【介護業界動向コラム】第15回 VUCAの時代の介護経営 「事業の大規模化をどのように考えるのか⑤」

2023.10.30

大規模化による人材面でのメリット

 

2024年の介護報酬改定に向けた議論が徐々に深まりを見せています。その中でも将来の介護経営を占う上での重要項目である、「介護事業所の大規模化」をテーマに戦略面での取り組みを整理しています。 

前回の連載では大規模化によるメリットとしてのコストダウン効果の一例として、給食コストへの影響を紹介させて頂きました。こうしたコストダウンへの効果は最も大きなメリットの一つでしょう。今回はその他のメリットとして挙げられる「教育機能の共有化/高次化」や「管理機能の共有化/高次化」について確認していきたいと思います。

教育機能の共有化/高次化には一定の規模が必要

教育機能や管理機能の共有/高次化を図っていく上では、幾つかのメリットが考えられます。一般的に介護事業所においては、大きくは法定研修(実施義務のある事)と任意研修(法人が任意に実施するもの)に分けられます。

法定研修は図表1のようなものが代表的であり、令和6年度からは高齢者虐待防止、事業継続計画等の実施に伴う職員研修も義務化の対象となります。また介護業務に従事する無資格者に対しては、認知症研修も必須化されますので、法定研修だけでも単一法人で全てを準備していく事は容易ではありません。無論、オンデマンド方式の動画研修等も近年では利用しやすくなってはいますが、基礎的・一般的な部分はカバーできますが、法人個別の事情を反映した内容については、それぞれの対応が必要な事に変わりはありません。

また、任意研修については法人によりそれぞれでありますが、図表2のような一例をあげる事が出来ます。いずれも法人の規模や組織形態に関わらず必要なものではありますが、小規模の法人である程、自社のみで準備するには人的/時間的/経済的コストが過大となってしまうケースが少なくありません。こうした教育機能については、端的にサービスの品質に直結するものであると同時に、間接的には法人での長期継続雇用などにも影響してくる項目です。キャリアパス要件においても、こうした研修は設定されているケースが多いものの、全ての職員に遍くいきわたらせる事は容易ではないでしょう。また研修実施時間中の代替職員の確保が困難な事も、研修実施を困難にさせている要因の一つです。

こうした意味で、大規模化は、教育機能を共有・共通化していく事は、コスト面の合理化だけでなく、代替職員の配置など「研修を受けやすい環境を作る」意味でも有効です。

教育機能の連携・人材交流から法人間連携を創る

法人の大規模化を進めていく場合に、これまで自社事業の大規模化(事業拡大)の観点や、社会福祉連携推進法人などによる大規模化を事例として紹介してきました。いずれも事業戦略としては有効な手段ではありますが、一方でその形態に至るまでの手順の複雑さ、困難さなどを踏まえますと直ぐには対応できない、という法人が殆どでしょう。

その点においては、将来的な「緩やかな統合」を想定し、人材育成の面から連携を始めていくのは有効な手段といえます。

例えば法定研修などの共通部分を共同実施したり、任意研修項目を共同実施する、あるいは講師を順番で務めていくなどにより、ある程度、「共通の経験」「価値基盤」「介護技術の共有化」等を有したグループが形成することが出来ます。実際に、社会福祉連携推進法人として連携している法人や将来的に連携推進法人を目指す法人なども、教育基盤の共通化や採用基盤の共通化からスタートするケースも多くみられます。

近隣事業者間では、教育機能の共通化・共有化。また近隣事業所間ですと採用機能の共有・連携などは競合してしまう可能性が高いため、地域が離れた法人との協定で採用手法や広報戦略を連携・連動させていく・・などといった事は有効でしょう。

将来の大規模化に向けて、人材育成・採用の観点からの緩やかな統合を進めていく事例を紹介させて頂きました。次回は、大規模化に向けて管理機能の共有・共通化についての話題を確認していきたいと思います。

コストダウンは事前に一定程度の試算が可能である側面もあるので、事前のシミュレーション等を行った上で、法人の現在地が単一法人で「大規模化」のメリットを得られる規模なのか、あるいは地域の他法人と連携しての対応が求められる規模なのかの判断をしていく必要があります。

次回はコストダウンおよび教育機能の共有化について更にテーマを掘り下げていきたいと思います。

図表1 介護事業者の法定研修例
図表2 任意研修の一例

大日方 光明(おびなた みつあき)氏

株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事

介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。

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