訪問介護における特定事業所加算とは?要件や申請方法などを解説

2024.05.16

訪問介護の特定事業所加算とは、質の高い介護サービスを提供する事業所を評価するための加算です。
Ⅰ〜Ⅴまで、5つの報酬区分に分かれており、「算定要件がわかりづらい」とお悩みの方も多いでしょう。

算定要件を十分に理解していないと、最悪の場合、加算申請をしても受理されない恐れがあります。
本記事では、特定事業所加算の概要と算定要件を解説します。

申請方法や取得する際の注意点もまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。

【基礎知識】訪問介護における特定事業所加算とは

訪問介護における特定事業所加算とは、介護サービスの質を向上させるための取り組みを評価するための加算です。

特定事業所加算は、事業所の体制・人材・重度要介護者の受け入れなど、さまざまな要件を基に算定されています。
なかには、スタッフのスキルアップを支援する取り組みや、スタッフへの健康診断の実施など、直接的に訪問介護へ関係しない要素を評価する側面もあります。

他方で、特定事業所加算は一般的な加算よりも要件が複雑で厳しい傾向があるため、取得するには相応の準備と知識が必要です。
また、申請の際に求められる資料の数も多いため、取得の際は注意しましょう。

特定事業所加算の算定要件

特定事業所加算の算定要件は複雑であり、介護報酬改定によって内容が変わるため、常に最新の状況をチェックしなければなりません。
まず、特定事業所加算の報酬区分は、以下のとおりです。

加算名2024年度以降の加算割合2024年度前の加算割合
特定事業所加算Ⅰ所定単位数の20%所定単位数の20%
特定事業所加算Ⅱ所定単位数の10%所定単位数の10%
特定事業所加算Ⅲ所定単位数の10%所定単位数の10%
特定事業所加算Ⅳ所定単位数の3%所定単位数の5%
特定事業所加算Ⅴ所定単位数の3%所定単位数の3%
参照:令和6年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省

2024年度の介護報酬改定に伴い、加算Ⅳの加算割合が変更されています。
加えて、単位数や取得に必要な要件も変更されている点には注意しましょう。

なお、2024年度以降の特定事業所加算の算定要件は以下のとおりです。

体制要件①~⑤
体制要件⑥
(⑬か⑭を満たす場合)
体制要件⑦
体制要件⑧
人材要件⑨
(⑩と選択)
人材要件⑩
(⑨と選択)
人材要件⑪
(⑫と選択)

(⑫と選択)
人材要件⑫
(⑪と選択)

(⑪と選択)
重度者等対応要件⑬
(⑭と選択)

(⑭と選択)
重度者等対応要件⑭
(⑬と選択)

(⑬と選択)
参照:令和6年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省

本章では、それぞれの要件の詳細について解説します。

体制要件

体制要件とは、訪問介護事業所の運営体制に係る要件を指します。
2024年度以降の要件は以下のとおりです。

【2024年度以降】

  • ①訪問介護員等・サービス提供責任者ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施
  • ②利用者に関する情報またはサービス提供に当たっての留意事項の伝達等を目的とした会議の定期的な開催
  • ③利用者情報の文書等による伝達、訪問介護員等からの報告
  • ④健康診断等の定期的な実施
  • ⑤緊急時等における対応方法の明示
  • ⑥病院、診療所または訪問看護ステーションの看護師との連携により、24時間連絡できる体制を確保しており、かつ、必要に応じて訪問介護を行うことができる体制の整備、看取り期における対応方針の策定、看取りに関する職員研修の実施等
  • ⑦通常の事業の実施地域内であって中山間地域等に居住する者に対して、継続的にサービスを提供していること
  • ⑧利用者の心身の状況またはその家族等を取り巻く環境の変化に応じて、訪問介護事業所のサービス提供責任者等が起点となり、随時、介護支援専門員、医療関係職種等と共同し、訪問介護計画の見直しを行っていること

