介護M&Aとは|業界の動向・メリットやデメリットなどを解説

2026.01.08

昨今、多くの介護施設はさまざまな経営課題を抱えています。
なかには、収益が向上せず、介護サービスの提供の継続が困難になった施設も少なくありません。

そのような介護施設にとって、M&Aは状況を打開し得る経営戦略です。

M&A(企業の合併・買収)と聞くと、中小規模の介護施設にとっては縁遠いものに感じられる方もいるのではないでしょうか。

しかし、昨今のM&Aは介護施設の規模に関わらず実施されている経営戦略であり、施設の規模を拡大したり、財務基盤を強化したりするうえで、高い効果が期待できます。

本記事では、介護M&Aについて、M&Aの動向・メリットやデメリットなどについて解説します。

目次

介護M&Aの背景と業界の課題

近年、介護業界ではM&Aが活発化していますが、その背景には以下の課題が関連しています。

  • 深刻化する後継者不足と経営者の高齢化
  • 介護報酬改定が与える影響と経営の圧迫
  • 2025年問題の影響が強まる中での人材不足と競争激化

いずれも、介護業界全体が抱える構造的な課題です。
本章では、介護M&Aの背景にある、業界の課題について解説します。

深刻化する後継者不足と経営者の高齢化

近年は、経営者が高齢化している介護施設は珍しくありません。
加えて、親族や介護職員に後継者として適任者がおらず、「事業の継続を希望するものの、後継者が不足している」といった深刻な問題に直面している介護事業者が少なくありません。

この状況を打開するための現実的かつ有効な手段として、M&Aが事業承継の有力な選択肢として注目されています。

M&Aは、第三者への事業譲渡によって、介護施設の経済的な安定をもたらすと同時に、地域社会にとって不可欠な介護サービスの継続が可能です。
また、事業譲渡を受けた企業は、既存の施設運営ノウハウや顧客基盤を承継できるので、スムーズな運営が期待できます。

後継者不足に悩む介護事業者にとって、M&Aは地域社会への貢献を維持し、利用者へのサービス提供を継続しつつ、円滑な事業承継を実現するための重要な戦略的選択肢です。

参照:M&A動向に見る介護ビジネスの将来性|大和総研

介護報酬改定が与える影響と経営の圧迫

3年ごとに改定される介護報酬制度も、介護施設の経営に大きな影響を与えます。
改定される内容によっては、小規模事業者の経営環境が一段と厳しくなることが予想されます。

そのような状況において、M&Aは小規模事業者が生き残るための戦略です。
M&Aによって大手グループの傘下に入ることで、経営基盤を安定させ、次期以降の報酬改定の影響にも耐えうる経営体力を得られる可能性が生まれます。

また、大手グループに参画すれば、資金調達力の向上・人材確保の容易化・スケールメリットを活かしたコスト削減などが期待できます。
加えて、グループ全体のノウハウや経営資源を活用することで、サービスの質の向上も可能です。

介護報酬改定の影響を受けやすい小規模事業者にとって、M&Aは経営安定化・事業承継・サービス向上など、さまざまなメリットをもたらす可能性を秘めた戦略です。

2025年問題の影響が強まる中での人材不足と競争激化

高齢化が進む日本において、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」は、社会保障制度に大きな影響を与えます。
特に介護分野においては、サービスの需要が急増する一方で、介護人材の不足が深刻化し、需給バランスの崩壊が懸念されるようになりました。

以前から介護人材の不足は課題でしたが、2025年以降はさらに深刻度を増し、介護施設間での人材獲得競争が激化すると予想されます。
十分な人員を確保できない介護施設では、サービスの質の低下や事業継続が困難になる可能性もあります。

こうした状況を打開するため、M&Aは有効な戦略として注目されています。
M&Aによって、複数の事業者が統合することで、事業規模の拡大・経営資源の効率化・人材の確保が可能になります。

特に、経験豊富な介護人材を抱える事業者を傘下に収めることは、人材不足を解消するうえで大きなメリットです。

参照:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について|厚生労働省

          「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」現状と課題・論点について|厚生労働省

      介護人材確保に向けた取り組み|厚生労働省

介護業界のM&Aの動向

介護業界のM&Aは、いくつかの特徴的な動向を見せています。
業界のトレンドを理解することは、介護施設の将来を考えるうえで非常に重要です。

近年の介護業界のM&Aの動向は、以下のとおりです。

M&Aの動向目的・背景
他事業所間のM&Aサービス提供エリアの拡大・事業規模の拡大によるスケールメリットの追求・人材確保を目指す。
異業種からの新規参入高齢化社会の成長市場への期待から、IT企業・不動産業・保険会社などが介護事業に参入するケースが増加している。
DX(デジタルトランスフォーメーション)目的のM&A介護記録システムや見守りセンサーなど、先進的なIT技術を導入している大手に買収されることで、業務効率化やサービス品質向上を図る。
投資ファンドによるM&A経営改善ノウハウを投入して企業価値を高め、将来的な売却益を狙う。業界再編を加速させる一因となっている。

