介護離職の現状とは?介護サービスを提供する際に知っておくべき基礎知識や取り組みを解説

2026.03.18

高齢化の進行に伴い、「介護離職」は介護業界だけでなく日本社会全体の課題として注目されています。
介護離職は介護事業所の責任者や管理者にとって、利用者家族や職員の働き方に直結する重要なテーマといえるでしょう。

本記事では、介護サービスを提供する事業者が知っておくべき介護離職の現状や背景、そして現場で役立つ視点を踏まえながら解説します。
介護従事者として利用者や家族を支援するため、まずは現状を正しく理解しておきましょう。

介護離職についての基本知識とデータ

介護離職 現状

介護離職とは、家族の介護を理由として仕事を辞めることであり、日本では長年社会問題として議論されています。

介護事業者にとっては、利用者の家族背景や職員の離職リスクにも関わるため、まずは基本的なデータや傾向を確認しておきましょう。

介護離職とは

介護離職とは、前述の通り親や配偶者などの家族を介護するために仕事を辞める行為を指します。

高齢化の進行により要介護者が増加している日本では、働きながら介護を担う人が増えています。
そして、仕事との両立が困難になった結果として離職を選ぶケースが少なくありません。

介護事業所の視点では、利用者家族が離職してしまうことでサービス利用量が変化したり、心理的な負担が増大したりするなど、支援のあり方にも影響が出る可能性があります。
そのため、介護離職は単なる個人の問題ではなく、サービス提供側も理解すべき社会的課題です。

また、介護離職は突発的に起こるものではなく、仕事・家庭・介護のバランスが崩れた結果として生じるケースが多いです。
ケアマネジャーや相談員が早期から家族状況を把握することが、介護離職の防止につながります。

年間約10万人が介護離職している

日本では年間約10万人が介護を理由に離職しており、今後も増え続ける可能性が十分にあります
厚生労働省の調査によると、2000年の介護離職者は約3万4,000人だったのに対し、2024年には約9万3,000人近くにまで増加しています。

出典元:「介護・看護」を理由とする人数と割合の推移|公益財団法人 生命保険文化センター

利用者の家族が仕事を辞めることで、介護への関わり方やサービスニーズは変化する可能性があります。

例えば在宅介護の増加や、日中の見守りニーズの増加などが挙げられます。さらに、介護業界の職員自身も介護離職の当事者になる可能性があります。

介護業界の今後を考えるにあたって、介護離職の影響は非常に大きなものとなるでしょう。

働きながら介護をする人の現状

現在、多くの人が仕事と介護を両立しながら生活しています。
しかし介護の時間的・精神的な負担は大きく、仕事の継続が難しいと感じる人も少なくありません。

介護事業者がサービス設計や家族支援を考えるうえでは、働きながら介護をする人の実態を理解することが大切です。
ここでは介護・看護を必要とする人数の推移や社会的背景を整理します。

介護・看護を必要とする人数の推移

日本では要介護・要支援認定者数が年々増加しており、それに伴って家族介護者の数も増え続けています。
高齢化率の上昇により、介護を必要とする期間が長期化していることも特徴の一つです。

厚生労働省の「介護保険事業状況報告」によると、2023年には要介護・要支援認定者が約708万人もおり、公的介護保険制度が始まった2000年度と比較すると約2.8倍も増加しています。

出典元:要介護度別認定者数の推移|公益財団法人 生命保険文化センター

さらに年代別に要介護認定者の割合を比較すると、80~84歳が26.2%、85歳以上が60.1%と80歳以上が全体の8割以上を占めています。

出典元:年代別人口に占める要支援・要介護認定者の割合|公益財団法人 生命保険文化センター

要介護・要支援認定者が増えることで利用者数が増加するだけでなく、家族介護者の疲労や離職リスクも高まります。
その結果、短期入所や訪問サービスの需要も変動しやすくなるでしょう。

