2023.02.10
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【斉藤正行のはなまる介護】「介護報酬改定に大きな影響を及ぼす最新の収支差率が公表」

令和5年2月1日に、令和4年度介護事業経営概況調査の結果が公表されました。同時に令和5年度介護事業経営実態調査の予定も示されました。この調査は、報酬改定の前年に実態調査が行われ、残る年は概況調査が毎年行われています。詳細な介護事業の経営状況の調査ですが、皆さんもよく目にしている介護報酬改定の単位を決める根拠となる「収支差率」もこの調査の一環として示されます。収支差率は文字通り、介護事業の収入と支出の差額の収入に占める割合であり、つまりは利益率です。

調査内容は6つ。「①介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握およびICTの活用状況に対する調査研究事業」次期報酬改定において、改めて感染症対策やBCPに対する対応を求められていくことが予測されます。同様に、更なるICT化の推進へと繋がることともなります。「②介護老人保健施設及び介護医療院におけるサービス提供実施等に関する調査研究事業」昨年末に介護保険部会で取りまとめられた介護保険制度に対する意見書において、老健・介護医療院の多床室の室料負担を特養と同等の扱いとすることについては、方向性の議論が決着せずに本年の夏ごろの決着方針が示されたところです。本調査事業の速報値がこの議論の決着に何らかの影響を及ぼすこととなるかどうかは1つの注目ポイントと言えます。「③個室ユニット型施設の整備・運営状況に関する調査研究事業」前回改定において個室ユニット型特養の定員上限が10名以下から、概ね10名以下とし15人を超えないものとするとの一部要件緩和が行われました。この影響調査を進める事業となり、今後の人員配置要件の緩和等にも一定の影響を及ぼす可能性のある大変重要な調査事業となります。

この度公表された令和4年度調査データは、令和3年4月~令和4年3月までの介護事業の経営調査です。収支差率については、まず今回、介護サービスの全サービス平均が3.0%でした。この前年の調査では3.9%でしたので利益率は0.9%悪化したことになります。これは大きく2つの要因が考えられます。1つは介護人材不足の影響による人件費、採用費、労務管理費等の増加です。2つは、コロナ禍の影響によるかかり増し経費の増加と、利用者の利用控えによる売上の減少です。この2つの要因から、利益率が低下しており、介護事業者の足元の収益環境が厳しくなっていることが改めて示される形となりました。更に重要なことは、示された数字は物価高騰による影響を受ける前の数字でありますので、次回行われる令和5年度調査では、物価高騰の影響が加味されることとなるので、更なる厳しい結果が出ることが予測されます。

今回の調査結果をもう少し細かくサービスごとに見ていきたいと思います。主要サービスの収支差率ですが、特別養護老人ホームは1.3%(前回1.6%でマイナス0.3%)、特定施設は4.0%(前回4.6%でマイナス0.6%)、グループホームは4.9%(前回5.8%でマイナス0.9%)、訪問介護は6.1%(前回6.9%でマイナス0.8%)、訪問看護は7.6%(前回9.5%でマイナス1.9%)、通所介護は1.0%(前回3.8%でマイナス2.8%)、ショートステイは3.3%(前回5.4%でマイナス2.1%)、小規模多機能は4.7%(前回4.1%でプラス0.6%)、福祉用具貸与は3.4%(前回1.5%でプラス1.9%)、居宅介護は4.0%(前回2.5%でプラス1.5%)となっています。一部のサービス分類でプラスもみられますが、ほとんどのサービス分類で収支差率はマイナスとなっています。とりわけ、コロナによる利用控えの影響を受けた通所介護やショートステイのマイナス幅は大きな数字が示されています。

この調査結果は、介護給付費分科会等でこれから始まる次期報酬改定に向けた議論にも大きな影響を及ぼすことになると思います。更に重要なことは、令和5年度介護事業経営実態調査です。令和5年5月に実施され10月に公表される予定です。令和4年4月~令和5年3月までの介護事業の経営調査です。物価高騰の影響も加味された更に厳しい数字が予測されており、この10月公表数字を基軸として、10月末から11月ごろに次期報酬改定の改定率が決定されることとなります。今回の調査結果の分析とともに次回調査結果に大いに注目していきたいと思います。

斉藤 正行氏

一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長

  • 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
  • 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
  • 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
  • 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
  • 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
  • その他、介護関連企業・団体の要職を歴任

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