【介護業界動向コラム】第12回 VUCAの時代の介護経営 「事業の大規模化をどのように考えるのか➁」大規模に該当する事業者はどの程度いるのか?

2023.07.31

前回の連載から「介護事業所の大規模化」をテーマに戦略面での取り組みを整理しています。前回(第11回)は、少し極端な意見ではありますが、「介護サービスそのものは本質的には、「規模の経済が働きにくい/規模の経済の効果が限定的な」形態である」という話をさせて頂きました。時代の流れに逆行しているのではないか?実際に大規模と言われる事業者は増えてきているのをどのように説明するのか?そもそもどこからが大規模事業者なのか?と疑問に思われた方もいらっしゃるのではないかと思います。

 この点に関しては「大規模化」という言葉に複数の含意があり、個々がイメージする「大規模」が抽象的な概念になってしまっている点も背景にはあるでしょう。そこでまずは「大規模」の定義を、様々な観点から整理した上で、現状を見てみたいと思います。

法令上の規模(中小企業基本法における定義)

規模を考える上で、まず一番大きな枠組みとしては、介護事業はすべて「法人であること」が開設要件になっていますので、「法人の規模」の定義を見てみたいと思います。追って、「介護保険法や介護報酬上の規模の定義」を見ていきたいと思います。

 まず法人の規模を規定する法律としては、「法人税法」と「中小企業基本法」等が身近なものと言えます。以下は中小企業基本法に基づく定義ですが、これによると、「大規模法人」とは、「中小企業」の定義を資本金・従業員数の双方の基準を満たすものとされます。(※明確に大規模法人の規定はない)

■表1 中小企業基本法による規模の定義

なお、この定義に基づくと約9割の社会福祉法人が「中小規模法人」に該当するとされます。(図2)

■図2 従業員規模別の社会福祉法人の内訳
 ※厚生労働省(2014年時点作成データ)

参考値でありますが、事業内容別に従業員規模100名以上の事業者数を見てみますと、以下のような割合となっています。(※本データには非正規の職員も含まれていること、規模は法人全体ではなく事業所単体であるため、実態としてはこの割合よりも少ないものと推定されます。)100名以上を擁する事業類型は、施設系(入所系)の7%が最も多く、訪問系3.7%、施設系(通所系)3.3%と続きます。

 いずれにしても、中小企業基本法の定義に基づく「大規模事業者」は全体の10%に満たず、90%の事業者(法人)は中小規模という状況ですので、「大規模化の推進」という目標は、現状とはギャップがあり、容易に実現しにくいとも言えそうです。

また、これらの定義に基づく「大規模事業者」のメリットは、どちらかというとマネジメント上の合理性追求(収入、社会的信用、経営の安定性、共通部門の効率性など)の要素が強く、「中小規模」事業者の方が税務上の優遇措置など直接的なメリットを享受しやすいとも言えます。

つまりここで申し上げたいのは、「大規模化」自体を目的化せず、自社の事業や地域への価値提供という目的を達成する「手段」として、どのような規模が最適なのか?現実的なのか?を考えていく必要があるということです。

 さて、そうは言っても見過ごせないのが、「介護報酬上の規模の評価」。次回は「介護報酬上の規模の評価」をどのように捉えるかを検討していきたいと思います。

■図3 事業類型別の従業員100人以上の事業者
※(公)介護労働安定センター「介護労働実態調査」(令和3年度)

大日方 光明(おびなた みつあき)氏

株式会社日本経営 介護福祉コンサルティング部 参事

介護・在宅医療の経営コンサルティングを専門。直営訪問看護ステーションの運営本部を兼任。
東京都訪問看護ステーション管理者・指導者育成研修講師。その他看護協会、看護大学等における管理者研修(経営部門)の実績多数。

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