介護業界の人手不足|原因や効果的な対策を解説

2026.01.08

近年、介護施設の運営において人手不足は悩みの種になりがちです。
人手不足は介護施設単体の課題ではなく、介護業界全体が抱える構造的な問題が原因です。

昨今は国も問題の解消に努めるなど、介護業界における人手不足はいっそう深刻化しています。
介護施設も、業界の動向を意識しつつ、人手不足を解消するための独自の対策が必要です。

本記事では、介護業界の人手不足が起こる原因や、効果的な対策などについて解説します。
さらに、国や企業が進める対策から、介護職員の雇用やキャリアを守るためにできることまで、具体的な解決策を提示するので、ぜひ参考にしてください。

介護業界の現状

日本の介護業界は、今まさに人手不足という大きな課題に直面しています。
超高齢社会の進展により介護を必要とする人は増え続けている一方で、介護を担う人材の確保が追いついていないのが実情です。

この需給バランスの崩壊は、介護サービスの質の低下や事業所の経営難など、さまざまな問題を引き起こしています。
まずは、データをもとに介護業界が置かれている厳しい現状を見ていきましょう。

この表が示すように、人手不足は年々深刻化しており、特に団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」や、現役世代がさらに減少する「2040年問題」に向けて、抜本的な対策が急務となっています。

参照:医療と介護の一体的な改革|厚生労働省

   「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」現状と課題・論点について|厚生労働省

介護業界が人手不足に陥る原因

介護業界の人手不足は、単一の原因ではなく、以下の複数の要因が複雑に絡み合って生じています。

  • 少子高齢化による労働人口の減少
  • 介護職員の定着率の低下
  • 労働環境の悪化と業務負担の増加
  • 非効率的な業務の残存

上記の原因を理解することが、問題解決の第一歩です。

参照:介護人材確保の現状について|厚生労働省

少子高齢化による労働人口の減少

日本全体の大きな課題である少子高齢化は介護業界にもっとも深刻な影響を与えています。
以下のグラフを見てみましょう。

出典:介護人材確保の現状について|厚生労働省

2010年以降、日本の人口は減少傾向にある一方、高齢者の割合が増加していることがわかります。
しかし、介護サービスの需要は増え続ける一方、その担い手となる生産年齢人口(15歳〜64歳)は減少し続けているのが現状です。

先述したグラフも見てみましょう。

出典:介護人材確保の現状について|厚生労働省

介護需要の高まりに対し、介護業界が必要な人員を確保できないリスクが高まっています。
2040年になると、実際の人員数と必要な人員数のギャップは約57万人になると予測されているなど、事態は深刻です。

このような状況は、介護における需要と供給のバランスが構造的に崩れていることを意味します。
介護の担い手が今後さらに減少していくことは明らかであり、根本的な対策が不可欠な状況です。

介護職員の定着率の低下

介護職員の定着率の低下も、人手不足に拍車をかける要因です。

厚生労働省の調査結果を参照すると、離職率が10%未満の事業所が約5割である一方、30%以上と著しく高い事業所も約1割存在することがわかります。

出典:介護人材確保の現状について|厚生労働省

特に規模が小さい事業所ほど離職率が高く、労働者数50人未満の事業所では約1割以上が、離職率30%以上を記録しています。

離職理由について同資料を参照すると、回答率が10%を超えたものは以下の通りです。

  • 職場の人間関係に問題があったため
  • 法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため
  • 他に良い仕事・職場があったため
  • 収入が少なかったため
  • 自分の将来の見込みが立たなかったため

介護職員の定着率を向上するためには、これらの離職理由に対する対策が必要です。
事業所側に効果があった施策を調査したところ、「仕事の内容は変えずに、労働時間や労働日を本人の希望で柔軟に対応している」、「残業削減、有給休暇の取得促進、シフトの見直し等を進めている」といった回答が挙がっています。

労働環境の悪化と業務負担の増加

人手不足は、さらなる労働環境の悪化を招くという悪循環を生み出しています。
少ない人員で多くの利用者をケアする必要があるため、結果的に介護職員個人の業務負担が過大になります。

特に、以下の課題には注意しましょう。

時間外労働の常態化勤務時間内に業務が終わらず、残業が増える。
休暇が取りにくい有給休暇の消化率が低く、心身のリフレッシュができない。
身体的負担の増大移乗介助や入浴介助など、身体への負担が大きい業務が増える。
精神的ストレスの増加利用者や家族からのクレーム対応、緊急時の対応などで精神的に追い詰められる。

