2027年介護保険制度の改正による影響は?業界の動きを把握しよう

2025.12.19

「2027年の介護保険制度改正で、事業所は一体どうなってしまうのだろうか」
「ケアマネジャーとしての働き方は変わるのだろうか」
「2027年に向けて、今から何を準備すれば良いのかわからない」

このような漠然とした不安を抱える介護事業所の経営者や管理者、現場を支えるケアマネジャーの方は少なくないでしょう。

3年ごとに行われる介護保険制度の改正は、常に私たちの事業や業務に大きな影響を与えてきました。特に次期2027年の改正は、制度の根幹に関わる大改革になるといわれており、その動向から目が離せません。

この記事では、複雑で多岐にわたる2027年介護保険改正の情報を整理し、誰でも理解できるようにわかりやすく解説します。変化の波を正確に捉え、競合に先んじて次の一手を打つために役立ててください。

2027年介護保険改正が大改革といわれる3つの理由

2027年の改正が、単なる3年ごとの見直しではなく、制度の存続そのものが問われる歴史的な転換点とされるのには、避けて通れない3つの大きな理由があります。それは日本の人口構造の変化がもたらす、構造的な課題です。

まずは、なぜ2027年の改正がこれほどまでに重要なのか、その背景を正しく理解しましょう。

1.高齢者人口のピークと介護給付費の増大

日本は今、歴史上誰も経験したことのない超高齢社会のまっただ中にいます。いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年問題はもう現実のものとなっています。さらに、高齢者人口は2040年にピークを迎え、介護を必要とする人の数は増え続ける見込みです。

年代高齢化の状況予測される影響
2025年団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)に到達する医療・介護ニーズが急増し、社会保障給付費が大幅に増加する
2040年高齢者人口がピークを迎える介護職員の不足がさらに深刻化し、現役世代の負担が限界に達する
2050年65歳以上の割合が37%を超える制度そのものの維持が困難になる可能性も指摘されている 

参考:高齢化の状況

これに伴い、介護サービスにかかる費用(介護給付費)は増え続け、国の財政を圧迫します。したがって、このままでは必要な人に必要なサービスを提供し続けることが困難になるのは明らかです。

2.深刻化する介護人材の不足

介護サービスの需要が増え続ける一方で、サービスの担い手である介護人材は慢性的に不足しています。少子化により生産年齢人口が減少しているため、介護業界への入職者は増加していません。需要と供給のアンバランスは年々深刻化しており、サービスの質を維持することさえ難しくなっています。

特に、経験豊富なベテラン介護職員の退職や、体力的な負担が大きい夜勤を敬遠する若年層の増加が人材不足に拍車をかけています。待遇改善や労働環境の見直しが急務であるものの、介護報酬の制約から十分な対策を講じることが難しいのが現状です。

結果として、既存の介護職員への負担が増加し、さらなる離職を招くという悪循環に陥っています。外国人介護人材の活用も進められていますが、言語や文化の違いから十分な戦力となるには時間がかかるでしょう。

3.現役世代の負担増と財源問題

介護保険制度の財源は、私たちが納める保険料と税金(公費)で成り立っています。高齢者が増え、現役世代が減るということは、一人一人の現役世代が支える高齢者の数が増えることを意味します。

このままでは保険料の負担は際限なく増え続け、制度そのものが成り立たなくなる恐れもあるでしょう。このような背景から、2027年の改正では給付と負担のバランスをどう取るか、極めて難しい舵取りが迫られています。

【事業者・ケアマネへの影響大】2027年介護保険改正における3つの論点

2027年の改正に向けて、すでに議論が始まっています。

論点は多岐にわたりますが、ここでは特に介護事業者やケアマネジャーの経営・業務に直接的な影響を与える可能性が高い3つのテーマに絞って解説します。いずれも自分ごととして捉えるべき重要な内容です。

論点1.給付と負担の見直し:利用者負担増による事業収益への影響

事業収益に直接的な影響を及ぼすのが、給付と負担の見直しに関する議論です。特に以下の4点は、2024年度改正で見送られた経緯もあり、2027年度に向けて議論が本格化すると見られています。