※2024年度改訂で変更があった箇所は、赤字で示しています。

参照:令和6年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省

今回の介護報酬改定で変更された体制要件は、⑥・⑦・⑧です。
具体的には旧体制要件⑥が①に統合されており、さらに要件⑦~⑧が新たに追加されています。

なお、体制要件①・②は、研修や会議の開催に係る要件ですが、達成した際は研修計画や議事録など、開催したことを示す書類が必要です。

人材要件

人材要件は、訪問介護事業所で勤務するスタッフに係る要件です。
2024年度以降の人材要件は、以下のように設定されています。

  • ⑨訪問介護員等のうち介護福祉士の占める割合が30/100以上、または介護福祉士、実務者研修修了者、並びに介護職員基礎研修課程修了者及び1級課程修了者の占める割合が50/100以上
  • ⑩すべてのサービス提供責任者が3年以上の実務経験を有する介護福祉士、または5年以上の実務経験を有する実務者・研修修了者もしくは介護職員基礎研修課程修了者もしくは1級課程修了者
  • ⑪サービス提供責任者を常勤により配置し、かつ、基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置していること
  • ⑫訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合が30/100以上であること

参照:令和6年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省

人材要件は、上記の要件を常に維持しなければなりません。
もし割合が下回った際は、加算を取り下げる必要があります。

なお、2024年度以降の人材要件は旧要件の番号が変更されたのみであり、内容に大きな違いはありません。

重度者等対応要件

重度者等対応要件は、要介護度・日常生活自立度が高い利用者や、看取り期にある利用者へのサービスに係る要件です。

2024年度以降では、以下のように設定されています。

  • ⑬利用者のうち、要介護4、5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、たんの吸引等を必要とする者の占める割合が20/100以上
  • ⑭看取り期の利用者への対応実績が1人以上であること(併せて⑥を満たすこと)

※赤字は新たに新設された要件です。

参照:令和6年度介護報酬改定の主な事項について|厚生労働省

重度者等対応要件は、2024年の介護報酬改定で一部の要件が変更されました。

なお、特定事業所加算Ⅰ・Ⅲの取得する際は、要件⑬・⑭のいずれかを満たさなければなりません。

特定事業所加算の申請方法

特定事業所加算を取得する際は、要件ごとに提出書類を用意しなければなりません。
本章では、特定事業所加算の申請の流れを解説します。

  • 1.必要書類のチェック
  • 2.担当窓口への提出
  • 3.算定の実施

必要書類をチェック

特定事業所加算を申請する際は、まず以下の書類を用意します。

  • 届出書
  • 介護給付費等の算定に係る体制等状況一覧表

いずれも自治体のホームページでダウンロードが可能です。

加えて、要件ごとに定められた必要書類を用意しなければなりません。
各要件の必要書類は、それぞれ以下のとおりです。

要件種別必要書類
体制要件・事業所全体の研修計画書(研修報告書等)
・会議の開催実績がわかる書類(議事録等)
・情報伝達や報告体制がわかる書類(マニュアル等)
・年1回は健康診断を実施していることがわかる書類
・重要事項説明書など
人材要件・勤務表
・資格表の写し
・実務経験のわかる経歴書など
重度者等対応要件・重度要介護者の割合がわかる書類
参照:特定事業所加算(訪問介護)算定に係る提出書類|宮城県

一部重複もありますが、実際は前述した①〜⑭の要件ごとに必要書類が設定されています。
申請の際は、自治体のホームページ等を参照しましょう。

担当窓口へ提出

必要書類を用意したら、各都道府県が指定する担当窓口に提出します。
提出方法は窓口での直接提出・郵送のいずれかです。

なお、必要書類の提出期限は加算を算定する月の末日、あるいは前月の15日までです。
遅滞がないように、スケジュールに注意しながら提出しましょう。

間違いを防ぐためにも、事前に管轄の自治体のホームページで詳細を確認してください。

算定の実施

提出書類が受理されると、いよいよ算定が開始されます。
ただし、算定が開始されても、以下に該当する場合は追加書類が必要になる可能性があります。

  • 事前に届出が必要な場合
  • 提出書類の内容に変更があった場合
  • 指定申請を実施する場合
  • 介護報酬改定等で提出書類に追加や変更が必要になった場合