上記の動きは、介護業界が大きな変革期にあることを示しています。
M&Aはもはや特別な選択肢ではなく、成長と存続のための一般的な経営戦略となりつつあります。

介護M&Aのメリット(売り手側)

M&Aは、施設の売却を検討している介護施設の経営者(売り手)にとって、以下のメリットをもたらす戦略です。

  • 介護サービスの継続
  • 財務基盤の強化
  • 事業承継の実現
  • ノウハウや設備の導入
  • 介護職員の雇用維持

介護M&Aは、ただ施設を手放す行為ではありません。
介護施設を維持し、より良いサービスを提供するうえで役立ちます。

介護サービスの継続

地域に根ざした介護サービスは、高齢化が進む現代社会において必要不可欠な存在です。
しかし、後継者不足により事業継続が困難となり、廃業を余儀なくされるケースが増加しています。

長年地域を支えてきた介護サービスが途絶えることは、利用者とその家族にとって、生活の質を大きく左右する深刻な問題です。
慣れ親しんだ環境でサービスを受けられなくなる不安や、新たな事業者を探す負担・精神的な動揺は計り知れません。

M&Aは、このような状況を打開する有効な手段です。
信頼できる買い手に事業を引き継ぐことで、利用者に安心してサービスを受け続けてもらうことができます。

また、介護職員の雇用も維持され、地域経済への影響も最小限に抑えられます。

M&Aは、単なる事業承継ではなく、地域社会への貢献を継続するための重要な選択肢です。

財務基盤の強化

中小規模の介護施設の場合、財務基盤が不安定なケースは珍しくありません。

M&Aによって大手の介護施設のグループに併合されれば、強固な財務基盤を確立できます。
資金調達の選択肢が広がり、安定した経営が可能です。

財務基盤が強化されれば、最新の介護機器を積極的に導入したり、老朽化した施設の大規模な改修を行ったりできます。

また、介護職員の待遇改善も重要なポイントです。
給与水準の引き上げや福利厚生の充実を図ることで、介護職員のモチベーションを高め、定着率の向上につなげられます。

さらに、大手の介護施設の持つ経営ノウハウやブランド力を活用することで、事業の効率化や利用者の信頼獲得にもつながります。

事業承継の実現

後継者不足は、多くの経営者にとって最大の悩みであり、企業の存続を脅かす深刻な問題です。
昨今は親族内承継ができないケースも増えているため、M&Aは事業承継を実現するための有効な手段として注目されています。

M&Aを選択することで、長年運営してきた介護施設を第三者に引き継ぎ、介護職員の雇用を守り、取引先との関係を維持できます。
また、M&Aによる売却益は、新たな事業への投資や個人の資産形成に役立つなど、セカンドライフを充実させるための資金源です。

M&Aは、事業承継問題の解決策として、経営者にとって前向きな選択肢となり得ます。

ノウハウや設備の導入

買い手が持つ運営ノウハウ・先進的なITシステム・充実した研修制度などを導入できることも、M&Aにおける大きなメリットです。

自施設だけでは時間もコストもかかり、実現が困難だった業務効率化・質の高い人材育成を、短期間で効果的に進められます。
具体的には、標準化された業務プロセス・最新の顧客管理システム・マーケティング戦略などを共有してもらうことで、属人的な業務からの脱却や、顧客満足度の向上につなげられます。

また、本部が提供する研修プログラムを活用することで、介護職員のスキルアップや、サービスレベルの均質化も可能です。

特に、DX化の遅れに悩む介護施設にとっては、M&Aによる売却は事業の近代化を一気に進める絶好の機会です。

介護職員の雇用維持

廃業を選択した場合、長年介護施設を支えてくれた介護職員を解雇せざるを得ません。
解雇は、介護職員とその家族の生活を考えると、経営者にとって大きな精神的負担となります。

