ロンジェビティテックとは? 注目される介護分野での導入事例、ビジネス戦略まで
2026.07.17
介護施設が直面する深刻な人手不足や、絶えず求められる介護サービスの質の向上。これらの根深い課題に対し、近年「ロンジェビティテック」が新たな解決策として大きな注目を集めています。ロンジェビティテックとは、単なる業務効率化ツールにとどまらず、利用者の健康寿命を延伸し、生活の質(QOL)そのものを高めることを目的としたテクノロジーの総称です。
この記事では、介護施設の経営者や事業開発担当者の皆様に向けて、ロンジェビティテックが介護現場の課題をどのように解決するのか、具体的な導入事例から自施設に最適なソリューションの選び方まで解説します。
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目次
ロンジェビティテックとは?基礎知識と注目される背景

| 項目 | 従来の介護テック | ロンジェビティテック介護 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 業務効率化、コスト削減 | 健康寿命延伸、QOL向上、自立支援 |
| 対象範囲 | 施設・職員の業務 | 利用者・家族・社会全体 |
| 主要技術例 | 記録電子化、勤怠管理システム | AI、IoT、ロボティクス、データ分析 |
| 提供価値 | 業務負担軽減、情報共有の効率化 | 尊厳維持、科学的介護、予防・未病 |
| 焦点 | 介護業務の最適化 | 人生の質の向上と持続可能な社会 |
介護業界で「ロンジェビティテック」という言葉を耳にする機会が増えていますが、その正確な意味や、なぜ今これほどまでに注目されているのかを理解することが、導入検討の第一歩となります。このセクションでは、ロンジェビティテックの基本的な概念と、介護分野でその重要性が高まっている社会的背景について掘り下げていきます。従来の介護テックとの違いも踏まえながら、その本質に迫ります。
ロンジェビティテックの定義と主要な技術領域
「ロンジェビティ(Longevity)」とは、直訳すると「長寿」や「寿命」を意味します。ここから派生した「ロンジェビティテック」は、人々が単に長く生きるだけでなく、健康で自立した生活をより長く享受できることを目指すテクノロジーの総称です。その目的は、健康寿命の延伸と生涯にわたる生活の質(QOL)の向上にあります。
ロンジェビティテックがカバーする領域は非常に広く、主に以下の分野に分類されます。
- 予防・未病:日々のバイタルデータや生活習慣をモニタリングし、疾病の早期発見や予防につなげるウェアラブルデバイスやアプリ。
- 診断・治療:AIによる画像診断支援や、遺伝子情報に基づく個別化医療など、より高度で精密な医療技術。
- 介護・生活支援:本記事の主題である、高齢者の自立を支援し、介護者の負担を軽減する見守りセンサー、介護ロボット、コミュニケーションツールなど。
- エイジングケア:美容やスキンケア分野における老化抑制技術や、栄養学に基づいたサプリメントなども広義のロンジェビティテックに含まれます。
これらの領域は、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ロボティクス、データサイエンスといった最先端技術によって支えられており、相互に連携しながら発展しています。
介護とロンジェビティテックが結びつく社会背景とニーズ
日本が直面する超高齢社会という大きな社会構造の変化が、介護分野におけるロンジェビティテックへの期待を急速に高めています。総務省統計局のデータによると、2023年9月時点で日本の総人口に占める65歳以上の高齢者人口の割合は29.1%に達し、過去最高を更新しました[1]。この高齢化の進展は、介護サービスの需要を増大させる一方で、生産年齢人口の減少による介護人材の不足という深刻な問題を引き起こしています。
厚生労働省の報告では、2040年度には約69万人の介護職員が不足するとの推計もあり、現状のままでは介護サービスの提供体制を維持することすら困難になりかねません。このような状況下で、介護現場の生産性を向上させ、少ない人数でも質の高いケアを提供するための切り札として、テクノロジーの活用が不可欠となっているのです。
従来の介護テックが、記録業務の電子化など「業務の効率化」に主眼を置いていたのに対し、ロンジェビティテックは、効率化はもちろんのこと、利用者のQOL向上、自立支援、尊厳の維持といった、より本質的な価値の提供を目指す点で一線を画します。
