介護事業の収益|利益率の現状や改善策などを解説

2026.03.05

介護事業の収益に悩む経営者は少なくありません。
高齢化が進む日本では介護の需要は増え続ける一方、介護事業を取り巻く環境は厳しさを増しています。

そのため、収益を向上させるための戦略を構想することは、介護事業所の運営者にとって喫緊の課題です。

本記事では、介護事業の収益の現状に加え、具体的な収益改善策などについて解説します。
現状を正しく理解し、効果的な対策を打つことで、安定した事業経営を目指しましょう。

介護事業の収益の現状

本章では、厚生労働省の公表するデータを基に、介護事業の収益に関する客観的な事実を見ていきましょう。

まず、事業の利益率を示す「収支差率」の推移を確認します。
収支差率とは、介護サービス収入に対する利益の割合を示す指標です。

同じ介護事業でも、以下の通りサービス内容によって収益性には大きな違いがあります。

サービス種類令和5年度決算時の収支差率令和6年度決算時の収支差率
訪問介護11.1%9.6%
訪問看護11.9%10.3%
通所介護(デイサービス)6.5%6.2%
福祉用具貸与5.7%5.4%
居宅介護支援6.2%6.2%
介護老人福祉施設1.3%1.4%
介護老人保健施設-0.6%0.6%
出典:令和7年度介護事業経営概況調査結果|厚生労働省

上記のとおり、収支差率が好転しているケースもあれば、微減しているケースもあります。
一方、収支差率自体が伸び悩んでいる介護サービスもあり、特に施設系サービスはその傾向が顕著です。

自施設の収益を分析する際は、同じ介護サービスの平均値をチェックしましょう。

参照:令和7年度介護事業経営概況調査結果|厚生労働省

介護事業の収益に影響する3つの課題

本章では、介護事業の収益を圧迫する以下の要因を解説します。

  • 介護報酬制度の改定
  • 人材不足と人件費の高騰
  • 事業者間の競争激化

上記の課題を踏まえ、適切な対策を講じましょう。

介護報酬制度の改定

介護事業の収入の大部分は、国が定める介護報酬によって決まります。

介護サービスの料金はサービスごとに単価が決められている公定価格であり、事業者は自由に設定できません。

介護報酬は原則3年に一度改定され、変更内容によっては事業所の経営に直接的な影響を与えます。
報酬が引き上げられれば収益増につながりますが、逆に引き下げられたり、加算の要件が厳格化したりしたら、大幅な減収となるリスクを常に抱えています。

国の政策動向に経営が左右されやすい点は、介護事業の大きな特徴です。

人材不足と人件費の高騰

介護業界の人材不足・人件費の高騰は、非常に深刻です。
介護需要が増え続ける一方で働き手が不足しているため、人材の確保が困難になりました。

その結果、職員の給与を引き上げるなど、人材確保・定着のためのコストが増大しています。
人件費の引き上げは収益を直接圧迫する最大の要因です。

しかし、サービスの質を維持・向上させるためにも人材は不可欠であり、経営者は常に人材不足という課題に向き合う必要があります。

事業者間の競争激化

介護の需要増加に伴い多くの事業者が介護市場に参入した結果、特に都市部では事業者間の競争が激化しています。

しかし、介護サービスは介護保険制度のもとで提供されるため、内容が同質化しやすい傾向があります。
そのため他事業所との差別化を図ることが難しく、利用者獲得競争が激しくなりがちです。

独自の強みや特色を打ち出せない状況では、淘汰されるリスクが高まります。

介護事業の重要な収益

介護事業における重要な収益は、以下のとおりです。

  • 介護報酬
  • 利用者自己負担分の料金
  • 保険外サービス(自費サービス)収入

それぞれの特徴を把握し、どの部分を伸ばしていくべきか戦略を立てましょう。

介護報酬

介護報酬は事業収入の約9割を占めるもっとも重要な収益源であり、事業所が国保連に請求し、保険者負担等に基づき支払われます。

介護報酬は「単位数 × 単価」で計算されます。

項目内容
単位数各サービス内容や職員の体制などに応じて規定される
単価地域ごとの人件費格差を調整するため、1単位あたりの単価が地域別に規定される

単価は地域別に異なるため、事業所が所在する地域の情報を細かくチェックしておくことが不可欠です。

なお、介護報酬は改定によって単位数・単価が変動する場合があります。
厚生労働省の通達は必ずチェックしましょう。

参照:介護報酬の仕組みについて|厚生労働省
   

利用者自己負担分の料金

介護サービスを利用した際には、利用者が費用の一定割合を自己負担します。
この利用者自己負担分も、事業所の重要な収入源です。

負担割合は利用者の所得に応じて原則1割、一定以上の所得がある場合は2割または3割となります。
事業所は、介護報酬の残り(9割〜7割)を国民健康保険団体連合会(国保連)に請求し、利用者からは自己負担分を直接徴収します。

