【介護業界動向コラム】第23回 VUCAの時代の介護経営 「改定のその先を見据えた事業戦略の立て方⑤」
2024.06.24
※このコラムは2024年6月19日時点の情報をもとにしております。
これまで20余回にわたり連載してきたこちらの記事も、今回をもって最終回となりました。長らくお読みいただいた皆様、また最近読み始めた皆様、そして初めてお読みいただいた皆様、誠にありがとうございました。
本連載では、主に2020年代前半における介護経営を取り巻く環境変化について、事業者がどのような視点を持ち、どのように事業を運営すべきかを俯瞰的にお伝えしてきました。総括すると、2020年代前半を「再編・集約・統合・転換の始まり」と位置づけ、これから起こり得る変化に備えるための布石をどのように打つべきかを述べてきました。
さて、最終回となる今回は、それらを踏まえつつ、更に少し先の未来、2040年問題とそこに向けた課題を確認していきたいと思います。
いわゆる2040年問題とは、人口減少や高齢化、特に認知症患者の増加といった高齢化社会の変化、労働者人口の大幅な減少、インフラの老朽化、防災対策の必要性等が論じられています。
■各種統計等に基づいた2040年の姿
国立社会保障・人口問題研究所や厚生労働省の資料によれば、2040年には2025年比で人口が約1100万人減少すると予測されており、生産年齢人口の減少が著しいことが分かります。
また民間の有識者グループである「人口戦略会議」の資料によると、2020年から2050年までに744の自治体(約41.5%)が消滅する可能性があると予測されています。
このような環境下においては、過去の15年とは異なった課題設定と対応が必要になってくるでしょう。
さて、そのような前提ではありますが、こうした制度の中の「マージナル(境界線上)」な領域については、発生状況・発生頻度が多い場合等については、再編統合が促されていく可能性が高いもの、とも言えます。例えば、その象徴的な事例は療養病床の再編であり、「介護療養病床」の廃止と「介護医療院」の設置だったと言えるでしょう。介護を行う病床、という医療・介護のどちらにもなり得る病床が、完全に介護のベッドに統合されたとも見ることができます。
2040年頃の介護福祉経営において注目すべきポイントの一つは、テクノロジーの進化とその活用を見越した経営です。2024年時点でも、先端テクノロジーを活用した介護技術やAI(人工知能)が介護現場で活用され始めています。この傾向はさらに加速し、多くの利用者を安全にケアする上で欠かせない要素となるでしょう。
特にセンサー技術は、人間の視覚・触覚情報をより緻密に代替するものとして、離床状況の把握や睡眠、バイタルなどの生体情報のモニタリングに加え、利用者の表情や日常動作の変化、生体反応の検出などに応用され、遠隔介護や遠隔医療が進展することが期待されます。
また、AIによる情報処理技術も実用化が進むでしょう。個々の利用者の状態をリアルタイムに把握し、自立支援に向けた適切なケアプランを提供するだけでなく、介護行為の記録も自動化され、解析されるようになる可能性が高いです。(例えば、歩行能力の変化、動作の変化、表情の変化等から異常値を把握するなど)
一方、テクノロジーの進展において重要なのは、あくまでテクノロジーは「介護をするための補助道具」であり、それを使うのは人間であり、対象者も人間であるということです。道具をどのように効果的に活用し、利用者満足度を向上させるかが次の時代の介護経営のテーマとなるでしょう。
例えば、ケアプラン作成にAIを活用し自立支援型のプログラム作成をすることが一般的になっていけば、利用者やその家族は、ケアマネジャーに対して(あるいはケアマネジメント業務に対して)、更に高次の欲求である「自己実現」を支援するアセスメントや、介護以外の生活上の課題解決、適切な社会資源との連携などの付加価値を期待するようになるでしょう。それは、保険外サービスとしてのコンシェルジュ機能のような役割を担うのかもしれません
ここでご紹介した事例はあくまで一例ですが、これからの混迷の時代=VUCAの時代の介護経営においては、過去の延長線上にある取り組みでは事業の存続は容易ではありません。次の時代のスタンダードは何なのか?そのスタンダードを予測し、対応した上で、更に一歩抜き出たサービスを提供できるのか。予測される未来から現在を振り返り、未来に向けた戦略と実行を積み上げていくことが求められます。
本連載が皆様の事業経営の一助となることを祈念しております。長らくお読みいただき、誠にありがとうございました。また、皆様にお会いできる機会を楽しみにしております。
大日方 光明(おびなた みつあき)氏
株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事
介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。