介護におけるヒヤリハット事例集!報告書の例文から研修・対策まで徹底解説
2026.02.21
重大な事故には至らなかったものの、一歩間違えれば利用者の安全を脅かしかねない事例、それが「ヒヤリハット」です。
ヒヤリハットを見過ごすと事故につながる危険があるものの、報告書の書き方がわからなかったり、つい後回しにしてしまったりするのも現実です。
ただ、その瞬間の違和感や小さな危険サインを拾えるかどうかが、転倒・窒息・誤薬などの重大事故を防ぐ上で重要です。報告書によってヒヤリハットの原因を言語化できれば、その経験をチームの資産に変える仕組みを構築できるでしょう。
そこでこの記事では、介護現場で実際に起こり得るヒヤリハットの具体的な事例から、すぐに使える報告書の書き方を紹介します。施設全体の安全性を高めるために必要なリスクマネジメント手法についても解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
なお、株式会社ワイズマンでは、介護現場でのリスク管理やスタッフの教育について課題を感じている方に向けて「介護現場のリスク管理とスタッフ教育の重要性についての資料」を無料で配布中です。
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目次
介護におけるヒヤリハットとは?

介護におけるヒヤリハットとは、業務中に「ヒヤリ」としたり「ハッ」としたりした、事故には至らなかったものの危険であった事例のことです。例えば、「利用者が滑りそうになったが、咄嗟に支えて転倒は免れた」「食事中にむせ込みが強く、吸引や体位調整で落ち着いた」などが該当します。
大切なのは、ヒヤリハットをたまたま回避できた危険として終わらせないことです。日常の「転びそう」「降りようとして危ない」といった段階で、その要因と対策を固めることが事故を防ぐ最短ルートです。
なお、ヒヤリハットには「ハインリッヒの法則」という有名な法則があります。これは、1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故と、300件のヒヤリハットが隠れているというものです。つまり、ヒヤリハットの段階で原因を分析し、適切な対策を講じることが、重大事故を防ぐ上で非常に効果的です。
| 法則の構成要素 | 件数 | 具体例(介護現場) |
|---|---|---|
| 重大事故 | 1件 | 転倒による大腿骨骨折 |
| 軽微な事故 | 29件 | 転倒して軽い打撲を負った |
| ヒヤリハット | 300件 | 床の水たまりで滑りそうになったが転倒はしなかった |
参考:ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)[安全衛生キーワード]
【状況別】介護現場のヒヤリハット事例集

ここでは、介護現場で頻繁に発生するヒヤリハットを、具体的な状況別に紹介します。それぞれの事例について、潜在的なリスクや考えられる要因、具体的な対策をまとめました。実際に同様のことが起きていないか、似ている条件も照らし合わせながら読み進めてみてください。
1:転倒・転落
介護施設の重大事故分析では、転倒・転落・滑落が多くを占めると報告されています。利用者の身体機能の低下だけでなく、環境・声かけ・見守りの薄いタイミングなど、複数要因が重なりやすいのが特徴です。
事例
夕食後、田中さん(仮名・85歳、軽度認知症、歩行不安定)が、介護職員が目を離した隙にベッドから自力で立ち上がろうとしました。その際、足元がおぼつかず、バランスを崩してベッドのサイドレールに頭を打ちそうになったものの、近くにいた別の介護職員が間一髪で支え、転落は免れました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | ・頭部外傷 ・骨折(特に大腿骨頸部骨折) ・寝たきりへの移行 |
| 主な要因(利用者) | ・認知機能低下による危険認識の不足 ・体幹バランス能力の低下 |
| 主な要因(介護者) | ・短時間の見守り不足 ・情報共有の不徹底 |
| 主な要因(環境) | ・ベッド周囲のスペースが狭い ・履物が不適切 |
