医療・介護におけるタスク・シフティング|定義や導入するメリットなどを解説
2026.02.19
近年、医療・介護の現場で「タスク・シフティング」という言葉が話題になっています。
タスク・シフティングとは、医療や介護の業務をほかの職種へ移管することで、現場にかかる負担を減らす考え方です。厚生労働省もタスク・シフティングを推奨するなど、人手不足が課題になりがちな医療・介護業界で注目を集めています。
一方、タスク・シフティングの詳細がわからず、「自分の仕事はどう変わるのだろう」「負担が増えるだけではないか」といった期待や不安を感じている方も多いでしょう。
そこで本記事では、タスク・シフティングの定義・メリット・課題までをわかりやすく解説します。タスク・シフティングを導入して医療・介護の現場を変革するきっかけにしてください。
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目次
タスク・シフティングとは

タスク・シフティングは、医療・介護現場の働き方を大きく変える可能性を持つ重要な取り組みです。まずは基本的な定義と、よく似た言葉である「タスク・シェアリング」との違いを理解しましょう。
タスク・シフティングの定義
タスク・シフティングとは、特定の専門職が担っていた業務の一部をほかの職種へ移管することを指します。世界保健機関(WHO)も、医療人材が不足している地域への対策として推奨している考え方です。
タスク・シフティングの主な目的は、以下のとおりです。
- 専門職の負担を軽減する
- 慢性的な人手不足を解消する
- チーム全体で業務を効率化し、医療・介護サービスの質を高める
医師の事務作業を、医療事務作業補助者が担うケースなどが代表例です。タスク・シフティングは、医療・介護職員が自身の専門性を最大限に発揮できる環境を整えるための戦略的な業務の再配分です。
タスク・シフティングが推奨される職種
タスク・シフティングは、特定の職種間だけで行われるものではありません。医療・介護現場のさまざまな職種が連携し、業務を移管し合うことで成り立ちます。
タスク・シフティングが推奨される職種の例をまとめました。
| 看護師 | 特定行為の実施・医師が事前に指示した薬剤の投与・採血・検査の実施など |
| 薬剤師 | 手術室や病棟などにおける薬剤の払い出し・手術後残薬回収・処方された薬剤の変更など |
| 臨床検査技師 | 心臓や血管カテーテル検査、治療における直接侵襲を伴わない検査装置の操作など |
| 臨床工学技士 | 全身麻酔装置の操作や人工心肺装置を操作して行う血液・補液・薬剤の投与量の設定など |
| 診療放射線技師 | 画像を得るため、カテーテルおよびガイドワイヤー等の位置を医師と協働して調整する操作など |
| 医療事務作業補助者 | 診療録などの代行入力 |
| 看護補助者 | 患者の移送・病室の環境整備・物品の補充や管理など |
| 介護助手 | 施設内の清掃・リネン交換・食事の配膳や下膳など |
介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営改善支援等|厚生労働省
タスク・シェアリングとの違い
タスク・シフティングと混同されやすい言葉に「タスク・シェアリング」があります。
タスク・シフティングが業務の「移管」であるのに対し、タスク・シェアリングは業務の「共同化・分担」を指します。それぞれの違いは以下のとおりです。
| 比較項目 | タスク・シフティング | タスク・シェアリング |
|---|---|---|
| 考え方 | 業務を他の職種に移管する | 業務を複数の職種で分担・共同化する |
| 業務の担い手 | 移管された職種が主担当となる | 複数の職種が連携して担当する |
| 具体例 | 医師が行っていた採血を、研修を受けた看護師や臨床検査技師が専門的に行う | 1人の患者の治療方針を、医師、看護師、薬剤師がカンファレンスで話し合い、共同で決定する |
| 目的 | 専門職がより高度な業務に集中する | チーム医療を推進し、多角的な視点でケアの質を高める |
タスク・シフティングが求められる背景