一方、M&Aを選択肢に入れることで、状況は大きく変わります。
M&A契約においては、介護職員の雇用継続が重要な条件として盛り込まれることが一般的です。

さらに、M&Aは単なる雇用維持にとどまらず、介護職員にとって新たな可能性をもたらすこともあります。
買い手が大手の介護施設や成長企業の場合、より充実した研修制度や福利厚生、キャリアアップの機会を提供していることが少なくありません。

介護職員は新しい環境でスキルアップを目指せるだけでなく、異なる分野で活躍できる可能性も広がります。
M&Aは、介護職員の雇用を守りながら、将来的なキャリア形成を支援する手段としても活用できる戦略です。

介護M&Aのメリット(買い手側)

一方で、事業の買収を検討している企業(買い手)にとって、介護M&Aには以下のメリットがあります。

  • 介護事業の拡大
  • 人材の確保
  • 新規参入の容易化

売り手と買い手双方に利益があるからこそ、M&Aは成立する戦略です。

介護事業の拡大

M&Aは、買い手企業にとって事業の成長を加速させる強力な戦略です。

自力で新規事業を立ち上げたり、新たなサービスエリアに進出したりするには、市場調査・設備投資・人材採用など、膨大な時間とコストがかかります。
しかし、M&Aを利用すれば、すでに確立された事業基盤・顧客基盤・技術・ノウハウなどを一括して取得できます。

これにより、市場への参入障壁を低く抑え、競合に先駆けた事業規模の拡大が可能です。

また、シナジー効果によって、売上増加やコスト削減といった相乗効果も期待できます。
M&Aは、迅速な成長と競争力強化を目指す企業にとって、戦略的な選択肢です。

人材の確保

介護業界において、経営資源としてもっとも重要なのは「人」です。

人材不足が深刻化する状況下で、M&Aは即戦力となる人材を確保する有効な手段となります。
経験豊富な介護職員や、専門的な資格を有する人材をまとめて獲得できる点は、大きな魅力です。

加えて、M&Aを通じて組織全体のスキルアップやノウハウの共有も期待できます。
異なる法人が持つ知識や技術が融合することで、サービスの質の向上にもつながります。

また、人材獲得にかかる時間やコストを削減できるため、他分野への経営資源の集中も可能です。

ただし、M&A後には、介護職員のモチベーション維持や組織文化の融合など、人的な課題が生じる可能性もあります。
介護職員への丁寧な説明・キャリアパスの明確化・公平な評価制度の導入など、M&A後の統合プロセスを円滑に進めるための対策が重要です。

人材を最大限に活用し、質の高い介護サービスを提供するためには、M&A後の人的資源管理が成否を分ける鍵となります。

新規参入の容易化

異業種から介護事業への参入は、指定申請などの許認可取得が大きな壁となりますが、すでに許認可を持つ事業所をM&Aで取得することで、このハードルを大幅に下げられます。

M&Aによる事業取得は、時間と労力を大幅に削減できる点が魅力です。
新規に許認可を取得する場合、書類の準備や審査に時間がかかり、事業開始までに数カ月を要することも珍しくありません。

M&Aであれば、許認可取得のプロセスを省略し、既存の事業基盤をそのまま活用できるため、事業開始までの時間を大幅に短縮できます。

また、許認可だけでなく、既存の顧客・介護職員・ノウハウなどの同時の継承が可能です。
これにより、事業開始直後から安定した運営が見込めるだけでなく、新たな事業展開の足掛かりにできます。

介護事業への参入を検討している企業にとって、M&Aは効率的かつ効果的な戦略です。

介護M&Aのデメリット

M&Aには多くのメリットがある一方で、以下のような慎重に検討すべきデメリットやリスクも存在します。

  • 理想の買い手・売り手が見つからないケースがある
  • 希望価格で売却できない可能性がある
  • 理念が継承されない恐れがある
  • 介護職員に受け入れられない場合がある

上記の点を事前に理解し、対策を講じることが成功への鍵です。

理想の買い手・売り手が見つからないケースがある

M&Aは企業にとって成長戦略の重要な一手ですが、その過程は決して平坦ではありません。

最適なパートナー探しは、さまざまな観点から経営状況を分析したり、条件をすり合わせたりするなど、緻密な作業を必要とします。
加えて、理念や企業文化の相違、提示された条件面での隔たりなど、乗り越えるべきハードルは少なくありません。

条件が合致しない場合、M&A交渉は長期化の一途をたどり、最終的には不成立に終わる可能性も孕んでいます。
交渉が長引けば、双方の企業にとって時間的なコストが増大し、本来注力すべき事業活動に支障をきたすことも想定されます。