| 考えられる対策 | ・田中さんの離床傾向や特に注意が必要な時間帯を全職員で共有する ・ベッド周囲に離床センサーを設置し、動きを早期に検知する ・ベッドの高さを調整し、足が床にしっかり着くようにする ・滑りにくい履物を用意する |
2:誤嚥・誤飲
誤嚥は窒息や誤嚥性肺炎につながる、命に関わる危険なヒヤリハットです。食事介助の場面では、常に細心の注意が求められます。
事例
昼食時、鈴木さん(仮名・90歳、嚥下機能低下)が、提供された刻み食を急いで口に運びました。介護職員が「ゆっくり召し上がってくださいね」と声をかけた直後、鈴木さんは激しくむせ込み、顔色が悪くなりました。すぐに吸引と体位変換を行い、窒息は免れました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | ・窒息 ・誤嚥性肺炎 ・緊急入院 ・最悪の場合は死亡 |
| 主な要因(利用者) | ・嚥下機能の低下 ・性急な食事摂取 |
| 主な要因(介護者) | ・食事介助時の見守り不足 ・食事形態の再評価不足 |
| 主な要因(環境) | ・食事中の姿勢が不適切(椅子が体に合っていないなど) ・騒がしい食事環境 |
| 考えられる対策 | ・食事前の口腔体操の実施を徹底する ・食事中の姿勢を常に適切に保つ(深く腰掛ける、顎を引く) ・一口量を少なくし、飲み込みを完全に確認してから次を促す ・看護師や栄養士と連携し、食事形態を定期的に再評価する |
3:誤薬
利用者の健康状態を維持するために不可欠な服薬ですが、渡し間違いや飲み忘れは深刻な事態を招きます。特に朝・夕のピーク時や声かけが重なる時間帯、急なコール対応後はエラーが起きやすいため、仕組みで防ぐ発想が重要です。
事例
朝の服薬介助中、佐藤さん(仮名・78歳、複数の慢性疾患)の薬を準備していた介護職員が、別の利用者の薬と誤って佐藤さんに渡そうとしました。直前に薬袋の名前と顔写真を確認したため間違いに気づき、事なきを得ました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | ・薬の副作用による体調悪化 ・必要な薬の未服用による症状悪化 ・緊急搬送 |
| 主な要因(介護者) | ・集中力の低下(疲労、多忙) ・ダブルチェックの不徹底 ・準備・管理手順の逸脱 |
| 主な要因(環境) | ・薬の保管場所が他の利用者と近接している ・作業スペースが雑然としている |
| 考えられる対策 | ・「5つのR」を徹底し、声出し確認を行う ・服薬介助は必ず2人1組でダブルチェックを行う体制を構築する ・薬の保管場所・管理方法を見直し、利用者ごとに明確に区分する ・服薬介助に関する定期的な研修を実施し、手順を再確認する |
「5つのR」とは、服薬介助で取り違えを起こさないための基本チェック項目です。ポイントは頭の中で確認するだけでなく、指差し+声出しで一つずつ順番に確認し、途中で中断した場合は最初からチェックし直すことが重要です。
服薬介助の基本原則「5つのR」
| R | 英語 | 日本語 | 確認事項 |
|---|---|---|---|
| 1 | Right Patient | 正しい利用者 | 利用者の名前、顔写真などを確認する |
| 2 | Right Drug | 正しい薬 | 薬の名前、形状、色などを確認する |
| 3 | Right Dose | 正しい量 | 薬の用量(錠数など)を確認する |
| 4 | Right Route | 正しい方法 | 薬の与え方(内服、外用など)を確認する |
| 5 | Right Time | 正しい時間 | 薬を飲むタイミング(食前、食後など)を確認する |
4:入浴介助
入浴は利用者にとって心身のリフレッシュになる一方、転倒や溺水、急な体調変化などリスクが高い場面でもあります。慣れている手順ほど抜けやすいため、声出し確認を型にするのが事故防止の鍵です。
事例
