【介護業界動向コラム】第18回 VUCAの時代の介護経営「改定のその先・・を見据えた事業戦略の立て方」

2024.01.31

2024年1月、年明け最初の連載となります。今年もどうぞよろしくお願い致します。

恐らく本記事が掲載されている頃には、2024年度の介護報酬改定の点数が開示され、診療報酬点数についてもいわゆる短冊(点数が入る前の主要改定項目一覧)が揃いつつある状況であるものと推察されます。個別の改定項目の詳説については、他の記事に譲るとして、ここでは戦略を立てる上での「改定の読み方」を見ていきたいと思います。

2010年後半~2020年前半代の報酬改定の構造

診療報酬改定や介護報酬改定は、それぞれに定期的な改定がなされますが、近年の傾向としてそれぞれの改定内容は、短期的な行動変化だけでは対応できず、3年~5年、長いものでは10年スパンくらいでの組織全体の行動変容や構造改革を促すような連続性を持った設計になってきています。

具体例を挙げるとするならば、嘗ての改定事項は、例①:特定の資格を持った職員の配置を●●名以上していれば●●という点数が取れるというような条件であったり、例②:●●という利用者に対して●●という指導を月●回以上(あるいは●●分以上)実施する・・というような条件であれば、例①の場合は採用、例②の場合はシフト調整や指導方法の設計等があれば実行に移せます。

一方で、近年の制度改定は、例③●●という資格を有した職員が、●●という患者に●●をする計画を立て実施し評価する。その結果●●という状態になった場合更に加点する。といった具合に、「プロセス」や「行動の結果」を評価する体系に変化してきています。これを、プロセス評価やアウトカム評価と整理したりしますが、医療・介護にまつわる診療情報・ケアの情報がデータとして蓄積され、サービスの質をエビデンスに基づいて評価することが出来るに従い、この傾向は強くなっていくものと見られます。介護サービスでいうのならば、「ADL維持等加算」等におけるADL利得の評価、排せつ支援加算等における「排せつに関する状態改善」、2024年度新設の「生産性向上推進体制加算」における時間外労働時間の削減等も「結果(アウトカム)の評価」の代表例と言えるでしょう。

2020年代後半代~2030年前半の報酬改定を先読む

以下の図は、2024年の介護報酬改定やその中で議論に上っていた個別項目や、近年の市場動向等を基に今後9年間程の流れを簡単に予測した資料となります。簡略化してはいますが全体のイメージを掴んで頂ければと思います。

 大きく分けて「データに基づいた評価=LIFEの利活用」というテーマ、「事業所統合・大規模化」というテーマ、「生産性向上・人材確保」というテーマ、「中重度対応」というテーマの4つを設定しています。

今回の改定でも大きく取り上げられたトピックですが、それらが今後どのように進化(深化)していく可能性があるのかを想定しています。

 2024年度の改定点数が適用されていない段階で気が早い・・・とお感じになるのはご尤もではありますが、それだけ「1年や2年ですぐには準備できないモノ」が多く、また部分的に内容を見ていると「全体の関係性が見えにくい」論点が多いため、延長線上に想定されるシナリオを描き、そこから逆算的に現在やるべき事を整理しておく事が皆様の経営にとっては有益なのではないかと思います。

参考例:LIFEがどの様な進化を辿っていくか?

 さて、それに従い次回、次々回の改定の頃に起きそうな事を整理してみますと、まず「データに基づいた評価=LIFEの利活用」は恐らく数回の改定の後に、データ提出の段階から、データに基づき「結果の出ている介護」と「そうでない取組」がある程度明らかになって来る可能性があります。

 そうしますと、「結果の出ない介護」を続けている介護事業者の基本点数と、「結果の出る介護」を続けている事業者の基本点数には「差を付けよう」という発想が出てくるのはごく自然な流れかと思います。つまり部分的に、「質の高さ」の基準が設計されてくるものと想定されます。無論、利用者の満足度や安心感等といった非定型の指標もありますが、それらは「介護保険適用」として評価するものではなく、利用者がその事業者を選択するか?という市場原理の中で評価されるものですので、必然的に事業者が取り組むべき「目指すべきケアの基準値」が設計されてくるのではないでしょうか。

 さて、それを将来の姿・・と考えた場合に、現在を振り返ってみると、現状はLIFEに「データを提出した」という事でも加算が付いている段階ですが、いまだにそれを実施できていない事業者がいるのも事実です。またLIFEデータを提出した後にフィードバック帳票が返送されてきていますが、これをどこまでケアに活用できているかについても、温度差があるのが実態かと思います。しかしながら、将来像を踏まえた場合に、それらの取り組みは「必須」になっている可能性が高く、その状態に組織体制や組織文化をバージョンアップさせていくには数カ月~1年単位では足りるものではありません。

 こうした意味で先を見越して、今次の改定で示された事項を読み解き、少しずつアクションを起こしていく重要性を感じて頂けるのではないでしょうか。

 次回以降では、その他の項目についての開設をしていきたいと思います。

図1:介護報酬改定の今後の先読み

大日方 光明(おびなた みつあき)氏

株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事

介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。

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