さらに、団塊世代が後期高齢者となる今後は、介護と仕事の両立問題がより顕在化すると予測されています。

介護事業所としては、地域包括ケアの視点から家族支援を含めたサービス提供が必要になる可能性は高いでしょう。

介護離職の社会的問題

介護離職は個人の問題にとどまらず、社会全体の労働力不足や経済損失にも影響を与えると指摘されています。
特に経験豊富な中堅社員が離職することで企業の生産性低下につながるケースも多く、日本全体の課題として認識されています。

また場合によっては家族の負担が過度に増え、介護疲れや虐待リスクが高まる可能性もあります。

そのため、現場のケアマネジャーや生活相談員は、家族の就労状況や心理的負担を丁寧にヒアリングし、必要に応じて制度利用や社会資源の提案を行うことが求められます。
介護離職を未然に防ぐ視点は、結果的に利用者支援の質向上にもつながります。

介護離職を選択する人の心理

メリット

介護離職は一般的にはネガティブに捉えられがちですが、当事者にとっては一定のメリットを感じる場面があるのも事実です。

介護離職を選択する人が感じやすいメリットは、下記のとおりです。

  • 時間や労力を介護に集中できる
  • 介護者の負担を軽減できる
  • 介護サービスの利用費を抑えられる

介護事業所の責任者は、家族の心理を理解するためにも、離職を選ぶ理由や背景を把握しておきましょう。

時間や労力を介護に集中できる

仕事を辞めることで、介護に使える時間が大幅に増えるという点は、多くの介護離職者が挙げる理由の一つです。

通勤時間や勤務時間に縛られなくなるため、通院の付き添いや日常生活のサポートを柔軟に行えるようになります。
特に認知症や医療的ケアが必要なケースでは、家族が常にそばにいることで安心感を得られる場合もあります。

ただし長期的には負担が蓄積することも多いため、事業所側が適切なレスパイトケアや相談支援を提案する姿勢が必要です。

また家族が介護に専念することで在宅介護の比重が高まり、訪問サービスの内容や頻度が変化する可能性があります。
そのため、離職を単純に否定するのではなく、家族が求めている支援内容を丁寧に把握することが重要です。

介護者の負担を軽減できる

働きながらの介護は時間的制約が多く、精神的な負担も大きくなりがちです。
離職によってスケジュールの自由度が高まり、急な体調変化やトラブルにも対応しやすくなる点は、介護者にとって安心材料となります。

特に夜間対応や通院付き添いなど、勤務との両立が難しい場面では、離職によってストレスが軽減されると感じる人もいます。
こうした背景を理解することは、介護事業所が家族の意思決定を尊重した支援を行ううえで欠かせません。

一方で、負担軽減を目的に離職した場合でも、結果的に介護時間が増えすぎてしまうことがあります。
事業所の管理者やケアマネジャーは、家族の疲労度を定期的に確認し、サービス利用の提案や地域資源の紹介を通じてバランスを取ることが重要です。

介護サービスの利用費を抑えられる

家族が介護に専念することで、訪問介護やデイサービスの利用回数を減らし、費用負担を抑えられると考える人もいます。特に経済的な不安を抱える家庭では、離職によって介護費用を節約できると感じるケースもあるでしょう。

介護事業所の立場から見ると、サービス利用が減ることは収益面だけでなく、利用者の社会参加機会の減少につながる可能性もあります。
そのため、費用面だけでなく生活の質(QOL)の観点からサービスの必要性を説明することが大切です。

また、短期的には費用が抑えられても、長期的には介護者の疲弊や健康悪化によって別の問題が生じることもあります。
事業所は家族が抱える経済的背景を理解しつつ、活用できる制度に関する情報提供を行うことで、無理のない介護体制づくりを支援することが重要です。

介護離職のデメリット

デメリット

介護離職には一定のメリットがある一方、長期的に見ると多くのリスクや課題が存在します。

介護離職によって生じやすい主なデメリットは、下記のとおりです。

  • 収入が不安定になる
  • 再就職・キャリア形成が難しくなる
  • 介護者のライフスタイルが介護中心になる

利用者の家族が離職を検討している場合には、メリットだけでなくデメリットも客観的に伝えましょう。

収入が不安定になる

介護離職によるデメリットの一つは、安定した収入を失う可能性が高い点です。
特に長期間の介護が続く場合、貯蓄の減少や将来の年金額への影響など、生活基盤そのものが揺らぐリスクがあります。