なお、算定が受理されると、提出書類の控えが送付されます。
控えは運営指導で確認されるため、受け取ったら必ず保管しましょう。

特定事業所加算を取得する3つのメリット

特定事業所加算の取得には、以下のような3つのメリットがあります。

  • 収益が向上する
  • 訪問介護事業所の評価を高められる
  • 人材の確保や定着につながる

メリットを理解すれば、特定事業所加算を取得する意義をスタッフ間で共有しやすくなります。
また、施策に取り組むモチベーションの向上も期待できます。

収益が向上する

特定事業所加算は加算率が高く、基本報酬に最大20%の加算が可能です。
そのため、要件を満たし加算を得られれば、収益の向上が期待できます。

また、特定事業所加算は通常の加算と異なり、計画的に算定しやすい点が特徴です。
算定要件こそ複雑ですが、サービスの実施状況に左右されないため、計画的に収益を上げられます。

収益が向上すれば、訪問介護事業所の経営がより安定化するだけでなく、採用活動や設備への投資もしやすくなるでしょう。

訪問介護事業所の評価を高められる

特定事業所加算は、より品質の高い介護サービスを提供する事業所を評価するために設けられたものです。
つまり、特定事業所加算を多く取得している事業所は、社会的に高い評価を得ている施設と見なされます。

こうした周りからの評価は、自施設の信用につながります。
結果、利用者や優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。

人材の確保や定着につながる

特定事業所加算の取得は、人材の確保や定着にもつながる取り組みです。

特定事業所加算の要件には、福利厚生や情報共有の体制を整備することを評価するものがあります。
これらの要件をクリアしていけば、従業員にとって働きやすい環境が整うため、スタッフの定着につなげられます。

もちろん、特定事業所加算を取得すれば、収益の増加も見込めるため、新たな人材を確保したり、設備の充実化を図ったりなど、さまざまな施策を実施しやすくなるでしょう。

また、特定事業所加算の算定要件には、スタッフに実施する研修計画に関わるものもあります。
特定事業所加算を取得する過程で、質の高い研修計画を作成できれば、スタッフの技術だけでなく、モチベーションを向上させるきっかけにもなります。

特定事業所加算を取得する3つのデメリット

特定事業所加算の取得は、訪問介護事業所にとって多くのメリットがあります。
一方で、以下のようなデメリットがある点には、注意しなければなりません。

  • 加算の取得に手間がかかる
  • 返還のリスクがある
  • 利用者の負担が増える恐れがある

本章では、特定事業所加算を取得するうえで注意すべきデメリットについて解説します。

加算の取得に手間がかかる

特定事業所加算の取得は、手間がかかる取り組みです。

算定要件が多く複雑なうえに、取得を目指す過程でさまざまな施策を実行しなければなりません。
研修計画の作成・会議の開催・緊急時における対応方法の策定など、取り組むべき施策が多いため、適切に業務を配分しなければ、スタッフの業務負担が増える恐れがあります。

また、特定事業所加算は取得後にも要件を満たした状態を維持できているか、点検する必要があります。
万が一、要件を満たせていない場合は、変更の届出をしなければなりません。

特定事業所加算の取得を維持するための点検も、スタッフの負担につながるでしょう。

返還のリスクがある

特定事業所加算には、返還のリスクがあります。
前述のとおり、特定事業所加算は取得後にも要件を満たした状態を維持しなければなりません。

もし算定後に要件を満たせていなかったことが発覚すると、返還しなければなりません。
特定事業所加算を返還する事態になれば、収益が低下するだけでなく、事業所全体の評価も悪化する恐れがあります。

行政による運営指導で要件の不足を指摘されるケースも多いため、日々の自主点検は欠かさないようにしましょう。

利用者の負担が増える恐れがある

特定事業所加算ⅠまたはⅡを取得すると、利用者の自己負担額も以下のように増加します。

  • 特定事業所加算Ⅰ:自己負担額20%増加
  • 特定事業所加算Ⅱ:自己負担額10%増加

自己負担額の増加は、利用者からすればできるだけ避けたいことです。
自己負担額の増加を嫌って、利用者が別の訪問介護事業所を選ぶリスクもあります。

そのため、特定事業所加算を取得する際は、利用者への説明を欠かさないようにしましょう。
もちろん、自己負担額の増加に見合うだけの高質なサービスを提供することも重要です。