上記のような労働環境を放置すると、介護職員の心身を疲弊させ、さらなる離職へとつながってしまいます。

非効率的な業務の残存

多くの介護現場では、いまだに非効率な業務が多く残っているケースが珍しくありません。
テクノロジーの活用が進んでいないことが、職員の負担を増やし、人手不足に拍車をかけている側面があります。

手書きの介護記録記録や申し送りに時間がかかり、本来のケア業務を圧迫する。
電話やFAXでの連絡関係機関との情報共有に手間と時間がかかる。
紙ベースのシフト作成シフト調整が複雑で、管理者の大きな負担となっている。
目視による見守り夜間の巡回など、職員の負担が大きく、精神的なプレッシャーも高い。

上記の業務をICTツールなどで効率化できれば、職員はより質の高いケアに集中できるようになり、労働環境の改善につながる可能性があります。

人手不足がもたらすリスク

介護業界の人手不足は、以下のリスクをもたらす恐れがあります。

  • サービスの質と安全性の低下
  • 介護施設の倒産
  • 介護職員のバーンアウト

上記で挙げる3つのリスクは、いずれも介護施設にとって重要な課題です。
適切な対策を検討しましょう。

サービスの質と安全性の低下

現場の職員がもっとも懸念しているのは、サービスの質の低下です。
少数の介護職員が多くの利用者を担当せざるを得ない状況では、どうしてもケアの質が低下しやすくなります。

サービスの質が低下することで、利用者の満足度が下がるだけでなく、心身の状態にも悪影響をおよぼす可能性があります。
人手不足は、職員の負担を増大させ、心身の疲弊を招き、結果としてケアの質の低下をさらに加速させる悪循環を生み出す危険性も孕んでいます。

特に、以下のような状況には注意が必要です。

サービス低下の例具体的な影響
コミュニケーション不足個々の利用者と向き合う時間が減り、精神的なケアが疎かになる。利用者の不安や悩みに寄り添うことが難しくなり、孤独感を深めてしまう恐れがあります。
個別ケアの困難化利用者の細かな変化に気づきにくく、個別性に合わせた対応が難しくなる。利用者の個性や尊厳を尊重したケアが提供できなくなる可能性があります。
情報共有の遅延・漏れ職員間の申し送りが不十分になり、ケアの方針に一貫性がなくなる。利用者の状態に関する重要な情報が共有されず、誤ったケアや対応につながる可能性があります。
事故リスクの増大見守りが手薄になり、転倒などの事故が発生する危険性が高まる。利用者の安全を確保することが難しくなり、生命に関わる重大な事故につながる可能性もあります。

上記に加え、人手不足は人員基準の違反などを招く恐れがあります。
人員基準違反は、事業所の信頼を損ない、行政処分を受けるリスクがあるため、注意が必要です。

介護施設の倒産

介護事業所における人手不足は、経営を圧迫し、倒産リスクを高める深刻な問題です。
特に中小規模の施設ではその影響が顕著に現れます。

人手不足は、従業員一人当たりの負担増加を招き、サービスの質低下や従業員の離職率上昇につながる悪循環を生み出す要因です。
また、新規採用が困難な状況では、事業拡大やサービスの多様化も阻害され、経営基盤の弱体化を招きます。

中小規模の施設においては、人手不足による経営悪化が依然として大きなリスク要因です。

安定した介護サービスの提供のためには、人材確保と定着の取り組みが不可欠であり、給与水準の見直し、労働環境の改善・キャリアパスの明確化などが求められます。

また、ICT技術の導入による業務効率化や、地域との連携による人材育成など、多角的なアプローチが重要です。

介護職員のバーンアウト

過酷な労働環境で働き続ける介護職員は、心身ともに疲弊し、バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥る危険性が非常に高い状態にあります。
使命感や責任感で現場を支えてきた職員たちが次々と倒れてしまえば、介護業界全体が機能不全に陥りかねません。

介護職員に以下のような兆候が見られた際は注意しましょう。

情緒的消耗感仕事を通じて情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態。
脱人格化利用者に対して、思いやりのない非人間的な対応をとるようになる。
個人的達成感の低下仕事の成果や達成感が得られず、自己評価が著しく低下する。

