【医療業界動向コラム】第139回 一部の高齢者住宅における「過度」な訪問看護に対する是正策と入院医療への影響

2025.05.20

高額な紹介料、患者の状態に関係なく行われる「過度」な訪問看護への対策

去る令和7年3月12日に開催された中央社会保険医療協議会 総会では、訪問看護ステーションに対する指導・監査の見直しの方針が示され、同年4月3日には指導・監査の見直しに関する通知が発出された。「ホスピス住宅」などとも呼ばれる一部の有料老人ホームでの「過度」な訪問看護を行っている事業者があることを受けてのことだ。近年、営利法人による訪問看護ステーションの新規開設が多い傾向にあること(図1)、一件当たりの医療費が高額になっている訪問看護ステーション(図2)では、訪問看護の実施(回数・日数)が多い可能性が見られている。

図1_訪問看護事業所等の年次推移(※画像クリックで拡大表示)

図2_レセプト1件当たりの平均医療費別訪問看護ステーション数の推移(※画像クリックで拡大表示)

訪問看護は原則週3回までだが、別表7及び8に記載されている状況にある患者や特別訪問看護指示書の交付を受けた場合、医療依存度が高い患者の場合は週4回以上も可能となる(図3)。

図3_訪問看護利用者について(※画像クリックで拡大表示)

そこで、一部の有料老人ホームではこうした医療依存度の高い患者を積極的に受け入れるべく、家賃を引き下げ、紹介事業者に医療依存度が高い患者ほどに高い紹介料を支払って入居を推進し、患者個別の状態に関係なく一律に過度な訪問看護を実施している事例などが報告されている。

数年前のことだが、私は都内で「紹介料」に関して調べたことがあったが、当時は一件あたり10~15万円程度の紹介料で、1紹介事業者あたり月に多くて3~5件くらい成約があったとのことだった。今は、紹介料は医療依存度に応じてかなり高く、100万円を超えることもあるそうだ。なお、この紹介料については昨年厚生労働省より、患者の状態(要介護度や疾病等)に応じた紹介手数料の設定をしないよう通知が発出されている。

そうした事態を受け、4月3日の通知では、1件当たりの平均請求額が高額な訪問看護ステーションに対して個別指導を行うこと(ただし取扱件数の少ない訪問看護ステーションは除く)、悪質と判断される場合は事前通知なしでの監査(通常は7~10日前に事前通知)をすることが記載されている。また、都道府県をまたいで広域展開する訪問看護業者に対しての新たな共同指導についても記載されている。必要があって頻回な訪問看護を行っていることが多いと思うが、記録など改めて確認し、証明できるようにしておくことが求められるだろう。

これまでは、調剤報酬で薬局に対する厳しい評価の見直しが続いてきていた。それは公的な保険の範囲内でビジネス(のようなこと)をやってはいけないというメッセージだったと思う。令和6年度診療報酬改定では、往診についても同様のメッセージが発せられたのは記憶に新しい。令和8年度診療報酬改定で訪問看護に対する評価の在り方がどうなるか、注目されるところだ。

病院経営への影響も

ところで、昨今の病院経営状況の悪化に関する話題は中医協でも取り上げられ、今後の診療報酬改定の検討の中でどのように反映していくかが焦点の一つになっている。本年4月23日に開催された中医協総会では「医療機関を取り巻く状況について」と題された資料が公表されている。人口減少に伴う患者数の減少はよくわかるのだが、今回ご紹介した一部の有料老人ホームでは、過度な訪問看護が提供されていることもあり、病院の入院患者数の減少・経営悪化にも間接的に影響を与えているのではないかと感じることもある(図4)。

図4_病院の患者数の推移(※画像クリックで拡大表示)

現行の地域医療構想では、病床を適正化するとともに、在宅医療での慢性疾患患者の対応もセットで考えられている。令和9年度からの新たな地域医療構想では、入院医療だけではなく、外来・在宅・介護もセットで検討していく方針だ。医療費適正化の観点からも、今回の問題は、新たな地域医療構想で議論されていくことが必要になるだろう。適正に対応している事業者の負担がかえって重くならないようにもして欲しいのと同時に、単に厳しく取り締まるだけではなく、地域の医療・介護特有の問題も踏まえた解決策を前向きに考えていく視点も忘れないようにしたい。今回の問題は、地域医療・介護の課題が根底にあることも確かなことだ。

山口 聡 氏

HCナレッジ合同会社 代表社員

1997年3月に福岡大学法学部経営法学科を卒業後、出版社の勤務を経て、2008年7月より医業経営コンサルティング会社へ。 医業経営コンサルティング会社では医療政策情報の収集・分析業務の他、医療機関をはじめ、医療関連団体や医療周辺企業での医 療政策や病院経営に関する講演・研修を行う。 2021年10月、HCナレッジ合同会社を創業。

https://www.hckn.work

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