介護施設のセキュリティ対策|重要性や効果的な対策などを解説

2026.03.09

日々忙しい介護施設の運営において、セキュリティ対策を後回しにしている方は少なくないでしょう。
しかし、ICT化が進む現代の介護現場において利用者のプライバシーを守り、事業を継続していくうえでセキュリティ対策は重要です。

一方、「何から手をつければ良いか分からない」「専門家ではないので難しそう」と感じている施設長や管理者の方もいるでしょう。

そこで本記事では、介護施設特有のセキュリティリスク・厚生労働省が示すガイドラインのポイント・具体的な対策などについて解説します。
適切なセキュリティ対策を講じるためにも、ぜひ参考にしてください。


介護施設におけるセキュリティ対策の重要性

現代の介護現場では、ICTやDXの導入が急速に進んでいます。
介護記録ソフトや情報共有ツールは業務効率を飛躍的に向上させる一方、新たなセキュリティリスクを生み出しています。

ここではまず介護施設におけるセキュリティ対策の重要性について、昨今のトレンドとリスクから理解していきましょう。

ICT・DXで高まるサイバー攻撃のリスク

介護ソフトやオンラインツールは、インターネットへの接続を前提としています。
今の環境において、利用者の個人情報は常に外部からの脅威に晒されているともいえるでしょう。

実際、医療機関や介護事業者がサイバー攻撃を受けたことでシステムが停止したり、情報が漏えいしたりする被害が国内外で報告されるようになりました。

サイバー攻撃を防止するためにも、セキュリティ対策は必須です。

特に、以下のサイバー攻撃には注意する必要があります。

主なサイバー攻撃の種類手口の概要介護現場でのリスク例
ランサムウェアデータを暗号化し、復旧と引き換えに金銭(身代金)を要求する介護記録が閲覧不能になり、適切なケアが提供できなくなる。個人情報が外部に公開される
フィッシング詐欺有名企業や取引先を装った偽のメールで、IDやパスワードを盗み出す職員のアカウントが乗っ取られ、システムに不正侵入される
サプライチェーン攻撃取引先(給食業者、システム開発会社など)を経由して、間接的に攻撃する自施設のセキュリティが強固でも、取引先の脆弱性を突かれて侵入される

上記の攻撃を受けると、介護サービスの提供が困難になるだけでなく、利用者やその家族に多大な不安と迷惑をかけることになります。

法的責任と事業継続への影響

介護施設が取り扱う利用者の情報は、病歴や心身の状態など、特に配慮が必要な「要配慮個人情報」を多く含むものです。
そのため、個人情報保護法や介護保険法に基づき、事業者は極めて重い管理責任を負っています。

万が一、情報漏えいなどの事故が発生した場合の影響は甚大です。

もし個人情報の扱いに不備があり、トラブルを起こした際は、以下のような影響が懸念されます。

想定される影響具体的な内容
法的責任・個人情報保護委員会への報告義務
・本人への通知義務
・行政からの指導や命令
・罰金の適用
経済的損失・利用者への損害賠償
・システムの復旧費用
・信頼回復のための広報費用
・サイバー保険料の増額
信用の失墜・利用者や家族・地域社会からの信頼を失う
・新規利用者の獲得が困難になる
・職員の士気低下
事業継続への影響・サービス提供が停止
・施設の閉鎖

セキュリティ対策は単なるITの問題ではなく、利用者の安全と尊厳を守り、事業そのものを継続するための経営課題です。

介護施設が注意すべき2大リスク

効果的な対策を講じるためには、まず「何から守るべきか」を正しく理解することが重要です。
介護施設におけるセキュリティリスクは、大きく情報セキュリティと物理セキュリティの2つの側面に分けられます。

この2つの側面から、施設に潜む具体的なリスクを見ていきましょう。

【情報セキュリティ】サイバー攻撃と情報漏えい

情報セキュリティは、データやシステムを外部の攻撃や内部の不正から守ることを指します。
特に介護施設では、利用者の機微な個人情報が主なターゲットとなります。

以下のように、脅威は施設の外部からだけでなく、内部にも存在することを認識しましょう。

脅威の種類具体的なリスク例
外部からの脅威・ランサムウェアによる介護記録の暗号化や漏えい
・フィッシングメールによる職員のアカウント乗っ取り
・介護ソフトの脆弱性を狙った不正アクセス
内部からの脅威・職員によるメールの誤送信やFAXの誤送信
・利用者情報が入ったUSBメモリやノートPCの紛失・盗難
・退職した職員による不正な情報持ち出しやアクセス

悪気のないうっかりミスが、重大な情報漏えいにつながるケースも少なくありません。
悪意のある攻撃への対策と同時に、職員のミスを防ぐための仕組みづくりも行いましょう。

【物理セキュリティ】介護事故と不審者対策

物理セキュリティは、利用者の生命・身体の安全・施設の設備や資産を物理的な危険から守ることです。
介護現場では、日々さまざまな事故のリスクが存在します。

特に以下のリスクには注意する必要があります。

主な物理的リスク具体的な内容
介護事故・転倒や転落による骨折などの重篤なけが
・薬剤の取り違えや投与忘れ(誤薬)
・食事中の誤嚥や、異物の誤飲
・認知症の利用者の徘徊による行方不明
不審者対策・不審者の侵入による盗難や利用者への危害
・職員や利用者間のトラブル、暴力行為

