入費 | 1億円 |
| 建築費 | 2~4億円 |
| 設備費 | 2,000~3,000万円 |
| 広告宣伝費 | 200~300万円 |
| 求人費 | 200~300万円 |
管理費用
管理費用は、有料老人ホームの経営を開始してから継続的に必要になる費用です。
人件費、施設の維持管理費、食事やその他サービス関連費など、サービスを維持するためにさまざまな費用がかかります。
また、土地や建物を維持するために固定資産税の支払いも必要です。
| 費用項目 | 相場 |
| 人件費 | 売上の40~50%程度 |
| 施設維持管理費 | 20~30万円 |
| 食費 | 80~130万円 ※入居者数30名程度の場合 |
| 固定資産税 | 土地建物の評価額の1.4% |
有料老人ホームの収支例
以下で、介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護の指定あり)の収支をシミュレーションしてみましょう。
なお、介護付きと住宅型のどちらかによって収益構造は根本的に異なります。
次の条件をもとに、1カ月の収支を試算してみます。
- 入居者数: 30名
- 入居一時金: 300万円
- 月額利用料: 24万円
※入居一時金、月額利用料は、介護付き有料老人ホームの費用相場の平均的な値を用いています。
収入
1カ月の主な収入は、入居者から支払われる月額利用料と、入居一時金の償却額です。
ここでは、初期償却率を30%、償却期間を60カ月として、1カ月あたりの償却額を計算しています。
| 収入 | 金額 | 計算・備考 |
| 月額利用料 | 720万円 | 24万円 × 30名 ※家賃、管理費、食費、介護報酬などが含まれる |
| 入居一時金償却 | 105万円 | 初期償却額: 90万円(入居一時金の30%) ※1人あたり 1カ月の償却額:(300万円 - 90万円)÷ 60カ月 = 35,000円 ※1人あたり 35,000円 × 30名 |
※入居者全員がまだ償却期間を経過していないものとします。
また、途中退去は発生していないものとしています。
支出
次に、支出をシミュレーションしてみましょう。
1カ月の主な支出項目は、人件費、食費、施設の維持管理費、固定資産税などがあります。
| 支出 | 金額 | 計算・備考 |
| 人件費 | 375万円 | 25万円 × 15名 ※入居者の要介護度などによって必要な介護スタッフの人数が変わるが、 入居者:介護スタッフを3:1とし、事務スタッフを含め15名の人件費が 必要となる場合 |
| 食費 | 128万円 | 委託料: 65万円 食単価: 700円/日 700円 × 30名 × 30日 = 63万円 ※給食業者に委託した場合 自前で調理する場合は食材費、人件費、厨房管理費などがかかる |
| 施設の維持管理費 | 10~30万円 | 備品の管理や建物の維持にかかる費用 |
| 広告宣伝・事務経費 | 10~30万円 | ネット広告などの作成、掲載にかかる費用 |
| 固定資産税 | 不動産の評価額×1.4% | 年4回納付。自治体によって納付時期が異なる場合がある |
有料老人ホーム経営の現状と将来性

本章では、有料老人ホーム経営に関する現状と将来性について解説します。
有料老人ホームの施設件数は増加傾向
在宅での生活が難しく、介護施設への入居を考える方が増加しています。
しかし、特別養護老人ホームなど公的な介護施設は入居希望者が多く、すぐには入居できないこともめずらしくありません。
そのため、近年では民間経営の有料老人ホームが増え、受け皿となっています。
有料老人ホームの施設は現在も増加傾向が続いていますが、その理由としては介護保険制度が創設され、民間事業者が参入しやすくなったことが挙げられるでしょう。
また、定員要件の緩和や対象サービスの増加により、有料老人ホームに該当する対象施設が増えたことも要因の1つです。
日本国内では今後も少子高齢化の傾向が続き、高齢者人口が増加するため、有料老人ホームの施設をはじめ介護需要の将来性はあるでしょう。
しかし、需要の増加に伴う大きな課題とも向き合っていかなければなりません。
ただ、介護人材・入居者の確保が難しい
高齢者人口の増加によって必要とされる介護人材は増えていますが、実際の介護人材は減少しているのが現状です。
そのため、採用競争の激化によって必要な人員の確保が困難になっています。
また、人間関係や労働環境、報酬などに問題を感じている人が多く、離職率が高い傾向にあることも介護人材の確保が難しい要因です。
一方、有料老人ホームの経営において、入居者を確保することは収益を安定させる上で非常に重要です。
しかし、現在も有料老人ホームの施設件数は増加し続けています。
そのため、入居者を確保して高い入居率を維持していくのは決して簡単とは言えません。
介護人材、入居者をいかに確保するかは、有料老人ホームの経営を成功させるための重要な課題と言えるでしょう。
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有料老人ホームを経営するメリット・デメリット