参照:給付と負担について(参考資料)|厚生労働省

保険外サービス(自費サービス)収入

介護保険が適用されないサービスを提供し、全額を利用者から受け取るのが保険外サービス(自費サービス)です。
保険外サービスは事業者が自由に価格を設定できるため、収益性を高めるうえで非常に重要です。

サービスカテゴリ具体的なサービス例
生活支援・大掃除、草むしり、ペットの世話・留守番、話し相手
外出付き添い・買い物代行、通院以外の外出付き添い・趣味活動(観劇、旅行など)への同行
専門的サービス・散髪、理美容サービス・栄養相談、特別な食事の提供
その他・家族向けの介護相談・訪問時の時間延長サービス

利用者の多様なニーズに応える保険外サービスを開発・提供することが、他事業所との差別化と収益向上に直結します。

介護事業の注意すべき支出

介護事業における支出は、主に3つのカテゴリに分けられます。

  • 人件費
  • 事業所の運営費
  • 各種経費

自事業所の支出構造を分析し、無駄がないかを確認しましょう。

人件費

人件費は、介護事業における最大の支出項目であり、経営を大きく左右するものです。
人件費には、介護職員・看護師・ケアマネジャーなどの給与・賞与・各種手当・法定福利費などが含まれます。

サービスの種類によって適正な人件費率の目安は異なります。
目安を大幅に超えている場合、人員配置や業務効率の見直しが不可欠です。

ただし、人件費の削減がサービスの質の低下や職員の離職につながらないよう、慎重な判断が求められます。

事業所の運営費

事業所の運営費は、事業を継続していくうえで日常的に発生するコストです。
運営費は、大きく固定費と変動費に分けられます。

 内容
固定費利用者数の増減にかかわらず発生する費用地代家賃・リース料・減価償却費
変動費利用者数やサービスの提供量に応じて変動する費用水道光熱費・事務消耗品費・介護用品費

固定費は毎月一定額が発生するため、事業所の規模や立地を検討する際に重要な要素です。
定期的に契約内容を見直すことで、削減の余地が見つかることもあります。

各種経費

人件費や運営費のほかにも、事業運営にはさまざまな経費が発生します。
以下の経費も収益に影響を与えるため、適切に管理しましょう。

費目説明
車両関連費訪問サービスで利用する車両のガソリン代・保険料・メンテナンス費用など
広告宣伝費新規利用者を獲得するためのチラシ作成・ウェブサイト運営・求人広告費用など
研修費職員のスキルアップや資格取得を支援するための費用
保険料賠償責任保険など、万一の事故に備えるための保険料

上記の経費も計画的に支出し、費用対効果を常に意識することが大切です。

介護事業の収益の改善策

本章では、介護事業の収益の改善策として、以下の取り組みを紹介します。

  • 介護報酬加算を確実に取得する
  • ほかの事業所との差別化を進める
  • 収益性が高い保険外のサービスを提供する
  • 減算のリスクを解消する
  • 業務効率化で人件費を最適化する
  • 稼働率を向上させる
  • 介護DXでコストを削減する

自事業所で導入できるものがないか、ぜひ検討してみてください。

介護報酬加算を確実に取得する

介護報酬の加算は、収益を直接的に向上させるもっとも効果的な手段です。
加算とは、専門的なケアの提供や手厚い人員配置など、質の高いサービスを提供している事業所を評価し、基本報酬に上乗せされる報酬のことです。

例えば、加算には以下のようなものがあります。

  • 処遇改善加算
  • 初回加算
  • 特定事業所加算
  • 個別機能訓練加算
  • 生活機能向上連携加算
  • 認知症加算
  • 緊急時訪問介護加算

※サービス種別により算定可否・要件は異なります

加算には取得するうえで満たすべき要件が設けられています。
なかにはITツールの導入や、特定のサービスの提供などが要件に含まれている場合があるため、取得を目指す際は必ずチェックしましょう。

参照:介護報酬の算定構造|厚生労働省
   令和6年度介護報酬改定における改定事項について|厚生労働省

ほかの事業所との差別化を進める

競争が激化するなかで生き残るためには、他事業所との差別化が不可欠です。
「この事業所に頼みたい」と利用者やケアマネジャーから選ばれる、独自の強みを作りましょう。

差別化には、以下のような取り組みが有効です。

対策の具体例内容
専門分野の特化特定のニーズを持つ利用者に特化したサービスを提供する
地域連携の強化地域の医療機関・ほかの介護サービスを提供する介護事業所・地域包括支援センターなどとの連携を強化する
独自のサービスの提供利用者のニーズに合った独自のサービスを充実させる

上記の取り組みは、成功すれば収益の向上に影響します。
利用者のニーズを汲み取り、積極的に実践しましょう。

収益性が高い保険外のサービスを提供する

介護保険の枠外で提供できる「保険外サービス(自費サービス)」は、収益性を高めるための強力な武器です。
価格を自由に設定できるうえ、利用者の多様なニーズに柔軟に応えられます。