介護職員の消耗を防ぐためにも、人手不足には対策を講じる必要があります。

国が実施している介護の人手不足対策

深刻化する人手不足に対し、国(厚生労働省)は以下の対策を講じています。

  • 介護職員の処遇改善
  • 多様な人材の確保・育成
  • 離職防止・定着促進・生産性向上
  • 介護職員の魅力向上
  • 外国人材の受け入れ環境整備

上記の施策は、介護職員の待遇改善から、新しい人材の確保、生産性の向上まで、多岐にわたる点が特徴です。
本章では、それぞれの対策の柱について解説します。

参照:総合的な介護人材確保対策(主な取組)|厚生労働省

介護職員の処遇改善

介護職員の給与水準を他産業並みに引き上げることは、人材確保の最重要課題です。

国は総額2000億円の予算を投入し、リーダー級の介護職員の賃金水準をほかの業界・業種と遜色ないレベルに改善することを目指しました。
その結果、月額平均7.5万円の改善に成功しています。

さらに介護報酬における「処遇改善加算」を拡充することで、事業者が職員の給与を上げやすい仕組みを整えています。
処遇改善加算は2024年度から一本化され、より柔軟で効果的な取得が可能になりました。

以下の表を見てみましょう。

出典:「処遇改善加算」の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算)され、加算率が引き上がります|厚生労働省

新たな処遇改善加算を活用すれば、介護職員の待遇を改善して定着率を向上させつつ、介護事業所の収益の改善も可能です。
ただし、処遇改善加算は以下の要件を満たす必要があります。

要件の種類内容
キャリアパス要件【キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)】
新加算Ⅰ〜Ⅳに適用。
介護職員について、職位・職責・職務内容等に応じた任用などの要件を定め、それらに応じた賃金体系を整備する。

【キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等)】
新加算Ⅰ〜Ⅳに適用。
介護職員の資質向上の目標や以下のいずれかに関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施または研修の機会を確保する。
・研修機会の提供または技術指導等の実施、介護職員の能力評価
・資格取得のための支援(勤務シフトの調整・休暇の付与・費用の援助など)

【キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)】
新加算I〜Ⅲに適用。
介護職員について以下のいずれかの仕組みを整備する。
・経験に応じて昇給する仕組み
・資格等に応じて昇給する仕組み
・一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み

【キャリアパス要件Ⅳ(改善後の賃金額)】
新加算Ⅰ・Ⅱに適用。
経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善後の賃金額が年額440万円以
上であること。
※小規模事業所などの理由で加算額全体が少額である場合などは、適用が免除

【キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士などの配置)】
新加算Ⅰに適用。
サービス類型ごとに一定割合以上の介護福祉士などを配置していること。
月額賃金改善要件【月額賃金改善要件Ⅰ】
新加算Ⅰ〜Ⅳに適用。
新加算Ⅳ相当の加算額の2分の1以上を、月給(基本給または決まって毎月支払われる手当)の改善に充てる。

【月額賃金改善要件Ⅱ】
新加算Ⅰ〜Ⅳに適用。
前年度と比較して、現行のベースアップ等加算相当の加算額の3分の2以上の新たな基
本給等の改善(月給の引上げ)を行う。
職場環境等要件【新加算Ⅰ・Ⅱに適用】
6の区分ごとにそれぞれ2つ以上(生産性向上は3つ以上、うち一部は必須)取り組む。情報公表システム等で実施した取組の内容について具体的に公表する。

【新加算Ⅲ・Ⅳに適用】
6の区分ごとにそれぞれ1つ以上(生産性向上は2つ以上)取り組む。

参照:「処遇改善加算」の制度が一本化(介護職員等処遇改善加算)され、加算率が引き上がります|厚生労働省

処遇改善加算の取得を目指す際は、上記の要件を必ずチェックしましょう。

多様な人材の確保・育成

介護の担い手を増やすため、さまざまな背景を持つ人材が業界に参入しやすい環境づくりが進められています。
主な施策は以下のとおりです。

  • 介護福祉士修学資金貸付、再就職準備金貸付による支援
  • 中高年齢者等の介護未経験者に対する入門的研修の実施から、研修受講後の体験支援、マッチングまでを一体的に支援
  • ボランティアポイントを活用した介護分野での就労的活動の推進
  • 他業種からの参入促進のため多様な人材の確保・育成、キャリアコンサルティングや、求職者向け職業訓練の訓練枠の拡充、訓練への職場見学・職場体験の組み込み、訓練委託費等の上乗せ、訓練修了者への返済免除付きの就職支援金の貸付を実施
  • 福祉系高校に通う学生に対する新たな返済免除付きの修学資金の貸付を実施
  • 介護施設等における防災リーダーの養成