論点主な内容事業者・ケアマネへの想定される影響
2割負担の対象拡大現在、一定以上の所得がある利用者の自己負担は2割。この対象範囲を拡大する案利用者の経済的負担増により、サービスの利用控えが発生し、事業所の減収につながるリスク
ケアマネジメントの利用者負担導入現在無料であるケアプラン作成に、自己負担(有料化)を導入する案利用控えの懸念。費用徴収や説明といった新たな事務負担が発生し、ケアマネの業務がさらに煩雑化する可能性
要介護1・2の総合事業への移行軽度者向けの訪問介護(生活援助)や通所介護を、市町村の地域支援事業へ移行する案(保険外し)報酬単価の低下や、市町村ごとのサービス内容の違いによる混乱。利用控えによる減収リスク
多床室の室料負担介護老人保健施設や介護医療院などの多床室(相部屋)に、新たに室料負担を導入利用者の負担増。在宅との公平性を図る名目だが、施設の利用控えにつながる可能性も

上記の見直しは、制度の持続可能性を確保するという名目ですが、利用者の負担増につながるものがほとんどです。利用者負担が増えれば利用控えが起こり、事業所の稼働率低下、つまり減収に直結します。

特にケアマネジメントの有料化は、介護保険の入り口を狭めることになりかねず、結果として利用者の重度化を招くという本末転倒な事態も懸念されています。事業者としては、これらの動向が事業所の収益にどの程度影響を与えるか、今のうちからシミュレーションしておく必要があるでしょう。

論点2.介護人材確保と生産性向上:処遇改善とDX化の両立

事業運営の根幹である人と効率に関しても、大きな変革が求められます。経営者は、人件費の増加と業務効率化のための投資という、難しい判断を迫られることになります。

  • 介護職員の継続的な処遇改善
    • 人材を確保するため、介護職員の賃上げは待ったなしの課題である
    • 2024年度改正でも処遇改善が行われましたが、他産業との賃金格差は依然として大きく、今後も継続的な改善が求められる
    • 処遇の改善は人件費の増加に直結するため、経営基盤の強化が不可欠である
  • ICT・介護ロボット導入による生産性向上
    • 介護記録ソフトや見守りセンサー、介護ロボットなどのテクノロジー活用はもはや必須である
    • 職員の負担を軽減し、限られた人員で質の高いケアを提供するための戦略である
    • 科学的介護情報システム(LIFE)の活用も、データに基づいたケアの質向上と業務効率化の両面で重要性を増している
  • タスクシフト・タスクシェアの推進
    • 専門性の高い業務は有資格者が担い、周辺業務は介護助手や地域のボランティアなどと役割分担を進める動きが見られる
    • 専門職が本来のケア業務に集中できる環境を目指せる

処遇改善と生産性向上は、車の両輪です。どちらか一方だけでは、深刻な人材不足という課題は解決できません。テクノロジーへの投資をコストではなく、人材確保とサービス品質向上のための戦略的投資と捉える視点が求められます。

論点3.地域包括ケアシステムの深化:医療連携と情報基盤の構築

これからの介護事業所は単独でサービスを提供するだけでなく、地域の中でどのような役割を担うかが問われます。医療や他の専門職、地域住民との連携を強化し、地域全体で高齢者を支える体制の一翼を担う必要があるからです。

  • 医療・介護の情報連携強化
    • 医療ニーズの高い高齢者が増える中、医療機関とのスムーズな情報連携は不可欠である
    • 2026年度以降、全国的な介護情報基盤が順次稼働予定で、これにより医療と介護の情報が電子的に共有されやすくなる
    • デジタル基盤にどう対応していくかが、事業所の競争力を左右する
  • 認知症施策の推進
    • 認知症の人が地域で安心して暮らせる社会の実現に向け、早期発見・早期対応や相談支援体制の強化が求められる
    • 地域の認知症ケアにおいて事業所が専門性を発揮し、中核的な役割を担うことが期待される
  • 高齢者の住まいの質の確保
    • サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や有料老人ホームにおける、不適切な利用者の囲い込み問題への対策が強化される
    • 事業者は、透明性の高い公正なサービス提供体制を構築し、利用者の選択の自由を保障する責任がある