テクノロジーによって介護職員の負担を軽減し、それによって生まれた時間や心の余裕を、利用者一人一人と向き合うための「ヒューマンケア」に充てる。この理想的なサイクルを実現する鍵として、ロンジェビティテックが期待されています。
介護現場の具体的な課題とロンジェビティテックが提供する解決策

| 介護現場の課題 | ロンジェビティテックの解決策 | 具体的な技術例 | 期待される効果 |
|---|---|---|---|
| 人手不足・業務負担増大 | 定型業務の自動化・効率化 | 見守りシステム、介護記録ソフト | 職員の身体的・精神的負担軽減、夜間巡視削減 |
| 利用者のQOL低下・自立支援の難しさ | 個別ケアの実現、残存能力の活用 | AIリハビリ支援、歩行アシストロボット | 利用者の活動量増加、ADL(日常生活動作)向上 |
| 経験・勘に頼るケア | データに基づいた科学的介護 | バイタルセンサー、活動量計、データ分析AI | 早期リスク発見、ケアプランの最適化 |
| 家族の不安・情報共有不足 | 遠隔での見守り・情報共有 | 家族向けアプリ、コミュニケーションツール | 家族の安心感、施設への信頼関係強化 |
介護現場は、人手不足、職員の心身への負担、利用者一人一人への個別ケアの難しさなど、多くの複合的な課題を抱えています。ロンジェビティテックは、これらの課題に対して、テクノロジーならではの革新的なアプローチで解決策を提供します。ここでは、代表的な3つの課題を取り上げ、ロンジェビティテックがどのように貢献できるかを具体的に解説します。
人手不足と業務負担の増大へのアプローチ
介護職員の業務は、身体介助だけでなく、夜間の見守り、巡視、介護記録の作成など多岐にわたり、時間的・精神的な負担が非常に大きいのが実情です。特に夜勤は、少人数で多くの利用者をケアする必要があり、職員の負担が集中しやすい時間帯です。ロンジェビティテックは、これらの定型業務や監視業務を自動化・効率化することで、職員の負担を大幅に軽減します。
具体的には、以下のようなソリューションが挙げられます。
- 見守りシステム:ベッドに設置されたセンサーが利用者の睡眠状態や心拍、呼吸数をリアルタイムで監視。離床や転倒などの異常を検知すると、即座に職員のスマートフォンやナースコールに通知します。これにより、夜間の定期的な巡視業務を削減し、職員は本当に対応が必要な時にだけ駆けつければよくなります。
- 介護記録ソフト:スマートフォンやタブレットから簡単な操作で記録を入力できるだけでなく、バイタルセンサーなどと連携して測定値を自動で取り込むシステム。記録業務にかかる時間を短縮し、ペーパーレス化による情報共有の迅速化も実現します。
- インカム・情報共有ツール:職員同士がリアルタイムで連絡を取り合えるインカムシステムは、広範な施設内での情報共有を円滑にし、チームケアの質を向上させます。
利用者のQOL向上と自立支援の実現
ロンジェビティテックは、単に介護者の負担を減らすだけではありません。利用者自身の「できること」を増やし、尊厳を保ちながら自立した生活を送ることを支援する点に大きな価値があります。テクノロジーを活用することで、画一的なケアではなく、一人一人の状態や目標に合わせたパーソナライズケアが可能になります。
例えば、AIを搭載したリハビリテーション支援システムは、利用者の身体能力を客観的に評価し、最適なトレーニングメニューを自動で作成します。ゲーム感覚で楽しみながら取り組めるプログラムも多く、利用者のモチベーション維持にも貢献します。また、歩行アシストロボットは、足腰の弱った利用者の歩行を物理的にサポートし、行動範囲を広げることで、社会参加の機会を創出します。このように、テクノロジーは利用者の残存能力を最大限に引き出し、QOLの向上に直接的に寄与するのです。
データに基づいた科学的介護の実践
これからの介護において重要性が増すのが、経験や勘だけに頼るのではなく、客観的なデータに基づいてケアプランを立案・評価・改善する「科学的介護」です。ロンジェビティテックは、その実践を強力に後押しします。見守りセンサーやウェアラブルデバイスから得られる睡眠データ、活動量、バイタルサインといった膨大なデータを継続的に収集・蓄積することが可能です。
これらのデータをAIが分析することで、個々の利用者の健康状態の変化の兆候を早期に捉え、重症化する前に対策を講じることができます。