また、交渉決裂となれば、それまでの労力が無駄になるだけでなく、企業イメージの低下を招くリスクも否定できません。

M&Aを成功させるためには、事前の徹底的な調査と、相手企業との綿密なコミュニケーションが不可欠です。
互いの企業文化や価値観を理解し、長期的な視点でのシナジー効果を見極めましょう。

希望価格で売却できない可能性がある

M&Aでは、事前に想定していた評価額と、買い手側から提示される買収価格に差が生じることは、決して珍しいことではありません。
価格の隔たりは、交渉を難航させる要因となります。

交渉をスムーズに進めるうえで重要となるのが、客観的な企業価値評価に基づいた、現実的な価格交渉です。
まず、第三者機関による客観的な企業価値評価を実施し、自施設の強みや弱みを明確に把握することが不可欠です。

加えて、市場の動向や類似企業の取引事例などを参考に、妥当な価格レンジを設定します。
交渉においては、感情的な対立を避け、データに基づいた冷静な議論を心がけることが重要です。

企業価値を正当に評価してもらうためには、根拠となる情報を丁寧に説明し、買い手側の理解を深める努力が必要です。
また、価格交渉だけでなく、シナジー効果や将来性など、価格以外のメリットについても積極的にアピールすることで、交渉を有利に進められます。

双方にとって納得のいく合意点を見つけるためには、お互いの立場を尊重し、柔軟な姿勢で交渉に臨むことが不可欠です。

理念が継承されない恐れがある

M&Aによって経営者が交代すると、これまで大切にしてきた施設の理念やケアの方針が引き継がれないリスクが生じます。
長年培ってきた価値観やサービスが失われることで、介護職員のモチベーション低下や、利用者へのケアの質の低下につながる恐れがあります。

また、新しい経営者が、過去の経緯や理念を十分に理解せず、短期的な利益を優先するような場合、そのリスクはさらに高まるものです。
介護職員が、新しい方針に戸惑い、どのように行動すべきか混乱する可能性もあります。

また、利用者は、これまで受けてきたケアとの違いに不満を感じ、施設への信頼を失うリスクも無視できません。

このような混乱を避けるためには、経営者は交代前に、施設の理念やケアの方針を明確に文書化し、新しい経営者と介護職員に十分に説明することが重要です
また、新しい経営者は、過去の経緯を尊重し、介護職員や利用者との対話を重ねながら、徐々に改革を進めていく姿勢が求められます。

介護職員に受け入れられない場合がある

M&A後、介護職員が経営陣の交代や労働条件の変更に不安や不満を抱き、退職するリスクは深刻です。
特に、経験豊富で高いスキルを持つ優秀な人材の流出は、介護サービスの質低下に直結し、事業運営に大きな悪影響を及ぼします。

M&Aのプロセスにおいては、介護職員への丁寧な説明とコミュニケーションが不可欠です。
新たな経営方針や労働条件に関する情報を早期に共有し、不安を解消するための対話の場を設けましょう。

また、給与体系の見直しやキャリアアップの機会提供など、モチベーション向上につながる施策も検討すべきです。

職員の定着率を高めるためには、M&A後も働きがいのある環境を維持することが欠かせません。
風通しの良い職場環境を構築し、職員の意見を尊重する姿勢を示せば、信頼関係を築き、人材流出を防止できます。

介護M&Aの価格相場

経営者にとって、自施設がどれくらいの価格で売却できるのかは、M&Aにおいてもっとも重要なポイントです。

本章では、価格相場の考え方と、価値を左右する重要なポイントについて解説します。

M&A価格の算出方法

状況によって異なりますが、一般的にM&Aは以下の計算式で企業価値の目安を算出します。

M&A価格=時価純資産+営業利益×3〜5年分

時価純資産とは、帳簿上の資産や負債を現在の価値に評価し直したものです。
これに、将来の収益力を示す営業利益の数年分(「のれん」や「営業権」と呼びます)を加えることで、企業の価値を評価します。

以下が計算例です。

項目計算例
時価純資産1億円
年間営業利益1,000万円
のれん(3年分)1,000万円 × 3年 = 3,000万円
M&A価格の目安1億円+3,000万円=1億3,000万円