物理的リスクは利用者の安全に直結するため、常に注意が必要です。
監視カメラの設置や入退室管理の徹底など、情報セキュリティと連携した対策が求められます。

安全管理措置における4つの柱

厚生労働省のガイドラインでは、個人情報を守るために事業者が講じるべき安全管理措置として、4つの柱を定めています。

  • 組織的安全管理措置
  • 人的安全管理措置
  • 物理的安全管理措置
  • 技術的安全管理措置

上記の柱は、情報セキュリティ対策を考えるうえでの基本的なフレームワークです。
4つの措置をバランスとよく組み合わせることが、効果的なセキュリティ体制の構築につながります。

参照:安全管理措置について|厚生労働省

組織的安全管理措置

組織的安全管理措置とは、情報セキュリティを確保するために、組織全体として確立するルールや体制のことです。
具体的には、情報セキュリティに関する規程や手順を策定し、責任者や担当者を明確に定めることなどが含まれます。

また、情報セキュリティに関するリスクを評価し、適切な対策を講じるための体制を構築することも重要です。
組織全体で情報セキュリティの重要性を認識し、継続的に改善していきましょう。

人的安全管理措置

人的安全管理措置とは、組織の従業員や関係者に対して情報セキュリティに関する教育や訓練を行い、セキュリティ意識を高めることです。
具体的には、情報セキュリティに関するポリシーやルールを周知徹底し、従業員が適切な行動を取れるようにすることを指します。

また、情報セキュリティに関するインシデントが発生した場合の対応手順や報告体制を整備し、従業員が迅速かつ適切に対応できるようにすることも不可欠です。
定期的な研修や訓練を実施することで、従業員のセキュリティ意識を維持・向上できます。

物理的安全管理措置

物理的安全管理措置とは、情報資産を物理的な脅威から保護するための対策です。
具体的には、重要な情報システムやデータを保管する場所への入退室管理を厳格に行い、不正な侵入や物理的な破壊から保護することが含まれます。

加えて、情報システムを設置する環境の温度や湿度を適切に管理し、災害や事故による被害を最小限に抑えるのも物理的安全管理措置の一つです。
監視カメラの設置や警備員の配置など、物理的なセキュリティ対策を強化することで、情報資産の可用性・完全性・機密性を確保できます。

技術的安全管理措置

技術的安全管理措置とは、情報システムを技術的な脅威から保護するための対策です。
具体的には、不正アクセスを防止するためのアクセス制御・マルウェア感染を防ぐためのウイルス対策ソフトの導入・データの盗聴や改ざんを防ぐための暗号化などが含まれます。

システムの脆弱性を定期的に評価し、セキュリティパッチを適用するなど、最新のセキュリティ対策を維持しましょう。
技術的な対策を適切に実施することで、情報システムの可用性・完全性・機密性を確保し、情報漏えいのリスクを低減できます。

介護セキュリティ対策の実践手順

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本章では、介護施設のセキュリティ強化のために実践すべき以下の対策を解説します。

  • 【組織的対策】ルールと責任体制を整える
  • 【人的対策】全職員のセキュリティ意識を高める
  • 【技術的対策】サイバーセキュリティを強化する
  • 【物理的対策】情報の管理体制を見直す

自施設の状況と照らし合わせながら、できることから着実に進めていきましょう。

【組織的対策】ルールと責任体制を整える

組織的対策は、セキュリティ全体の土台となるもっとも重要な部分です。
施設としての方針を明確にし、全職員が同じ方向を向いて取り組める体制を構築します。

特に以下の組織的対策は重要です。

対策内容
セキュリティポリシー(情報管理規程)の策定個人情報の取り扱いルール・機器の管理方法・SNSの利用指針などを明文化する
責任者の任命施設全体のセキュリティを統括する「情報セキュリティ責任者」を任命する
緊急時対応計画の策定情報漏えいやシステム障害が発生した場合の報告手順や連絡網を整備する
委託先の監督介護ソフトのベンダーや清掃業者など外部の委託先が個人情報を取り扱う場合、契約時にセキュリティ要件を確認し、適切に管理されているか監督する

【人的対策】全職員のセキュリティ意識を高める

どれだけ優れたシステムを導入しても、介護職員のセキュリティ意識が低ければリスクは高まります。
全職員がセキュリティの重要性を理解し、ルールを遵守する文化を醸成することが不可欠です。

ルール詳細
定期的な研修の実施全職員を対象に、最低でも年に1度はセキュリティ研修を実施する
パスワード管理の徹底パスワードは「長く」「複雑に」「使い回さない」が原則。定期的な変更を促す仕組みを導入する
ヒヤリハット報告の奨励「危うくメールを誤送信しそうになった」などのヒヤリハットを責めず、積極的に報告できる雰囲気を作る
退職者のアカウント管理職員が退職・異動する際は、即座に関連するすべてのシステムアカウントを削除または無効化する