これからの事業運営においては、事業所のサービス品質向上はもとより、地域全体の医療・介護資源を包括的に捉え、他の機関との連携をどのように構築していくかという、より広い視野が求められます。

振り返り:2024年介護保険改正から見える2027年への伏線

2027年の未来を予測するためには、直近の2024年介護保険改正を振り返ることが重要です。なぜなら、2024年改正で結論が出されず、先送りされた論点こそが、2027年改正の主要テーマになる可能性が極めて高いからです。

2024年度の主な改正ポイントは以下のとおりです。

分野2024年度改正の主なポイント2027年への示唆
介護報酬・全体で+1.59%の改定
・うち0.98%は介護職員の処遇改善に充当
・賃上げは継続的な課題
・財源確保のため、他の分野での効率化や負担増の議論が不可避になる
処遇改善3種類あった処遇改善加算を一本化し、柔軟な運用を促進・事務負担は軽減されるが、事業所内での適切な配分がより重要になる
・人材定着のための総合的な戦略が求められる
生産性向上LIFEの活用推進、見守り機器などの導入に対する報酬上の評価を拡充・DX化の流れは加速する
・テクノロジー導入の有無が、事業所の生産性や競争力に直結する
先送りされた論点・2割負担の対象拡大
・ケアマネジメントの有料化
・要介護1・2の総合事業への移行
これらのテーマは、2027年改正で再燃する最重要論点となる可能性が高い

このように、2024年の改正は、2027年の大改革に向けた地ならしや伏線と捉えることができます。先送りされた課題の行方を注視し続けることが、未来への備えの第一歩です。

激動の時代を勝ち抜く|事業者が今から始めるべき3つの戦略

2027年改正の動向を見ていると、「具体的に何をすれば良いのか」という疑問が湧いてくるでしょう。制度改正という大きな外部環境の変化に対して、事業所の経営基盤を強化するための具体的なアクションプランが必要です。

ここでは、激動の時代を勝ち抜き、持続可能な事業運営を実現するために、今から着手すべき3つの戦略を紹介します。

戦略1.経営の見える化とデータに基づく意思決定

制度改正による収支への影響を正確に予測し、適切な経営判断を下すためには、事業所の経営状況を客観的なデータで把握することが不可欠です。これまでどんぶり勘定や長年の勘に頼ってきた経営から脱却し、データに基づいた意思決定へとシフトする必要があります。

具体的には、以下の経営指標(KPI)を常に把握し、分析できる体制を構築しましょう。

KPIの例重要性
サービス別稼働率利用控えなどの影響をいち早く察知し、対策を講じる
人件費率処遇改善によるコスト増を正確に把握し、適正な人員配置を検討する
利用者一人あたりの収益・費用どのサービスが収益に貢献しているか、またはコストを圧迫しているかを分析する
新規利用者獲得コスト効率的な営業・マーケティング戦略を立てる

上記のデータを正確に把握することで、「2割負担の対象者が増えた場合、収益は〇〇円減少する可能性がある」といった具体的なシミュレーションが実現します。まずは、事業所の足元を固めて見える化することで、より精度の高い予測や対策が可能になります。

戦略2.生産性向上とケアの質を両立するDX推進

人材不足とコスト増という二重の課題を克服する鍵は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進にあります。DXは単なる業務効率化に留まらず、職員の負担を軽減しながら本来の専門的なケアに集中する時間を生み出し、サービスの質の向上と利用者の安全確保に直結します。

さらに、DX推進によりデータに基づいた意思決定を実施し、より効果的なサービス提供を実現することが可能です。例えば、利用者の状態をリアルタイムで把握して早期の対応を促すことで、リスクを未然に防げます。

