【介護業界動向コラム】第20回 ICTが進む法人と、進まない法人の差はどこにある?
2026.02.25
「ICTが必要なことは分かっている」
「やらなければいけないのも理解している」
「それでも、なかなか一歩が踏み出せない」
これは、多くの社会福祉法人で、理事長や施設長、事務長、制度担当者が共通して感じている実感ではないでしょうか。
ICTが進む法人と、進まない法人。
その差は、ITスキルや職員の年齢、法人規模や予算の大小ではありません。
実際、同じ制度環境、同じ報酬体系の中でも、
少しずつ前に進めている法人と、立ち止まっている法人があります。
では、その違いはどこにあるのでしょうか。
目次
「制度対応」という言葉が、行動を重くしてしまう
ICTの話になると、制度の文脈でこんな言葉が出てきます。
・生産性向上が求められている
・加算取得には体制整備が必要
・ICT活用が前提条件になりつつある
どれも間違いではありません。
実際、令和6年度報酬改定や、生産性向上推進体制加算、処遇改善加算の要件を見れば、
制度は明らかに 「ICT活用を前提に回る設計」 に変わり始めています。
ただ一方で、 この「制度対応」という言葉そのものが、現場にとっては重くなりがちです。
・監査で指摘されないこと
・算定要件を落とさないこと
・現場に無理をかけずに制度を回し続けること
このような失敗できない前提の中で、慎重に進める作業です。
この立場で 「制度上、ICTを進めた方がいいですよ」と言われると、 それは前向きな提案というより、 新たなリスクを引き受ける話として受け止められてしまうことがあります。
分かっている。でも踏み出せない。
これは、制度理解や意欲の問題ではありません。
ICTが進まない法人は、制度を軽視しているわけではない
ビーブリッドでは、こう考えています。
ICTが進まない法人は、 制度を理解していないわけでも、対応を怠っているわけでもありません。
むしろ、
・現場を混乱させずに制度を回したい
・職員の負担を増やさずに加算を維持したい
・自分の判断で算定要件を外したくない
こうした 制度と現場の両立を真剣に考えているからこそ、立ち止まっている ケースが非常に多いのです。
皮肉なことに、 制度を丁寧に守り、現場を大切にしてきた法人ほど、 「失敗しないICT導入」を考えすぎて、動きづらくなってしまう構造があります。
差は「制度への向き合い方」ではなく、「最初の一歩の置き方」
ICTが進む法人と、進まない法人の違いは、制度への意識の差ではありません。
最初の一歩を、どこに置いているか。ここが大きく違います。
ICTが進まない法人ほど、最初の一歩をこう置きがちです。
・どのシステムを選べば要件を満たせるか
・将来の改定にも耐えられる構成は何か
・全体を一気に整える必要があるのではないか
これは、制度担当者としては非常に真っ当な考え方です。ただし、この一歩はあまりにも重い。
だから、止まります。
ICTが進む法人は「加算取得」から始めていない
一方で、ICTが進んでいる法人は、 最初から加算要件や制度文言の話をしていません。
やっているのは、もっと手前のことです。例えば、
・記録業務で、誰が一番時間を取られているのか
・夜勤で「異常がないことの確認」に使っている時間はどれくらいか
・同じ内容を、紙とシステムの両方に書いていないか
つまり、 制度対応のためではなく、「現場が今つらいところ」を整理することから始めています。
この整理ができて初めて、 ICTは「制度要件を満たすための手段」ではなく、「結果として制度要件につながっていく手段」に変わります。
制度は「全部やる法人」を求めているわけではない
生産性向上推進体制加算や、処遇改善加算の要件を見ても分かる通り、 制度が求めているのは、
・完璧なICT環境
・最新機器のフル装備
・一気に変える大改革
ではありません。求められているのは、
・業務負担を減らそうとしているか
・ICTを活用しようとする体制があるか
・委員会や話し合いの中で、改善を続けているか
という 「取り組みの姿勢」と「積み重ね」 です。
つまり、 制度はすでに「現場の頑張りだけで回している状態」からの脱却を前提に動き始めています。
まとめ
ICTが進む法人と、進まない法人の差は、
・制度理解の深さ
・システムの多さ
・担当者のスキル
ではありません。
その差は、今の現場の回し方が、この先の制度改定や人材環境の変化に耐えられるかを、一度立ち止まって整理できたかどうかにあります。
新しい制度に振り回される必要はありません。一方で、「これまで通り」で回り続けられる前提も、制度側には残っていません。
今の現場を否定せず、職員の頑張りを壊さず、誰かの経験や我慢に依存している部分を、少しずつ仕組みに置き換えていく。それが結果として、
・生産性向上推進体制加算への対応
・処遇改善加算を続けるための土台づくり
・人が減っても制度を回せる体制づくり
につながっていきます。
そして、その一歩を制度担当者や管理者一人の責任にしないこと。
現場・管理者・法人が「これなら制度としても、現場としても続けられる」と感じられる形で向きを変えられたかどうか。
そこにこそ、ICTが進む法人と進まない法人を分ける、本当の違いがあると、私たちは考えています。
竹下 康平(たけした こうへい)氏
株式会社ビーブリッド 代表取締役
2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。