【技術的対策】サイバーセキュリティを強化する

技術的対策は、ウイルス感染や不正アクセスといった脅威からシステムを直接守るための手段です。
IT専門家でなくても導入・運用できる基本的な対策から始めましょう。

対策の種類目的・具体的な取り組みなど
ウイルス対策ソフトの導入常に最新版に更新し、パソコンやサーバーをマルウェア(ウイルス)から保護する
ソフトウェアのアップデート脆弱性修正のため、OS(Windowsなど)や利用しているソフトウェアは常に最新版に更新する
アクセス権限の管理職員の役職や業務内容に応じて、必要な情報にしかアクセスできないように権限を設定する
データの暗号化とバックアップノートPCやUSBメモリに保存するデータは暗号化する。定期的にバックアップを取得し、ランサムウェア攻撃に備える

【物理的対策】情報の管理体制を見直す

情報が保存されている機器や書類を物理的に保護することも、重要なセキュリティ対策です。
日常業務の中ですぐに見直せる点も多くあります。

ルール詳細
重要エリアの施錠管理サーバールームやカルテ・個人情報を保管している書庫は、常に施錠管理を徹底する
書類の適切な管理個人情報が記載された書類は、鍵付きのキャビネットに保管。不要になった書類は、シュレッダーで確実に裁断してから廃棄する
クリアデスク・クリアスクリーン離席する際は、机の上に書類を放置しない。パソコンから離れる際は、必ず画面をロックする

介護施設のセキュリティを強化する際のポイント

セキュリティ対策を効果的に進めるためには、以下のポイントが重要です。

  • 施設の方針を介護職員に共有する
  • BCPを策定しておく
  • 継続的な改善とモニタリングを行う

上記を意識することで、セキュリティ対策が形骸化することなく、組織全体に浸透していきます。

施設の方針を介護職員に共有する

セキュリティ対策は、経営層や管理者だけが取り組むものではありません。
なぜ対策が必要なのか、施設として何を目指すのかといった方針を、経営トップから全職員に向けて明確に伝えることが重要です。

対策の重要性を定期的にさまざまな形で発信することで、施設全体のセキュリティレベルが向上します。

BCPを策定しておく

BCP(事業継続計画)とは、災害・システム障害・サイバー攻撃などの緊急事態が発生した際に、損害を最小限に抑え、事業を継続・復旧させるための計画です。
特にサイバー攻撃を想定し、「システムが停止した場合に、どのように介護記録をつけ、どのようにサービスを継続するか」といった代替手順をあらかじめ決めておくことが、利用者の安全を守ることにつながります。

BCPを作成する際は、以下の項目を加えましょう。

  • 緊急時の指揮命令系統と連絡網
  • 被害状況の把握と初動対応の手順
  • システム停止時の代替業務手順(紙での記録方法など)
  • 外部専門家(ITベンダー・弁護士など)への連絡手順
  • データ復旧の手順と目標時間
  • 利用者や家族、関係機関への広報手順

継続的な改善とモニタリングを行う

セキュリティ対策は、一度導入して終わるものではありません。
新たな脅威は次々と生まれ、組織の状況も変化していくため、継続的な見直しと改善(PDCAサイクル)が不可欠です。

策定したルールが守られているか定期的にチェックし、研修の効果を測定するなど、常に対策の実効性を評価し、より良いものへと改善していきましょう

梅沢 佳裕 氏
梅沢 佳裕 氏

介護施設のセキュリティ対策は、「利用者情報」と「サービス提供の継続」を守るための土台です。近年はランサムウェアやフィッシングなどで介護記録・請求システムが止まり、現場が混乱する危険があります。対策は一部の担当者任せにせず、①組織(責任者、報告ルート、外部委託先の管理)、②人的(教育、持ち出し・SNS・USB等のルール)、③技術(権限設定、パスワード管理、更新、バックアップ)、④物理(書庫・端末の施錠、入退室管理)をセットで考えます。

監視カメラ等を使う場合も、目的・閲覧権限・保存期間を決め、プライバシーに配慮します。万一に備え、連絡先、初動(切断・隔離)、代替手順を用意し、研修と定期的な見直しで形骸化を防ぐことが要点です。また、共有IDの禁止や退職・異動時の権限回収、所内Wi-Fiの扱い、私物端末の利用可否など“日々迷いやすい運用”を文書化すると、現場のばらつきが減ります。小さなヒヤリ事例でも記録し、同じ失敗を繰り返さない仕組みに落とし込みましょう。

まとめ:介護施設のセキュリティは重要な経営課題

介護施設におけるセキュリティ対策は、利用者の安全と尊厳を守り、安定した事業運営を続けるための基盤です。

まずは「組織的」「人的」「技術的」「物理的」の4つの柱を意識し、施設の現状を把握することから始めてみてください。

完璧な対策を一度に行う必要はありません。
介護職員全員でセキュリティの重要性を共有し、できることから一つひとつ着実に取り組むことが、安全で信頼される施設づくりにつながります。

監修:梅沢 佳裕

人材開発アドバイザー

介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

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