タスク・シフティングが求められる背景には、医療・介護業界が抱える深刻な課題があります。
昨今は高齢化の進行により医療・介護の需要が高まっていますが、少子化によって医療・介護業界双方が人手不足に陥っている状況です。
そのため、医療・介護業界は人手不足に対応しつつ、安定的にサービスを供給する体制を整える必要があります。
上記の課題に大きな影響を与えるきっかけとなったのが、2024年4月から始まった医師の働き方改革です。この改革により、勤務医の時間外・休日労働時間に、年960時間の上限が設けられました。
改革の目的は医師の過重労働を是正し、健康を守ることです。しかし、医師の働き方を見直しつつ医療サービスの質を維持するためには、医師の業務負担を軽減する仕組みが不可欠です。
その結果、医師の業務の一部を他の医療専門職へ移管するタスク・シフティングが、有効な解決策として期待されるようになりました。
同様の流れは介護業界にも起こっており、生産性向上の一環として厚生労働省がタスク・シフティングを推奨しています。
今後、医療・介護業界においてタスク・シフティングは重要な取り組みです。業務分担を見直し、医療・介護職員の負担を適正化することで、サービスの安定的な供給が実現しやすくなります。
参照:
「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」現状と課題・論点について|厚生労働省
新たな地域医療構想を通じて目指すべき医療について|厚生労働省
「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」について|厚生労働省
介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進について|厚生労働省
タスク・シフティングのガイドライン

タスク・シフティングを安全かつ効果的に進めるため、厚生労働省や関連団体は関連するガイドラインを公表しています。ガイドラインを基準とすることで、各職種が安心して新しい業務に取り組める法的・制度的な基盤の整備が可能です。
代表的なガイドラインのポイントは以下のとおりです。
| ガイドライン名 | 主な内容 | 対象職種 |
|---|---|---|
| 現行制度上実施可能な業務の推進について | 医師から他職種への業務移管について、現行法で可能な 88 項目を具体的にリスト化 | 看護師・薬剤師・臨床検査技師、診療放射線技師など |
| 看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン | 看護師が専門性を発揮するための業務範囲の考え方、看護補助者との協働のあり方を提示 | 看護師・准看護師・看護補助者など |
上記のガイドラインは、業務移管における責任の所在を明確にし、医療安全を確保するうえで重要な役割を果たします。特に初めてタスク・シフティングに取り組む際は、積極的に活用しましょう。
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タスク・シフティングのメリット

本章では、タスク・シフティングを実施するうえで期待できる以下のメリットについて解説します。
- 専門職の負担軽減
- 医療・介護サービスの質向上
- 現場の業務効率化
- 人手不足の解消
タスク・シフティングを適切に導入すれば、医療・介護現場に関わるすべての人に多くのメリットをもたらします。
専門職の負担軽減
タスク・シフティングの最大のメリットは、専門職、特に医師や介護士の業務負担を軽減できる点です。
診断書の作成補助やカルテ入力・検査手配・患者への説明など、サービスを提供するうえで発生する雑務をほかの職種に移管することで、高度な専門知識や技術を要する本来の業務に集中できるようになります。
これにより医師や介護士の長時間労働が是正され、ワークライフバランスの改善が期待できます。
医療・介護サービスの質向上
各専門職が自身の専門性を最大限に発揮できる環境は、医療・介護サービスの質の向上に不可欠です。それぞれの専門家が持つ知識やスキルを十分に活かすことで、より効率的に高品質なサービスを提供できます。
例えば、特定行為研修を修了した看護師が、医師の指示を待つことなく患者の状態変化に応じてタイムリーな処置を行えるようになることは、タスク・シフティングの効果を示す例です。迅速な対応で患者の早期回復を促すことは、重症化を防ぐうえで非常に重要です。
また、タスク・シフティングにより医療チーム全体としての連携がスムーズになれば、患者を中心としたより質の高い医療を提供できる体制が構築されます。専門性を尊重し、活かすことが医療の質を高める鍵です。
現場の業務効率化
業務の棚卸しと役割分担の最適化も、チーム全体の生産性向上に不可欠です。介護現場においては、介護助手が清掃や備品管理などの間接業務を担当することで、介護職員は利用者への直接的なケアに集中できます。
さらに、業務の重複や無駄を排除することで、時間的、人的資源を有効活用できます。結果として介護現場全体の効率が向上し、より質の高いサービス提供が可能です。
人手不足の解消
タスク・シフティングは、人手不足を解消し、組織の生産性を向上させるための有効な戦略です。単に新しい人材を補充するのではなく、既存の従業員のスキルと資格を最大限に活用して業務を最適化することで、効率的な運用を目指します。
例えば、医師や看護師といった専門職が本来の専門業務に集中できるよう、事務作業や軽作業などをほかのスタッフに割り振ることで、業務効率を大幅に改善できます。
さらに、タスク・シフティングは、従業員のモチベーション向上にもつながります。新たなスキルを習得したり、より責任のある役割を担ったりできることで従業員のエンゲージメントが上がれば、組織全体も活性化するでしょう。
タスク・シフティングの実例