例えば、「最近、夜中に起きる回数が増えている」というデータから転倒リスクの高まりを予測し、居室の環境整備や排泄介助のタイミングを見直すといった、先手のアプローチが可能になります。データという客観的な根拠があるため、利用者やその家族に対しても、ケアプランの妥当性をわかりやすく説明でき、信頼関係の構築にもつながります。国が推進する「科学的介護情報システム(LIFE)」へのデータ提出においても、これらのテクノロジーは業務効率を大きく改善します。
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ロンジェビティテック介護の最新導入事例と成功のポイント

理論だけでなく、実際にロンジェビティテックが介護現場でどのように活用され、どのような成果を上げているのかを知ることは、導入を検討する上で非常に重要です。ここでは、具体的な技術分野ごとに最新の導入事例を紹介し、導入を成功に導くための共通のポイントを解説します。自施設の課題と照らし合わせながら、活用のイメージを膨らませてみてください。
見守り・センサー技術による安全確保と家族への安心提供
ある特別養護老人ホームでは、すべての居室のベッドに非接触型の睡眠センサーを導入しました。このセンサーは、利用者の睡眠の深さ、心拍数、呼吸数をマットレス越しに測定し、データとして記録します。夜勤職員は、スタッフルームのモニターで全利用者の状態を一元的に把握でき、訪室しなくても安否確認が可能です。特に、体調が変化しやすい利用者に対してはアラート設定を個別に行い、異常があれば即座に通知が届く仕組みを構築しました。
導入の結果、夜間の訪室回数が約50%削減され、職員の身体的・精神的負担が大幅に軽減されました。また、睡眠データに基づき「夜間によく眠れていない」ことがわかった利用者に対しては、日中の活動量を増やすケアプランを提案するなど、より質の高い個別ケアにつながっています。
さらに、希望する家族には専用アプリを通じて睡眠レポートを共有。離れて暮らす家族も利用者の様子を知ることができ、大きな安心感を得ています。
AIを活用したパーソナライズケアとリハビリテーション支援
デイサービスを運営するある事業者では、利用者の機能訓練にAI搭載のリハビリテーション支援機器を導入しました。この機器は、内蔵された3Dカメラで利用者の関節の動きやバランス能力を正確に測定・評価します。その評価結果に基づき、AIが理学療法士の知見を学習したアルゴリズムで、利用者一人一人に最適な訓練プログラムを自動生成します。
成功のポイントは、機器を導入して終わりにするのではなく、職員が利用者に寄り添い、励ましながら活用した点です。AIが提案するプログラムをベースにしながら、その日の利用者の体調や気分に合わせて職員がメニューを微調整することで、「テクノロジーの正確性」と「人の温かみ」が融合します。
利用者はゲーム感覚で楽しく訓練に取り組めるようになり、ADL(日常生活動作)の維持・向上に顕著な効果が見られました。データで改善が可視化されるため、利用者のモチベーションアップにもつながっています。
ロボット技術による身体的介助とコミュニケーションの促進
移乗介助は、介護業務の中でも特に職員の身体的負担が大きく、腰痛の原因となりやすい作業です。ある介護老人保健施設では、この課題を解決するために装着型のパワーアシストスーツ(移乗支援ロボット)を導入しました。スーツが腰にかかる負担をモーターの力で補助するため、職員は少ない力で安全に利用者をベッドから車椅子へ移乗させることができます。
導入当初は操作に戸惑う職員もいましたが、メーカーによる丁寧な研修と、職員同士での勉強会を重ねることで徐々に浸透していきました。
腰痛による離職者が減少し、職員が安心して長く働ける職場環境の構築に貢献しました。また、同施設では人型コミュニケーションロボットも活用。レクリエーションの時間に体操をリードしたり、利用者と簡単な会話を交わしたりすることで、場が和み、コミュニケーションが活性化する効果が生まれています。ロボットが会話のきっかけを作り、利用者同士や職員との交流を深めるハブとして機能しています。
自施設に最適なロンジェビティテック介護ソリューションを見極める選定基準

市場には多種多様なロンジェビティテックの介護ソリューションが存在し、「どれを選べば良いのかわからない」という声も少なくありません。高価な機器を導入したものの、現場で使われずに終わってしまう「導入の失敗」を避けるためには、慎重な選定プロセスが不可欠です。ここでは、自施設に最適なソリューションを見極めるための4つの重要な基準を提示します。