保険外サービスを開発する際はニーズを丁寧に調査し、適切な料金設定・提供体制を構築しましょう。
介護スタッフの空き時間に実施できるようなものにしておけば、業務上の負担を抑えられます。

減算のリスクを解消する

収益が減ってしまう減算のリスクをなくすことも重要です。
減算とは、人員基準や運営基準などの要件を満たしていない場合に、介護報酬が減額されるペナルティのことです。

減算を防ぐため、以下の点に注意しましょう。

  • 人員基準を遵守する
  • 定員を超過しないように注意する
  • 身体拘束廃止など重要な対策を徹底する
  • 厚生労働省の指針に従った運営体制を構築する

減算は介護報酬改定によって厳格化するケースも少なくありません。
加算と同様、厚生労働省の通達を必ずチェックしましょう。

参照:介護報酬の算定構造|厚生労働省

業務効率化で人件費を最適化する

最大のコストである人件費は、単に削減するのではなく最適化する視点が重要です。
無駄な業務をなくし、職員が本来のケア業務に集中できる環境を作ることで、生産性を高めましょう。

例えば、以下の取り組みが有効です。

  • 訪問ルートの最適化
  • 情報共有の円滑化
  • 電子化による業務時間の短縮

上記の取り組みは、人件費を抑えるだけでなく、最低限の人員で業務を回せる体制を構築するうえで不可欠です。

また、業務効率化は働きやすい環境を実現し、離職率を低下させるきっかけになります。

稼働率を向上させる

施設の定員やサービスの提供可能量に対して、実際にどれくらいの利用があるかを示すのが稼働率です。
稼働率の向上は、収益アップに直接つながる重要な指標です。

稼働率を向上させるには、以下の取り組みがおすすめです。

  • 利用者募集の強化
  • 利用者満足度の向上
  • ケアマネジャーとの関係強化
  • 効果的な宣伝の実施

利用者の数を増やすことは、収益向上の基本です。

介護DXでコストを削減する

介護DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して業務プロセスやビジネスモデルを変革することです。
介護ソフトやICT機器の導入は、業務効率化とコスト削減に大きく貢献します。

介護DXでは、以下のようなツールが活用されます。

  • 介護ソフト
  • 見守りセンサー
  • インカムやチャットツール
  • 介護ロボット

なお、介護DXは単純にITツールを導入して完了する取り組みではありません。
業務の効率化はもちろん、ITツールを適切に運用する体制の構築や、介護スタッフのITリテラシーの向上も、介護DXにおいて不可欠な取り組みです。

梅沢 佳裕 氏
梅沢 佳裕 氏

本記事に示されているように、介護事業の収益構造は、介護報酬を中心に、利用者負担や自費サービスなど複数の要素で成り立っています。特に介護報酬は多くの事業所にとって収入の大部分を占める重要な基盤であり、その仕組みや加算制度を正しく理解することは、安定した事業運営に直結します。一方で、人件費や物価の上昇により経営環境は厳しさを増しており、収益の「見える化」やコスト構造の把握が欠かせません。本記事は、介護事業の収益を単なる数字として捉えるのではなく、制度理解と経営視点の両面から整理しており、現場責任者や経営層が自事業所の状況を点検するうえで有用な内容といえるでしょう。加えて、加算取得や運営体制の整備を収益向上の手段として位置づけ、制度要件と実務を結び付けて考える視点が示されている点も評価できます。日常の運営改善に活かせる実践的な示唆が含まれています。経営判断の基礎資料としても有効です。今後の事業戦略検討に役立ちます。

まとめ:介護事業の収益改善にはさまざまな工夫が必要

本記事では、公的データを基に介護事業の収益の現状を分析し、具体的な改善策を多角的に解説しました。
介護事業の経営は、介護報酬制度や人材不足など多くの課題に直面しており、決して簡単な道のりではありません。

しかし、厳しい環境だからこそ現状を正しく理解し、戦略的に行動することが求められます。
加算の取得や差別化による売上アップに加え、業務効率化やDX推進によるコスト削減を両輪で進めることが重要です。

介護職員が働きやすく、利用者が満足する質の高いサービスを提供することが、結果として安定した収益につながります。
本記事で紹介した改善策を参考にして、事業所の経営改善に向けた一歩を踏み出してください。

監修:梅沢 佳裕

人材開発アドバイザー

介護福祉士養成校の助教員を経て、特養、在宅介護支援センター相談員を歴任。その後、デイサービスやグループホーム等の立ち上げに関わり、自らもケアマネジャー、施設長となる。2008年に介護コンサルティング事業を立ち上げ、介護職・生活相談員・ケアマネジャーなど実務者への人材育成に携わる。その後、日本福祉大学助教、健康科学大学 准教授を経て、ベラガイア17 人材開発総合研究所 代表として多数の研修講師を務める。社会福祉士、介護支援専門員、アンガーマネジメント・ファシリテーターほか。

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