参照:総合的な介護人材確保対策(主な取組)|厚生労働省

上記の取り組みにより、介護業界を目指す人材のサポートに加え、これまで介護に関わりのなかった層にも門戸を広げ、人材の裾野を拡大することを目指しています。

離職防止・定着促進・生産性向上

新たに人材を確保するだけでなく、今いる職員が長く働き続けられる職場を作ることも重要です。
そのため、国は労働環境の改善や業務の効率化を支援しています。

主な施策は以下のとおりです。

  • 介護ロボットやICT等テクノロジーの活用推進
  • 介護施設や事業所内の保育施設の設置、運営の支援
  • キャリアアップのための研修受講負担軽減や代替職員の確保支援
  • 生産性向上ガイドラインの普及
  • 悩み相談窓口の設置、若手職員の交流推進
  • ウィズコロナに対応したオンライン研修の導入支援、副業・兼業などの多様な働き方モデル事業の実施

参照:総合的な介護人材確保対策(主な取組)|厚生労働省

特にITテクノロジーの活用は、職員の負担を軽減し、より質の高いケアを提供するうえで不可欠な要素です。
また、キャリアアップのサポートに加え、介護職員が悩みを改善できるような支援を実施しています。

介護職員の魅力向上

介護職に関するネガティブなイメージを払拭し、介護職が専門性の高い魅力的な仕事であることを社会に広く伝える取り組みも行われています。

国は、介護職員の魅力向上のため、以下の施策を実施しました。

  • 学生やその保護者、進路指導担当者などへの介護の仕事の理解促進
  • 介護を知るための体験型イベントの開催
  • 若者層、子育てを終えた層、アクティブシニア層に対する介護職の魅力などの情報発信
  • 介護サービスの質の向上とその周知のため、ケアコンテストの取り組みを情報発信

参照:総合的な介護人材確保対策(主な取組)|厚生労働省

上記の活動を通じて、介護職の社会的地位を向上させ、次世代の担い手を育成することを目指しています。

外国人材の受け入れ環境整備

国内の労働力だけでは需要を賄えない現状を受け、外国人材の受け入れも積極的に進められるようになりました。
国は、外国人が日本で安心して働き、生活できるための環境整備を支援しています。

また、以下の施策を実施しています。

  • 介護福祉士を目指す留学生等の支援(介護福祉士修学資金の貸付推進、日常生活面での相談支援など)
  • 「特定技能」などの外国人介護人材の受入環境整備(現地説明会などによる日本の介護のPR、介護技能向上のための集合研修、介護の日本語学習支援、介護業務等の相談支援・巡回訪問の実施など)
  • 送出し国への情報発信の拡充など

参照:総合的な介護人材確保対策(主な取組)|厚生労働省

上記の取り組みにより、外国人が働きやすい環境が整えられました。

介護の人手不足に効果的な対策

国の施策と並行して、各介護事業所が主体的に取り組める対策も数多くあります。
特に効果が期待できる対策は、以下のとおりです。

  • 職場環境の整備
  • 多様な働き方の受け入れ
  • キャリアアップの支援
  • 積極的な採用の実施
  • 介護DXの推進

「人手不足は仕方ない」と諦めるのではなく、働きがいのある魅力的な職場を作ることで、人材の定着と確保は可能です。
本章では、明日からでも始められる効果的な対策を5つの視点から紹介します。

労働環境の整備

職員が心身ともに健康で、長く働き続けたいと思える環境を整えることは、組織の持続的な成長に不可欠です。

そのためには、現状の職場環境を徹底的に見直すことから始める必要があります。
見直しは、単なる形式的なものではなく、職員の声に耳を傾け、実態を把握することが重要です。