入浴介助中、高橋さん(仮名・88歳、片麻痺)をシャワーチェアから浴槽へ移乗させる際、介護職員がシャワーチェアのブレーキをかけ忘れていました。高橋さんが体を動かした際にシャワーチェアが動き、転倒しそうになりましたが、介護職員が体を支えたことで転倒は回避されました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | ・打撲 ・骨折 ・頭部外傷 ・溺水 ・利用者との信頼関係の損失 |
| 主な要因(利用者) | ・片麻痺による不安定な体幹 ・急な動き |
| 主な要因(介護者) | ・基本動作(ブレーキ確認)の確認不足 ・介助手順の逸脱・焦り |
| 主な要因(環境) | ・浴室の床が濡れて滑りやすい状態 ・十分な介助スペースがない |
| 考えられる対策 | ・入浴介助マニュアルを見直し、ブレーキ確認を声出し確認項目に加える ・浴室の床に滑り止めマットを設置し、常に乾燥を保つよう心がける ・片麻痺利用者への安全な移乗介助技術に関する定期的な研修を行う ・介助に不安がある場合は、無理せず複数職員での介助を徹底する |
5:移乗・移動介助
車椅子への移乗や歩行介助は日常的ですが、ふとした気の緩みが転倒につながります。ヒヤリハットを防ぐには、福祉用具の正しい使用と利用者のその日の状態把握が重要です。
事例
車椅子利用の山田さん(仮名・72歳、下半身の衰え)をベッドへ移乗させる際、フットレスト(足置き)を上げたままにしていました。山田さんが立ち上がろうとした際に足がフットレストに引っかかり、前方に倒れそうになりました。介助者がすぐに気づいて支えたため、怪我はありませんでした。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | 転倒による骨折、打撲、捻挫 |
| 主な要因(利用者) | 下半身の衰え |
| 主な要因(介護者) | ・福祉用具(車椅子)の操作手順の確認漏れ ・思い込みによる介助 |
| 主な要因(環境) | ・移乗スペースに障害物がある ・床が滑りやすい |
| 考えられる対策 | ・車椅子の操作マニュアルを定期的に確認し、特にフットレストやブレーキの操作を徹底する ・移乗介助を始める前に、必ず「これから移乗しますね」と声かけを行う ・移乗を行うスペースの動線を確保し、障害物を置かないルールを作る ・利用者のズボンや靴が移乗の妨げになっていないか確認する |
6:離床センサー・見守りアラートの見落とし
離床センサーは転倒を防ぐ装置というよりも、転倒につながる行動を早期に知らせる合図です。ただ、夜勤帯はコール対応が重なり、鳴ってもすぐ動けないことが起こりがちです。アラートを鳴らさない工夫より、鳴ったときに誰が・何を最優先するかを決めておくことが安全につながります。
事例
夜間、離床センサーが鳴ったものの、コール対応が重なり数分遅れて訪室しました。利用者がすでにベッド柵を越えようとしており、転落しそうになっていました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | ・転落 ・頭部外傷 ・骨折 |
| 主な要因(利用者) | ・夜間せん妄や不穏、見当識の低下により突然離床してしまう ・排泄切迫や痛み・かゆみで起き上がる ・転倒リスクが高い |
| 主な要因(介護者) | ・夜勤帯の業務集中 ・優先順位判断の迷い ・応援要請の遅れ |
| 主な要因(環境) | ・アラート音が聞こえにくい ・端末通知が埋もれる |
| 考えられる対策 | ・夜勤帯の優先順位ルールを決める ・アラートを一元表示する ・担当を割り当てる ・見守り機器導入時の運用教育を行う |
7:行方不明(徘徊)につながりかけた
徘徊や外出は利用者の「帰りたい」という不安、探し物などの思いが背景にあり、完全に止めるほど強まるケースもあります。玄関は来客・荷物・送迎などで職員の注意が分散しやすく、ほんの数十秒の隙が起点になりがちです。動線の死角と対応中の代替見守りを先に設計しておくと予防しやすくなります。
事例
日中、玄関付近で職員が荷物対応をしている間に認知症の利用者が外へ出ようとし、気づいた職員が声をかけて戻ってもらいました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | ・行方不明 ・交通事故 ・低体温 ・家族からの信用失墜 |