ただし、上記はあくまで目安です。
実際の価格は、後述する評価ポイントや、買い手との交渉によって最終的に決定されます。

価格を左右する評価ポイント

計算式だけでは測れない、介護事業特有の価値も価格に大きく影響する要素です。
買い手は、以下のような点を総合的に評価して買収価格を判断します。

人材の質と定着率経験豊富で資格を持った職員が多く、離職率が低い施設は高く評価されます。
施設の立地と稼働率人口が多いエリアにあり、常に高い入居率・利用率を維持していることは重要な強みです。
許認可の種類と行政からの評価運営が難しいとされる許認可を持っていたり、行政からの実地指導で高い評価を得ていたりすると、価値が上がります。
地域との連携と評判地域の医療機関や他の事業所との連携が良好で、利用者や家族からの評判が良いことは、目に見えない大きな資産です。

介護M&Aの手順

M&Aは、専門家のサポートを受けながら、以下のように段階的に進めていくのが一般的です。

  • 専門家との相談・仲介契約
  • 売却先・買収先の決定
  • M&Aの打診と基本合意書の締結
  • デューデリジェンスの実施
  • 最終契約書の締結
  • 統合の実施

M&Aを実施する際の参考にしてください。

専門家との相談・仲介契約

M&Aを考え始めたら、まずは信頼できる専門家を見つけることが最初のステップです。

介護業界に精通したM&A仲介会社などに相談し、状況や希望を伝えましょう。
正式に依頼する場合は、秘密保持契約や仲介契約を締結します。

なお、M&Aは仲介会社に依頼しなくても、経営者同士の話し合いで実行することもあります。
ただし、経験がない介護施設では適切な交渉が難しい場合があるので、専門家に依頼したほうが無難です。

売却先・買収先の決定

仲介会社が、経営者の希望条件に合う売却先、あるいは買収先の候補をリストアップします
企業の規模・理念・実績などを比較検討し、交渉を進めたい相手を絞り込みます。

この段階では、社名が特定されないように配慮して進められます。

M&Aの打診と基本合意書の締結

候補先が決まったら、トップ同士の面談などを通じて、お互いの理解を深めます。

双方が前向きに進める意思を確認できたら、譲渡価格や今後のスケジュールなどの基本的な条件をまとめた「基本合意書」を締結します。

デューデリジェンスの実施

基本合意後、買い手側による詳細な調査(デューデリジェンス)が行われます。
デューデリジェンスとは、「財務状況に誤りはないか」「法的な問題はないか」「許認可は適正か」などを専門家がチェックする作業です。

売り手側は、求められた資料を誠実に提出し、調査に協力する必要があります。

最終契約書の締結

デューデリジェンスで大きな問題がなければ、いよいよ最終的な条件交渉です。

介護職員の処遇や引き継ぎの詳細などを詰め、双方が合意に至れば、法的な効力を持つ「最終契約書」に調印します。

統合の実施

契約締結後、クロージングを経て経営権が買い手に移れば、M&Aは一段落です。

その後は、PMI(Post Merger Integration)と呼ばれる統合プロセスが始まります。
介護職員や利用者への説明会を開いたり、業務システムを統合したりと、円滑な事業の引き継ぎを進めていきましょう。

介護M&Aを実施する際のポイント

M&Aを成功させ、後悔のない事業承継を実現するためには、いくつかの重要なポイントがあります。

  • デューデリジェンスを徹底する
  • 財務状況を整理する
  • 各種法令・許認可を確認する
  • 利用者の契約状況をチェックする
  • 介護職員・利用者に丁寧に説明する

上記のポイントを意識すれば、より良いM&Aが実現する可能性が高まります。

デューデリジェンスを徹底する

デューデリジェンスは、買い手が対象企業を詳細に調査するプロセスですが、売り手側の協力と誠実な対応が不可欠です。
買い手は、企業の価値やリスクを正確に評価するために、財務状況・法務・運営・技術などを徹底的に調べます。

売り手は、この調査に対して、必要な情報や資料を迅速かつ正確に提供する義務があります。
隠蔽や虚偽の申告は、買い手との信頼関係を根本から損ない、交渉の決裂を招きかねません。

特に、財務状況の透明性は重要です。
正確な財務諸表の提供はもちろん、偶発債務や訴訟リスクなど、潜在的なリスクについても包み隠さず開示する必要があります。

人員配置基準の遵守状況・過去の行政指導・法令違反の事実も、買い手にとって重要な判断材料です。

誠実なデューデリジェンス対応は、最終的な取引の成功に不可欠です。
透明性の高い情報開示は、買い手の信頼を得て、友好的な交渉を促進し、スムーズな買収プロセスを実現します。