現状の課題とニーズの明確化:導入目的を定める
テクノロジー導入を検討する最初のステップは、「何のために導入するのか」という目的を明確にすることです。「流行っているから」「補助金が出るから」といった理由で導入を進めると、現場のニーズと乖離し、活用されない結果になりがちです。まずは、自施設の課題を徹底的に洗い出すことから始めましょう。
- 「夜勤職員の巡視負担が大きく、ヒヤリハットが多い」→ 解決策:見守りセンサーシステム
- 「職員の記録業務に時間がかかり、残業が常態化している」→ 解決策:介護記録ソフト、音声入力システム
- 「利用者のリハビリ意欲が低下しており、ADLが落ちてきている」→ 解決策:リハビリ支援ロボット、機能訓練アプリ
このように、具体的な課題と、それを解決するための導入目的を言語化することが重要です。現場の職員を交えて議論し、施設全体で共通の認識を持つことが、成功への第一歩となります。
費用対効果(ROI)の評価と予算計画
ロンジェビティテックの導入には、少なくない初期費用(イニシャルコスト)や月々の運用費用(ランニングコスト)がかかります。投資に見合う効果が得られるかを多角的に評価するROI(Return on Investment:投資収益率)の視点が不可欠です。
評価すべき「効果」は、直接的なコスト削減だけではありません。
- コスト削減効果:残業代の削減、ペーパーコストの削減、職員の離職率低下による採用・教育コストの削減など。
- サービス品質向上効果:利用者満足度の向上、事故発生率の低下、家族からの信頼獲得による稼働率の向上など。
- 職員の労働環境改善効果:業務負担の軽減、有給休暇取得率の向上、働きがいの向上による定着率アップなど。
これらの定性的・定量的な効果を総合的に評価し、長期的な視点で投資の妥当性を判断する必要があります。また、国や自治体が提供する導入支援補助金などを活用することで、初期投資の負担を軽減することも可能です。最新の補助金情報を常にチェックし、賢く活用する計画を立てましょう。
操作性・導入のしやすさと職員への教育体制
どのようなに高機能なシステムでも、現場の職員が使いこなせなければ意味がありません。特に介護現場では、IT機器の操作に不慣れな職員も少なくないため、誰でも直感的に操作できるシンプルなUI(ユーザーインターフェース)であることが極めて重要です。デモ機を実際に試用したり、他施設の導入事例をヒアリングしたりして、操作性を十分に確認しましょう。
また、導入時のベンダーによる研修体制が充実しているかも重要なポイントです。集合研修だけでなく、導入後も気軽に質問できるヘルプデスクの有無や、わかりやすいマニュアルが提供されるかなどを確認します。施設内でテクノロジー活用を推進するリーダー役を決め、そのリーダーを中心に勉強会を開くなど、施設側の受け入れ体制を整えることもスムーズな導入につながります。
ベンダー選定と導入後のサポート体制の確認
ソリューションの選定は、ベンダー(提供企業)の選定とほぼ同義です。単に製品の機能や価格だけで比較するのではなく、信頼できるパートナーとなり得るかを見極める必要があります。
確認すべきポイントは以下のとおりです。
- 介護業界への理解度と実績:介護現場特有の課題や業務フローを深く理解しているか。同規模・同種の施設への導入実績は豊富か。
- サポート体制:トラブル発生時に、電話やメールだけでなく、必要に応じて訪問サポートが受けられるか。対応時間は自施設の勤務体系に合っているか。
- 将来性・発展性:法改正や現場のニーズに合わせて、システムが継続的にアップデートされるか。他のシステム(介護請求ソフトなど)との連携は可能か。
導入はゴールではなくスタートです。長期的に伴走し、活用の定着までを支援してくれる、信頼できるベンダーを選ぶことが、ロンジェビティテック導入の成否を分ける鍵となります。
ロンジェビティテック介護導入における潜在的な課題と対策

ロンジェビティテックは介護現場に多くの恩恵をもたらす一方で、その導入プロセスにはいくつかの障壁が存在します。これらの潜在的な課題を事前に把握し、適切な対策を講じておくことが、スムーズな導入と活用の定着に不可欠です。ここでは、多くの施設が直面しがちな3つの課題と、その具体的な対策について解説します。
初期費用と運用コストの負担