本章では、以下の職種のタスク・シフティングの実例について解説します。
- 看護師のタスク・シフティング
- 薬剤師のタスク・シフティング
- 介護職員や看護補助者のタスク・シフティング
タスク・シフティングはすでに多くの医療・介護現場で実践され、成果を上げています。実際に導入する際の参考にしてください。
看護師のタスク・シフティング
看護師へのタスク・シフティングで中心的な役割を担うのが、「特定行為研修」です。特定行為研修を修了した看護師は、医師があらかじめ作成した手順書(包括的指示)に基づき、特定の医療行為を自らの判断で実施できます。
| 特定行為の区分(一部抜粋) | 具体的な行為の例 |
|---|---|
| 呼吸器関連 | ・人工呼吸器の設定変更 ・気管カニューレの交換 |
| 循環器関連 | ・中心静脈カテーテルの抜去 ・動脈血液ガス分析のための動脈穿刺 |
| 栄養・水分管理関連 | ・脱水症状に対する点滴での補液(投与量の調整) ・中心静脈カテーテルによる高カロリー輸液の投与量調整 |
| 創傷管理関連 | ・褥瘡(床ずれ)や慢性創傷の処置における薬剤の選択・変更 |
| 血糖コントロール関連 | ・インスリンの投与量の調整 |
これにより、医師の負担を減らし、医療サービスの提供体制を効率化できます。
薬剤師のタスク・シフティング
薬剤師は、タスク・シフティングにより積極的に治療に関わることが可能です。医師と事前に取り決めたプロトコルに基づき、薬剤師が主体的に薬物治療を管理する取り組みが進んでいます。
| 薬剤師の新たな役割 | 具体的な行為の例 |
|---|---|
| 術前・術中・術後の薬剤管理 | ・手術前に患者の持参薬を確認し、休薬や変更を提案する ・手術後の痛み止めや抗生剤の種類・投与量を調整する |
| 病棟での薬学的管理 | ・患者の副作用をモニタリングし、医師に処方変更を提案する ・腎機能などに応じた最適な薬剤投与量を設計する |
| 服薬指導の高度化 | ・糖尿病患者への自己注射や血糖測定器の使い方の実技指導を行う |
薬剤師のタスク・シフティングを行うことで医師の処方に関する負担が軽減されるだけでなく、より安全で効果的な薬物治療の実現につながります。
介護職員や看護補助者のタスク・シフティング
介護現場や病棟では、看護師や介護職員が本来のケア業務に集中できるよう、周辺業務の移管が進んでいます。看護補助者や新たに設けられた介護助手といった職種が、その受け皿となっています。
介護職員や看護補助者のタスク・シフティング例は以下のとおりです。
| 移管元の業務 | 移管先の職種と業務 |
|---|---|
| 看護師の周辺業務 | 看護補助者 ・患者の食事介助、入浴介助、おむつ交換 ・検査室への送迎、病室のシーツ交換 ・医療器具の洗浄や消毒 |
| 介護職員の周辺業務 | 介護助手 ・施設内の清掃、洗濯、リネン交換 ・食事の配膳、下膳 ・レクリエーションの準備・片付け |
これにより、専門職は利用者や患者と向き合う時間を十分に確保できます。
タスク・シフティングの課題

