【医療業界動向コラム】第103回 電子処方箋の導入状況と改めてその必要性を確認する

2024.08.20

デジタル庁のホームページには政策に係る取組状況を可視化したダッシュボードが複数掲載され、政策の進捗状況が確認できるようになっている。そのダッシュボードに電子処方箋の導入状況の可視化が新たに追加されている。このダッシュボードでは、全体・都道府県毎の他、導入施設種類別の切り口で状況が分かるようになっている。

図1_電子処方箋の導入状況(※画像クリックで拡大表示)

比較的導入が進んでいるという薬局でもまだ37%という状況だ。いち早く電子処方箋を導入した医療機関からは、早く導入したものの、近隣で電子処方箋に対応できる薬局がなく、改めて処方箋を発行した、ということもあると耳にする。医療機関としては、自院の周囲に対応している薬局があるかどうかの確認と共に、自院に導入することを周囲の薬局に伝えていくことで、地域全体での普及率を上げていく取組も必要だと感じる。なお、電子処方箋の導入については国からの支援の他、自治体独自の支援も予定されている地域もあるので、J-Net21などの補助金・助成金情報を定期的に活用、確認することをお勧めしたい。

ところで、本年7月下旬に、厚生科学審議会において、処方箋や調剤録の保存期間を現行の3年から5年に延長する案が提示され、了承されたとの報道があった。診療録と同様に電子データによる保存を前提としたもので、電子処方箋の導入を後押しするものとなる。改めて電子処方箋についてその意義などを確認しておきたい。

〇電子処方箋の導入は、医療従事者の働き方改革と医療安全に貢献する

電子処方箋とは、単に処方箋を電子化する、というものではない。重要なポイントは「電子処方箋管理サービス」を利用して、電子化された処方箋をやり取りするシステムである、ということだ。処方に関するデータベースといえる。

図2_電子処方箋管理サービス(※画像クリックで拡大表示)

そのため、病院内においてもこの電子処方箋管理サービスを利用した重複投薬防止やポリファーマシー対策に活かせるものだ。先日公表されたポリファーマシー対策の手順書などにもそうした記載がある(「第102回 院内から地域へ拡大するポリファーマシー対策、その手順を解説」を参照))。故に、電子処方箋を導入することは、医療従事者にとっての負担軽減・業務効率化につながることになり、患者にとってみれば医療安全にもつながることとなる。

〇第4期医療費適正化計画と令和6年度診療報酬改定との関連性を確認

医療費適正化計画とは、国が大きな方針を決め、各都道府県は各地の実態に基づき目標値と期日、取組内容を策定するもの。有名な施策としては、特定健診・特定保健指導の実施割合を高めること、後発医薬品の使用促進(数量割合80%以上)などがある。今年度から始まっている第4期医療費適正化計画では、後発医薬品の更なる使用促進として、バイオシミラーに関する新たな目標値の設定が行われている。他にも、入院病床を削減していくための施策として、化学療法を極力外来へ移行していくこと、白内障手術を外来で行うなど新たに盛り込まれ、診療報酬でも反映されたところだ。後発医薬品の更なる使用促進策としてのフォーミュラリの取組や、重複投薬等の確認ができる電子処方箋の普及に伴い高齢者医薬品の適正使用の推進を図ることが明記されている。

図3_第4期医療費適正化計画の概要(※画像クリックで拡大表示)

令和6年度診療報酬改定は、こうした様々な政策を後押しするために医療DX推進体制整備加算が新設されたり、薬剤総合評価調整加算の要件の見直しが行われたりしたところだ。

電子処方箋に期待されているのは、重複投薬及びポリファーマシーを防ぎ、患者が正しく服用し続けることだといえる。また、マイナポータルを通じて患者自身が処方履歴などを確認できることから、患者本人が意識して治療・療養に参画する取組が今後は重要になってくる。

本連載の第101回目(本年10月以降の医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算の見直しについて答申される。マイナ保険証の利用率に応じて3つの区分に再編。「第101回 本年10月以降の医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算の見直しについて答申される。マイナ保険証の利用率に応じて3つの区分に再編。」)でもお伝えした本年10月からの医療DX推進体制整備加算の見直しでは、本年度中(令和7年3月までに)に電子処方箋の導入がなければ、来年度からの算定が不可になることとなっているが、今後の導入状況を見ながら、その要件について見直されることとなる予定だ。医療従事者の負担軽減の観点からも有用であることを改めて理解し、導入に向けて取り組んでいただきたい。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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