また、蓄積されたデータを分析するとサービスの改善点を発見でき、個々の利用者に最適化されたケアプランを作成することも可能です。2027年の大改革に向けてDXを推進することが、持続可能な経営基盤を築く上で確実な投資となるでしょう。

戦略3.人材確保と定着に向けた選ばれる職場作り

今後、介護業界における競争は利用者の獲得競争から人材の獲得競争へと、さらにシフトします。介護職員から選ばれる事業所になるためには、賃金といった処遇改善だけでは不十分です。

働きがいを感じられる職場環境や、将来のキャリアが見通せる仕組み作りといった、総合的な人事戦略が求められます。

  • 魅力的な職場環境の構築
    • 職員同士が互いを尊重し、感謝を伝え合う文化を築く
    • 経営理念やビジョンを共有し、仕事の社会的意義を実感できる機会を作る
  • キャリアパスの明確化
    • 資格取得支援や研修制度を充実させ、職員のスキルアップを後押しする
    • 経験や能力に応じた役職や役割を用意し、目標を持って働き続けられる環境を整える
  • ICT化による業務負担の軽減
    • DXの推進によって、職員の身体的・精神的負担を軽減する
    • 記録や報告書の作成といった間接業務の時間を削減し、利用者と向き合う直接的なケアの時間を増やすことは、職員の満足度向上に直結する

給与だけでなく「この職場で働き続けたい」と思えるような付加価値を提供できるかどうかが、人材定着の鍵を握ります。

斉藤 圭一氏
斉藤 圭一氏

2027年介護保険制度改正は、単なる制度見直しではなく、介護事業の存続そのものを左右する分岐点です。本記事では、給付と負担の再構築、人材不足への対応、地域包括ケアの深化という三つの核心を丁寧に整理しており、現場の実務者にとって重要な視点が包括的に示されています。特に、利用者負担増が事業収益やサービス利用動向に与える影響、ケアマネジメント有料化の懸念、要介護1・2の総合事業移行といった論点は、今後の経営判断に直結するため注視が必要です。また、人材確保とDX推進を「二項対立ではなく両輪」と捉える考え方は実務に即しており、テクノロジー導入を戦略的投資として位置づける重要性は強く共感します。さらに、地域包括ケアの深化に伴い、事業所が地域の中でどのような役割を担うのかという視座は、これからの経営とケアマネジメント双方に欠かせません。制度改正を“脅威”ではなく“組織変革のチャンス”と捉えるという本記事のメッセージは、将来を見据える上で非常に有意義だと感じます。

2027年の介護保険改正を乗り越えるための準備をしよう

2027年の介護保険制度改正は、介護事業者にとって多くの課題を伴う可能性があります。しかし、これを単なる危機と捉えるか、事業所の経営やサービス提供体制を見直し、より強く質の高い組織へと生まれ変わるための変革の好機と捉えるかで、未来は大きく変わります。

重要なのは、変化の波にただ流されるのではなく、その先を見据えて能動的に情報を収集し、少しでも早く対策に着手することです。今回ご紹介した3つの戦略である「経営の見える化」「DX推進」「選ばれる職場作り」は、いずれも一朝一夕に実現できるものではありません。

今から計画的に準備を進めることが、3年後の未来を左右します。この激動の時代を乗り越え、地域に必要とされ続ける事業所であり続けるために、今日からできる第一歩を踏み出しましょう。

監修:斉藤 圭一

主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)

神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。その後、1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職。2007年には立教大学大学院(MBA)を卒業。 以降、高齢者や障がい者向けのさまざまなサービスの立ち上げや運営に携わる。具体的には、訪問介護・居宅介護支援・通所介護・訪問入浴などの在宅サービスや、有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅といった居住系サービス、さらには障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設の運営を手がける。 また、本社事業部長、有料老人ホーム支配人、介護事業本部長、障害サービス事業部長、経営企画部長など、経営やマネジメントの要職を歴任。現在は、株式会社スターフィッシュを起業し、介護・福祉分野の専門家として活動する傍ら、雑誌や書籍の執筆、講演会なども多数行っている。

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