高性能なセンサーやロボット、システムなどの導入には、高額な初期費用がかかるケースが多く、経営上の大きな負担となり得ます。また、月額の利用料やメンテナンス費用といったランニングコストも継続的に発生します。これらのコスト負担は、特に中小規模の介護事業者にとって導入の大きなハードルです。
対策としてはまず、国や地方自治体が提供する介護テクノロジー導入支援の補助金や助成金を最大限に活用することが重要です。これらの制度は、導入費用の2分の1から4分の3程度を補助してくれる場合が多く、負担を大幅に軽減できます。次に、すべての機器を一度に導入するのではなく、もっとも課題となっている業務領域からスモールスタートで導入し、効果を検証しながら段階的に対象を広げていくアプローチも有効です。また、近年は機器を買い取るのではなく、月額料金で利用できるSaaS(Software as a Service)モデルやリース、レンタルサービスも増えており、初期費用を抑えたい場合に適しています。
【関連記事】【令和8年】介護テクノロジー導入支援事業:補助金と活用方法を解説
スタッフのテクノロジーへの抵抗感と研修の重要性
新しいテクノロジーの導入に対して、一部の職員から「操作が難しそう」「仕事が奪われるのではないか」「かえって手間が増える」といった心理的な抵抗感が示されることは少なくありません。特に、長年の経験を持つベテラン職員ほど、従来のやり方を変えることに抵抗を感じる傾向があります。この抵抗感を無視してトップダウンで導入を進めると、現場でまったく使われず形骸化してしまうリスクがあります。
対策としてもっとも重要なのは、丁寧なコミュニケーションです。導入検討の段階から現場職員の意見を聞き、なぜ導入が必要なのか、導入によって職員の負担がどのように軽減され、利用者へのケアがどう向上するのか、そのビジョンを共有することが不可欠です。導入時には、すべての職員を対象とした十分な研修時間を確保し、操作に不安がある職員には個別にフォローする体制を整えます。
また、ITに詳しい若手職員などを「推進リーダー」に任命し、他の職員からの質問対応や活用方法の共有を担ってもらうことで、現場主導での浸透が期待できます。
プライバシー保護とデータセキュリティ対策
見守りセンサーやカメラ、ウェアラブルデバイスなどは、利用者の身体情報や生活パターンといったきわめて機微な個人情報を収集します。これらのデータが外部に漏洩したり、不正に利用されたりする事態は絶対に避けなければなりません。プライバシーへの配慮が不十分だと、利用者やその家族から不信感を抱かれ、テクノロジーの利用そのものに同意を得られなくなる可能性もあります。
対策としては導入するソリューションが、個人情報保護法や関連するガイドライン(例:「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」)を遵守しているかを厳しくチェックする必要があります。ベンダーに対して、データの暗号化、アクセス権限の厳格な管理、サーバーの物理的なセキュリティ対策など、具体的なセキュリティ対策について確認しましょう。
また、施設内でもデータの取り扱いに関するルールを明確に定め、全職員に周知徹底することが重要です。利用者や家族に対しては、どのようなデータを、何の目的で取得し、どのように管理するのかを丁寧に説明し、同意を得るプロセスを必ず踏む必要があります。
参照:個人情報保護委員会:医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス
ロンジェビティテックが描く介護の未来と持続可能な経営戦略
ロンジェビティテックの導入は、目先の業務効率化にとどまらず、介護サービスのあり方そのものを変革し、事業所の持続可能な経営を実現するための重要な戦略的投資です。テクノロジーが進化し、社会に浸透していく中で、介護業界がどのように変容していくのか。長期的な視点で未来を見据えることが、これからの施設経営には求められます。
地域包括ケアシステムとの連携強化
国が推進する「地域包括ケアシステム」は、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される体制のことです。このシステムの実現において、ロンジェビティテックは情報のハブとして中心的な役割を果たすことが期待されています。