有料老人ホームを経営するなら、メリットとデメリットを把握しておくことが重要です。
なぜなら、メリットを活かしつつ、デメリットに対策を講じることでより効果的な経営ができるからです。
本章では、有料老人ホームを経営するメリットとデメリットについて解説します。
有料老人ホームを経営するメリット
有料老人ホームを経営するメリットとしては、次の2点が挙げられます。
- 安定的に収益を得やすい
- 立地条件が厳しくない
それぞれ詳しく見ていきましょう。
安定的に収益を得やすい
日本は今後も高齢化が進み、介護サービスの需要が続く見込みです。
そのため、介護需要を前提にした有料老人ホームは長期的に需要が期待でき、一般の賃貸住宅より長期入居や複数の収入源(家賃・管理費・食費・一時金・介護サービス費など)で収益を構築しやすいという利点があります。
ただし、以下のように収益を左右する要因が多数あり、これらを踏まえた慎重な事業計画が不可欠です。
- 初期投資(建設・改修費)の大きさ
- 人件費や介護報酬制度への依存
- 地域の需要差
- 空室リスク
- 行政監査・指導リスク
なお、補助金・助成金については、国や自治体が介護保険事業計画に基づいて補助公募を行っている例があり、条件に合致すれば補助を受けられる場合があります。
補助の有無・内容・条件は自治体・年度ごとに異なるため、該当する自治体の公募要領や窓口で最新情報を確認しましょう。
立地条件が厳しくない
老人ホームの立地は一般の賃貸住宅と違い、駅や商業施設に近いなどの利便性はあまり求められません。
むしろ、騒音が少なく自然が豊かな環境が好まれるため、立地条件が良くない土地でも問題なく活用できるでしょう。
郊外にある程度の広さの土地を持っている方は、有料老人ホームとしての利用を検討してみてはいかがでしょうか。
有料老人ホームを経営するデメリット
有料老人ホームを経営するデメリットとしては、主に次の点が考えられます。
- 高額な初期費用が必要
- 委託先の事業者探しや人材確保が難しい
- 介護保険制度の改定によって報酬が変動する可能性がある
こちらもそれぞれ、詳しく見ていきましょう。
高額な初期費用が必要
有料老人ホームでは大きな建物が必要になるため、建設にかかる費用が高額です。
また、土地を持っていない場合は土地の購入費もかかります。
そのため、ゼロから事業を始めるには多額の資金が必要であり、外部から借り入れた場合は返済が必要です。
その他にも設備の購入や、介護人材の採用にかかる費用など、サービスの開始までに高額な初期投資が必要です。
委託先の事業者探しが難しい
自身に経営ノウハウがある場合は別ですが、一般的には介護事業を行う企業へ委託します。
しかし、優良な事業者を見つけるのは簡単ではありません。
過去の営業実績などをリサーチしながら慎重に判断すべきでしょう。
介護保険制度の改定によって報酬が変動する可能性がある
有料老人ホームの収入には介護保険の受給が含まれます。
そのため、介護保険制度の内容が変わると影響を受けます。
今後、介護保険制度が改定されることによって、報酬額が変動する可能性があることは考慮しておくべきでしょう。
有料老人ホーム経営で求められる基準