多くのメリットがある一方、タスク・シフティングには、乗り越えるべき課題も存在します。
- 業務移管先の負担
- 医療・介護の安全や責任範囲の明確化
- 教育コストの調整
タスク・シフティングの導入を成功させるため、それぞれの課題を把握しておきましょう。
業務移管先の負担
タスク・シフティングは、単なる業務の押し付けではありません。
タスク・シフティングを実施した結果、業務を移管される側の職員の業務量が過大になり、新たな長時間労働を生む可能性があります。負担増加を抑えるためには、移管する業務内容を精査し、人員配置を適切に見直すことが不可欠です。
また、増えた役割や責任に見合う評価制度や手当を設けるなど、モチベーションを維持する工夫も重要です。
医療・介護の安全や責任範囲の明確化
タスク・シフティングによって新しい業務を担う際には、医療・介護の安全を確保することが最優先です。知識や技術が不十分なまま業務を行うと、思わぬ事故につながるリスクがあります。
万が一事故が起きた場合に誰が責任を負うのか、その範囲を明確にするためのルール作りが欠かせません。院内・介護事業所内での研修体制を充実させ、業務手順を標準化するプロトコルを整備しましょう。
教育コストの調整
移管される業務を安全に遂行するためには、専門的な知識やスキルを習得するための教育が不可欠です。しかし、研修には時間的・金銭的なコストがかかるため、中小規模の施設にとっては大きな負担となります。
また、研修期間中の代替職員の確保も課題です。OJT(職場内訓練)を効果的に組み合わせたり、e-ラーニングや動画教材を活用したりするなど、負担の少ない教育方法を模索する必要があります。
医療・介護でのタスク・シフティングとは、特定の専門職が担っていた業務の一部を、他職種へ「移管」し、現場負担を減らす取り組みです。業務を複数職種で分担・共同化する「タスク・シェアリング」とは異なる考え方です。背景には、高齢化で需要が増える一方、少子化で人手不足が深刻化していること、医師の働き方改革を契機に医師の業務負担軽減が求められていることがあります。代表例として、医師の事務作業を医療事務作業補助者が担う、特定行為研修を修了した看護師が手順書(包括的指示)に基づき処置を行う、薬剤師がプロトコルに基づき薬物治療に関わる、介護助手が清掃・リネン交換や配膳等を担い介護職員が直接ケアに集中する、などが挙げられます。導入時はガイドラインを参照し、責任の所在と医療安全、教育体制を整えることが鍵です。メリットは質向上・効率化ですが、移管先の負担増や教育コストが課題になります。業務内容を精査し、人員配置や評価制度も見直します。
なお、株式会社ワイズマンでは「介護現場のリスク管理とスタッフ教育の重要性についての資料」を無料で配布中です。
介護・福祉現場でのリスク管理やスタッフ教育を課題としている方を対象に作成しておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
タスク・シフティングは医療・介護現場の変革に役立つ

タスク・シフティングは、医療・介護現場の業務を効率化し、安定的なサービスの提供体制を整えるうえで有用な取り組みです。
もちろん、現場の負担増や安全確保といった課題を乗り越える必要はあります。しかし、組織全体で知恵を出し合い、計画的に進めることで職員の負担が軽減され、サービスの質も高まるでしょう。
タスク・シフティングの課題を理解したうえで、導入に向けて前向きに検討してみてください。
監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

