【介護業界動向コラム】第17回 介護情報基盤の導入と助成金活用 ~現場が今から備えるべきこと~

2025.11.26

前回(第16回)では、「介護情報基盤」とは何か、そしてこの仕組みが現場の業務をどのように変えていくのかを解説しました。
今月は、導入を進めるうえでの「目的」と「現実」を整理しながら、現場が今から備えるべきポイントを考えます。

■ 介護情報基盤の目的 ― 何が実現できるのか

介護情報基盤の最大の目的は、「データでつながる介護」の実現にあります。
市町村、医療機関、介護事業所が共通の仕組みで情報を共有できるようになることで、
これまで紙やFAX、電話で行っていたやり取りが、オンラインで安全かつ迅速に完結します。

具体的には、次のような変化が想定されています。

・介護保険資格や認定情報をリアルタイムに照会できる 
・要介護認定の結果や主治医意見書がオンラインで確認できる 
・住宅改修や福祉用具購入の進捗が自事業所から確認できる 
・ケアプラン届出をオンラインで提出できる 

こうした仕組みが整えば、「確認・照会・待機」の時間が減り、ケアマネジャーや職員がより多くの時間を利用者支援や家族との関わりに使えるようになります。
まさに“事務負担の軽減”と“ケアの質向上”を両立させる仕組みです。

■ 一方で、導入後の現場には課題もある

しかし、導入すればすぐに理想が実現するわけではありません。
現場では、いくつかの壁に直面することが予想されます。

【主な課題】 
1. 人材・教育面:操作に慣れない職員が多く、ICTが得意な人に業務が集中する 
2. 運用体制:誰が管理・設定・更新を行うのか責任の所在が不明確 
3. ネットワーク環境:通信不安定、Wi-Fiの旧式化など技術的な障害 
4. 自治体間格差:市町村によって運用開始時期や方法が異なり、連携が進まない 
5. セキュリティ:マイナンバーカードを扱う不安、情報漏洩リスクへの懸念 
6. システム連携:介護ソフトや請求システムと連携せず、二重入力が発生 

これらは、制度の仕組みそのものよりも「どう現場に根付かせるか」という実装面の課題です。
つまり、介護情報基盤の導入は“スタートライン”であり、運用が始まって初めて本当の勝負になります。

■ では、どうすれば乗り越えられるのか

介護情報基盤を「制度対応」で終わらせず、“現場の力”に変えていくためには、次の3つの視点が鍵になります。

① 法人全体で学びを共有する体制をつくる
ICTが得意な人だけに任せず、全員が少しずつ触れ、学び合う仕組みをつくりましょう。
各部署に1人ずつ「ICTサポート担当」を配置し、朝礼や会議で操作のコツを共有するなど、日常の中で慣れていく環境を整えることが効果的です。

② 外部との連携を積極的に図る
自治体やソフト事業者、地域の他事業所と情報を共有し、課題や成功事例を持ち寄ることで、「孤立した導入」にならず、地域全体で進化していく流れを作れます。

③ 小さな成功体験を積み重ねる
一度にすべてを完璧に導入しようとせず、まずは1つの機能から使い始め、
「これが便利だった」という実感を職員間で共有していくことが大切です。
その経験の積み重ねが、抵抗感をなくし、習熟を促します。

■ 助成金を活かして現実的な導入を

国保中央会の助成金は、カードリーダー購入や接続サポート費用など、初期導入を支援する制度です。
対象は事業所番号ごとで、申請は令和7年10月17日から令和8年3月13日まで。
この機会を活かして、必要な機器と体制を一気に整える動きを始めましょう。

ただし、助成金の目的は「導入を済ませること」ではなく、「業務を変えること」です。
法人全体での教育・体制整備を同時に進めることで、投資の効果を最大化できます。
【参考】介護情報基盤URL:https://www.kaigo-kiban-portal.jp/

■「制度に合わせる」から「制度を活かす」へ

介護情報基盤の導入は、国の制度に合わせる作業ではなく、
自法人の業務をより良くするための“手段”です。
制度を活かし、自分たちの現場に合った形で運用を磨いていく。
その姿勢こそが、導入成功のカギとなります。

「様子見」ではなく、「試しながら慣れていく」――。
完璧を待つより、まずは小さな一歩を踏み出す。
介護情報基盤は、現場が前向きに動いた分だけ“生きた仕組み”になります。

竹下 康平(たけした こうへい)氏

株式会社ビーブリッド 代表取締役

2007 年より介護事業における ICT 戦略立案・遂行業務に従事。2010 年株式会社ビーブリッドを創業。介護・福祉事業者向け DX 支援サービス『ほむさぽ』を軸に、介護現場での ICT 利活用と DX 普及促進に幅広く努めている。行政や事業者団体、学校等での講演活動および多くのメディアでの寄稿等の情報発信を通じ、ケアテックの普及推進中。

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