介護事業所としては、家族が経済的に困窮するとサービス利用が継続できなくなる恐れがあるため、早い段階から制度活用の提案を行うことが重要です。
例えば高額介護サービス費制度や自治体独自の支援制度などを紹介することで、離職を回避できる可能性があります。

また、収入の不安定さは心理的なストレスにも直結します。
単なる制度説明だけでなく、家族の将来設計や不安に寄り添ったコミュニケーションを心がけることが、信頼関係の構築につながります。

再就職・キャリア形成が難しくなる

一度仕事を離れると、再就職が難しくなるという現実もあります。特に介護期間が長期化した場合、ブランクが生じることで希望する職種に戻れないリスクは高いでしょう。

キャリアの断絶は、家族本人の自己肯定感にも影響を与えます。
介護事業所が家族支援の一環として「仕事を続ける選択肢」を提案することは、長期的な生活の安定につながる重要な視点です。

介護者のライフスタイルが介護中心になる

介護離職後は生活の多くが介護中心となり、社会とのつながりが減少する傾向があります。外出機会の減少や孤立感の増大により、介護者の心身の健康に悪影響が出る可能性も否めません。

介護事業所にとっては、家族の孤立を防ぐことも重要な支援の一つです。
デイサービスやショートステイの活用を提案し、介護者が自分の時間を確保できるようにすることで、長期的な在宅介護の継続を実現できます。

また、ライフスタイルが介護一色になると、介護者自身の将来設計が見えにくくなりやすいです。
そのため事業所は家族の生活全体を視野に入れた提案を行い、持続可能な介護環境づくりをサポートするよう意識することが重要です。

介護離職を避けるために実施されている取り組み

仕事と介護の両立

介護離職を防ぐためには、個人の努力だけでなく、企業・行政・介護事業所が連携した支援が欠かせません。
近年では仕事と介護を両立するための制度整備が進み、さまざまな取り組みが実施されています。

介護サービスを提供する事業者として利用者家族や職員に適切な情報提供ができるよう、制度について理解を深めておきましょう。

介護休暇

介護休暇とは、家族の通院付き添いや手続きなど、短期的な介護対応が必要な際に取得できる休暇制度です。年次有給休暇とは別に取得できる場合が多く、働きながら介護を続けるうえで重要な仕組みとなっています。

介護事業所の現場では、利用者家族が介護休暇を活用することで離職を回避できるケースもあります。
例えばケアプラン見直しのタイミングや退院直後など、短期間だけ介護負担が増える場面では、制度の存在を伝えることが支援につながります。

介護休業

介護休業は、一定期間仕事を休みながら介護に専念できる制度で、離職を防ぐための代表的な仕組みです。数週間から数か月単位で取得できるため、急激に介護負担が増えた際の対応策として有効です。

利用者家族が離職を検討している場合はまず介護休業という選択肢があることを伝えることで、早期離職を防げる可能性があります。
家族が仕事を継続できれば、長期的な生活の安定にもつながります。

介護休業給付金

介護休業給付金は介護休業中の収入減少を補うために支給される制度であり、経済的不安を軽減する役割を果たします。収入の一定割合が支給されるため、完全な無収入状態を避けながら介護に向き合える点が特徴です。

利用者家族が経済的理由で離職を考えている場合、この給付金の情報提供が大きな支援になります。
制度を知らないまま退職してしまうケースもあるため、ケアマネジャーや相談員が早期に案内することが重要です。

また、自施設の職員にも制度周知を徹底することで、迅速な情報提供が可能となるでしょう。

所定外労働の免除

所定外労働の免除とは、介護を理由として残業を免除できる制度です。長時間労働が続くと介護との両立が難しくなるため、この制度は働き続けるための現実的な支援策として注目されています。

介護事業所の責任者は、利用者家族だけでなく自施設の職員にもこうした制度を紹介し、働き方の調整を支援することが重要です。
特に介護業界はシフト制で残業が発生しやすいため、柔軟な対応が求められます。