職場環境を見直す際は、以下の観点を中心に、より詳細なチェックを行いましょう。

チェックポイント改善点
サービス残業が常態化していないか?残業時間の上限設定だけでなく、業務効率化の推進や人員配置の見直しも検討しましょう。
有給休暇を申請しやすい雰囲気か?上司が率先して有給休暇を取得し、部下にも取得を推奨する文化を醸成しましょう。
休憩時間を十分に確保できているか?業務の合間にリフレッシュできるスペースの設置や、休憩時間の取得を促すアナウンスなども有効です。
職員間のコミュニケーションは活発か?定期的な懇親会やチームビルディングイベントの実施、オープンなコミュニケーションを奨励する制度の導入などを検討しましょう。
ハラスメントに関する相談窓口は適切に機能しているか?相談窓口の周知徹底、相談者のプライバシー保護、迅速かつ適切な対応を行うことが重要です。
公平で透明性のある人事評価制度が確立されているか?評価基準の明確化、評価結果のフィードバック、昇進・昇給制度との連動などを徹底しましょう。

上記の項目を改善していくためには、経営層のコミットメントが不可欠です。

また、改善策の実施後も、定期的に効果測定を行い、必要に応じて改善を重ねていくことが重要です。
地道な努力を継続することで、職員のエンゲージメントが高まり、定着率向上が実現しやすくなります。

多様な働き方の受け入れ

介護職員のライフステージに合わせた、柔軟かつ多様な働き方を認めることは、人材確保と定着を目指すうえで有用な施策です。

画一的な働き方しか認めない職場では、優秀な人材はより柔軟な環境を求めて流出する事態になりかねません。
介護業界が人材不足に悩む現状を打破するためには、思い切った制度改革が必要です。

例えば、以下の施策を実践してみましょう。

時短勤務制度の導入子育てや介護といったライフイベントと両立しやすい環境を整備することで、潜在的な労働力を取り込めます。勤務時間を短縮するだけでなく、時間単位での休暇取得を可能にするなど、より柔軟な制度設計が求められます。
週休3日制の検討プライベートの時間を確保し、ワークライフバランスを向上させることは、職員の心身の健康を維持し、モチベーションを高めるうえで非常に重要です。週休3日制の導入は、職員の満足度向上に大きく貢献します。
夜勤専従や早番専従など多様なシフト個々の希望に応じた働き方を可能にすることで、多様な人材を受け入れられます。例えば、体力に自信のある方は夜勤専従、朝が得意な方は早番専従といった働き方が可能になれば、より多くの人が介護業界で活躍できるようになります。
副業・兼業の許可職員のスキルアップや収入増を支援することは、職員のモチベーション向上につながります。介護の仕事だけでなく、ほかの分野の知識や経験を積むことで、介護の現場にも新たな視点をもたらすことが期待できます。

多様な働き方を受け入れることで、これまで働きたくても働けなかった潜在的な労働力を掘り起こすことにもつながります。
介護業界全体で、柔軟な働き方を推進していくことが、人材不足解消の鍵です。

キャリアアップの支援

職員が将来に希望を持ち、専門職として成長できる道筋を示すことは、モチベーションを維持するうえで欠かせません。
「この職場で働き続ければ、成長できる」と感じてもらうための仕組みづくりが重要です。

職員のエンゲージメントを高め、長期的なキャリア形成を支援するために、より具体的にキャリアアップ支援の施策を充実させることが求められます。

キャリアアップの支援では、以下の施策を強化することで、更なる効果が期待できます。

キャリアアップ支援の具体例目的・効果
資格取得支援制度の拡充研修費用の補助や勤務シフトの調整に加え、資格取得後の手当支給や昇給制度を設け、学習意欲のさらなる向上が期待できます。介護福祉士だけでなく、ケアマネジャーや社会福祉士など、より高度な資格取得も奨励しましょう。
キャリアパス制度の明確化と個別最適化役職や等級に応じた役割・給与・必要なスキルを明示するだけでなく、個々の職員のスキルや希望に合わせたキャリアプランを作成します。定期的な見直しを行い、目標達成をサポートしましょう。
定期的な1on1ミーティングの質の向上上司と部下が定期的に面談し、キャリアに関する悩みや希望を共有するだけでなく、具体的な目標設定や達成に向けたアクションプランを話し合いましょう。必要に応じて、外部のキャリアコンサルタントの活用も検討しましょう。
外部研修への参加奨励と情報提供の充実新しい知識や技術を学ぶ機会を提供するだけでなく、研修内容のフィードバックや共有会を実施し、組織全体のスキルアップにつなげます。研修情報の提供を積極的に行い、参加しやすい環境を整備します。