介護施設で収集された利用者のバイタルデータや生活記録が、クラウドを通じて地域の医療機関、訪問看護ステーション、ケアマネジャーなどとリアルタイムで共有される未来が訪れます。これにより、施設入所者だけでなく、在宅で療養する高齢者も含めた地域全体の健康状態をシームレスに把握し、多職種が連携して最適な支援をタイムリーに提供することが可能になります。テクノロジーを活用した情報連携基盤の構築は、地域全体の介護・医療の質を底上げし、自施設が地域における中核的な存在となるための鍵となります。
テクノロジーとヒューマンケアの融合による新たな価値創造
「テクノロジーが導入されると、介護から人の温かみが失われるのではないか」という懸念の声を聞くことがあります。しかし、ロンジェビティテックが目指す未来は、決して人間を介護から排除することではありません。むしろ、その逆です。
テクノロジーに任せられる業務(記録、見守り、単純作業など)は徹底的に自動化・効率化する。それによって創出された貴重な時間と、職員の心の余裕を、利用者一人一人と向き合う対話や、個別のニーズに応えるための創造的なケア、看取りといった、人間にしかできない付加価値の高い「ヒューマンケア」に振り向ける。これが、テクノロジーとヒューマンケアの理想的な融合の形です。テクノロジーはケアの質を代替するのではなく、補完し、増幅させるための強力なツールなのです。この融合を高いレベルで実現できた事業所が、利用者やその家族、そして職員からも選ばれる存在となっていくでしょう。
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介護業界で導入されるICTや導入の進め方などについて解説していますので、ぜひご覧ください。
「ロンジェビティテック」の本質は、IT化による省力化の先にある、利用者の「健康寿命延伸」や、尊厳を支える「自立支援」という介護本来の目的(価値創造)にフォーカスしている点にあります。
いまや「科学的介護(LIFE)」を通じたエビデンスに基づくケアプランの作成や、ケアプランデータ連携システムによる「多職種間でのリアルタイムな情報同期」は必須要件となっています。ロンジェビティテックの導入は、こうした国の政策が目指す「データに基づく科学的で持続可能な介護」の実現と完全に軌を一にするものです。
しかしながら、高価なシステムを導入するという「手段の目的化」は避けなければなりません。現場を支えてきたベテラン職員の経験価値を尊重しつつ、丁寧な対話によって不安を解消し、日々のケア記録が自然に分析データへと昇華する「シームレスな業務フロー」をデザインすることが成功への必須条件です。「データ分析や予測はテクノロジーに委ね(仕組みの最適化)」、「目の前の利用者に寄り添う温かさは人が担う(ヒューマンケアの高度化)」という役割の切り分けと融合こそが、次世代の介護経営を切り拓く鍵となります。
まとめ:ロンジェビティテック介護でより良い介護の実現に向けて
本記事では、ロンジェビティテックの基礎知識から、介護現場の課題解決策、具体的な導入事例、そして最適なソリューションの選び方までを解説してきました。超高齢社会の進展と介護人材不足という大きな課題に直面する中で、ロンジェビティテックを用いた介護は、もはや単なる選択肢の一つではなく、持続可能な介護サービスを提供し続けるための必須要素となりつつあります。
テクノロジーの導入は、介護職員を過酷な業務負担から解放し、専門職としてのやりがいを高めます。そして、そこで生まれた時間とエネルギーは、利用者一人一人へのより質の高い、温かみのあるケアへと還元されます。結果として、利用者と職員の双方が満足度の向上につながる、より良い介護の未来を創造することができるのです。
監修:斉藤 圭一
主任介護支援専門員、MBA(経営学修士)
神奈川県藤沢市出身。1988年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一生命保険相互会社(現・第一生命保険株式会社)に入社。その後、1999年に在宅介護業界大手の株式会社やさしい手へ転職。2007年には立教大学大学院(MBA)を卒業。 以降、高齢者や障がい者向けのさまざまなサービスの立ち上げや運営に携わる。具体的には、訪問介護・居宅介護支援・通所介護・訪問入浴などの在宅サービスや、有料老人ホーム・サービス付き高齢者住宅といった居住系サービス、さらには障がい者向けの生活介護・居宅介護・入所施設の運営を手がける。 また、本社事業部長、有料老人ホーム支配人、介護事業本部長、障害サービス事業部長、経営企画部長など、経営やマネジメントの要職を歴任。現在は、株式会社スターフィッシュを起業し、介護・福祉分野の専門家として活動する傍ら、雑誌や書籍の執筆、講演会なども多数行っている。