有料老人ホームを設立し、経営するには必要な設備や居室の面積、人員配置などのさまざまな基準が設けられています。
本章では、有料老人ホームを経営するために必要な基準について見ていきましょう。
有料老人ホームの設置基準
有料老人ホームを設立するためには、高齢者が安心して生活できる環境を整えるために必要な設備の基準が設けられています。
具体的には、下記の居室及び設備を設置することが定められています。
<居室>
- 一般居室
- 介護居室
- 一時居室
<設備>
- 浴室
- 洗面設備
- 便所
- 食堂
- 医務室又は健康管理室
- 看護・介護職員室
- 機能訓練室
- 談話室又は応接室
- 洗濯室
- 汚物処理室
- 健康・生きがい施設
上記以外にも、下記のように具体的な基準が定められています。
- 居室はすべて個室とし、1人あたりの床面積が13平方メートル以上とすること
- 要介護者等が使用する便所は、居室内又は居室のある階ごとに居室に近接して設置すること
- 便所には緊急通報装置等を備えるとともに、身体の不自由な者が使用するのに適したものとすること
詳しくは、厚生労働省が公開している下記の指針を参照してください。
参考:『有料老人ホームの設置運営標準指導指針について』(厚生労働省)
有料老人ホームの人員配置基準
有料老人ホームのうち住宅型有料老人ホームには、介護人員の配置に関する全国統一の基準は設けられていません。
施設が提供するサービス内容に応じ、必要と判断されるスタッフを配置することで要件を満たす仕組みとなっています。
なお、一部の自治体では独自の運用基準や追加要件を定めているケースもあります。
一方、介護付有料老人ホームでは人員の配置に関して、介護保険法に基づく最低基準が設定されています。
介護付有料老人ホームに必要な人員配置基準を、下記の表にまとめました。
| 管理者 | 1人(兼務可) |
| 生活相談員 | 要介護者等100人に対して1人 |
| 看護・介護職員 | 要支援者10人に対して1人 要介護者3人に対して1人 ※ただし看護職員は要介護者等が30人までは1人、30人を超える場合は、50人ごとに1人 ※夜間帯の職員は1人以上 |
| 機能訓練指導員 | 1人以上(兼務可) |
| 計画作成担当者 | 介護支援専門員1人以上(兼務可) ※ただし、要介護者等100人に対して1人が標準 |
特養の待機者数は25.3万人(令和4年度特別養護老人ホームの入所申込者の状況より)となっています。この数値の見方はそれぞれだと思いますが、平成31年実施の同調査と比較すると、実に3.9万人減少しています。結果、特養全体の17%以上に空室があるというデータも存在します。特養が集客に苦戦するという一昔前には考えられない事態になっていることがわかります。その要因は色々あるのですが、そのひとつに「競合施設の増加」が挙げられるでしょう。価格帯にもよりますが、有料老人ホームも特養の競合施設です。ターゲットが特養と被っている有料老人ホームの場合は、どこかで差別化を図らないと選ばれる施設になるのは困難でしょう。ましてや、今後目の肥えた団塊の世代が顧客となっていくので、事前のコンセプトメイクが非常に重要です。
なお、株式会社ワイズマンでは収益率改善・人材不足解消・業務効率化につながる「ICT導入による介護DX完全ガイド」を無料で配布中です。
介護業界導入されるICTや導入の進め方などについて解説していますので、ぜひご覧ください。
近年の有料老人ホーム経営ではICT活用が注目

少子高齢化が進む現在、介護を必要とする人口は増え続けている一方、労働人口の減少によって介護業界は人材不足が深刻化しています。
少ない人材で介護業務をこなすためには業務の効率化が欠かせません。
もちろん有料老人ホームの経営においても、安定して収益を上げるためにはICTを活用した業務の効率化が必要です。
ワイズマンでは、医療・介護・福祉をトータルにサポートするシステムを提供しています。
なかでも、介護施設の経営に必要な各種機能を搭載した『介護老人保健施設管理システムSP』『介護老人福祉施設管理システムSP』を活用すれば、有料老人ホームの業務効率化が期待できます。
まとめ

有料老人ホームはアパートやマンションなど一般の賃貸住宅とは異なり、高齢者が安心して生活できる環境が整備できれば立地条件などによらず高い収益が期待できます。
しかし、広い土地や建物、高齢者の生活に配慮した設備が必要です。
そのため、思った以上に初期費用がかかることも十分に考えられるでしょう。
有料老人ホームの経営で安定的な収益を得るためには綿密な計画を立て、いかに費用を削減して効率的な運営をするかが重要です。
有料老人ホームの経営に必要な費用やメリット・デメリット、運営の基本について深く理解し、安定的に収益を得られるようしっかり計画を立ててください。
監修:伊谷 俊宜
介護経営コンサルタント
千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

