【医療業界動向コラム】第138回 令和6年度診療報酬改定後の在宅医療の現状を確認する
2025.05.13

令和7年4月23日、第73回 中央社会保険医療協議会診療報酬改定結果検証部会が開催され、前回に続き、令和6年度診療報酬改定の影響に関するアンケート調査結果の報告案が公表されている。ここでは、在宅医療領域(訪問診療、訪問看護、訪問薬剤管理等)についてのポイントを確認したい。
連携場面でのDX、課題が明確に
令和6年度診療報酬改定では、在宅医療情報連携加算や往診時医療連携加算、協力対象施設入所者入院加算などといった在宅医療場面でのICTの利活用、いわゆる地域医療情報連携ネットワークの活用を促すような診療報酬の新設が多くあった。在宅医療に取組む医療従事者の負担軽減を目的としたものだといえる。
診療報酬改定後、導入・利活用はどうなっているのだろうか。医療機関側からは、進捗状況は緩やか、と言える結果だ(図1)。設備投資もそれなりに発生すること、自院で入院対応できる環境にあることなどが理由として考えられる。

図1_地域医療連携ネットワークの利活用について(※画像クリックで拡大表示)
一方で、連携先側からみると、訪問看護ステーションや保険薬局など医療系といえる施設では連携は進んでいる印象だ。介護施設側では、ICT以外の方法での連携が多くなっている(図2)。

図2_地域医療情報連携ネットワーク以外の情報共有について(※画像クリックで拡大表示)
なお、ICTを用いた連携においては、電子カルテ等のシステムとの連携ができていないことや、職員のリテラシーなどが課題となっている(図3)。また、昨今の情報セキュリティ事故の報道などが、やや警戒感を生んでいるのではないかとも思われる。事故は起きることを前提に、被害を最小限に食い止めるための施策やBCPを策定しっぱなしにせず、定期的に机上訓練などを行う習慣を作ることで、利用することの心理的ハードルを少しでも低くする取り組みが必要だ。

図3_地医療情報連携ネットワークの課題(※画像クリックで拡大表示)
また、全国医療情報プラットフォームとの違いが分かりにくい、というのも地域医療情報連携ネットワークが進まない原因ではないかと感じることがある。全国医療情報プラットフォームは、患者情報の共有や医師からの患者への療養指導などがおこなえる便利なものだが、在宅医療場面などで急変時の対応などはできない。地域医療情報連携ネットワークは、在宅医療にリアルタイムで携わっている方の情報発信で、連携ネットワークに参加する誰もがすぐに対応できるもの。改めて、全国医療情報ネットワークと地域医療情報連携ネットワークは別のものであって、いずれも必要なものであることを理解したい。
在宅の認知症患者への対応
医療機関に対する調査で、患者の傾向をみると、認知症を有する患者の割合が高いことがわかっている(図4)。

図4_在宅における認知症患者への対応(※画像クリックで拡大表示)
令和6年度診療報酬改定では、地域包括診療料等で認知症かかりつけ医対応研修や地域の認知症対策への参画が求められるようになったが、在宅医療を担う医療機関に対して、研修の受講などの対応が求められる可能性や、受入れに関する新たな評価なども考えられるだろう。
地域ポリファーマシー対策に注目
薬局による在宅対応に関する調査で注目したいのは、在宅におけるポリファーマシー対策に関するもの。在宅で常用している医薬品は6-9種類が多いことが分かっているが、処方医と連携した減薬の実施が約23%という結果がでている。この結果もさることながら、あえてポリファーマシー対策の調査をしていることが気になるところ。
昨年、ポリファーマシー対策に関する手引きが公表されたのは記憶に新しい。また、令和6年度診療報酬改定では、薬剤総合評価調整管理料の要件の見直しが行われ、かなり算定しやすくなっている。手引きでは、基幹病院に地域ポリファーマシーコーディネータの配置、地域に薬剤調整支援者の配置・対応を求めるような記載もあった(図5)。次回の診療報酬・調剤報酬改定で注目しておきたい点であり、今からでも備えておくことを検討したい。

図5_地域ポリファーマシーコーディネータ(※画像クリックで拡大表示)

山口 聡 氏
HCナレッジ合同会社 代表社員
1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。
https://www.hckn.work