特定事業所加算を取得する際の注意点

特定事業所加算を確実に取得するなら、いくつかの注意点を意識しましょう。
以下で、それぞれの注意点について解説します。

算定要件を正確に理解する

特定事業所加算を取得するなら、算定要件を正確に理解しなければなりません。
取得時はもちろん、取得後も要件を達成した状態を維持する必要があるため、厚生労働省や自治体が提示している内容は定期的に確認しましょう。

例えば、人材要件や重度者等対応要件では、特定のスタッフや利用者を一定数以上配置することが定められており、割合も細かく決められています。
常に定められた割合をキープできなければ要件の達成はできません。

要件を達成できる体制を目指すためにも、スタッフ同士で達成すべき要件を共有しましょう。

介護報酬改定に注意する

介護報酬改定によって要件が変更されるケースは、十分想定されます。
また、これまで取得してきた加算がなくなったり、基本報酬への追加がなくなったりする事態も起こりかねません。

特定事業所加算の内容が変更されれば、事業所の収益が低下したり、体制の改善をしたりする必要があります。
介護報酬改定の内容を正確に理解し、早急な対応を心がけてください。

必ず根拠となる記録を保存する

特定事業所加算を取得する際は、要件の達成を明示する記録を必ず残しましょう。

要件を満たした証拠がなければ、算定を認められない恐れがあります。
研修や会議の開催においても、研修計画書や会議の議事録などの記録書類を保存しなければなりません。

記録がない状態だと、運営指導で指摘され、改善を求められるリスクがあります。
指摘を避けるためにも、要件の達成を示す根拠となる記録は必ず保存しましょう。

伊谷 俊宜氏
伊谷 俊宜氏

訪問介護の基本報酬は2024年介護報酬改定において減算されました。事業経営の難易度がさらに増すことは間違いないでしょう。この背景には“訪問介護事業所の大規模化”を図りたい国の思惑があります。全国に35,000件以上ある訪問介護事業所ですが、1事業所あたりの平均利用者は30名程度となっており、小規模事業所が数多く存在する業態となっています。小規模事業所のデメリットのひとつに、提供できるサービスの総量が少ないため新規サービスの提供が難しいことが挙げられます。今回の基本報酬減算はこうした小規模事業所への影響が非常に大きいと考えられます。特定事業所加算は利用者数が多ければ多いほど売上が上がる建付けになっており、今回の減算は①小規模事業所の淘汰、②特定事業所加算算定への誘導の二つの側面が考えられます。

訪問介護における特定事業所加算の取得にはワイズマンシステムSPを活用しよう

訪問介護事業所で特定事業所加算の取得を目指す際は、弊社「株式会社ワイズマン」が提供するワイズマンシステムSPを活用しましょう。

ワイズマンシステムSPを活用すれば、煩雑になりやすい請求処理の作業をスムーズに遂行できます。
特定事業所加算を取得する際も、事務作業の負担を軽減する効果が期待できます。

加えて、ワイズマンシステムSPは、記録支援オプションを組み合わせられる点も魅力です。
確実に記録を残せば、運営指導で指摘を受けるリスクを減らせます。

訪問介護事業所の特定事業所加算は要件を正確に理解することが重要

特定事業所加算は、収益を増やせるだけでなく、訪問介護事業所がより質の高いサービスを提供していることを示す証になるものです。
事業所がより高い評価を得るためにも、特定事業所加算の取得は重要な取り組みです。

他方で、特定事業所加算には複雑な要件が設定されているうえに、介護報酬改定で変更される可能性があります。
実際、2024年度の介護報酬改定で加算の種類や要件が変更されています。

また、取得には手間がかかるだけでなく、記録の保存が必要など、気をつけるべきポイントが多くある点にも注意しましょう。

監修:伊谷 俊宜

介護経営コンサルタント

千葉県佐倉市出身。大学卒業後、教育サービス業界に入社したが、障がい者との交流を機 に「高齢や障がいを理由に、不当な差別を受けることのない社会を作りたい」と、介護事業者の門をたたいた。これまで、数々の特別養護老人ホーム、 グループホーム、デイサービスの立ち上げ、運営に参画。現在は、“現場第一主義!”を旗印とし、高齢者住宅、デイサービスを中心に「人気の施 設づくり」を積極的にサポートしている。

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