2022.08.19
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【斉藤正行のはなまる介護~現場に寄り添うこれからの介護業界展望~】第6回「介護職員の所得と処遇改善の必要性」

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前回に引き続き、介護職員等の処遇改善をテーマとし、所得に関する現状について考察していきたいと思います。介護職の平均年収は、全産業平均と比較すると月額数万円程度低い水準にあるとの調査結果が示されていることは周知の事実であり、介護職の処遇改善は業界の最大課題の1つであります。

前回は、そのための全体解決策として、介護報酬において位置付けられている「処遇改善関連の加算」について、現状と今後の動向、更には課題について解説致しました。

今回は介護職の所得について、より細かく分析してきたいと思います。

そもそも、どうして介護職の所得が全産業と比較して低い水準にあるのか。介護保険制度の仕組みに起因していると言えます。介護保険制度においては、サービス類型ごとに、報酬単位が設定されており、各事業者の収入は、一部の自費サービスを除いて大部分は定められた金額となっています。他方で、支出について大部分を占めるのは人件費となりますが、その人員配置についてもサービス類型ごとに、専門職種の配置要件や、介護職についても利用者〇名に対して1名の配置など、事細かに要件が定められています。従って、事業者の相違工夫によって、収益性を高める努力を行うことは一部可能ではあるもの限定的となっており、他産業のように社員の給与水準を他社と著しく違いをつけることは困難な事業構造となっています。そのような背景があるために、介護職の所得が低い水準にとどまってしまっている現状があります。

しかしながら、一方で、私は、介護職の所得について、2つのプラス材料があるとも考えています。1つは、新卒職員や未経験者の職員の所得についてです。介護職には処遇改善関連の加算が現在3種類設定されていることから、全ての加算算定を行い、しっかりと分配をしている事業者で勤めることが出来れば月額数万円程度の所得となることから、新卒職員や未経験の職員など、他産業においてもそれほど大きな所得とならない方にとっては、かえって介護職の所得が高くなるケースも多く見受けられます。これが1つめのプラス材料です。ただし、その後の所得の向上幅に大きな課題があり、前述した事業構造の要因から、経験年数を経た後であっても介護職のままでとどまる場合には所得が上がりにくくなり、経験ある職員はいずれ他産業と比べて低い所得水準となってしまう可能性が高くなります。

その中で、もう1つのプラス材料は、職位を上げること。ステップアップを目指す場合の所得向上です。介護職のままでとどまるのではなく、ステップアップを目指し、介護主任、管理者・施設長、更には複数事業展開している事業者であれば、エリアマネジャーや、本部管理職・役員などを目指していけば、他産業とそん色のないどころか、それ以上の所得を得ることも可能となります。しかも、ステップアップの可能性については、他産業よりも多くのチャンスに恵まれているとも言えると思います。少子高齢化に伴う人口動態を踏まえると、他産業の多くはマーケットが縮小傾向となるため、法人数の伸びは抑えられることとなり、ポストも総じて減少傾向となります。他方で、介護産業は高齢者・要介護高齢者は今後も20年以上増え続けることから、法人数、事業所数、施設数は増加することとなり、ポストは増加し続けることとなるので、他産業よりもステップアップにチャンスがあると言っても過言ではないのです。

もちろん介護職は専門職であり、ステップアップをして、管理職を目指すことに否定的な方が多いのが現実であると理解をしていますが、1つの可能性としてのプラス材料と捉えることも出来るのです。

残された介護職の所得における最大の課題は、経験年数を経た後も、現場で専門職種として働き続けたいと考えている職員をどのように遇するのかということです。専門職種として、ステップアップではなくキャリアアップの構築や、専門スキルの向上に伴う処遇改善をどのように行っていくのかを、政府・厚生労働省とともに各事業者が検討していくことこそが、介護職の処遇改善に対して真に必要なことであると思います。

斉藤 正行氏

  • 一般社団法人全国介護事業者連盟 理事長
  • 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループ 代表取締役
  • 一般社団法人日本デイサービス協会 名誉顧問
  • 一般社団法人日本在宅介護協会東京支部 監査
  • 一般社団法人全日本業界活性化団体連合会 専務理事
  • その他、介護関連企業・団体の要職を歴任

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