| 主な要因(利用者) | ・見当識障がい ・帰宅願望 ・不安 |
| 主な要因(介護者) | ・受付対応などで一時的に見守りが手薄になった ・担当の曖昧さ ・「誰かが見ているはず」という思い込み |
| 主な要因(環境) | ・施錠 ・動線管理 ・受付対応中の死角 |
| 考えられる対策 | ・玄関動線の死角対策を行う(ミラー・配置替え) ・受付対応時の代替見守りをルール化する ・施設内の帰宅願望が強い時間帯を共有し先回り対応を行う |
8:送迎・移動(乗降時)のヒヤリ
送迎の乗降は短時間で終わる分、急いだり、声かけが省略されたりといった抜けが起こりやすいです。特に雨天は段差が見えにくく、靴底も滑りやすくなります。事故を防ぐコツは、乗降は介助の一部として型を固定することです。手すり→足位置→体重移動の順に、毎回同じ手順で行いましょう。
事例
送迎車の乗降時、利用者がステップの段差でつまずきそうになり、職員が支えて回避しました。雨天で足元が滑りやすかったことも要因の一つでした。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | ・転倒 ・骨折 ・頭部打撲 |
| 主な要因(利用者) | ・下肢筋力低下やバランス低下で段差に対応しづらい ・ふらつき・立ちくらみの影響 ・視力低下や注意力低下で足元の段差・濡れに気づきにくい ・「早く乗りたい・降りたい」焦りで動作が急になる |
| 主な要因(介護者) | ・時間に追われ、声かけ・動作確認が省略される ・乗降介助の立ち位置が不適切で、支えやすい姿勢を取れていない ・利用者のその日の状態を事前共有できていない ・雨天時の追加対策の徹底不足 |
| 主な要因(環境) | ・雨天で足元が滑りやすい ・手すりの位置が合わない |
| 考えられる対策 | ・乗降手順の標準化を実施する(必ず手すり→足位置確認→ゆっくり) ・雨天時の滑り止めマット・タオルを常備する ・送迎担当とフロア職員の情報連携を行う |
9:皮膚トラブル(褥瘡)につながりかけた
褥瘡は一度できると治癒に時間がかかり、痛みや感染のリスクがあるため生活の質が大きく下がります。怖いのは体位変換のように「やるべきことが決まっているケア」ほど、忙しさで後ろ倒しになっても失念に気づきにくい点です。
計画と実施のズレを見える化し、未実施のまま次シフトへ持ち越さない仕組みが重要です。
事例
体位変換の予定が、夜勤帯のコール対応で後ろ倒しになり、同一体位が長く続き発赤が出ました。翌朝の観察で気づきました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | ・褥瘡悪化 ・感染 ・疼痛 ・ADL低下 |
| 主な要因(利用者) | ・自力で寝返りが難しく、同一体位が続きやすい ・意思表示が難しい ・低栄養・脱水、血流低下、浮腫などで皮膚が脆弱化している |
| 主な要因(介護者) | 計画と実施のズレが見える化されていない |
| 主な要因(環境) | ・体圧分散寝具やクッションが不十分 ・シーツのしわ、オムツのずれ、衣類の縫い目などの摩擦・ずれ ・体位変換しにくいベッド高さ・スペース不足 ・室温・湿度管理が不十分で発汗や蒸れが起きやすい |
| 考えられる対策 | ・体位変換の実施記録を簡単にし、未実施がわかる仕組みを作る ・高リスク者は重点ケアを行う ・看護師と連携して皮膚観察の観点を統一する |
10:個人情報の取り違え・誤共有
記録ミスは身体事故のように目に見えにくいですが、利用者・家族の信頼を一瞬で損ねるリスクがあります。特に入力中にコールで中断し、戻ったときに別画面のまま作業を再開すると、取り違えが起こりやすくなります。
ポイントは、中断=最初から確認し直すという運用の固定化です。端末共有のルールも併せて整えると効果的です。
事例
記録入力時、利用者Aの内容を利用者Bの記録に入力しそうになり、保存直前に気づきました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 潜在的な重大な結果 | ・個人情報漏えい ・信頼失墜 ・苦情 ・監査リスク |