残業免除によって業務配分を見直す必要が生じる場合もありますが、制度を活用して介護と仕事が両立できる環境があれば離職を防げます。
制度を活用した働き方の多様化は、持続可能な介護現場づくりに欠かせない視点です。

柔軟な働き方の導入

近年では、短時間勤務やテレワークなど柔軟な働き方の導入が進み、仕事と介護を両立しやすい環境づくりが進められています。
介護業界では完全なテレワークは難しいものの、勤務時間の調整や業務分担の見直しによって対応できる場面もあります。

例えば、事務作業の分担やICT活用による業務効率化は現場負担を軽減し、介護と仕事の両立を支援する取り組みとして注目されています。
管理者が柔軟な発想を持つことで、離職リスクを下げることが可能です。

また、利用者家族に対しても、在宅勤務制度の活用などを提案することで、仕事を辞めずに介護を続けられる選択肢を示せるでしょう。

社会的な意識改革

介護離職を減らすためには、制度だけでなく社会全体の意識改革も重要です。介護は家庭内だけで抱え込むものではなく、地域やサービスを活用して支えるという考え方が広まりつつあります。

介護事業所は、地域住民や利用者家族に対して「一人で抱え込まない介護」を発信する役割を担っています。
説明会や相談会を通じて介護サービスの活用方法を伝えることは、離職予防にもつながるため大切です。

また、職員に対しても介護に理解のある職場文化を醸成することが求められます。
管理者が率先して働き方改革を進めることで、業界全体のイメージ向上や人材確保にも寄与できます。

斉藤 圭一氏
斉藤 圭一氏

少子高齢化が進展し、労働力不足が日本の存立を脅かす中、年間約10万人に及ぶ「介護離職」は、もはや個人の問題ではなく社会全体で解決すべき喫緊の課題です。本記事では、離職による経済的リスクやキャリアへの影響、国や企業が推進すべき具体的な支援策について詳述しています。介護離職を食い止める核心は、家族が「介護はプロに任せる」という決断を早期に下せる環境づくりにあります。しかし、他人の介入に対する心理的抵抗が、その決断を阻んでいるのも現実です。

こうした状況の解決策として、テクノロジーを単なる効率化の道具としてではなく、遠隔での見守りや情報共有などを通じて家族の不安を解消し、プロの支援へとスムーズに繋ぐ「安心の架け橋」として活用することが求められています。現場の人間力と最新技術を高度に組み合わせ、仕事と介護を両立できる仕組みを整えることは、持続可能な社会を実現するための有効なアプローチといえます。本記事が指針となり、介護業界がビジネスケアラーの良き伴走者として、誰もが働き続けられる未来を切り拓く一助となることを切に願います。

まとめ:介護離職の現状を把握したうえで介護サービスを提供しよう

介護離職は年間約10万人規模で発生しており、高齢化の進行によって今後も増えていくと考えられます。
介護事業所の責任者や現場職員は、単に利用者のケアを提供するだけでなく、家族の就労状況や生活背景にも目を向けてみてください。

本記事で解説したように、介護離職には一定のメリットがある一方で、収入の不安定化やキャリア断絶など大きなリスクも伴います。
そのため、介護休暇や介護休業、給付金制度などの情報を適切に伝え、離職以外の選択肢を示すことが重要です。

介護サービスの質を高めるためには、利用者本人だけでなく家族を含めた包括的な支援が欠かせません。
介護離職の現状を正しく理解し、地域全体で支える視点を持つことが、これからの介護事業所に求められる役割です。

監修:斉藤 圭一

主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)

神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。 1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職し、介護・福祉分野でのキャリアを本格的にスタートさせる。2007年には立教大学大学院にてMBA(経営学修士)を取得。 以降、訪問介護、居宅介護支援、通所介護、訪問入浴などの在宅サービスをはじめ、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅、さらに障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設など、幅広い福祉サービスの立ち上げ・運営に携わる。 現在は株式会社スターフィッシュ代表取締役として、川崎市麻生区でねこの手(居宅介護支援事業所、訪問介護事業所、訪問看護事業所)を運営。その傍らで介護・福祉分野の専門家として、現場経験と経営視点の双方を活かし、執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。

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