厚生労働省が示す「職業能力評価基準」などを参考に、自施設に合ったキャリアパス制度を構築することが有効です。
さらに、職員の声を反映させ、制度を継続的に改善していくことが組織全体の成長につながります。

積極的な採用の実施

これまでの「待ち」の採用姿勢から、「攻め」の採用へと転換することも求められます。
求人を出して応募を待つだけでなく、積極的に魅力を発信し、多様なチャネルを活用することが重要です。

以下の対策を実践することで、より良い人材の採用が期待できます。

採用戦略詳細
採用サイトやSNSの活用職場の雰囲気や職員の声を積極的に発信し、企業の魅力を伝える。
ハローワーク以外の求人媒体の利用介護専門の求人サイトや人材紹介サービスを活用する。
リファラル採用(紹介採用)の導入職員からの紹介による採用を促進し、定着率の高い人材を確保する。
職場見学や体験会の実施応募前に職場の実情を知ってもらい、ミスマッチを防ぐ。

なお、採用を実施するうえで、職場環境の整備は必須です。
働きやすい職場環境でなければ、そもそも応募者を増やせません。

魅力的な職場であることをアピールすることは不可欠です。

介護DXの推進

ICTツールや介護ロボットを導入し、業務の効率化と職員の負担軽減を図る介護DXは、人手不足対策の切り札です。
テクノロジーの力を借りて、介護サービスのような「人でなければできない仕事」に集中できる環境を作り出せます。

介護DXに該当する施策は、以下のとおりです。

介護DXツールの種類主な機能と導入効果
介護ソフト介護記録・請求業務・ケアプラン作成などを電子化。記録業務の時間を大幅に削減。
見守りセンサー利用者の離床やバイタルを検知し通知。夜間の巡回負担を軽減し、事故を予防。
インカム職員間でリアルタイムに情報共有。迅速な連携と対応が可能に。
介護ロボット移乗介助や入浴介助をサポート。職員の身体的負担を大幅に軽減。

導入には初期コストがかかりますが、国や自治体の補助金を活用することで負担を抑えられます。
どの業務に課題があるかを明確にし、目的に合ったツールを選ぶことが成功の鍵です。

なお、介護DXはITツールを導入することがゴールではありません。
最新のIT技術で業務を効率化するだけでなく、経営体制やビジネスモデルなどを革新することがDXの目的です。

また、経営陣と現場が一体となって取り組まなければ介護DXの成功はあり得ません。
経営者が中心となり、リーダーシップを発揮することは、介護DXを推進するうえで不可欠です。

梅沢 佳裕 氏
梅沢 佳裕 氏

介護業界の人材不足は、高齢者が増える一方で働き手が減っていることから生じる、大きな社会全体の課題です。必要な人数に対して、働く人がどうしても追いつかない状況が続き、このままではさらに深刻になると考えられています。特に小規模な施設では、人間関係の難しさや仕事量の多さ、給与水準への不満などから、職員が長く働き続けにくい傾向があります。こうした人員不足は、職員一人ひとりの負担を増やし、心身の疲れやすさにつながり、結果としてサービスの質の低下や情報共有の遅れ、事故のリスク増加など、利用者の安全にも影響を及ぼします。また、人手が足りない状態が続くと経営にも悪影響が出やすく、特に中小規模の施設では事業運営の安定を揺るがす要因となります。国も処遇の見直しや働き手の育成、テクノロジー活用などの対策を進めていますが、各事業所が職場環境を整え、柔軟な働き方や介護DXを取り入れるなど、主体的に取り組むことがますます重要になっています。

まとめ:介護業界の人手不足は解決すべき重要な課題

介護業界における人手不足は、少子高齢化による労働力の不足や労働環境の悪化などに起因しています。
国も本格的に介護業界の人手不足の解決に乗り出していることがわかるように、人手不足への対応は介護業界にとって急務です。

職場環境の改善・積極的な採用の実施・介護DXなど、人手不足に向けた対策にはさまざまなものがあります。
自施設に最適な対策を選択し、施設やサービス提供体制を維持しましょう。

監修:梅沢 佳裕

人材開発アドバイザー

介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

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