| 主な要因(介護者) | ・多忙や疲労で集中力が低下し、確認が省略されやすい ・入力途中にコール対応などで中断し、再開時に利用者確認をしないまま続けてしまう ・いつもの流れで作業し、利用者名・画面・記録先の指差し確認が形骸化している ・ダブルチェックを行う習慣・時間が確保できていない ・個人情報の扱いに関するルール理解が足りない |
| 主な要因(環境) | ・端末共有 ・入力途中の中断 ・画面切替ミス |
| 考えられる対策 | ・入力前に利用者名を指差し確認する ・端末の自動ログアウトを設定する ・記録のテンプレ化を行う |
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介護におけるヒヤリハット報告書の書き方と例文

ヒヤリハットを経験した後に重要なのが、その内容を正確に記録し、共有することです。質の高い報告書は、施設全体の安全性を向上させるための第一歩となります。ここでは、誰でもわかりやすく書ける報告書のポイントと例文を紹介します。
報告書の目的設定に活きる視点
報告書を作成する際は、以下の3つの目的を意識することが大切です。ただ書くだけでなく、目的を理解することで、より内容の濃い報告書に仕上がります。
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 1.原因分析 | なぜヒヤリハットが起きたのか、客観的な事実を基に原因を探る |
| 2.再発防止策の検討 | 同じようなヒヤリハットを繰り返さないための具体的な対策を考える |
| 3.情報共有 | 他の職員にも同様のリスクを周知し、施設全体の危険予知能力を高める |
なお、報告書をわかりやすくまとめるためには、「5W1H」のフレームワークが非常に有効です。以下の要素を盛り込むことで、誰が読んでも状況を正確に理解できる報告書を作成できます。
| 要素 | 英語 | 記載する内容 |
|---|---|---|
| When | いつ | ヒヤリハットが発生した日時 |
| Where | どこで | 発生した場所 |
| Who | 誰が | 関係した人物 |
| What | 何を | どのような出来事が起こったか |
| Why | なぜ | なぜそのような状況になったのか |
| How | どのように | どのように対応し、どのような結果になったか |
客観的な事実と主観的な推測の書き分け方
報告書で重要なことの一つが、実際に起きた客観的な事実と、自分が考えた主観的な推測を明確に分けて書くことです。主観と客観を混同して書くと、原因分析を誤る原因につながります。
| ポイント | NG例(事実と推測が混同) | OK例(事実と推測を分離) |
|---|---|---|
| 状況報告 | A様がぼんやりしていたため、段差に気づかず転びそうになった。 | (事実)A様が足元の段差でつまずき、転びそうになった。 (所見)A様は少し眠そうに見えた。 |
| 原因分析 | 職員の不注意で、車椅子のブレーキをかけ忘れた。 | (事実)車椅子のブレーキがかかっていなかった。 (原因)ブレーキをかけるという基本動作の確認が漏れていた。 |
「〜と思われる」「〜かもしれない」といった言葉を使い、推測であることが明確に伝わるように工夫しましょう。
事故防止につなげるリスクマネジメント対策

ヒヤリハット報告書は、提出して終わりではありません。集まった事例を分析し、組織全体で事故防止に取り組むリスクマネジメントに活用することが不可欠です。ここでは、ヒヤリハットの事例をもとにしたリスクマネジメント手法について解説します。
ヒヤリハットからリスクを特定する
集まったヒヤリハット報告書は定期的に見返し、どのような傾向があるのかを分析します。特定の場所や時間帯、介助場面でヒヤリハットが多発していないかを確認しましょう。リスクを特定したら、具体的な対策を検討します。具体的な例は以下のとおりです。
| 対策カテゴリ | 具体策 | ねらい・効果 |
|---|---|---|
| 環境整備 | 廊下に手すりを増設する | 移動時のふらつき・転倒リスクを下げる |