財務状況を整理する

会計処理の正確性は、企業価値を維持・向上させるうえで重要です。

日々の取引を丁寧に記録し、領収書や請求書などの証拠書類をきちんと整理することは、会計の透明性を高めます。
定期的に会計ソフトやExcelなどを活用して帳簿を作成し、財務状況を把握するように努めましょう。

特に、将来的な事業売却や資金調達を考えている場合、正確な会計処理は不可欠です。

買い手や投資家は、企業の財務状況を厳しくチェックします。
不明瞭な点や不備があると、不信感を抱かれ、企業価値の評価が下がる可能性があります。

会計処理に不安がある場合は、税理士や会計士などの専門家への相談も検討しましょう。
専門家は、適切な会計処理の方法をアドバイスしてくれるだけでなく、税務上のリスクを回避するためのサポートも提供してくれます。

各種法令・許認可を確認する

介護事業の運営は、法令遵守と行政からの許認可取得が不可欠です。

M&Aにおいては、株式譲渡や事業譲渡など、スキームによって許認可の引き継ぎ方法が大きく異なります。

株式譲渡の場合、法人格が維持されるため、許認可が自動的に引き継がれるケースが一般的ですが、事業譲渡の場合は、譲受側があらためて許認可を取得する必要があります。

具体的な手続きは、介護保険法など関連する法令に基づいて慎重に進めましょう。
特に、利用者の権利や安全を守るための規定は厳格に遵守すべきです。

利用者の契約状況をチェックする

利用者の契約書の内容確認は、M&Aにおいて極めて重要なプロセスです。

利用者との契約には、経営者が変わる際の条項が含まれているか否かを詳細に確認する必要があります。
この確認作業を通じて、個別の契約内容を整理し、買い手側へスムーズに引き継ぐように周到な準備を進めましょう。

経営者変更条項の有無は、承継後の事業運営に大きな影響を与える可能性があります。

例えば、条項が存在する場合、契約の再締結や変更手続きが必要となる場合があります。
逆に、条項が存在しない場合は、「契約内容が自動的に引き継がれるのか」「何らかの手続きが必要なのか」を確認しておきましょう。

契約内容の整理においては、契約期間・料金体系・サービス内容・解約条件など、重要な項目を洗い出し、一覧表を作成することが有効です。

これにより、買い手側は契約内容を迅速かつ正確に把握でき、承継後の事業計画を立てやすくなります。

また、利用者への説明責任を果たすためにも、契約内容の明確化は不可欠です。

介護職員・利用者に丁寧に説明する

介護施設のM&Aにおいて、介護職員や利用者への丁寧な説明は欠かせません。

M&Aの情報開示は、介護事業において極めて慎重な対応が求められます。

情報の漏洩は、介護職員の間に不安や混乱を引き起こし、最悪の場合、離職につながる可能性があります。
加えて、利用者へのサービスの質を低下させるだけでなく、事業の継続性にも影響を及ぼしかねません。

M&Aに関する情報は、専門家と十分に相談し、適切な方法で伝える必要があります。
経営者自らが介護職員や利用者に対し、M&Aの目的や背景、今後の事業計画などを丁寧に説明することが重要です。

梅沢 佳裕 氏
梅沢 佳裕 氏

中小規模の介護事業者では、「後継者がいない」「経営者が高齢」「介護報酬の見直し」「職員不足」など、事業を続けるうえで避けられない課題が増えています。こうした状況の中で、施設を別の会社に引き継ぐ「介護M&A」という方法が使われることが多くなっています。これは、介護サービスを止めずに続けるための選択肢のひとつです。M&Aを行うことで、地域のサービスが継続し、資金面が安定して職員の雇用を守りやすくなります。設備投資や研修制度が整い、働く環境がよくなる可能性もあります。一方で、これまで大切にしてきたケアの方針が変わる心配もあるため、職員への丁寧な説明が欠かせません。手続きは、専門家への相談、相手探し、合意、調査、契約、引き継ぎという流れで進められていきます。中小規模の介護事業者にとって、「これから先の事業経営」を理解するうえで本記事は役立つ情報ではないでしょうか。

まとめ:M&Aは介護施設にとって有用な経営戦略

M&Aは、後継者不足や経営環境の悪化といった課題に直面する介護施設の経営者にとって、非常に有効な経営戦略です。

しかし、M&Aはポイントを理解し、適切な対応で進める必要があります。
加えて、介護職員や利用者への丁寧な説明も不可欠です。

売却益の向上だけでなく、サービスの維持や利用者への配慮も意識して取り組みましょう。

監修:梅沢 佳裕

人材開発アドバイザー

介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

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