| 照明を明るくする | 足元の視認性を上げ、つまずき・見落としを防ぐ | |
| 滑りやすい床材を見直す | 滑りによる転倒・転落を予防する | |
| 福祉用具・介護ロボットの活用 | 離床センサーや見守りカメラを導入する | 離床・転倒の兆候を早期に検知し、対応遅れを防ぐ |
| 移乗支援リフトを活用し、介助者の負担を軽減する | 腰痛・転倒などの事故を減らし、安定した移乗を支える | |
| 個別ケアプランの作成 | 利用者ごとのリスクを再評価し、個別の介護計画に反映させる | 状態変化に合わせて予防策を更新し、事故を減らす |
| リスクの高い利用者は重点的な見守り体制を構築する | ハイリスク場面の見守り漏れを防ぎ、重大事故を回避する |
対策を評価して継続的に改善する
対策を実施した後は、その効果を評価します。「対策を実施した結果、同様のヒヤリハットは減少したか」「新たなリスクは発生していないか」などを定期的に確認しましょう。もし効果が見られない場合は、別の対策を検討する必要があります。
このように、計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)というPDCAサイクルを回し続けることが、リスクマネジメントの質を高めます。
定期的に研修を行う
ヒヤリハット事例を活用した研修は、職員の安全意識を高めるうえで非常に効果的です。ただ事例を読むだけでなく、参加型の研修を取り入れることで、より実践的な学びにつながります。
- シナリオベースのワークショップ
- 実際のヒヤリハット事例を基に、グループで「自分ならどう対応するか」「どうすれば防げたか」を議論する
- ロールプレイング
- ヒヤリハット発生時の利用者や家族への説明、職員間の連携などを模擬的に体験する
- インシデントレビューシミュレーション
- 過去の事例を使い、原因分析から再発防止策の立案までの一連のプロセスを体験する
このような研修を通じて、ヒヤリハットを自分ごととして捉え、能動的に安全対策に取り組む文化を醸成していくことが重要です。
介護現場の「ヒヤリハット」は、“事故未満の危険サイン”として捉え、見過ごさずに重大事故の芽を早期に摘む視点が重要です。背景には、1件の重大事故の背後に多数の軽微事故・ヒヤリハットがあるとされるハインリッヒの法則(1:29:300)があり、早い段階で原因を言語化し対策する必要性が指摘されています。本記事では、転倒、誤嚥/誤飲、誤薬、入浴、移乗/移動、離床センサーの見落とし、行方不明(徘徊)、送迎、褥瘡、個人情報の取り違えなど、状況別事例を挙げ、潜在的な重大結果/要因(利用者・介護者・環境)/対策をセットで確認できます。ヒヤリハット報告書は業務の多忙さから軽視されがちですが、①原因分析②再発防止策③情報共有といった重要な目的があります。個人の失敗で終わらせず、集まった事例を傾向分析→環境整備や機器活用→個別ケア計画への反映→効果確認のPDCAで回し、参加型研修に活用する流れまで押さえておくことが効果的です。
なお、株式会社ワイズマンでは「介護現場のリスク管理とスタッフ教育の重要性についての資料」を無料で配布中です。
介護・福祉現場でのリスク管理やスタッフ教育を課題としている方を対象に作成しておりますので、ぜひダウンロードしてご活用ください。
まとめ:介護におけるヒヤリハット事例を把握して事故を防止しよう

介護ヒヤリハット事例集は介護現場における事故を防ぎ、質の高いケアを提供するための羅針盤です。一つひとつのヒヤリハットは、決して個人の失敗ではなく、事業所全体の安全性を向上させるための貴重な学びの機会へとつながります。
報告された事例を組織全体で真摯に受け止め、その背景にある原因を深く分析することで具体的な改善策へとつなげることが重要です。
この記事で紹介した事例や報告書の書き方を参考に、明日からの業務にぜひ活かしてください。継続的な取り組みを通じて、利用者の安全と尊厳を守り、職員自身も安心して働ける職場環境を築いていきましょう。
監修:梅沢 佳裕
人材開発アドバイザー
介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

